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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
七両

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79/335

#79

「お嬢様、お荷物が届いておりますが…」

「ん?」


その日、サラ・アンデルセンの元に二つの荷物が届いた。


「誰から?」

「はい、スフェーン・シュエット様からです」


彼女の執事のメアリーは送り主を伝えると、サラは少し目の色を変えた。

スフェーンの事はメアリーはよく知っており、時折仕事の愚痴を彼女に漏らしているのも知っていた。

主人のプライベートな関係に水を差すつもりは無かった。


「部屋に持って来てくれる?」

「はっ」

「あと額縁の用意も」

「畏まりました」


メアリーは頷くと、すぐに梱包された荷物を丁寧に開ける。

それはスフェーンがコノハナから送ったあの二枚の絵画であった。あの時、彼女が来ていたメイド服に関して色々と問い詰めたい気分であったが、それは次に彼女を仕事で呼んだときまで取っておこうと思っている。


「ほう、絵画ですか…」

「えぇ、スフェーンがお勧めしてきたの」


そう言い、中に入っていた絵画を見るとサラは実物を前に呟く。


「あら、思ったより良い絵じゃない」

「左様でありますか」


そんなサラの感想にメアリーは軽く驚いた。一見ただの風景画だが、サラはその絵が持つ色使いが魅力的に見えた。

しかしアンドロイドのメアリーにはイマイチその魅力というものは伝わっていなかった。


「一番良い額縁を作ってもらえる?」

「はい」

「あと、この絵は私の執務室の一番見えやすい位置に」

「畏まりました」


メアリーはサラの要望に頷くと、直ぐに作業に入った。






====






アリズ・キテラに雇われてから一ヶ月が経った。

相変わらずぐうたらな生活を送っているアリズであったが、筆を取る回数は増えていた。

契約の中に金の管理も入れようかとも思ったが、流石に金が入れば家賃は払うだろうと思っていたし、第一そこまで踏み込むのもちょっとと言う思いもあった。


「よっと…」


ロングロールパンに炒めた肉と溶かしたチーズを挟み、フィリーチーズステーキを作るとそれを紙に挟んでカゴに入れてアパートの部屋を出る。

そして近くの売店で冷えたコーラ缶を購入する。


「また来たのかい?」

「どうも」


そしてレジでおばちゃんがスフェーンを見て優しく声をかけた。

既にこのおばちゃんは自分のことを知っている人間で、初めは驚かれたがこの期間で慣れているようだった。


「苦労人だろう。あんな変人を相手に」

「いやぁ…ハハハ」


乾いた笑いが溢れてしまうが、実際彼女の街の人の噂を聞いて愕然となってしまった。


「まさか魔女って言われているのは予想外でした…」

「よくわからない人なんだよ。あの人はね」


そう、巷ではアリズは魔女と呼ばれているのだ。

絵描きをしながら細々と生きている彼女は自分で描いた絵を外に出す事はなく。また彼女が描いた似顔絵はその色使いや強い筆遣いから独特の絵柄を出しており、魔女の絵として街では有名だと言う。


「まぁ、食われないように気をつけるんだよ」

「ははっ、私を食っても美味しくないと思いますよ」


そう言って彼女はコーラを持って店を後にした。




今は自分が管理している彼女の絵だが、サラに数枚をそれこそアリズの食費になるほどの値段で売っていたが、まだまだ多くが残っていた。


『しかし、画家というものは偏屈な人間が多いのでしょうか?』

「そもそもあの人に対する情報が足りなさすぎる…」


アリズ・キテラと言う画家はどんな人物なのか、一ヶ月だけでは把握できなかった。


『調査しましょうか?』

「すまん、頼む…」


あんな泥酔して帰ってくることの多い人だからよって色々としゃべるかと思っていたのだが、意外と口は堅かった。


『畏まりました』


スフェーンに依頼され、ルシエルは意気揚々と調べている間。スフェーンは郊外の花畑の一角で絵を描くアリズを見つける。


「先生」

「ん?おぉ」


片手に持っていたカゴを見て嬉しげに笑顔を浮かべていた。


「食事です」

「悪いね」


カゴに入っていたフィリーチーズステーキを一つ手に取ると、彼女はそれを一口食べ


「美味いっ!」


と言った後に二口目を食べ、次にコーラの瓶を開けてよく冷えたコーラを口に流し込む。


「プハーッ!!やはり君の料理は最高だ」


そして一気に半分ほどまで飲んでこの感想、作った側としては気持ちの良いものである。


「それは良かったです」


朝・昼・晩と一日三食の料理を提供し、同時に彼女の部屋に掃除に入る。

住み込みで働いているわけではないが、それでも彼女から部屋の鍵を預かっていた。

正直、住み込みなんてできる大きさじゃないし、あんな部屋で一日過ごしたら鼻が馬鹿になる。絵の具が夢に出てくるだろうよ、今まで一度も夢を見ていないけど…。

なので夜は自分の列車に戻るか、あるいは夜中に街の景色を眺めたりしている。


「スフェノスは食べなくて良いのか?」


残り一つのフィリーチーズステーキを見た後にアリズは聞くと、スフェーンは首を横にふる。


「食べたいのでしたらどうぞ」


そう答え、彼女は同じく冷やしたレモンサイダーの瓶を取り出す。


「私はこれで十分ですので」


まぁ、この人は元々痩せていた部分もあるしこの一ヶ月でわかったのは非常によく食べるという事だ。


「絵の調子はどうですか?」

「ん?うむ、非常に良いぞ!」


そう言い、アリズは調子良さげに答えるとキャンバスに下地が塗られているだけのそれを見る。


「出来るんですか?」

「あぁ、少なくとも三日後には完成している頃合いだろう。構図は既に完成している」


そう言い、食べ終えた紙ごみをスフェーンに預け。指で脳を軽く突く。


「そんな速度で描けるものなんです?」

「あぁ、構図があれば直ぐに描くことができる」


よくわからないが、彼女の脳内では絵は完成しているのだろう。

木陰に座り込んで休憩をする二人、その途中でスフェーンは少しだけウツラウツラと意識がぼんやりとしてくる。


「あれ…?」

「ん?どうした?」


彼女の異変に直ぐにアリズは感じて声をかけた。


「大丈夫です…よ」


しかしその直後、彼女はドサリと横に倒れてそのまま肩に背を預けて目を閉じた。


「おいっ!」


アリズはスフェーンの異常事態に驚いていたが、その後に聞こえてくる静かな寝息を聞いて首を傾げた。


「?」


定期的に息をしている様子の彼女を見てアリズは安堵した。


「そういえばスフェノスは寝ていたのか?」


自分が記憶にある限り、彼女は自分が目覚めた時には必ず朝食を準備していた。

規則正しい生活を送っているがために今まで体に溜まっていた毒物を流し出すための解毒状態に陥り、吐き続けたり下痢が続く事があってかなり苦労したのだが…。


そんな規則正しい生活の中で、彼女の生活サイクルというのも気になった。


「一体どんな生活をしていたのやら…」


彼女に関してはいささか不明な事も多い存在だ。普段は運び屋をしているという話だが、彼女の列車を見た事は一度もなかった。

ただ、街の連中じゃあ知っているような事を知っていなかったので本当に街の外から来たのだろう。


「…」


そして木にもたれかかって眠っているスフェーンを見て、アリズは少し息を呑んだ。

彼女の寝ている姿を見て、アリズは衝撃の赴くままにキャンバスとイーゼルを持って彼女の前に立てかけ、下地を全て白で塗り直すとその上に新しく色を塗り始めていた。




「…んぁ」


スフェーンが目覚めた時、既に陽は大きく傾いていた。


「いけねっ」


目を軽く擦って辺りを見回すと、目の前ではキャンバスを前に呆然と軽く口を開けて起きたスフェーンを見ていた。


「?」

「あぁ、いや…大丈夫だった?いきなり寝だしたが…」

「はい、心配をおかけしました」


ルシエルに頼んだ情報収集と並行して動いていたので少々体に負荷が掛かったことで体の活動がスリープしてしまっていた。

流石に無茶が祟ったかと軽く反省するとカゴを持って立ち上がった。


「帰りますか?」

「あぁ…ちょっと待ってくれ」


アリズはそう言うと少し筆を走らせた後にキャンバスを片付け始めていた。






そして帰ると、アパートの前に大量の荷物が置かれていた。


「なんだ?」

「誰か引越しでもしたんですかね」


そう思いながら荷物に近づいてみると、


「なっ…?!」


それはアリズが今まで描き、部屋に積み上げていた絵画や画材などであった。


「嘘でしょ…」

「っ!!あのクソジジィ…!!」


その直後、アリズは一階の窓を盛大に叩くと部屋から怒号とともに大家が出てきた。


「あぁ、うっせぇな!!」


怒り調子で扉を開けてきた大家、彼の胸ぐらを掴んで一つ


「テメェ!あれはどう言うつもりだ?!」


そう言ってつまれた部屋の荷物を指差すと、大家は少し疲れと喜びが混ざり合った様子で笑う。


「テメェの荷物だ。ったく、あんなに運ばせやがって」

「何様のつもりだ!えぇ?」

「ぶっ壊さなかっただけでもありがたいと思え!」


大家は言い返そうとしたアリズにくってかかるように唾を飛ばす。


「家賃を払わねぇ奴に住まわせる義理なんぞあるわけねえだろうが!!」


そう言うと、アリズの手を引き剥がし、追い払う仕草をする。


「ほら、テメェはもう住人じゃねぇんだ。とっとと荷物をまとめて失せやがれ」


そう言うと彼は部屋に戻って扉に鍵をかけた。


「おいクソジジィ!出てきやがれ!」


そう叫び、慌てて扉を叩くも返事は一向に無く。アリズはため息を漏らした。


「家賃…払ってなかったんですか」


外では呆れるように糸目でスフェーンは積まれた絵画を見ていた。


「払ったわよ。一ヶ月分」

「…滞納していたのは?」

「半年」

「そりゃ追い出されますよ…」


滞納している期間にスフェーンは呆れると、絵画を手に取りながら聞く。


「この絵、どうしますか?」

「無論持って行く」

「どうやって?」


スフェーンはこの山のような絵画を運べるような勢いのアリズの口ぶりに首を傾げると、彼女は


「車がある」


と答えた。


「まぁ、ボロいがな」


聞くと彼女がこの街に越してきた時に中古で買った車だと言う。

最後に乗ってからかなりの年月が経っていると言う。


「…」


そこでふとスフェーンは口にした。


「何で売らなかったんですか?」


そもそもそんな財産があるとは聞いていなかったし、車は大事な財産であり。金属疲労を考えなければバッテリー要らずで動くエーテル機関は動けば金になる。


「…」


そのことを指摘され、アリズはすこしムッとなって珍しく言い返した。


「一緒に旅した仲だぞ?そう簡単に手放せるものか」

「…」


この人がゴミ屋敷にする理由が分かった気がした。

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