#70
「くあぁ…」
列車の近くであくびをする光学迷彩を使用する男。
「おいっ」
「しょうがねぇだろ。あのご主人様に付き合わされる身にもなって見ろよ」
そう話す男達は光学迷彩付きの外套を羽織っており、この列車の持ち主が帰ってくるのを待っていた。
昼間に自分たちの雇い主の少年からの依頼で彼を誘拐した少女を捕まえろと言う物だった。
「やれやれ、面倒なこったよ」
そう言い、タバコに火を付けるとその時。
カラン「「?」」
金属の当たる音が足元がら聞こえて何かと思って下を見ると、
「「っ!?」」
丸っこい手榴弾を見て目を見開いて驚くと、
「うごっ」
「が?!」
首元に一本ずつスタンガンが打ち込まれ、強い電流を流された二人はそのまま地面に倒れる。
そして倒れた二人を見ながらスフェーンは持っていた拳銃の引き金を引く前にその二人も列車の上から降りた人影によって制圧されていた。
「どう?」
「無問題、順調さ」
そう言い駆け寄ってしっかり失神する二人を見る。
「どんなデバイスを使ったの?」
「僕の特製品さ、よく効くよ〜」
「でしょうね」
一撃で人をこんな綺麗に失神させられるデバイスをほぼ知らない。
スフェーンの使うスタンガンだって改造してほぼ使い捨てのような一品だ。
「さて、残り半分は…」
そこで彼は持っていた擲弾発射機を手に取って中に一発の擲弾を入れる。
「え?列車壊さないでよ?」
「大丈夫大丈夫、安全な方法だから」
そう言い上に向かって引き金を引くと、一本の煙を引きながら夜の留置線に飛翔する。
「うわっ!?」
「何だぁ?!」
そして反対側に落ちると、爆煙が留置線を包み込み。反対側にいた四人は驚いた様子で銃を持って警戒すると、
「っ!どほっ」
「ぎゃぁ…!!」
煙の中で勝手にサイボーグの腕が動いて目の前の仲間に顔面を殴った後にその後も相手が気絶するまで殴る。
「おい!や、め…」
「何でだよ…?!」
そして相手の顔が膨れ上がって気絶した後、今度はその腕が自分の顔を殴り始めた。
「痛いっ!ぎゃあっ…!!」
そして最後に自分の顎をアッパーで後ろにのけぞる勢いで殴って地面に頭を打って気絶していた。
そんな様子を列車の上から見ていたスフェーンは真っ白な煙の無害性を確かめる。
『煙幕は無毒の成分で構成されています』
「殺しはしないのね…」
『無用な殺生は対立を煽りますよ』
「分かってる分かってる」
すると風の影響で煙がだんだんと晴れてくる。
ここは大峡谷の上にあり、谷に空気が流れるので常に風が谷の方に流れていた。
「おぉ〜…」
そして白煙が消えると、そこではしっかりと白目を剥いて泡を吹く男が二人、ペグの足元に倒れていた。
「うわぁ…酷いことするよ」
「あら、この方がスマートよ」
そう言い顔が膨れているスフェーンが操作した男二人を見て苦笑する。
「んで、どうするの?コレからこいつらの仲間が来るわよ?」
「僕の知り合いが倉庫を持っている。そこに移動させよう」
「分かったわ」
そこでスフェーンは頷いて六両編成の列車を留置線から動かすために運転台に乗る。
「案内したいから乗って良い?」
「ちょっと待って」
そこで部屋までつながっている扉を閉めると、スフェーンはペグを運転室に招いた。
「どうぞ」
「んじゃ、お邪魔するよ」
運転室に入り、そこでペグはこめかみに手を当てて連絡をしていた。
「悪いが線路を開けてくれ。一本入れたい列車がある…うん、分かった」
短い通信を終え、ペグはスフェーンを見るとそのまま彼女に手を広げてそこにホログラムを投影した。
「見える?」
「えぇ」
するとそのホログラムに映る路線図を見せると、スフェーンはそれに従って信号扱い所にメールを送る。
『了解。ポイントを切り替える』
それだけ通信が来ると、留置線のポイントが切り替わって列車に案内の通信が入る。
「うわっ」
しかしそれを見た時に一瞬スフェーンは嫌な顔になる。
「何回スイッチバックするのよ…」
九十九折りの路線図を見て思わず溢れてしまうと、ペグは言う。
「この街を観光したいんなら従っておいた方がいいよ」
「ねぇ、一応聞くけど。あのお坊ちゃんって嫌われているの?」
その問いにペグは至極真っ当と言った表情で答える。
「当たり前じゃないか。金に物を言わせてブヒブヒ言わせてくる子を好きになる奴は居ると思う?」
「そりゃそうだ。それで喜ぶのMだけだろうなぁ〜」
そんなことを言いながら運転台でマスコンを動かして列車を移動させ始め、ポイントを通過した後にブレーキをかけて列車を止めるとそのまま逆転ハンドルを切り替えて進行方向を変える。
そしてバックするとポイントを使って次の線路に移動し、スイッチバックを一回行う。
「この先に俺の知り合いが持ってる倉庫があるんだ」
ペグはそう言い、スイッチバックをしているスフェーンを見ると彼女は列車のカメラを使いながら二度目のスイッチバックのためにポイントを確認していた。
「スフェーン、橋を渡るのはいつだ?」
「一週間後」
「OK、それまで見つからないようにしておかないとね」
そして列車は最後のスイッチバックに入ると、そこでスフェーンは首を傾げた。
「あり?」
そのポイントの先にはただのレンガ式の倉庫しかなく、線路も車止めが置かれて続いている雰囲気がなかった。
おまけにその倉庫も扉はなく、ただの壁。
「何もないじゃない」
「まぁ見てなって」
すると倉庫の壁が割れるように扉が開くと、中から線路が伸びて来て目の前の線路と繋がると倉庫から出てきた狼の獣人の少年が車止めを倒して横に退ける。
「凝った作りね…」
「半分こいつの趣味だがな」
すると車止めを倒した少年は持っていた赤旗を振った。そしてそれに従って列車を移動させる。
「よぅ、リュカ」
「全く、お前と言う奴はな…」
運転台の扉を開けて降りるペグに少年は呆れたような目を向ける。
「悪いが一週間くらい借りるよ」
「おいおい…」
倉庫は列車が一本丸々入るほどの長さで、だいたい十三両が入れる。
「スフェーン」
「何〜?」
そこで運転台から顔を出したスフェーンにペグはその少年を紹介する。
「こいつはリュカ、俺の友人でついでに僕のバ先の工場長」
「工場?」
「おう、ここはコイツの修理工場なの」
「ほーん…」
そこで改めて見回すと、天井に吊り下げられたクレーン何かを見て小規模の修理工場であると理解した。
「ここ小さくて細々としてるから、誰かの紹介じゃねぇと修理しねぇの」
「普段は?」
「中古貨車の修理と販売」
「ふーん…」
そう言って答えると、そこで列車を降りるスフェーン。するとペグの横にいたリュカは固まった。
「お、女…!?」
リュカはスフェーンを見た後に顔を真っ赤に緊張した顔の後、ペグに詰め寄った。
「お前言ったよな!俺の工場に女を連れて来んなって!!」
するとペグは軽く言った。
「大丈夫だって。ってかお前も女に耐性持てよ。大人じゃねえんだしさぁ…」
「俺は女が苦手って知っての嫌がらせか?!」
リュカはペグに怒鳴った後に工場の奥に消えていった。
「貴方…なかなか酷いことするわね」
「そう?僕は友人としての優しさのつもりだけどなぁ…」
ペグはそう言って奥に消えていったリュカを見ながら言う。
「ってか、私を見てあんな怖くなるの?」
女性が全般的に苦手な様子のリュカに少し首を傾げると、ペグは少し訳を教えてくれた。
「あぁ、昔お前みたいな少女に化けた完全サイボーグの女性に押し倒された事があってね」
「Oh…」
なるほど、トラウマになるわそりゃ。同世代の女の子だと思って近づいたら中身はおばちゃんか年上のお姉さんで、そのままサイボーグの力で押し倒されれば…。
「やっぱ貴方鬼よ」
「酷いなぁ〜」
善意のつもりでやっているが故にそれほど強く言えないのがなんとも…。
「まぁとりあえず一週間はよろしくな」
「使わせてくれるなら、まぁ…」
列車を倉庫に入れると、そこでスフェーンはリュカの消えた方を見る。
時刻は夜、普通なら多くの人が寝静まっており。この工場も店じまいをしているのか、とても静かだった。
「後でお礼品持ってこ…」
「あいつの好みは煎餅だよ」
「分かったわ」
ペグはそう言い、去ろうとする時に聞いた。
「ペグはここで働いているの?」
「うん、バ先でたまに大きな仕事が入るとリュカに呼ばれる」
そう言うと、彼は工場を後にした。
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翌日、日が昇る頃。スフェーンはベッドから起き上がって自分の列車の確認の為に列車を降りた。
「あら、おはよう」
「っ!?」
するとそこでバッタリと狼の少年に出会ったので軽く挨拶をすると、彼は非常に驚いた顔でスフェーンを呆然と見ていた。
「…」
「あぁ、ごめんごめん。直ぐ街に行くから」
そう言い、ナッパ服姿にポニーテールの彼女は借りている列車の修理区画で線路の下に入る彼女にリュカは少し彼女を見た後にその場を後にしていた。
「ふぅ〜…」
そして列車に下に入ってライトを片手に台車を見るスフェーン。
こう言う都市の留置線には必ずと言って良いほど民間や企業の修理工場が存在し、列車を持ち込むとパーツを使って修理をしてくれる。
上手い事にこの業界ではパーツの値段は高すぎても安すぎても売れない。
たとえ企業同士が結託してパーツの値段を釣り上げても、必ず民間で作られる非合法な高精度部品が出回るので今度は売れなくなる。
こんな部品を軍警でもほぼ不可能なのだから、企業のPMC如きが取り締まるのは不可能だ。
「上手く出来た社会だよ」
『世の中、どこかしらで帳尻合わせができていると言う事ですね』
そう言いヴェイプを一服していると、
「おい、」
「?」
台車の隙間からリュカの足が見えると、彼は言った。
「まだ終わらないのか?」
「あ〜、ごめん。直ぐ出るわ」
そう言い、ライトを消すとリュカはため息をついた。
「ったく、効率悪いんだよ」
そう言うと彼は降りてきて片手に懐中電灯を持って台車にライトを付ける。
「…」
そしてスフェーンよりもよっぽど手際良く台車の点検を進めていくと、そのまま六両分の台車を全て見終えてしまった。
「なんだよ、真ん中全部連接じゃねぇのかよ」
「悪かったわね。継ぎ足しで買っているもので」
階段を登って地上に戻ったスフェーンとリュカはそんな事を言うと、スフェーンはそのまま工場を後にしていた。




