#95
四日間の宿泊をとったスフェーン。
朝に紅茶とパン・オ・ショコラを食べにレストランに向かう。
朝食はホテル客が出入りし、傭兵の姿は見受けられない。
マーセナル・タウンに置いてきた列車は常に監視しており、不審者を武装区画からヌッとCIWSが出てきてビビらせていた。
「さて、噂のいい下取り業者はいるかな?」
ホテルのロビーに鍵を預けると銃二丁が返却され、それぞれを持ってスフェーンはホテルを出て行く。
『一応、マーセナス・タウンには幾つかオートマトン買取業者が店を構えています…が』
「その何れも評判は悪いと…?」
『はい…』
「予想通りね…」
小銃に電熱線入りの長い30年式銃剣を取り付けて視線を街に向ける。
ナローボートに乗って街に向かう途中で準備をする。すっかり慣れきったこの体だ、街に入れば舐められるに決まっている。
「おいガキ」
「…言わんこっちゃない」
街に入り、中古屋に行こうとした時に早速スフェーンは一人の傭兵だが野盗だか分からない男に目をつけられた。
「金目のもん出せや」
「やなこった」
スフェーンの返答に男は銃を向けた。
「おいおい、こいつが見えないのかい?」
「はっ、そんなお古で何ができるかよ」
そう言い見せつけた完全火薬式のボルトアクション小銃に舐め腐っている男にスフェーンは軽くため息を漏らすと、
ッ!
有無を言わさず小銃を槍のように投げつけた。
「グガッ!?」
咄嗟に左肺に突き刺さった小銃を抜こうとしたが、スフェーンが全体重をかけて小銃を押し込み、その反動で男は地面に泥に塗れながら倒れた。
「カハッ」
電熱線入りの銃剣はたとえサイボーグ相手でもその部位の機能を止めることが可能であり、スフェーンのつけている銃剣は男の体をバターのように貫通していた。
「さぁどうする。このまま膵臓まで切ろうか?」
左肺に刺さった小銃を突き立てたまま聞くと、男は声が出ていないが、これでもかと顔を青くして首を横に振っていた。
片方の肺を破壊され、心臓に負担のかかる状態なので直ぐにでも医者にかかる必要がある。
「生きたいんなら、喧嘩を売る相手はよく見極めな。若造」
そう言い残すとスフェーンは小銃を抜き、後ろから撃たれても困るので男の持っていた銃の銃身に突き刺して穴を開けた。
「ふぅ…」
相変わらず体力はないのでリーチと技でなんとかするしかないのが弱点だなと思いながら小銃を背負って街の奥に消えていく。
『仕留めませんか…』
「前から言っているでしょ。余計な人殺しはやーなの」
そう言い傭兵と野盗の見分けがつかない街を泥を踏みつけて歩く。
少女という見た目だが、目に見えてわかる銃を持っている上にリーチは圧倒的に長いので、知っている連中は近づいてこない。
「それに、喧嘩ふっかけてくるのは馬鹿しかいない」
小銃に付いている銃剣は長めの物であり、人の胴体であれば簡単に貫通できる長さだ。
小銃自体の長さと合わされば槍として十分に機能する。
「そういう奴らの対応は簡単にできる」
接近戦に置いて最も強いのは恐らく銃剣付きの拳銃ではないだろうか。銃なんて当たればこっちのモンだし。至近距離で交わせる奴なんて漫画でしか見た事ないし。
『こう言った事態を憂いていたのでしょうか?彼は…』
「聖職者みたいな心だからね〜、彼奴は」
どちらにしろ、彼とは何かしら決着をつけた方が良いだろう。
彼のやっている行いを批判するつもりはないし、むしろ称賛されるべき行為だろう。
恨んでいるかと問われれば微妙なところだ。
彼が不意打ちで撃ってきた事は腹が立つかもしれないが、裏切りが連発するこの業界ではよくあると言っても過言ではなかった。
「何にしろ、まずは俺の清算を済ませなきゃならんな」
『そうですね』
スフェーンもやや呆れまじりに返すと、
『何にせよ、スフェーンの企業嫌いは徹底していますね』
「当たり前よ」
企業なんかクソ喰らえだ。
「なるほどなるほど、機種はDB-99ですね」
「そうです」
そしてとりあえず街一番の中古屋にやって来て自分の列車に備えられたオートマトンの査定を行う。
「使用期間は約四年…畏まりました」
オートマトンの耐久年数はおよそ十五年、二年程度であれば中古屋では新台扱いで高く買い取ってもらえる。
「では当社の査定金額はおおよそこのくらいでしょう」
「ほうほう…」
金額を提示され、スフェーンは自身ありげなスーツの社員の提示した査定額を見て苦言を呈す。
「流石に二割はボリ過ぎだ」
そう言いスフェーンは文句を溢す。流石に購入金額の二割の査定はおかしいと思う。
「せめて半分」
「しかし、四年使ったオートマトンですと…」
「買った時は新台だ。後で持ってくるからそん時にまた頼むよ」
スフェーンはそう言い中古屋の席から立ち上がる。
それは実質的にここでは売らないと言う意味合いが込められていた。
「あぁ、お待ちくださいお客様!」
ナンブ製のオートマトンは中古市場では大量生産されているが、よく売れる人気機種の為に中古屋は慌てた。
「また後で来るかもね」
カウンターから立ち上がった社員に目を合わせてそう言うとスフェーンは店を後にした。
「…はぁ」
分かってはいたが、相当に面倒な状態に溜息を漏らしながらスフェーンは駅に向かう。
『列車に接近する人物が二人います』
「ん、そうか…」
『迎撃しますか?』
「おん、やって」
直後、列車の武装区画のハッチが開くと中から出てきたCIWSに驚いて慌てて逃げ出す映像をスフェーンは見ていた。
「白昼堂々やるなよ…」
一日動かさずに止めていたらこの有様だ。もはや笑うしかあるまい。
この二日だけで一体何人のコソ泥が逃げ出していったか…。
『かと言って、街の外は無法地帯です』
「ここも十分無法地帯だろうに」
スフェーンは軽く突っ込むと駅にはD62形機関車が停車しており、貨客混載の列車にはオートマトンや傭兵が乗り込んでいた。
基本的に軍警に野盗として登録された人物は街に入ることができないので鉄道を利用する事はできない。なので彼らは基本的に傭兵だ…多分。
「さて、さっさと武器売っちまうか…」
『すべて売却するのですか?』
「そりゃそうさ」
列車に乗り込み、スフェーンはそのままオートマトンの格納してあるコンテナ後部に移動する。
その中には今まで使って塗装の剥げたカーボン色の無骨なオートマトンがうつ伏せに倒れている。
「格納フレーム毎売れたら良いがね…」
『武器は何処に売るつもりですか?』
「適当に武器屋に流すさ」
元々武器格納庫を潰してまで部屋を広げたおかげでオートマトン格納庫は狭い。なので整備をするだけで一苦労だった。
『安く買い叩かれる事は…あっ』
「そう、ここにある武器は元々全部無料です」
自動小銃やロケットポッドと言った装備品はすべて撃破した野盗の死体漁りで得たものしか無い。
その点、オートマトンと言うのは打ち出の小槌にもなった時期があった。
「需要もあるし、良い値段で買ってくれるだろうよ」
『弾薬は抜いてですか?』
「そりゃそうさ」
自動小銃の弾薬とCIWSの弾薬は共有できるのでしっかりと抜いた上で武器をすべて売る。
『しかし…』
「ん?」
オートマトンを見ていたルシエルは再度聞く。
『本当に全て売ってしまうのですか?』
「えぇ、綺麗さっぱりに売る」
そう言いスフェーンはオートマトンを見ながら溢す。
「オートマトンはレッドサンの代名詞…ケジメを付けるならここでキッパリやめた方が良いでしょう?」
即答したスフェーンにルシエルは反論する事なく受け入れる。
『スフェーンがそう言うのでしたら、私から言う事は特にありません』
「まぁ、まずは装備品を纏めて売っちまおう」
『そうですね。ここら辺で中古の武器を売っている場所をピックアップ致しましょうか』
「そうね〜、できれば夕方までにはホテルに戻りたい」
ホテルに戻って良いベッドで寝たいスフェーンは願望を口にすると、ルシエルもそれを鑑みた予定の作成を行う。
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「あぁぁぁぁぁあああっ!?!?」
痛みから絶叫する一人の男に数人の男女が彼を押さえつける。
「やめてくれぇぇええっ!!」
そしてそんな彼に怒鳴る女性が一人。
「お黙り!これが一番綺麗に治るわよ」
アンジョラは一喝し、その手にピンセットと摘まれた蛆を患者の壊死した部位に置く。
彼女が行っている施術はマゴットセラピーと呼ばれる壊死した細胞のみを食す特殊な蛆を壊疽した部位に植え付けることで行わせる治療法である。
重大な副作用が起こらないので今の時代は重宝されている施術方法である。
ただし、傷口に蛆を植え付けるという一見すると気絶案件な見た目なので大抵の患者は嫌がる。
「押さえつけて」
「はいっ!」
アンジョラの病院では患者の多くが傭兵である。
基本的に企業の病院に属さない医者は全員が闇医者と呼ばれ、患者の多くは傭兵か金のない貧乏人だ。
「畜生!このヤブ医者めぇぇええっ!!」
「だったら荷物まとめてとっとと帰れ!!」
数人がかりで押さえつけた後、必要な処置を終えて壊疽した部分に蛆を植え付けられた患者の傭兵は喚き倒すが、看護師たちに押さえつけられて手足を手錠で縛り付けられていた。
「こっちは真っ当な値段でやってんだ。文句あるなら帰れ!」
強気の姿勢を崩さないアンジョラを前に傭兵は不安と恐怖で黙り込むと、
「ここじゃあ私が法律だ。言う事は聞いてもらうよ」
アンジョラは集団の病室で同じように暴れて手錠を食らっている他の患者達にも同様の視線を送りながら消えていった。
「ここ最近は患者が増えたわねぇ」
病院の診察室、そこで一人アンジョラはぼやく。
「仕方ありませんよ。最近の野盗の襲撃の数は増えているんですから」
そう答える看護師、彼はこの前久しぶりに訪れたブルーナイトの相手をしていた男だ。
アンジョラの良き助手として今は活躍している。
「おかげで先生もお疲れの顔ですよ」
「あら、いけないわね」
すると彼はシーツを畳んで手に置いた後に診察室奥の従業員用の通路に向かう。
「次の予定はありませんから。少し寝ていくのはどうですか?」
「考えておくわ」
アンジョラはそう答えると、彼は消えていった。
「…はぁ」
そして彼が消え、一人残った診察室でアンジョラは大きく溜息をついた後に頭を組んだ手の上に乗せていた。




