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#8

すでに戦闘が起こっていた戦場である指揮官は見た。


『うわぁっ!?』

『た、隊長!恐ろしく速いのがいます!』

『助けてください!』


そんな部下の悲鳴はすぐに途切れる。それを意味するのは撃破された事実だ。


「そんな、こんなにたやすく撃破されるだと?!」


今回はキリュウとゼイレーンとの合同で新たに発見されたタルタロスと名付けられたエーテル採掘場の先行調査と、おそらく襲撃して来るであろうアイリーン社のPMCを撃退する事だった。


近年の成長が目覚ましいアイリーン社だが、その実態は圧倒的な資本力を用いた中小企業の大量買収によってのし上がった新興企業グループだ。

その資金源は不透明な部分も多く、また買収に関しても黒い噂が流れるやり方だと言う。企業の陰謀論が流れるのはいつものことだが、その成長速度の早さには誰もが警戒をしていた。


最近ではその資本を用いてレッドサンを勧誘したと言う話もあるが、もともと企業嫌いのきらいがある彼ならば絶対に首を降らないだろうと言う確信が他の企業にはあった。もし万が一、彼が承諾した場合は他の企業はより一層アイリーンに対する警戒は高くなることだろう。


「くそっ、どうしてだ……」

『たっ、隊長!』

「何だ!!」


そこで防衛をしていたある隊員の通信が入った。


『あっ、赤い奴がいます!』

「なっ……!?」

『おい!青いのも居るぞ!……ぎゃぁぁぁああっ!!』


悲鳴を最後に通信が途絶え、戦場にオートマトンの亡骸が一つ生まれた。

その通信を聞き、隊長は絶句する。


「赤い奴…まさかっ!」


その瞬間、目の前の砂丘から一機のオートマトンが飛び出した。


「っ!!来やがった!」


目の前に現れた赤い機体を見て隊長は恐れを成して持っていた30mm自動小銃の引き金を引く。

反動はどうしたって25mmより大きく、部品の摩耗もあるが。その高い威力から重装甲用として使われることが多かった。


「うぁぁぁぁぁああっ!!」


レッドサンは一度雇われた企業から鞍替えすることはほぼ無い。と言うことは敵対しているアイリーン側について戦うことになる。それは悪夢にも等しかった。


「死ねぇぇえええっ!!」


飛び出した瞬間に撃ったので何発かは当たっているだろうと予測していると次の瞬間、


「ぐあっ!?」


激しい衝撃と共に自機のオートマトンの右腕が肩毎ごっそり持っていかれ、密閉式のコックピットに日の光が差し込んだ。

その隙間から赤色の機体が覗き込むと、公開チャンネルで会話していた。


『コイツが隊長機か?』


この声は間違いない、レッドサンだ。まさかアイリーンの傘下に降ったのか?


『確か、追加報酬は無かったよな?』


レッドサンは誰かに聞くと、少し返答を待っている間に持っていた40mm半自動小銃で近場の敵機を破壊すると、軽く愚痴っていた。


『ちっ、ケチな野郎だ』


隙間から血を流しながらそれを聞いていた隊長機は自身も公開チャンネルにして聞いた。


「レッドサン…」

『あぁ?誰だ?』

「君は、アイリーンの軍門に…降ったのか?」


誰かの通信もわからない奴からの通信だが、お構い無しにレッドサンにそう問いかけると、彼は去りながら答えた。


『誰だか知らねえが…俺が企業の犬になった記憶は無い』

「…そうか」


それを聞き、安堵した様子で隊長は意識を手放していた。






アイリーン社は新興の複合企業だ。元々は貸し付けを行なっていた消費者金融だったが、新しいCEOになってからいきなり方針を変えて周辺の中小企業を元々持っていた資本力で殴り倒して買い漁って複合企業にのし上がっていた。


「好かんやり方だ」


元々貸し付け業をやっている時点でかなり悪どいやり方に詳しいはずだ。大方借金をしていて首の回らない中小企業に借金をチャラにする代わりに買収をけしかけたのだろう。そのおかげで今や様々な業種の企業を抱える一大企業だ。

そして買収された企業に居た社長は会社への服従を絶対的な物とさせる。従わない場合は首を刎ねて貧困街に放り出す。強引な方法だった。


『文句を言うな、レッド』

「企業は基本ケチだが、この企業はさらに酷いな。前金は確かに多かったが……」


レッドサンの愚痴を宥めるようにブルーナイトが言う。


『あらかじめ追加報酬の分も含まれていたんだろう。お前はいつも撃墜数が多いからな』

「ひっでぇ話だ」


機体撃破毎に追加報酬が出るのは大規模な戦闘か、或いは重要な物資を運んでいる時などだ。

そしてこの戦いを見る限りではかなり大規模なものだ。傭兵だけの部隊が作れる程に動員した人数も多い。


「もう少しで向こうのPMCが着くか……」

『レッド、そろそろ頃合いだ』

「了解だ」


するとその時、不意打ちを狙った敵のオートマトンが飛び上がってレッドサンの背後を取った。


『もらったぁっ!!』


そして持っていた25mm自動小銃を撃ち込もうとした時、


『ぎぁっ!?!?』


胴体に赤いレーザーが貫通し、襲ってきたオートマトンは真っ二つに割れながら落下して行った。

そしてレッドサンはレーザーが飛んできた方角を確認して軽く口角が上がった。


「相変わらずだ。ブルー」


そこでは長銃身の狙撃型レーザー・ライフルを構える青いオートマトンの姿があった。


『全く、もう少し労わることを君は覚えるべきだ』

「お前の狙撃能力を買っているだけさ」


レッドサンはそう語ると、戦場を進む戦車の姿を見る。

履帯式や多脚戦車が前進し、二社の合同部隊が防衛する戦線を突破する。

キリュウとゼイレーンのPMCは撤退か降伏を選択し始め、残された物資や施設はアイリーンが接収した。

投降した部隊に関しては企業間の定める規則により誰にも危害を与えることなく撤退させた。


大半の傭兵の仕事はここまでだが、今回のレッドサンとブルーナイトはアイリーン社の調査チームの護衛を受けていた。


「しかし、中に敵なんか残っているのか?」

『鉱山内部では満足な通信はできない。外の事を知らない残存部隊が襲い掛かるかもしれない』

「成程、地の利は向こうにある訳か……」


このタルタロス鉱山は近年発見された新しい鉱山だ。まだ詳しい鉱山の全容が分かっていない上に開発の手も施されていない自然のままな場所だ。アイリーンも流石にマッピング情報は無い様子だった。


「しかし、戦闘後すぐに調査とはな」

『上も焦っている証拠だろう。ここに眠るエーテル埋蔵量はまだ不明、おまけにここら辺は開発がされていない辺境だ』


大陸極東部に位置するこの場所はこの鉱山が見つかるまでは不毛な大地としてかつての大災害以前の宇宙港以外の施設が無かった場所だった。

しかしこのタルタロス鉱山の発見により、企業の注目が集まりつつある新たなフロンティアだった。


「自前の兵が付いてくるなら、鉱山の護衛くらい楽勝じゃ無いのか?」

『念には念をだ……今日はいつになく文句が多いな』


ブルーナイトはいつも以上に愚痴が多いレッドサンに首を傾げていると彼は感じているそれを口にした。


「なんとなくな……こうも愚痴らないとやっていけんのさ。今はな」

『それは……』

「何、ちょいと面倒なことになりそうな気がするだけよ」


レッドサンはそう答えると通信を終え、鉱山に入る調査部隊とその護衛のPMC兵が来るのを待っていた。






『此方は、アイリーン・アーミー社所属部隊。キリュウ・ゼイレーンの兵士に伝える』


岩と砂で出来た闇をライトを照らして進む集団が一つ。

鉱山周辺をまだ制圧しきれていない中で強行調査を行うアイリーン社のオートマトン部隊だ。中に残っている可能性のあるキリュウとゼイレーンのPMCに公開通信で降伏を促すメッセージを自動発信しながら鉱山を進む。


『地上で君たちの部隊は降伏をした』


エーテルは自ら発光する作用を持っており、鉱脈があれば簡単に見つけることができる。

この世界で生きるために重要な生活基盤のエーテル。今ではサイボーグのエネルギー兵器を使う為にも使われており、その需要がなくなることはない。


『速やかに投降すれば君達は規則に従って、人権の保護と身分の保証を行う』


かつて存在したと言われている核融合などのエネルギー技術を過去の物にしたエーテル。それらを用いた技術しかこの星には存在しておらず、企業もまたこれ以外の技術を開発していなかった。


『反応は無いか……』

「誰も居ないのか?」


この中では唯一の傭兵であるレッドサンとブルーナイト。態々二人が鉱山の調査の同行を依頼されるのも珍しかった。

こう言うのは余計な情報をライバル社に売られるのを防ぐ為に傭兵には任せない場合が多い。


「このまま、何もなきゃいいが……」


そんな事をぼやきながら地下に降りる手段を探していると、調査チームのマッピングが始まり、そこでさらに奥に進む場所を探索する。


『傭兵、お前らも手伝え』

「はいはい」


護衛任務のはずのレッドサン等も報酬の上乗せの約束と共に鉱山の調査、正確には安全に奥に進むルートの探索を命じられた。


「(どうやって説明する気なんだよ)」


勝手に報酬の約束をしたようにも聞こえたその声色に疑問を抱きながらも進むと。


『うぁぁぁぁああっ!!』


隠れていたキリュウの兵士が岩の影から襲いかかって来た。


「成程」

『ぐあっ!?』


しかし銃の引き金を引かれる前にレッドサンは持っていた40mm半自動小銃の引き金を引いて吹っ飛ばした。


「広域通信を聞いていなかったか?」


そして頽れたオートマトンを見ながら呟くと、レッドサンは駆け寄って来た他の兵士達を見た後に鉱山のさらに奥に進んで行った。






何時間歩いたか、この鉱山の中に漂うエーテルがチラホラと見え始め。更に奥があったので進んでいくとある場所から灯りが溢れていた。


そこを持って来たドリルで破壊すると、その先にあったのは……


「まじか…」


地面を覆い尽くすエーテルの輝き。突き出た岩の崖の下、史上稀に見る量のエーテルなことは間違いなかった。

傭兵視点でもこれが金の山となり、どれだけの破壊力があるか計り知れた物では無かった。

流石にこれには他の面々も驚きの声をあげていた。

ここまで深く潜った疲れも、この景色を前に忘れるほどだった。


「すげぇ……」


そんなエーテルの海に見惚れていた時だった、不意に()()を感じたレッドサンは機体を翻すと、さっきまで立っていた場所に命中するように砲弾が通過していった。


そしてその砲弾が飛んできた方角を見てレッドサンは溢す。


「そんなこったろうと思ったがよ……」


そこでは持っている25mm自動小銃を向ける調査チームの護衛PMCがいた。

武器解説

レーザー・ライフル

実弾兵器を使用しない完全なエネルギー兵器である。

エーテル兵器と違い、活性化エーテルや臨界エーテルを用いた物では無く。電力を用いた兵器である。貫通力は無類で、あらゆる装甲を溶断可能だが、電磁シールドに弱く、またEMP攻撃で電子機器に異常をもたらすと使用不可となる。また曲射性も無いので使用が限定される。

バッテリーを使って発射が可能なので理論上は第一世代機でも使用可能。そのため戦場では狙撃用に改修を施された第二世代機体が度々見られている。

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