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君が世界を滅ぼすまで  作者: 此宮
第1章
2/13

2話 お母さんとママ

第1章-2話

「こ~ら! 世明! 先に行っちゃ危ないでしょ!」

「だいじょーぶ!!」

西暦2258年 2月24日

しんしんと雪の降る午後2時。

車通りの多い、スーパーからの帰り道。

まだ3歳だった私はそんなお母さんの言葉も聞かず、最近買ってもらったばかりのピンクの傘をくるくると回しながら一人走っていた。

いつもなら私の双子の片割れである"世界"がお姉さんぶって注意してくれるけれど、今日は久しぶりに雪が降ったせいか遊び疲れた彼女は、母に手を引かれ今にも眠ってしまいそうだった。

……そして、"それ"は起こってしまう。


気づくと、雪を降らす灰色の重たい雲が視界に広がっている。どうやら自分は地面に横になり空を見上げているようだった。

耳を澄ますとあたりは騒がしい。微かだが、世界の泣き叫ぶような声が聞こえる。

そして、私はゆっくりと体を起こす。

私の眼前に広がる光景。

横転したトラックから出る煙。

道路に引かれた赤い線。

トラックの横で倒れている…お母さん。

「おかあ……さん?」

私はそう呟くと、すぐにお母さんの元に駆け寄る。

そして、地面に力なく置かれた彼女の手をそっと握った。

「おかあさん? どうしたの? ねぇ、おかあさん」

頭が追いつかない、なのになぜか涙が止まらない。

けれど、ただ1つ。

お母さんが"いなくなってしまう"。

それだけは、何となく理解していた。

「……あぁ…無事でよかった…」

お母さんは力なくそう言って目を細め、私の手を少しだけ握り返してくれる。

だんだんと、横たわるお母さんの体の上に、空から白い雪が積もっていく。しかしその白は、お母さんの体に触れるとすぐに真っ赤になり溶けていった。

「おかあさん…! ねぇおかあさーー」

「世明…!」

お母さんは残っている力を振り絞るように言う。

その声はしんしんと降る雪にかき消され、あまり大きく響くことはなかったと思う。

けれどその言葉は、私にとって他の何よりも重い。

それはまるで、心臓に絡みついた、死の呪いのように。

母は最後に、こう言った。


「……お母さん、死にたくないよ」



あぁ、そうだった。

お母さんは生きていたかったんだ。

そんな望みを奪ったのは、他ならぬ私。


……私がお母さんを、殺したんだ。



ーーーーーーー


「……よっちゃん、よっちゃん?」

私は聞き慣れたその声に応えるように、ゆっくりと瞼を開いた。

するとそこには、心配そうに私の顔を覗き込むパジャマ姿の茜。

「…よっちゃん大丈夫? なんかうなされてたみたいだけど」

茜はかなり私のことを心配していたようで、その顔は私が目覚めてもなおまだ困惑しているようだった。

「……うん! 大丈夫大丈夫!!」

私は目が覚めたばかりのぼんやりとした脳を叩き起こすかのように、ソファから勢いよく起き上がる。

すると、頭が覚醒してきたのか、私がどのような状況にいたかが段々と思い出されてきた。


あの後茜からの電話は、事を把握しきれないままにすぐに切れてしまった。

なので私は素数先生に、担任への連絡等々後のことを全て頼んで急いで家に帰宅。

家ではなんと、茜が真っ青な顔をして廊下にうずくまっていて、しかし本人が「大丈夫」と言うので、とりあえず茜をベットに寝かせ、昼食でお腹いっぱいになった私も、茜が起きるまでとソファで昼寝をした…と。


私は困惑するように頭をかいた。

……どうしても、さっきまで見ていた"あの夢"のことが頭から離れない。

夢だったからなのだろうか。あの光景は全て、自分の"記憶"よりもはっきりと鮮やかなものだった。

雪の色も、対照的な赤い色も。

……けれど、この夢を見たことは、今は茜には言うべきではない。

何となくそんな気がして、私は頭をぶんぶんと振ってそれをかき消した。

それにより、ちょうどよく眠気も覚めてくる。

「茜は?? もう大丈夫??」

私は立ち上がると、そこに立ったままであった茜をソファに座るように促しながら、彼の顔色をじっと見る。

するとその顔色はまだまだ白いけれど、さっき廊下でうずくまっていた時のようないわゆる顔面蒼白といった感じではなくなっていて、私は一安心し息をついた。

「うん! なんて言ったって、こんなにたくさん寝たからねぇ~」

茜はいつもの屈託の無いエンジェルスマイルでそう言う。

……ん? たくさん?

私は振り返り、テレビの真上にある掛け時計を見て絶句。

時刻は7時46分。

…実に6時間近い昼寝でした!


と、その事実にショックを受けながらも、でも、うん、まぁ、寝てしまったものは仕方がない。

ので私は本題に入るため、ソファに座る茜に目線を合わせるように少し膝を屈める。

そして私が彼の目を見つめると、茜は私が聞きたいことをなんとなく察したようで、少し不安そうに長い睫毛を伏せた。

しかし、またすぐに決意したように目を開き、私を見つめゆっくりと口を開く。


「…あのね、帰ってきて、せっちゃんの部屋のドアが開いてたんだ。

そんなこと今までなかったから、ちょっと気になって。のぞいて見た。」

いつになく真剣な口調。私は唾を飲み、茜の次の言葉を待つ。

「…そしたら、もうとっくに学校行ってるはずの時間なのに、せっちゃんの制服まだかけてあったんだ。

……それでね、パソコンの上に、置き手紙が。」

私から視線を逸らすみたいに、茜は俯いて口をつぐんだ。

いつのまに茜の瞳に溜まっていたものが、彼が瞬きをするたびに一筋、また一筋と頬を伝うのが俯いていてもわかる。

久々に見る彼の涙に、私は心臓をわし掴みされたような、言いようの無い恐ろしい不安感に襲われた。

これから話されることの重大さ。それがひしひしと伝わってくる。

「……待ってて、取ってーー」

茜はそんな泣き顔を誤魔化すように私へ微笑み立ち上がるが、まだ本調子じゃないのか、膝から崩れ落ちそうになるのを私は慣れた手つきで支える。

「……ごめん」

私がゆっくり茜をソファに寝かせると、茜は枕代わりのクッションに頬を埋めながら本当に本当に申し訳なさそうに言うので、私はそんな彼の額に軽くデコピンをお見舞いする。

すると茜はわっ! と声をあげて自分のおでこを抑え、驚きながらも、涙の溜まった目で少し恨めしそうに私を見つめた。

そして、私は彼ににこりと笑いかける。

「もう! 茜は気にしないで!

う~ん……とりあえずここにステイ! 」

私は茜を仰々しいポーズで指差して言うと、彼はそれにくすりと笑ってくれた。

それだけでも私は十分ホッとしてしまう。

茜が、いつもみたいに笑ってくれている。それがどれほど、自分にとって重要なことかがなんだか身に染みた。

「その置き手紙ってまだ世界の部屋でしょ? 私がとってくるから、待ってて!」

そう言って私は、茜の返事も聞かないままに小走りでリビングを出た。



ーーーーーーー


電気の付いていない廊下の、その一番奥。

そこに世界の部屋はあった。

もともとは私と世界で、2階にある今の私の部屋を2人で一緒に使っていた。

けれど、確かあの"暑い夏の日"。

"ママ"が死んでしまった頃。

その頃から世界は、空き部屋だった今の世界の部屋を使いはじめ、そこから殆ど出なくなってしまったのだ。

それに元からとても賢かった彼女は、歩いて通える私と茜の学校とは違い、電車を乗り継いだところにある小中高とエスカレーター式の進学校に通っている。

そんな1日の中でもなかなか会えない彼女が、部屋から殆ど出なくなることで、私たちが会うことは全くと言って良いほどなくなってしまった。

というより、世界本人が私たちが学校に行ってから起きたり、夜ご飯は私たちが部屋にいる隙に食べたりしていて、明らかに私たちを避けているのだと思う。

それに久しぶりに顔を見たかと思えば、すごい怖い顔で睨むわ無視するわ。

……その理由は全くわからない。

世界が部屋でひとり、いつも何をしているのかさえ。

だから、ずっとどうしようもなかった。

昔みたいに戻りたくても、どうすればいいのかわからないし、それを世界が望んでいるかもわからない。

気づけば私たちの間には、大きな大きな隔たりが生まれてしまっていた。


世界の部屋のドアは、茜が見たのと同じようにまだ少し開いたままだった。

中の様子は廊下からではわからないが、その部屋から廊下へと、淡い緑や青といったなにやら不思議な色の光が漏れているのを見て唾を飲み込む。

私は慎重にそっと、その部屋の冷たいドアノブに指をかけてみる。

そして、そのノブをゆっくりゆっくりとこちら側に引っ張っていくと、次第に、初めて見るその部屋の様子が視界に入ってきた。


「…え?」

そこは6畳もないような、狭い部屋だった。

しかも、その殆どは何台ものパソコンなどの機械が占領している。

おそらく液晶画面が起動されたままになっているそれらの光が、廊下へと漏れ出していたものだろう。

そして後の残りの空間には、布団とイスのたった2つのみ、というあまりにも殺風景な部屋。

壁に掛けられた、あまり見慣れない世界の制服の横には電気のスイッチがあり、私はそれを恐る恐る押してみるが、電球が切れているのか、薄暗いこの部屋がそれ以上明るくなることはなかった。

そして私は、パソコンのキーボードの上に置かれた、小さなメモ用紙のようなものを見つける。

その紙はハイテク機器の揃ったこの部屋でたった1つ。異質な雰囲気を出していた。

そしてその紙も、それらの機器とは違う意味で、妙に冷たい雰囲気を醸し出している。

私はそれを恐る恐る手に取る。


そしてそこには、手書きの文字で、たった一行。


「私は世界を滅ぼす。」


たったそれだけが書いてあった。


あまりの驚きに、私は声がでなかった。

少し呆然とした後、私に湧いてきた感情は、意外にも"呆れ"だった。

私は深く深くため息をつく。

「……ほんと、なに考えてるの」

私は小さな声でつぶやく。

思えばずっとずっと小さい頃から、私は世界と双子の片割れ同士だというのに、彼女のことなど全くわからなかったのだ。

どうして、どうしてよりにもよって、

こんな「大罪」を犯すだなんて書き置きを、わざわざ私たちに残したんだろう。



今からちょうど200年前、2068年。

世界中から戦争は一つ残らず無くなり、この世界は"平和"になった。

というのもその年、世界の主要各国が話し合い、「世界中の戦争を禁止する」という法律が制定。世界中の戦争は唐突に強制終了させられ、法律による世界平和は実現されたのだった。

しかしそれで、当時戦争中だった国や地域が納得する訳がなく、その後数年は反乱やテロなどが頻繁に起こり、世界中の治安は逆に悪くなってしまう。

そこで、日本が取った行動。

それは、

「テロなどの行動を行うと"思われるような発言、行動自体"を禁ずる」

という法律を作る、ということだった。

思われるような発言、行動、なんていう曖昧な内容だが、これを違反すると、とても重い罪に問われることになる。

もし、一度でまその罪で捕まってしまったら「もう二度と家族の元には帰ってこれない。」なんて言われているほどにそれは重罪なのだ。

それにより、日本は世界でもトップレベルの平和な国となることができた。

その事を知った他国も、しだいに日本を真似してその法律を施工し始めた。

そんな世界が日本を見本とする傾向から、多くの日本人は日本という国に誇りを持ち、昨今は殆どの国民が強い愛国心を持っている、なんていうのもよく聞く話だ。

兎にも角にも、その時からずっと変わらず、この世界は平和を実現し続けている。


「"私は世界を滅ぼす"か…」

この言葉がそれに該当するかなんて、考える必要もなかった。

その罪で捕まる人なんて生まれてこのかた聞いたことすらなかったが、まさかそれを自分の家族が犯すことになるだなんて。

「これから私、どうしたらいいわけ……」

私はしゃがみこんで、大きく溜息をついた。



ーーーーーーー


簡単に夕食を済ませた後、私はいつもよりずっと長風呂をしてからリビングに戻る。

すると、先にお風呂を出ていた茜はコップを手にキッチンにおり、やっと出てきた私へと優しく笑いかける。

薬を飲む彼の顔色をチラリと伺うとさっきよりも幾分か良くなっているようで、私はホッと息を吐きソファにどかっと座り込んだ。


「ね、よっちゃん」

そんな私へ茜が急に声をかける。

声もさっきと比べて、随分とハリのあるものに戻っていた。

私が振り返ると、茜はいつものようにニコニコしながら、タブレットを持ってこちらに歩いて来ていた。

「これ、ほら」

茜は私の横に座ると、そのタブレットを私にも見えるようにテーブルに立てかける。

そしてそのタブレット内のボイスレコーダーのアプリを起動し、それぞれタイトルの付けられ、あいうえお順に並んだ200もの録音の中の、ほぼ真ん中にある録音、

『世界が何かやらかした時』と名付けられたものをタップした。


そこから聞こえて来るのは、私たちの聞き慣れた、優しい、穏やかな声。


『……あのね、茜も世明も気づいてないと思うけど、世界はかなーり、猫っかぶりな性格です。

だからこれから、2人やお父さんに内緒で何かやらかしちゃうことがぜっったいにある!

"ママ"にはわかります。』


その私たちに語りかける優しい声は自慢気にそう言った。そんないつも通りの様子に、私と茜はついクスリと笑ってしまった。

そして、その声は話を続ける。

『…でもね、それでも、そんな時でも。

皆んなには、たった2つだけ、どうしても守ってほしいことがある。

1つは、世界をそっとしておいてあげること。

世界は頭が良いからね、きっと皆んなのことを思って、なんかやらかしてるのよ。

そして、2つ目。

……世界の敵にならないこと。

あなたたちは、世界の大切な家族なんだから。

世界の帰る場所だけは。

それだけはぜったい、奪わないで。

うん。それじゃ、じゃあね!

……またいつか』

そう締めくくると、プツリとその音声は途切れた。


200個もある、こんな短い音声たち。

それに私と茜は、何度も何度も助けられて来た。

これらは全部、シチュエーションごとにタイトルが付けられていて、それは『世明の寝癖がなかなか治らない時』の様な実用的なものから『茜が世界を滅ぼしたくなった時」のようなありえないものまで全部で200個。それが、今は茜のものとなっているママのタブレットに録音されている。

それが私たち家族を、家族という形で居られるようにこれまで支えてきてくれたのだ。


「世界をそっとしておくこと…か」

私は小さく呟いた。

「すごいよね、ママは。いつも思うけど、せっちゃんのことすごくよくわかってる。」

茜も私に同調するように小さな声で言う。

そうだ。ママが私たちと暮らせた期間なんて”半年”にも満たなかったはずなのに。

一緒に生まれて、一緒に生きてきた私よりもずっと世界のことをわかってる。


……私は、どうして世界から嫌われてしまったんだろう。

私の何がいけなかったんだろう。何をすれば良かったんだろう。

どうすれば、私たちはまた仲良くなれるんだろう。

「……ママの言う通り、世界のこと、そっとしておこう」

その言葉が、口から無意識にこぼれ落ちる。しかしそれは、まさしく私の本心でもあることは確かだった。

というより、それが今の私にできる最善であり、唯一のことだった。

「とりあえず、このことは私と茜、2人の秘密!ね!」

私は今度はしっかりと、隣に座る茜の手を取り言った。

「お父さんにも?」

茜は、ママからの約束とは言え少し不安そうに私に言う。

「あ、う、うん! きっとお父さんが帰ってくるまでには解決してるって!」

私は茜の手を握る力を強くして、なるべく明るく言った。


世界のこの行動は犯罪だ。

でも、私たちには何もできない。

私たちは、世界を信じることしかできない。

私たちのことが嫌いな、彼女のことを。

……私と同じ、お母さんとママの娘であるあいつのことを。




☆世界が滅亡するーー?まで:あと 3日




ーーーーーーー


その日の夜、また懐かしい夢を見た。

まだ、私たちが出会ったばかりの頃。

その日ママの診察でお父さんとママは席を外しており、世界は丁度塾に行っていて、私と茜が初めて2人っきりになった、いつも通り明るくさわやかな日に満ちた、茜の病室でのことだった。

「…あのね、おかあさんは、わたしのせいで、…しんじゃったから、」

私は、必死で彼に話を続けていた。

たった話すだけ。たった声を上げるだけ。

それだけで、あの時のことを思い出す。

だから私はその頃、声を上げることすら辛く、そして話すだけでお母さんに申し訳がなかった。

「わたしが、おかあさんの言うこときかないで、さわいでたから。だから、……も、もう、うるさくしちゃだめだから。」

私はうつむきながら茜に言った。

目にはいつの間にか涙が溜まっていて、次に瞬きをしたら、それは確実に溢れてしまうだろう。

大好きなお母さんを殺してしまったのは。大好きな世界から母親を奪ってしまったのは。

生きたかったお母さんを殺してしまったのは、間違いなく私。

生きたかったお母さんを、私の軽率さが殺した。

だから私は静かでいなければならない。そうすれば誰も傷つかない。

だから私は、自分を殺していた。

そうして生きて行かなくちゃいけないんだと思っていた。

けれど、そんな私を救ってくれたのは。吹っ飛ばしてくれたのは。

紛れもなく彼、茜であったことを、私が忘れることはない。


「…世明ちゃん!」

彼はそう言って私の手を握った。

私は驚いて顔を上げる。その拍子に涙が一粒溢れた。

「笑って!世明ちゃん!」

「え…?」

その意外な言葉に、私は小さく声を上げる。

お母さんを殺した私に、そんなことは許されるわけなかったのに。

これは、私の償いであったのに。

しかし、茜はそんな気持ちを、いとも簡単に壊してしまったのだった。

「世明ちゃんのおかあさんは、世明ちゃんのおかあさんなんだよ?

世明ちゃんが笑ってるのが、世明ちゃんのおかあさんも、おとうさんも、ママも、世界ちゃんも、もちろん僕も嬉しい!」

茜は私の手をさらにぎゅっと握る。

じんわりと暖かいそれに、また涙がこぼれた。

「家族の幸せはね、家族みーんなの幸せになるんだよ!

だからさ、世明ちゃんも、おかあさんを幸せにするためにたっくさん笑おう!

みんなで、幸せになろう。ね?」

茜はそこまで言うと、涙を流す私に満面の笑みを向けた。

茜の後ろの、窓の外の明るい新緑が、いつもより青々として見える。

家族の幸せは、家族みんなの幸せ。

家族を幸せに"させる"。

それは、私が幸せに"なる"ことなんだ。

自分の過ちを後悔しても何も変わらない。

けど、これから私が笑えば。

私が幸せになれば。

あの悲しいことを乗り越えられるような。

そんな幸せを、私がお母さんに届けられれば。


「……うん!」

私は、涙でぐしゃぐしゃな顔で、茜に大きな声で返事をした。



ーーーーーーー


西暦2268年 9/1 某所


「失礼します!繭純さん、1-AKのレントゲンでました!」

1人の白衣の研究者が、その部屋の重厚な木の扉を勢いよく開いて入室してくる。

彼の息は上がっており、どうやらここまで走ってきたようだった。

この部屋でそれの到着を待ち望んでいたらしい男はすぐに彼の元へ走り寄り、その写真を受け取る。

その写真には、明らかに人工的な5cmほどの正方形の物体が写り込んでおり、それは人の臓器と思われるもののすぐ真横に位置されていた。

「……やはり、そろそろ限界か。」

男はその写真を見ながらつぶやき、そしてその研究者に言った。


「作戦を決行しよう。

3日後、あの核爆弾をここに持ってこい」

算数に不安あり

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