#7
カール・ポートに到着したスフェーンは噂のエーテルに関する技術の発明家とやらの家を訪ねて見る事にした。
かの発明家は、かつて企業を追い出された人間というのなら。企業を嫌っている可能性は高いと見て良いだろう。
親近感があると言われると微妙なところではある。なにせ元々は企業に雇われて戦っていた人間だ。
確かに企業は気に入らないが、ケチな会社は早々に見切りを付けていた。そして大体そういうケチな会社ほどこの世界では早々に潰れていた。
「ここか……」
目線で映る目的地を示すその場所に到着したスフェーンはそこで古いアパートの一室を見る。
場所は都市部郊外の貧困層が多く住む場所。地上で生きていけるギリギリの人間が住む場所だ。
地下の人間と地上の人間のギリギリを生きており、至る所で薬物を使って横になっている人々がいた。
「はぁ……」
基本的に一回地下に潜ったら中々地上に上がることは難しい。それはどこの都市でも一緒なようだ。
ドンドンドンッ!!「すまない、誰かいるか?」
チャイムも無いのでとりあえず扉を軽く叩くが、返事は無い。少し待っても音すら感じないので試しに扉に手を触れると。あっさりと開いてしまった。
「……」
基本的に家の扉というのは家の家主が認めない限り扉を開くことはできない。と言うことはつまり、この家には家主がおり。自分の姿を見ていると言う事になる。
これで警戒しないはずもなく、スフェーンはローブの中で常に携帯している拳銃を手に取ると辺りを警戒しながら一歩を踏み出す。
「これは……」
素人目でも分かる明らかに何かの実験をしていると分かる設備の数々。壁に書き殴られたメモ帳や雑多に置かれた何かの機械の山。しかしそんな中でも特に目を引いたのは……
「活性化エーテル……」
タンクに詰まっている物資を見て驚いていると、スフェーンは反射的に拳銃を向けながら後ろを振り向いた。
「おぉ、やめてくれ!珍しい客人だったものでな」
「……貴様は?」
そこには車椅子に乗った一人の年老いた男が座って両手を上げて降伏のポーズをする。恐らくはこの男がネクィラムなのだろう。
「おおかた、メイソンに言われてきたのだろう?全く、私には関わるなと言ったのだが……」
「……盲目?」
しかしスフェーンはやや驚いてしまう。なぜなら、彼の目は閉じられており。機能している雰囲気はなかった。
「ああ、この通り昔から目は見えない」
「……」
「取り敢えず銃を下ろしてくれ。この通り、私自身に戦う能力は無い」
スフェーンは目の前の老人を見て本当に戦う意思はないのだと感じて、そこでようやく銃を下ろした。
「ありがとう。お嬢さん」
そして拳銃をしまうと、ネクィラムはスフェーンを案内する。
「何もないが、適当にかけてくれ」
「では遠慮無く」
そこでスフェーンはちょうど置かれていたちょうど良い高さの機械の上に腰をかけた。
「それで?君が来た用事は?」
「貴方の知り合いに此処なら私がローブを被らなくても生きていける道具があると聞いて」
「そんなチンケな物をわざわざ買いに来たのか」
鼻で笑うようにネクィラムはスフェーンを見ながら言った。
「エーテルから帰還した人間よ」
「っ!?」
その言葉に反射的にスフェーンは拳銃に手をかけようとすると、その前にネクィラムは車椅子に隠していた自動小銃を向けた。
「すまない、君に殺意を感じてしまってね」
「……どうして分かる」
「私はエーテルのとある研究をしていた。それ故にその方面の造詣は深いんだ」
ネクィラムはスフェーンにそう話すと、ルシエルが言った。
『目の前の研究者に敵意は感じられません。銃を下ろしても脅威とはなりません』
「……」
「この状態で話すのは私も不本意だ。私の理論を証明してくれる人間を死なせたくない」
ネクィラムの敵意無き興奮を隠しきれていない様子の感情にスフェーンは周囲の状況を確認していると、ネクィラムが先に銃をしまったのでスフェーンも仕方なく拳銃から手を離した。
「再三だがすまない。君の思う疑問に関して答えられる範囲で答えたいが……その前に君がエーテルから帰還するまでの経緯を聞きたい」
「……分かった」
そこでスフェーンはこの体を得るまでに至った経緯を目の前の孤独な研究者に語り始めた。
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その日、大陸の極東部。そこでは多くのPMC兵士や傭兵が集まっていた。
目的は今回発見された新たなエーテル鉱山の調査と、先に侵入したと思われる不明機と言う名のライバル企業のオートマトンの排除だった。
数多のPMCの兵士や雇われた傭兵達が待機する駐屯地に数機のオートマトンが到着した。
「おっ!来たぞ!!」
そのうちの一人、雇った企業の傘下のPMC兵の一人がその特別なオートマトンを見て声に出すと他の兵士や傭兵達もそれを見て興奮していた。
「おぉ…!!」
「あれが噂の……」
「やったぞ!俺たちは勝てる!!」
その特徴的なまでの赤と灰色のカラーリングの第四世代のオートマトンに、日の出を示す荒野のマーキング。駐屯地にいた人々は闘志を燃やし、勝利を見た。
「レッドサン……よっぽど重要な戦いだな」
彼を雇うのに上がどれだけの大金を積んだのか、容易に想像ができた。そして大金をかけるほど、今回の作戦はより一層重要だと言うのが理解できた。
「最強の傭兵…どこの企業にも属さない傭兵の自由を象徴する人物だ……」
PMCの人間ですら憧れの念を抱く実力。レッドサンの愛称で呼ばれる彼は言われた場所に機体を止めると、その後ろをついてきていた青と水色の機体。
彼の右腕として最強最大の傭兵組織、赤砂傭兵団を率いているブルーナイトはレッドサンの横にオートマトンを止めるとコックピットから使い古されたパイロットスーツにフルフェイスヘルメットを被った一人の人物が降りた。
「此処が今日の仕事場か」
「アイリーン社からの依頼だ。今回のタルタロス鉱山の調査護衛と先に進入を確認した不明機の排除だ」
「はっ、どうせ先走ったライバル社だろう?キリュウかゼイレーン辺りだろうよ」
オートマトンから降りたブルーナイトが依頼を伝えるとレッドサンは自分のオートマトンの足元で座り込んだ。
「今回はあの馬鹿どもはいない訳か」
「ああ、お前が望んだ事だろう?」
レッドサンと違い、通常のヘルメットを付けているブルーナイトはそう言いながらレッドサンを見ると彼は仮面の奥で軽く笑ったようにも思えた。
「すまん」
「何、露払いをしたまでの事だ」
そう話していると、レッドサンの前にある一人の若い青年が声をかけてきた。来ている服から彼がPMCの兵士である事は一目瞭然だった。
「あ、あの……」
「なんだ、坊主」
レッドサンは青年に聞くと、彼は徐に手帳とペンを取り出して頭を下げた。
「サッ、サインをもらえますか!」
そんな青年の願いにレッドサンは慣れた手つきでペンを取ると表紙にササッと軽くサインをした。
「ほらよ」
「ありがとうございます!!」
そしてサインを受け取った青年は嬉しそうに消えていった。
「ついにPMCの連中から好かれたか」
「迷惑な話だ」
そんな青年を見送り、呆れた様子でブルーナイトはレッドサンに言った。
「レッド、またアイリーン社の勧誘を断ったと聞いたぞ?」
「あ?あぁ、当たり前だ」
「破格の金額を提示したんだろう?なぜ乗らなかった?」
当然のように答えたレッドサンにブルーナイトは言う。
「いいかジェロ、企業ってのは基本的に汚くてケチだ。一度縛られれば待っているのは自由な不自由だ」
レッドサンが古くからの傭兵仲間で、尚且つ彼のみが知る愛称でブルーナイトに注意するように言った。
「しかも俺は成り行きで赤砂傭兵団なんて言う奴の長をやらされている。今更企業と手を組む気はサラサラねぇよ」
「じゃあ、君は今後どうするつもりなんだ?」
ブルーナイトの懸念にレッドサンは単純に答えた。
「傭兵から手を引くさ」
「……今更そんなことができると思うか?」
傭兵として名が売れて、圧倒的な認知度を誇る目の前のオートマトン使い。
最強の傭兵と謳う者も居た。
彼の名を聞いて戦う前から降参した企業もいた。
「よく考えろ、俺は企業に属していないから此処までの地位を手に入れた」
「っ……」
「今更、企業に属したら俺はどうなる?」
「……」
その後の未来が見えた、それ故にブルーナイトはため息を吐いた。
そして企業に属していない最強の傭兵だからこそ起こる弊害、それに苦悩する友を彼は知っていた。
「碌な未来が待っていないんなら、俺は降りる」
「レッド、今の君に傭兵を続ける以外の道はあると思うのか?」
「はっ、きっとあるさ。死に方くらい、俺に選ぶ権利があるだろう?」
そう答えると、レッドサンは自分のオートマトンに乗り込み。残ったブルーナイトはそんな彼を見て手を少し強く握ってしまっていた。
その後、雇われた傭兵達がまとめられた部隊はオートマトンやサイボーグ兵などが様々な武器を持って待機していた。
そんな中でもレッドサンやブルーナイトの機体は目を惹き、同時に注目されていた。
『よく聞け!傭兵ども!』
オートマトンを起動させ、通信回線をつけるとそこでは大声で傭兵を明らかに侮辱しているような雰囲気の漂うおそらくPMCの指揮官が言ってきた。
『今後も生きたければ戦果をあげてもらおう!!掃き溜め共!』
高圧的に言ってくる指揮官だが、通信を聞いてレッドサンはブルーナイトとの個人通信で溢す。
「やれやれ、今回の指揮官は騒がしいな」
『おそらく出世に焦っている売れ残りだろうな』
「かわいそうになぁ」
レッドサンはそんな軽口を叩いていると、その指揮官は叫ぶ。
『さぁ行け!お前らの価値を証明をして見せろ!!』
そして荒野の山から飛び出すと、そこではすでに大規模な戦闘が起こっており。攻撃ヘリコプターがミサイルを発射し、戦車が砲撃を仕掛ける。
オートマトン同士の戦闘も発生しており、乱戦と呼ぶに相応しかった。
「コイツァ、中々に楽しめそうだ」
戦闘を見てレッドサンはそう溢すと、エンジンをかけた。
「行くぞブルー」
『了解した』
『あっ!?馬鹿者!』
そして飛び出した二人を筆頭に傭兵部隊は指揮官の言うことを聞く事なくいつものように戦闘に参加していった。




