#85
とある依頼の為に貨物ターミナルからダイナー街と呼ばれる留置線に訪れたスフェーン。
この留置線は一般人も出入りができる空間であり、今の時間は夕食の時間帯。故に…
「人多っ」
運び屋や運送業者はそうだが、一般人も多くおり、親子連れも待っていた。
『ダイナーはそれぞれが移動可能なレストランで、会計は全て個別です』
「色々あるんだな〜」
多くの食堂車や改造車が並び、階段が設置されており、多くの人々が出入りしていた。
「うはっ、こんなのもあるのか…」
そう言いアンドロイド専用の食堂車を見る。
アンドロイドの嗜好品である潤滑油や脱硫燃料、エーテルと言った物を売っているダイナーもあり、中ではビュッフェ車でアンドロイドや傭兵らしき人物が肩を組んでいた。
「…」
姿を見て傭兵だと思われるのだが、もしかすると犯罪者かもしれない。
ぶっちゃけ傭兵と犯罪者の線引きと言うものはよく分からない。
かつて検挙されたことで逮捕されて行った仲間はザラにいた。故に傭兵という仕事はまともな人間はやらないと言われている。
「ここか…」
そんなバーを横目にスフェーンは依頼主のダイナーに到着する。
銀帯に青20号で塗装された寝台列車をそのままダイナーにした車両はトラバーサーの近くで停車していた。
「オシ24 777…列車番号も同じだ」
看板には『帝都列車食堂』と書かれ、車両番号を確認したスフェーンは列車の貫通扉をノックすると中から返答があったので入った。
「いらっしゃい」
中では車両の半分がキッチンの車内で一人の太った眼鏡をかけた男の店主がワイングラスを拭きながらスフェーンを出迎えた。
エンジ色の床に木目調の壁、赤色のテーブルスタンドと、レトロな雰囲気と薄暗い灯りの車内は寝台列車の食堂車そのものだった。
「こんな時間に子供のお客さんとはね」
「あぁ、いえ…今回、貴方から依頼を受けたので。その挨拶に来ました」
「ほぅ…君がかい?」
スフェーンを見ながらやや興味深そうにしている彼は一瞥した後に
「じゃあ、数日はよろしく頼むね」
「疑ったりしないんですか?」
スフェーンは今まで経験してきた事から少し驚いて聞き返すと、彼は言う。
「嘘をついている様子じゃあないからね。完全サイボーグなんてのもいるくらいだし、何より子供が働いているなんて特段おかしな事でもないよ」
太ったその店主はスフェーンに違和感や疑念を持つ事無く訪れたスフェーンに聞いた。
「詳しい話は後でしよう。何か注文は?」
そう言い、彼は店のメニュー表を手渡してきた。
スフェーンは渡されたメニューを見ながら少し考えた後に
「このビーフシチュー・ア・ラ・モードを一つ」
「サラダなどの追加は?」
「お願いします」
サイドメニューも注文し、そこでライスと紅茶を注文する。
『しれっと誘導されてませんか?』
「でも普通に美味しそうじゃん」
そう言いディナーメニューを見ながらスフェーンは言うと、奥のキッチンに入った店主はそこで注文を受けて料理を作り始める。
メニューには他に『椿御膳』や『ハンバーグステーキフォレスト風』、『シーフード盛り合わせ』、『ポークヒレカツレツ』と言ったメイン料理や軽食、おつまみや酒、土産物まで置かれていた。
店内のテーブルに他に客は居らず、スフェーン一人だけがテーブルに座り。一人、窓の外を見ていた。
留置線は貨物列車が行き交い、コンテナを積んだトラックが積み下ろしを行う。
有刺鉄線付きの高い柵は貨物ターミナルを一周囲い、街灯がつけられ。人の出入りは運輸ギルドの施設のみ。
「…」
『ダイナー街は賑やかですねぇ…』
「ああ言うのは苦手ね…」
そう言い、ダイナーの横で酒盛りをして盛り上がっている集団を見かける。
『スフェーンは昔から騒がしい所は苦手でしたね』
「まぁね…」
そうして車内で待っていると、奥から出来立ての料理を持ってくる店主の姿が。
「お待たせ」
そう言ってテーブルの上にはビーフシチューと白米とサラダが置かれる。
「ドレッシングはすでに和風のをかけてあるから」
「あぁはい」
「紅茶は後で持ってくるよ」
「分かりました」
そう言うとその店主は再び奥に消えて行き、片付けをしていた。
その間、出来立てで湯気の経つビーフシチューをスプーンで一掬いし、牛の脂が溶け出したデミグラスソースを口に入れる。
「フー…あちっ」
熱々の濃厚なソースをサイドのライスにからめてを口に運ぶ。
「ハフハフ」
程よく煮込まれたにんじんやブロッコリーは噛んだ瞬間に砕け、煮込まれたトマトを歯で潰し、中の酸味を感じる。
肉も柔らかく煮込まれ、スプーンがよく進む。
そして熱くなった口の中を冷えたサラダが通過し、和風ソースのポン酢で口直しを図る。
「パンと一緒に食べても良かったかもなぁ〜」
そんな事を思いながらビーフシチューを堪能していると、奥から店主がティーポットとカップを持って戻ってきた。
「どうかな?実はそれ、合成肉なんだけど…」
「え?!これ合成肉なんですか?」
店主の告白にスフェーンは驚く。合成肉をこれほどまで美味くできる技術があるなんてと思っていると、
「はははっ、いい顔だ。これを言うとみんな驚くんですよ」
そう言って彼はスフェーンの反対の椅子に座ると、カップに紅茶を注いでそれをスフェーンの利き手ではない方に置いた。
そして話す雰囲気だったのでスプーンを置くと、
「あぁ食事を続けてくれて構わないよ。お互い、数日は世話になる仲だ」
「…では遠慮なく」
彼が言うならと言う事でスフェーンは食事を摂りながら店主に自己紹介をする。
「今回、依頼を受けましたスフェーン・シュエットと言います」
「私はこのダイナーを切り盛りしているヤサカと言います。どうぞよろしく」
今はエプロンをしているが、どちらかと言うとよれたダウンを着ている方が似合いそうな雰囲気のその店主は和かに笑みを見せた。
「目的地までおおよそ五日、その間食事を依頼してもいいですか?」
「えぇ、その分の料金は随時支払いにしますか?」
「それでお願いします」
ダイナーからの依頼が人気な理由は一部こうやって移動中に食事をとる事が出来るからだ。
拠点を移動する上でその間何も利益が出ないので、運転士に料理を提供している。
そして移動中に美味い料理が食べられると言う理由でダイナーからの依頼は人気な仕事であった。
「了解、出る時間は…」
そして食事を終え、その後は運行計画を二人で練る。
「しかし…」
「?」
そんな中、ヤサカはスフェーンを見てやや苦笑気味に言う。
「まさか本当に一人で列車を回しているとはね…」
「そんなに可笑しいですか?」
「いやぁ、そこまでその人間じゃないから詳しくは分からないけどね」
ヤサカはダイナーを見ながら言う。
「でも悪くない生き方だとは思うよ」
そう言うと彼は空になったスフェーンの皿を回収して奥に消えて行った。
翌日、トラバーサーに一両の食堂車が載せられ、黄色灯が警報を鳴らしながら留置線の本線に繋がる方に移動する。
ガコンッ
移動を終え、線路と接続した食堂車はDE11機関車に押されて前進し、その先ではスフェーンの列車が待機しており、連結部では職員が赤旗を振って笛を鳴らしていた。
ガシャンッ
そして連結器の確認を終え、列車の最後尾に食堂車が連結されて車両が少し揺れる。
貫通扉が開けられ、貫通幌やコードが繋がれ、列車の情報が追加されると見ていたヤサカは聞く。
「方向反対じゃないのかい?」
「制御運転するんで大丈夫ですよ」
そう答えると、スフェーンはヤサカに言う。
「運輸局からは十時〇三分に出発許可が出ています。もし買い出しなどに行かれるのであれば、三十分前までに四番出発線まで来てください」
「もう買い出しは済ませているよ」
「分かりました」
食堂車を前にスフェーンは頷くとヤサカには途中でコンテナヤードから荷物を載せると伝えてから二人は乗り込んだ。
ヤサカの食堂車には通常の出入り口がないので本来はホームで食材やらを積み込む搬入口から入り、スフェーンは食堂車と接続している運転台の方から運転を始めた。
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「はぁ…」
フライクレーンに乗り込むロトとライル、それから数名の隊員。
二つのコンテナを格納し、完全武装兵士六〇名を輸送可能なクアッド・ティルトローター機はある場所に飛んでいた。
「しかし、上層部の動きはどうも読めん」
「だからって、俺に話を持ってくるなよ…」
「いいだろう、到着までの暇つぶしだ」
機内で葉巻に火を付けて話すライルとロト。機内には多くの機材とバギーが積み込まれていた。
『少し離れた場所に着陸します』
「了解した」
元々輸送用の大型機のフライクレーンを持ち出し、二人は部下を数名率いて大陸東方の未開拓地域に向かう。
場所はタルタロス鉱山。今は閉鎖に追い込まれたかつての鉱山跡地、エーテルの埋蔵量は過去最大級と謳われたその場所は数年前に調査中止が決定され、今はただの洞窟となっていた。
「エーテル活性化による崩落事故…道はあると思うか?」
「探してみるしかないさ。その為に機材と人を借りたのだろう?」
そう言って同乗する隊員に目をやるとアンドロイド含めた彼らは機材の確認を行なっていた。
「まぁ、このデータは事故調査委員会に送られることになるがな」
洞窟調査に特化した機材やアンドロイド、そして下に行くためのロープなども準備していた。
今回はロト達の事故調査という事で命令書が作成されており、タルタロス鉱山崩落事故の調査の為にこの場所を訪れている。
「事故調査委員会に送ったところで何か分かるかね…」
「大体、調査委員会の人間が来ていない時点でやる気は見て分かるだろうな」
タルタロス鉱山崩落事故は数名の死者と行方不明者を出しており、その原因もはっきりとしているのでそんな事故を再調査する事に対し、本来であれば予算が降りるはずもない。
「だがアイリーン関連だったのが功を奏したな」
そう言い私財を投じ無くて遠出できる事にライルは少し笑う。
「俺は内心それどころじゃないがな…」
「そろそろゲイと間違われるぞ?」
ため息を吐く気がかりな友人にライルはそんな軽口をたたいた。
料理は寝台列車あさかぜのメニューを参考にしています。




