#98
「…」
目の前に広がる洞窟の景色はエーテルの溜まり場。
周囲を見回すと、その一角でポリゴンが増幅して繊細に再現された破壊されたロート・フォッカーが映る。
「機体はフレームごと逝って居るのか…」
「他の機体も損傷していたから、何かしら戦闘があったのは確かだな」
そこで映像が終わり、装着していたVRゴーグルを外したライルと、ロトは語り合う。
場所は軍警地区本部、ロトの仕事場である情報部第六課の仕事場。ロトの自分のデスクには大量の資料や写真が貼られていた。
二人はタルタロス鉱山の最奥で発見したレッドサンの愛機の残骸や、途中で散見された残骸を元に事故原因の調査を行なっており、それら集めた情報を元にロトは捜査を行なっていた。
「事故調査委員会にも送ったんだ。もういいんじゃないか?」
「悪いが、俺が満足するまでやらせてもらうよ」
「そうかよ」
仕事に支障をきたすなよと軽く忠告して消えていくライルを見送ると、ロトは改めて貼り付けた写真の一枚を手に取った。
「…」
洞窟の最奥で見つかったレッドサンの機体。
事故当時、洞窟には数機のアイリーンPMCのオートマトンとレッドサン、そしてブルーナイトの機体が入って行ったと過去の事情聴取には記されている。
当時タルタロス鉱山でアイリーンと敵対していたライバル企業のPMC兵の証言もあり、当時の状況はすでに把握していた。
それを踏まえてロトはレッドサンの死因に違和感を覚えていた。
「…っと、もうこんな時間か」
その時、視線の先の時計を見てロトは退勤時間であることに気がついた。
今日は応援でパトロールに出る必要もないのでロトはデスクの電源を落として部屋に鍵を閉めると、そのまま私服に着替えて警察本部を後にした。
その後、自宅まで帰る途中をロトはトラムに乗って移動する。
イヤホンをつけて帰りにスーパーに寄って買い物を済ませて帰宅の途について居ると、ビルの間の裏道で立ち止まると振り向きながら聞いた。
「んで、お前たちは誰だ?」
そう聞くと三人の浮浪者のような男達が現れてその手には拳銃が握られていた。
すると有無を言わさずに三人は拳銃を発砲してきた。
「ちっ…」
咄嗟に建物の影に隠れると、彼は持っていた治安官に支給される拳銃を手に取って角から発砲した。その直後、
「治安官だ!」
サイレンが近づいてくるのが聞こえて三人は慌て出す。
「全員そこを動くな!」
ロトのいた路地の奥から銃を構えて治安官が拳銃を向けると、彼を襲った三人組は慌てて逃げ出した。
事前に違和感を感じていたロトは先に通報をして近辺に治安官を配備してもらっていたのだ。
幸いにもここは自分が勤務して居る場所、警察署には顔見知りも多くいたのですぐに応援を送ってきてくれていた。
「止まれ!」
警告をしたが、逃げる容疑者を鎮圧するために治安官たちは発砲。サイレンの音も聞こえてパトカーで応援が到着した。
「容疑者が逃亡した。南四番通りを南下している」
「応援を寄越せ!」
その後、応援に到着した治安官によって二人が逮捕された。
「まさか襲ってくるとはな…」
「よっぽど変なことに手を突っ込んだか?」
「強盗だったことを願うよ」
拘束されてパトカーに乗せられる二人を見ながらライルとロトは話す。
「こいつらの聴取は任せてもいいか?」
「あぁ、任せろ」
ロトはライルに言うと、彼は頷いて承諾してくれた。
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「また来ちまったよ…」
スフェーンはややゲンナリしながら列車を降りる。
今いる場所はカール・ポート。そう、あのマッドサイエンティストが暮らしている街だ。
「会いたくねぇ〜」
『今更だと思いますが?もう連絡は取って居るのでしょう?』
やや呆れた様子でルシエルがまごついているスフェーンに言う。
スフェーンの手にはあの男から押し付けられて運転席に放置されていたあの機械があった。
「こいつを叩き返してやる」
『無駄だと思うのは私だけでしょうか…』
「やって砕ける方がまだマシだよ」
私生活を監視されて居る気分がやっぱりイヤだったのでスフェーンは重たいその機械を持って留置線を歩く。
「ヒィ〜」
しかし体力がないので散弾銃や防弾チョッキを身につけながらずっと持って運ぶと言うのはできないだろう。
『時々休憩しないといけませんね』
「こう言う時に成長できないのが悔やまれる…」
軽く恨み言を連ねながらスフェーンはコンテナターミナルを後にする。
ドンドンドンッ!
その後、散々苦労しながらあるマンションのドアを思い切り叩いた。
今日は天気が珍しく晴れており、アパートの汚さも少しは太陽の光で抑えられていた。
そしてスフェーンはナッパ服に散弾銃を背負い、手にはあの検測機を下げており。やや顔は疲れていた。
するとマンションのドアが開き、スフェーンは躊躇なく部屋の奥に入ると、
「また来たか。エーテル娘」
「その言い方は好かんな。ネクィラム」
車椅子に座って、最後に出会った時とほぼ変わらない没落研究者の姿を見た。
「相変わらず君の美しさは感じているよ」
「気色悪いこと抜かすな。マッドサイエンティスト」
容赦無く悪口を飛ばすスフェーンだが、ネクィラムは気にしない様子で言う。
「まさか君から連絡が来るとは思わなかった。実に光栄な事だ」
彼は変態だが、ロリコンではないのでそこらへんの粗相に関する心配は一切していない。あと色々と社会的に終わって居る人間なので情報管理に関しても信頼している。
ただエーテルにガチ恋勢なのでそっち方向で暴走した場合に備えて銃は持ち込んでいた。
「しかし煙草臭いのは頂けない」
「こっちは好きで吸っとるんじゃ。少しは我慢せい」
スフェーンが近づくと、ナッパ服に染みついたスフェーンの煙草臭に彼は少し顔を顰めた。
「生憎と煙草は嫌いだ。どうもあの匂いは吐き気がしてくる」
「ほほう…」
それは良いことを聞いたとスフェーンは思った。
「だが、エーテルの神秘性はそれすらも凌駕するがね」
「…」
スフェーンの想定したネクィラム撃退法はあっけなく崩れると、彼は訪れたスフェーンに言う。
「お茶はしていくかい?」
「いや、良い」
「ふんっ、そうだろうな…」
スフェーンの返答にネクィラムは軽く笑うと、スフェーンは次に真剣な表情で聞いた。
「準備の方は?」
「あぁ、君の要望通りにできて居るとも」
そう言いながら彼はスフェーンに自分の山積みの部屋の中のパソコンを見せる。
「注文は受けた。一体何に使うんだね?」
「…昔の自分と別れを告げるだけさ」
「ふんっ、遂に銀行強盗に目覚めたかと思ったが…」
どうやら違うようだと言って彼はスフェーンを見る。
相変わらず眩しいほどエーテルで満ち溢れている彼女だが、前に比べて変化があった。
「なるほど…エーテルの順応が進んでおるか」
「…あぁ、そうだ」
目の前の男には隠せないかと軽く笑うと、スフェーンは言う。
「前に一度、派手に暴れたおかげで色々とできることは増えたさ」
「あぁ、一度こちらでも激しいエーテル活性化度を確認している」
彼はシディムにおける戦闘で確認した数値に驚愕したと言う。
「この数値からすると、君の体は臨界エーテルで構成されているのだな?」
「えぇ、生憎と予想していた活性化エーテルじゃ無い」
「…」
真っ当な人間の中で最もエーテルに詳しいネクィラムは部屋の資料を漁って一冊の古い雑誌を取り出した。
それは論文をまとめた古い科学雑誌であり、おそらく大災害以前のものだろう。
「臨界エーテルに関す記述は昔も今もほぼ存在しておらん…」
「だろうね」
そもそも臨界エーテルの存在率が異常に低い。
活性化エーテルの上位互換とも言える存在としか明記されておらず、金の千倍の価値があると言われている。
「再三な話だが、エーテルそのものに関する情報と言うのは殆ど無い」
「大災害以前は?」
「この星の開拓を行なっていた組織が研究していたと言う話はあるが、大災害の際に全て流されて研究資料は殆ど残っていない」
そう言った彼は雑誌を足元に置く。
「臨界エーテルは私も未知の分野だ。残念ながら助言できる事はない」
「聞くこともないさ」
「…そうか」
その真意をすぐに理解できたネクィラムは小さく頷くと、スフェーンに言う。
「何れにせよ、その計測器を持ってきてくれたのはありがたい」
「?」
スフェーンはネクィラムの発言に少しだけ期待を寄せると、彼は車椅子の下に手をやるとそこからスフェーンの持ってきた計測器よりも非常にコンパクトになった計器の機械を手に取った。
「新しい試作品を作ったからな」
「なんでやねん!!」
ガクッと椅子から落ちそうになりながらスフェーンは少しでも期待した自分が阿呆だったと思った。
やはりマッドはマッド、そこに優しさなど存在していなかった。
「何をそんなに嫌がるのだ?」
「全部だよ」
突っ込むとスフェーンはネクィラムを軽く睨むと、彼は余裕げな表情で返す。
「失礼な、ちゃんと見た目以上に進化して居る部分もあるのだぞ?」
「それ以前に問題がありすぎるんだよ」
しかしスフェーンのツッコミを気にする素振りすらなくネクィラムは言う。
「エーテル空間濃度測定器も取り付けているのだぞ?」
「Oh…地味に便利な奴だった」
予想外にネクィラムは新型の検測機の機能にスフェーンは感心した。この男にも少しばかりの理性があったのかと。
「新しい検測機は小型軽量だ。ベルトに装着して常に身につける事ができるぞ」
「…私生活は?」
スフェーンは半ば諦めの様子で聞くと、彼は言う。
「活性化率の検測だけだ。君の中のエーテルの活性化率の変化を記録し、データは随時こちらに送信される」
「あぁそうかい…」
スフェーンは諦めた。
彼曰く、エーテルには活性化率というものが存在し、そこから漏れるエーテル波と呼称する特殊な波動を計測すると言う。
「君の生活リズムは壊滅的ではあるが、活性化率に変化が見られる」
「壊滅的って…」
スフェーンはやや顔が引き攣りつつも自覚はあったので反論に困っていると、スフェーンはネクィラムから仕方なくその機械を受け取る。
黄色と黒の計測器は計器の針が今も動いており、スフェーンはネクィラムに聞いた。
「便利な機械だな。計測器で売れるんじゃないか?」
「実際、既に大量の注文が入ってきてしまって困って居るよ」
そう言うと彼はこの機器の製造権をある会社に売ったと話していた。




