#96
マーセナル・タウンは傭兵の街。
偶に野盗も混ざっているが、基本的には武器の市場である。
武器の中には戦車や装甲車も含まれており、傭兵の中のジンクスである退役した傭兵の物は生き残る運がついていると言う理由で名のある傭兵の中古品というのは値段が高くなる。
「さぁ買った買った!」
「おすすめの改造対戦車ミサイルがあるよ!」
マーケットでは新型の自動小銃やミサイル。ロケット弾などが売られており、武器商人達が軒を連ねていた。中には、
「ボーレット社のパーツがあるぞ!」
「アカメ・ミリタリーズの腕部一式、置いているよ!」
違法なオートマトンやサイボーグのパーツ販売がされている。
特許という権利がない以上、こうした違法品も出回っているのだが、そもそもの原因は会社がパーツの値段を上げることでユーザーが代替品を使い始めたことが原因だ。
「失礼」
「おう、いらっしゃい」
そんなマーケットの一つ、ある武器商人の前でスフェーンは話しかける。
「今日は何の御用だいお嬢さん?」
「武器の買取をしてもらいに来ました」
「おう、武器の売買はお任せあれ!」
ここはオートマトンの装備品を主に取り扱っている店だ。実際、オートマトン用の巨大な装備品が置かれており、とても人間が簡単に運べそうには見えなかった。
「今持っている装備品の売却を行いに来ました」
「ほうほう、君はオートマトン乗りなのかい?」
「もうやめますけどね」
「なるほど…」
事情を知り、男は軽く頷いた後にスフェーンに聞く。
「じゃあ売りたい装備品を見せてくれ」
「分かりました。駅の方までついてきて欲しいんですが…」
「おう、分かった」
するとその男は近くにいた同じ販売員に一言告げると、スフェーンに近づいた。
「さぁ、案内してくれ」
こう言う時、スフェーンの事を疑うかと思っていたが、その様子はなかった。
見た目は少々小太りのロリコンな感じがするが、そう言った感情も無いのでスフェーンは安心して彼を駅まで案内する。
「ちなみにオートマトン乗りを辞める理由を聞いても?」
「…ある種のケジメですかね」
「ケジメ…なるほど」
スフェーンから感じたのその雰囲気は、長年武器商人をやってきた男の目にはそこはかとない老練さを感じていた。
「見た目にそぐわぬ腕をお持ちのようですなぁ」
「そうです?」
軽口を言いながら二人はヤードに到着する。
リーチスタッカーがコンテナの積み下ろしを行っており、数本の線路の上を貨物列車や貨客混載列車が停車している。
「ちょっと待っててください」
スフェーンは列車の前で男を立ち止まらせると、スフェーンは列車の格納庫からオートマトンを起こす。
「おぉ…」
そして器用に武器を商人の前に置き、それを見た男は思わず感心する。
「すごく器用ですね」
『お褒め頂きどうも』
スフェーンはスピーカーに切り替えて男に返すと、これらの武器をまとめて売りたいと話す。
「分かりました。まずは状態の確認をしてもよろしいですか?」
『どうぞ』
そう言い、スフェーンは銃を持った手を男の前に向けると、有り難そうに男は銃を分解して中身を確認する。
公平を謳っていたあの店は査定も厳しく、中の状態を詳しく見て状態を把握する。
「ふむ…」
そしてタブレットを取り出して必要な項目に点数をつける。
「かなり状態は良いです。これほどですと…」
男はざっと見積もった数字を見せる。
「こちらの小銃はオプション込みでこれくらいの価格でいかがでしょうか?」
そう言って見せてきた値段にスフェーンも納得すると、全ての武器の査定を依頼した。
ヤードの一角を曲がりして武器の査定を終え、男は部下を呼び寄せると売却する武器の回収に来るまで二人はヤードで待つ。
「量が少なければそのまま運んでもらうんですけどね…」
『それは無理でしょうね』
今ある武器は両手両肩に武器を満載しても余るほどあり、回収トラックを必要としていた。
丁寧にメンテナンスをしていたおかげで買取価格は比較的高かった。
「よっと」
コックピットハッチを開け、そこから顔を出したスフェーンはオートマトンの肩に立つ。
四年ほど使い倒したこの機体をどうしようかと考えながらオートマトンに乗った時のマーセナル・タウンの景色を見ていた。
「お客さん」
そしてそんなスフェーンのオートマトンを見た男は提案する。
「オートマトンもウチで売るのはいかがです?」
スフェーンのオートマトンを見たその男はスフェーンに聞いた。
「え?どうしてですか?」
聞いたスフェーンはやや驚いて聞くと、男は言う。
「いやぁ、実は最近になって上がオートマトンの中古売買を始めるんです。それでオートマトンをとにかく集めているんですよ」
「な、なるほど…」
事情を知ったスフェーンは納得すると、オートマトンから降りる。
「どうでしょうか?」
「まぁ、値段によりますよ」
スフェーンが言うと、その男は少し笑みを見せて提案する。
「でしたらお客様の納得のできる査定価格にできるかと。現在は買取強化中ですので」
和かに提案してきた彼はスフェーンのオートマトンに興味ありな様子だった。
その後、保有していたすべての装備品の売却を完了した。
ただ武器の量が多く、査定と売却のために丸一日使ってしまった。
オートマトンに関してもワイヤー付き投げナイフといった特殊なオプションがついていると言うことから明日に回される事になった。
でもまぁ、個人で持っているにしては武器の量は確かに多かったかもしれない。
その点、ナンブ製オートマトンのユニバーサル規格の拡張性の高さというものがいかに有用か証明していた。
「時間かかるなぁ…」
『仕方ありません。特に今回はすべての装備品を売り払ったのですから』
ホテルのレストラン、昨日と同じように夕食を取るスフェーンは明日に延びたオートマトンの売却の事を口にする。
「しかし、あの業者にオートマトンも売り払うか…」
『思わぬ縁です。情報を検索しました所、どうやら事実のようです』
「まじかぁ…」
予期せぬ出会いだったが、色々と査定して回るのも少し面倒に思い始めてきた。
『でもオートマトンは手放すんですよね?』
「もちろん」
『空いた場所はどうされるのですか?』
「うーん…まだ考え中」
オートマトンの格納フレームごと引っこ抜く予定なので実質的にコンテナの半分が空くことになる。
その部分をどうするかはまだ決めていなかった。
「いっその事、倉庫にでもしちまおうかな…」
『それも良いかもしれませんが、できれば有効な使い方をお勧めします』
「分かってる分かってる」
夕食に出てきたガレットをナイフで切りながら頷く。
中央にエメンタールチーズ、生ハム、卵を置き、蕎麦粉を使った生地で包まれたガレットを切ると中の黄身が溢れた。
切ったガレットを黄身と絡めて口に入れると、チーズの香りと生ハムの塩味がほんのりと広がり、ガレットの焼けた生地がサクッとした軽い音を立てる。
「ガレットもいけるな…」
そしてそんな感想を思わず溢すと、ルシエルは気にしていない様子でスフェーンに聞く。
『しかし、貴方の凍結資産はどう動かすのですか?』
現在、レッドサンの預金の入っている銀行口座は事実上の凍結状態で、ここから資産を取り出すにはいくつかの手順を整える必要があった。
「何、考えているよ」
スフェーンは少し自信のある様子で答える。
この街に来た目的であるオートマトンの売却、レッドサンの代名詞を捨てる決意をした彼女は少し疲れた表情をしていた。
「ただまぁ…」
『あくまでも手をつけるのはレッドサンの遺産のみ。十分理解しています』
「その為には色々と伝手を使わないと…」
幸いにもスフェーン・シュエットの伝手というのは傭兵の時と比べて浅いが、その分深い関係が多い。
「あんまり本望じゃ無いけど…」
途端にスフェーンの表情は暗くなるが、今ある伝手の中…と言うより、今までの伝手の中でも相当に濃い人間が一人いる。
正直会うのも憚りたいが、この状況で一番信頼できて、尚且つ罪の押し付けができる人間が一人いた。
『しかし、彼の能力であればそのようなシステムを持っている可能性は非常に高いかと…』
「そうなんだよ。問題はそこだ」
また変なものを押し付けられたく無いと思いながらついでに変な物も送り返してやると思いながら食事をしていると、
「〜〜〜♪」
視線の先、ピアノの側で今日も歌うプエスタ。
彼女の視線はレストランを一周するように動き、その際何度かスフェーンと目線が合った。
目線の合うスフェーンはそんなプエスタの視線を感じ取りながらも気にする事なく食事を摂り続ける。
「(やれやれ…)」
軽くため息を吐き、食事を終えて水をコップ一杯飲むと、その後に煙草に火を付ける。
空いた皿をすぐに従業員が回収し、灰皿を手前に引き寄せて煙を吐いた。
その後、夕食を終え。部屋に戻ったスフェーンはベッドに寝転がって少し考える。
「…」
自分はレッドサンの記憶がある。
自分が経験した戦闘やその時のオートマトンを扱ってきた記憶やレバーの感触、人肌を感じた事も。
しかしスフェーン・シュエットと名前を変えたことでレッドサンと言う一人の傭兵は社会から消えつつあると言うのもよく感じている。
今の赤砂傭兵団はアイリーン社との相互協定のおかげで組織改革が行われ、その功績者であるブルーナイトの名声は上がっていた。
そしてその反面、彼の相棒は行方不明のまま四年半が経ち、彼の名を知っている者達は皆、死んでいると思っていた。
「…んぁ〜、脳バグりそう」
『下手に深く考え始めるからですよ。スフェーン』
そんな様子にルシエルは呆れた目で見ていると、スフェーンは言う。
「レッドサンの痕跡を消す事は正しいと思う?」
『さぁ、私には良くわかりません』
そんなスフェーンの問いにルシエルは首を軽く横に振って返す。
するとスフェーンに電話が来て、相手を見て彼女はすぐに出ると、
『ス〜フェ〜ン〜!』
「こんな時間に何ですか?お嬢様」
電話の奥から泣きつくような声で話しかけてくるサラの声に少しだけスフェーンの表情が緩む。
『今日酷い事された〜!!』
「はいはい、今日はどんな悪口を言われたんですか?」
ちょくちょく仕事の愚痴をしに電話をかけてくる彼女にスフェーンは手慣れた様子で体を起こすと、彼女の愚痴を聞いていた。




