#87
暗い洞窟の中、ライトを照らして崖の上をロープを伝ってゆっくりと下に降りる。
「大丈夫か〜?」
「あぁ、問題ない」
上ではアウトリガーから杭を打ち立てて固定されたバギーが停車しており、ロープが括り付けられていた。
「もう少し降ろしてくれ」
「了解した」
するとゆっくりとロトの体は下に降っていき、両足が崖下にたどり着いた。
「足元、お気をつけて」
「あぁどうも」
すると下で待っていたアンドロイドが足元を照らしながら待機していた。
「この先は?」
「かなり激しく崩落していますね」
そう言い岩石だらけの嘗ての洞窟。
「酸素濃度もここからは下がるでしょう」
「ならボンベか…」
ロトはそう言って上にいるライルに言う。
『ライル、酸素ボンベを落としてくれ』
『了解だ』
バギーを支柱にクレーンを操縦する調査隊は崩落したタルタロス鉱山跡地を調査していた。
『よし、降ろすぞ』
『了解』
そしてバギーのエンジンが唸り、小型クレーンが酸素ボンベを降ろすと、崖下のライトを見てライルは
「おぉ〜怖。行きたくねぇ」
ヘルメットを被り、ライトを付けている彼は子供の頃の探検隊ごっこを思い出していると、下にいるロトとアンドロイドが話していた。
タルタロス鉱山の調査に訪れている彼らだが、乗り込んだフライクレーンは鉱山から離れた場所で待機していた。
「(まあ、詳しい事情はあいつも察しているだろ)」
ライルは下にいるロトをを見ながら内心呟く。
この調査で上層部の協力を取り付けられたのは一重にアイリーン社の痕跡を調べるためでもあった。
「(レッドサンはこの事故以降、消息を途絶えた…おそらく崩落に巻き込まれての事故死だろう)」
軍警でも伝説級の強さを誇るオートマトン乗りとして名が知れていたレッドサン。
彼の遺体すら見つかっておらず、彼の乗っていた機体。ロート・フォッカーの姿も見つかっていない。
「(しかし予想外だったのは、上層部がレッドサンの遺体を探している事だったな…)」
何を求めているのかは知らないが、ロトの休暇届とその行き先を聞いてライルを呼び出して話を持ちかけてきていた。
タルタロス鉱山に事故調査という名目でレッドサンの機体残骸の捜索も兼ねている本調査隊。今はまだ進度100メートルを進んだくらいで酸素濃度は問題なかった。
「どうだ、そっちの状況は?」
ライルは下にいるロトに聞くと彼は答える。
『ロボット・スネークが先を進んでいる。かなり奥まで繋がっている感じだな』
「そうか…」
そこで通信を切り、上で待機していたライルは
「先は長いな…」
少なくとも、事前に入手しているタルタロス鉱山の見取り図からも何日かかるかわからない様な雰囲気にため息を漏らしていた。
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「もう何年も昔になってしまいますけどね…」
告解するようにスフェーンは夜の食堂車の中、ヤサカに言う。
「一緒に仕事をしていた仲間と喧嘩をしてしまいましてね…以降一度も会っていないんです」
「なるほどねぇ…」
ヤサカはそんなスフェーンを静かに聞く。
「問題なのは、着の身着のままで出てきちゃった事ですかね」
「ほうほう、財産は置きっぱなんだね」
「そうです」
スフェーンは少々ぼかしを入れながら話し始める。
『よろしいのですか?』
「(良いんだよ、どうせ何も知りやしない人間だ)」
ルシエルの不安をよそにスフェーンはヤサカに話し続ける。
「それをどうするのか、その友人と関係をどうしようかなって…」
「うーん…中々難しそうな話だねぇ…」
ヤサカはそう言い少し考える仕草をとった後にスフェーンに聞く。
「その喧嘩はお金や愛に関係している?」
「え?うーん…」
言われてスフェーンは考える。ブルーナイトに撃たれた時、そう言ったものが関係していたのかどうか。
「…ない、ですね」
「そうかそうか。なら色々と解決策はあるよ」
ヤサカはそう言い、少し光明が降りたような雰囲気を出す。
「そうですか?」
「そうさ、人殺しの原因は愛と金っていうじゃないか」
「…」
実際一度殺されかけていた身としてはそれを言われてまた考え込んでしまう。
「だったら愛…なのかな?」
少なくとも金が目的というのなら、速攻銀行口座は空っぽになっているだろう。
しかしその雰囲気がないという事でおそらく銀行口座は凍結されたままという事だろう。
「愛…もしかして異性?」
「いや、同性です」
正確には元、なのだが言うとややこしくなるので口と閉ざすとヤサカはふむふむと言った後で少し考えた後に追加でスフェーンは言う。
「できれば顔を合わせずにしたいんですけどね…」
「なるほどね…」
直後、対向のブルートレインの明かりが横切る。
二五両編成の長大寝台列車は窓の明かりが一本の線のようにつながり、スフェーン達の食堂車を照らす。
「そう言う時は手紙が一番だろうね…」
「手紙…ですか」
ヤサカはスフェーンに提案をする。
「そうだね、直接紙に書いて郵便で送るとか。あるいは直接か、その人に近い人の郵便受けに入れておくとか」
「ずいぶん古典的ですね…」
鉄道郵便局を思い出しながらスフェーンはやや苦笑するとヤサカは言う。
「時にはそう言う無駄が心を落ち着かせるんだよ」
「無駄…ですか」
「そう、無駄は心を落ち着かせるためにあると思うんだ」
ヤサカはそう言うと、スフェーンにアドバイスを送る。
「むしろ無駄ばかり気にして効率よく生きようとする方が逆に効率悪くなっちゃう。普段通りに過ごすのが一番効率が良いんだよ」
「…」
シードルを瓶から直接飲むスフェーンはそんなヤサカの持論に納得できるところがあった。
「特に生き急いでいるような人こそ、無駄を大事にするべきだと思うなぁ…」
そう言い、チーズナイフでチェダーチーズを薄切りにして手に取って一つ口に放り込む。
「生き急いでいる人間ですか…」
「そう、思い当たる人はいるかい?」
「えぇまぁ…」
そう答えスフェーンの脳裏には一人の男が思い浮かぶ。
「そう言う人は大体、自分がどう言う人なのか分からなくなっちゃうね…」
「まるで知っている物いいですね」
「いやぁ、実際昔の私がそうでしたよ」
ヤサカはそう言い軽く笑う。
「昔は結婚したい、お金持ちになりたい、そう言った感情に振り回されて必死に生きていたよ」
言って彼は少し表情が暗くなる。
「でもその結果は散々だった…もう全てが嫌になって、何しようか考えた時。ふと子供の頃に抱いていた料理人に転身したら…」
そう言い、彼は食堂車を一瞥する。
「今はこうやって幸せな生活を営んでいる。有難いことにね」
そう言い彼は食堂車を経営してて感じた過去を思い返す。
「君もだよ」
「え?」
するとヤサカはスフェーンに言う。
「君から感じるのは過去に縛られている様だ」
「…」
ヤサカの話に少しスフェーンは驚くと、彼は続ける。
「おそらく君は、まだ過去との縁切りを終わらせていない。過去にまだ縋っている…そんな雰囲気だね」
ヤサカの言葉にスフェーンの目元が少し揺れた。
「時には立ち止まって自分の行動を振り返ることも大事だよ。特にお金が絡むとなるとね…」
ヤサカはそう言い、スフェーンに注意を促すと彼女はそれを聞き少し考える。
「…」
そして少し考えた後に彼女は言う。
「なるほど…」
「少しは役に立ったかな?」
「…はい、そうですね」
「それはよかった」
ヤサカはスフェーンの反応に少し嬉しそうにするとその直後、
ビーッビーッビーッ
スフェーンの視界が赤く染まり、警報音が出た。
「あーあ、いい時間だったんだがな…」
「何かあったのかい?」
スフェーンの異変にヤサカが聞くと、スフェーンは言う。
「こんな場所に野盗の襲撃ですよ」
「えぇ…?!」
ヤサカは驚くと、彼女は言う。
「取り敢えずカーテンを閉めておいて下さい」
「ああ…」
ヤサカは頷いて返すとボタンを押して列車の窓が一斉に遮光カーテンで閉じられる。
「私が出ますので、ヤサカさんは床に伏せていて下さい」
「大丈夫なのかい?」
「ご安心を」
ヤサカの問いにスフェーンは自信満々に答えると、直後に窓の外を遮光カーテンすら貫通する勢いで閃光が溢れた。
「レーザー砲か…」
「下手に見ると目が潰れますよ」
すると直後にミサイルが飛んでいく音が聞こえた。列車の武装区画の防御装置が動き始めたのだ。
「では、私は対応に出ますので」
「あぁ、よろしく頼むよ」
ヤサカはそう言って出ていくスフェーンを見送ると、少しした後に列車の振動に混ざって聞こえた開閉音を聴いた。
「…あぁ、なるほど」
そしてこっそりとカーテンから覗いて上のハッチが開いて出てくる一台のオートマトンを見て彼は言う。
「あれが足枷になっているのか…」
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「…レッド」
視線の先、一人の男が座って瞑想をしている様子だった。
「お前は何をしたいんだ…」
そんな様子を彼にジェロと呼ばれていた男は聞く。
「…」
目の前、かつてレッドサンとあだ名された男はブルーナイトに一瞥もする事なく座り込んでいた。
「なぜ夢に出てくる」
ずっと出てくる彼はただ何も言わずに座り込んでおり、いつも反応する事無くブルーナイトは目が覚める。
もはや慣れた景色を前に彼はそんな幻影を前に疲れ切った顔で見下ろす。
『なぁに、いずれ分かる時が来る』
「っ!?」
直後、レッドサンの目が開いてブルーナイトを見ると少し鼻で笑って言い放った。
すると彼は露のように体が消え、その消えた先でブルーナイトは一つの光を見た。
「…?」
その光の先で、一つの人影を見た。
「子供…?」
そこに立っていたのは灰色の髪に純白の肌の背丈は孤児院にいるような見た目の少女が岩の上で片膝を立てて座っている光景だった。背景は夕日の落ちる姿、どこか既視感のある景色だった。
「どう言う事だ」
その少女は反対を見ており、顔は伺えなかった。
するとその景色すらも霧散し、視界には純白の天井と、ゆっくり回転するシーリングファンと部屋を明るくする照明が見えた。
「…」
そこで意識がはっきりとし、自分は赤砂傭兵団の本部の事務所で椅子に座り込んでいたことを思い出す。
連日の仕事とストレスで気絶していたようで、彼は体を起こした。
「?」
するといつもの空腹感や倦怠感がないことに気が付き、彼は少し不思議に感じた。




