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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
六両

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64/336

#64

ラ・チャンコに保養に訪れたスフェーンは初日に水着を購入し、海に行く準備だけを整えて翌朝を迎える。


「ヒュ〜」


カモメが鳴いて飛んでいる海岸の近く、道沿いに植えられた椰子の木はとても高く。その下では海の家やパラソルが並んでいた。


「すごい人だ」

『ラ・チャンコは中流層向けの観光地です。家族連れが多いのも特徴の一つですね』

「おっ、本当だ」


そこで浜辺でパラソルレンタルをしている客を見ると、確かに子連れの家族が多い印象だった。


「さて、早速海に行きますか?」


朝っぱらから水着に着替えてきたスフェーンは鞄も置いてきて楽しむ気満々だった。




そして数時間のジンベイザメのレンタル浮き輪を借りて波打ち際に立つと、素足のスフェーンはその景色に改めて感嘆を漏らす。


「おぉ〜」


波の音を聞きながら足に絡みつくように流れる海水。波は不定期的に砂浜に漂着し、下の砂を巻き上げながら下がっていく。

波の力で粉砕した貝殻できている白い砂浜は、トラオムを開拓した大災害以前の統治機構が人類の宗祖国より持ち込んだ生物の死骸だ。


大災害の時、地表全体を覆ったエーテルだったが、幸いにも海の生物は死滅する事はなかった。

海水という無機物の物質が大きな障壁となって海中に住む生物たちをエーテルの津波から守っていたのだ。


水とエーテルは油のように混ざり合う事はなく、比重の重いエーテルであれば沈澱するが、なぜか大災害の時には海は禿げる事は無かった。


「綺麗な海だ…」


そしてジンベイザメの浮き輪を引っ張りながら海に入るスフェーン。その上には海の家で買ったココナッツが置かれていた。

自分の体が丸ごと上に乗せれるくらいデカいのを借りたので、これでしばらく海の上を遊弋するつもりだ。


「よいしょっと」


海に入り、水着のスフェーンはそのままフロートの上に乗るとそのまま波に揺られながら上を見上げる。


「うわっ、眩し」


そして照り付けた太陽に思わずサングラスをつける。


『海で泳ぐわけではないのですね…』

「いや?後で泳ぐけど、浮き輪借りたからねぇ」


レンタルは数時間、丸一日ではないが十分楽しめるくらいの時間は借りていた。


『日焼けには気をつけてくださいね?』

「一応塗っておいたけど、これ日焼けするのかな?」


何せこの肌の白さだ。日焼けしたら真っ赤っかになって大惨事か、あるいは皮膚癌になるかもしれない。

幸いテープを貼って被れたり、刺激の強い軟膏を塗って腫れたりとかもないのでこの肌は見た目以上に強いのかもしれない。


「ふぅ〜」


そしてジンベイザメの上で寝転がりながら仰向けてサングラスを付けて遊弋を始めるスフェーン。


海の波に揺られながら、遠くでは海に訪れた人々の楽しげな声が聞こえてくる。

ゴミや売り上げの関係で入場者は全ての飲食物の持ち込みが禁止されており、海の家で売っているような飲み物は容器が全部ココナッツで出来た自然由来の物。おかげでスフェーンも片手にストローの刺さったココナッツウォーターを飲んでいた。


「あぁ、冷て〜」


よく冷えたココナッツウォーターのほんのりとした甘さは太陽で温まった体によく効き、二口目もついつい進んでしまう。

ちなみに、飲み切った後に買った店にこれを持って行くと中身を切って果肉を食べられるようにしてくれる。


『流されないようにしてくださいね。スフェーン』

「わかってるよ」


海と言うのは恐ろしいもので、波に乗っているといつの間にか変な場所に流されている場合がある。

幸いにもここは都市が運営している公営海岸なので沖の方に網が敷いているが、たまにない海岸もあるので注意する必要があった。


「いい景色〜」


そして遠くに浮かんでいる小さなボートや水上オートバイやバナナボートといったウォータースポーツを堪能している景色。


『保養には最適な場所ですね』

「えぇ、全く。ここにはロリコンもいないし…」


いつも悩みの種であった変態ども今回は一度も出会していないのだ。

元々の価値観より、大災害以降も未成年の少女達に対する視線というのは厳しい物であり。笑っちゃうくらいに規制対象になる。軍警の取締り規則にも乗っているほどの歴とした犯罪だった。


『家族連れが多いので、元々そういった人間が少ないのでしょう』

「いいこった。治安がいい証拠ね」


基本的に子供と言うのは一人で出歩かせてならないと言うのが常識だし、酷い治安状況だと親だけ殺される場合と言うのもある。

だからこそ、子供を作った家族は手術が可能な年齢になればすぐに個人情報を入れたインプラントチップを脳に埋め込む。

最近では技術が上がり、生まれた瞬間にできるインプラントチップもあると言う。


「さて、そろそろ戻りますか」


時刻を確認し、スフェーンは一旦海に飛び込むと顔を上げた状態で浮き輪に腕を乗せながらカエル足で浜辺に戻る。

一人で海で泳ぐと言うなんとも悲しい光景だが、スフェーンはあまり気にした様子は無かった。




その後、浮き輪を返却して海岸を歩くスフェーン。白い砂浜をサンダルを履いて歩くその姿は一つの絵になる程美しいと言えた。

ココナッツを返した時に中身の果肉を食べたスフェーンだが、その時にわさび醤油が入れられた時は驚いてしまった。だが意外と美味しかった。


「ふぅ…」


海岸を濡れた水着のまま歩き、ビーチバレーなどを行なっている砂浜の端を歩いていると。


「お嬢ちゃん」


目の前を塞ぐように三人の日焼けした若い男が現れた。


「可愛い子だねぇ。一人かい?」

「…」


そして金髪に肌の焼けた、いかにも脳も焼けてそうな青年がスフェーンに聞いてくる。


「どうだい、時間はあるかな?」

「無いですね」


嘘だろ、ロリコンじゃなくて下手くそなナンパかよと軽く呆れながらスフェーンは適当にあしらう。


「ナンパならもっと上手くやると良いですよ。では」


そう言い、去ろうとした時。


「待てよ」


スフェーンの肩を掴んだ青年はそのまま耳元で言う。


「俺から()()()しているんだぞ?」

「…はぁ」


これには思わずため息を漏らしたスフェーンは青年の足を踏みつけた。


「いっ…!?」


そしてその瞬間、スフェーンは帽子に挟んでいたペン型スタンガンを手に取って足を踏まれた青年の眉間に向ける。


「さて、分かったらその汚い手を退けてもらおうね」

「ひぃっ!?」


眉間の目の前で止まるペン型スタンガン。押し当てればサイボーグ鎮圧や生身の人間を気絶させるのに十分な電力を持つそれに青年は若干悲鳴を上げた。


「に、逃げろ!」

「あっ、馬鹿!」


そんなスフェーンに囲んでいた二人は逃げ出し、残った青年は固まって動けなくなっていると、目の前でスタンガン特有の電気のパチッと言う音が聞こえ、青年はそれに驚いて軽く尻餅をついた後に逃げ出していた。


「全く…」


根性が無いなら初めからナンパなんてやめておくもんだ、と逃げていった三人をみながらスフェーンは海岸から道路につながる階段を登るとそこでは海岸を走る路線があった。それは昨日乗った市内を走る列車だ。


観光用としても人気の路線で、踏切前では多くの海水浴客が踏切が開くのを待っていた。


カンカンカンカン


踏切特有の警告音を奏でながら目の前をゆっくりと加速していく四両編成の列車。

海岸線を走る列車の他には市内を走り回るトラムがあり、都市ラ・チャンコの交通を支えていた。


地下鉄はいきなりエーテルが吹き出す恐れがあると言うことであまり行われておらず、代わりに路面電車やトロリーバス、モノレールと言った地上を走る列車の方が発展していた。


カンカンカン……


そして列車が通過し、踏切が上がると人の往来が再開する。

海側の客はほとんど全員が濡れており、反対の街側の人間は服が乾燥している。


そして片手に浮き輪を持って踏切が開くのを楽しみに待っている子供達がスフェーンの横を走り過ぎる。


「…」


そんな長閑で静かな景色を横目にスフェーンは街のカフェに入った。


街の文化で水着姿のまま入ることができるが、びっしょり濡れたまま入るのはマナー違反だった。


「お待たせしました。パラダイスティーです」


量産型のアンドロイドの店員が飲み物を持って給仕をしにくる。


今でこそアンドロイドと人は同じ人権が保障されているが、大災害以前の記録によるとアンドロイドとの間で人権をめぐった戦争があったらしい。

少なくともこんな生活からは考えられないが、時代とは変わって行く物だと感じざるを得ない。


『この後の予定はどうされますか?』

「そうだね…」


目の前の道路を三両編成のPCCカーが走り、路面電車を中心に車が対向する。


「取り敢えず少し休憩したらまた出ようかな」

『分かりました。観光用の飛行艇に乗ることなど如何でしょう?』

「良いんじゃない、予約空いてる?」


昨晩見た飛行艇を使った島巡り観光を提案するルシエルにアイスティーを見ながらのんびりと返すスフェーン。


『現在ですと、明後日の午前の便に空席があります』

「んじゃ、予約頼むわ」

『了解です』


そこでルシエルがすぐに飛行艇の予約を取ると、ぼんやりと足を組んで外を眺めるスフェーン。


「あ〜、しばらく仕事したくねぇ〜」

『何を言うかと思えば…』


盛大に盛れた本音に呆れるルシエル。

保養のために訪れた都市でスフェーンは仕事のやる気がすっかり失せていた。


「だってさ、こんな他の人たちが盛大に楽しんでいるのを見たらさ〜」

『気持ちはわからなくもありませんが…財源には限度があるのもお忘れなく』

「うわぁ現実〜」


優雅にアイスティーを飲んでいたかと思うと、スフェーンの疲れた様子に少し微笑むルシエル。


『夜はレストランに行きましょう。スフェーン』

「良いところあるー?」


スフェーンはストローでティーを飲みながら聞く。


『どのような料理をご所望でしょうか?』

「フランス、フルコースで」

『ではその内容で検索いたします』


スフェーンの要望に応えるようにルシエルは都市のレストランの検索をする。

普通にお高い店で、ドレスコードもあるが。前に仕立てたスーツがあるので大抵は問題ない。

寧ろこれで無理なのは本当の富裕層がいくような完全予約制で、ヘリコプターでしか行けないようなレストランになってしまう。


『数件が見つかりました。この中から選んでください』

「んっ、分かった」


そしてルシエルの選んだレストランを移し、その中からスフェーンは今日の夕飯に行くレストランを選んでいた。

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