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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
六両

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63/339

#63

「ありがとね〜!」


店の前で元気良く手を振るおばちゃんと、紙袋を持って少し疲れた表情の水着姿のスフェーン。

結局、あの後ルシエルが支払いまで済ませてしまったのでスフェーンは少しルシエルを睨む。


「おい、ルシエル」

『何でしょう?スフェーン』

「勝手に支払い済ませて…何してんねん」


水着姿で街を歩くスフェーンだが、海岸から離れたこの場所でも水着姿の観光客の姿は確認されており、何なら私服に見える水着を購入したのでそんな目線を集めることもなかった。


『ついでですので、このままクローゼットの購入なども検討してはいかがでしょう?』

「もう勘弁して…」

『しかし、いずれは服が増えますよ?』

「嘘でしょ?」

『基本的に物は増えていくものですから』


ルシエルはそう語ると、スフェーンも少し考える。

確かに、初期の頃と比べれば圧倒的に部屋に荷物は増えた。家具も増えたし、街を巡った時にもらった物や写真も貼っていた。


「確かに…増えてはいる…」


おかしいな、食料品や銃器以外ではほぼ買っていない筈だというのに。


『そして本棚も』

「本ねぇ…」


確かに痛い、駅前の本屋でついつい本を買ってしまうのだ。


「今度古本に出すかぁ…」


そんな事を呟きながら片手に着ていた服を入れてもらった紙袋を持って貨物ターミナル行きのトラムに乗り込んだ。




ラ・チャンコは海辺の都市、都市の一方を海に囲まれ。三方は山脈に囲まれたこの大地は防衛戦において非常に重宝される。

実質的に雲の上を飛行するのが封鎖された状態で、山脈を越えるのに速度の遅いヘリコプターかプロペラ機を使うしかない。


「…」


繁華街の市場、都市のスラムにも程近いこの場所では都市の中では少々地域が悪かった。しかし他の都市と比べるとまだ圧倒的に治安は良かった。


「これ一つ」

「あいよっ」


そして屋台でフルーツジュースを注文して出てくるのを待っていると、


「止まれ!軍警だ!」


屋台の奥で銃を突きつける軍警の治安官と、何もない空間なのに人にぶつかったり物が吹っ飛ぶ光景。


「きゃあっ!?」

「痛っ!」


何もないのにも関わらず人が倒れたりするので、スフェーンはすぐに光学迷彩だと理解できた。


「(全く…)」


サーマルを使って見ると、そこにはクッキリと白い人影が映っており。こっちに向かって走ってきていた。

そこでスフェーンは何事かと野次馬に混ざって道路に飛び出てサーマルに映った人影の前に飛び出した。


「あだぁっ!?」


そして地面に転び、ついでに人影は足を引っ掛けたので地面と熱いキスをしながらガリガリと滑った。そこで被っていた光学迷彩のパーカーが壊れて一人の人物が姿を表した。


「痛たた…」

「このガキッ…グアッ!」


そして睨み付けたその男にそのまま後から走って追ってきた治安官が背中からすぐに男を取り押さえると、スフェーンに手を伸ばした。


「大丈夫かい?」

「あっ、ありがとうございます」


軽く鼻を触りながら差し出された手を掴んで体を起こすと、手錠を嵌められる男。


「怪我は?」

「大丈夫です」


スフェーンはそう答えると、多分ひったくりかスリだろう男を捕まえてドナドナして行った。


「嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「えぇ、意外とこう見えて丈夫なんで」


吹っ飛ばされたのを見ていた店主が少し心配げにするも、スフェーンはフルーツジュースを受け取りながら元気に答えていた。




ラ・チャンコの貨物取扱センターは海の街を謳うだけあり、出ていく物は多くが海産物などである。代わりに入ってくるのは保養地という事で嗜好品などだ。

かく言うスフェーンも今回は嗜好品をこの街に運んでいた。


毎日多くの列車が行き交い、同時に上では多様な回転翼機やプロペラ機が飛んでおり、この雄大な景色を空からも楽しめるようにしていた。


「列車は…」


自分の列車のある場所まで歩くスフェーンだったが、真横を乗り合いの電動カートが止まり。運転手のおじちゃんが聞いてきた。


「よぅ、嬢ちゃん。乗っていくかい?」

「あぁ、お願いします」


この電動カートは広い貨物ターミナルを移動するのに施設側が運び屋に用意している乗り合いバスのようなものだ。割と大きめの荷物も置けるので構内のバス停で待って乗る事もある。


「場所は?」

「B3留置線」

「了解」


そして後ろ向きに座ったスフェーンは片手に飲み物を持っているが、そんなのお構いなしにおっちゃんはカートをぶん回していた。


「おっと」


後ろ向きでシートベルトもなしなので落っこちそうな感じだったが、足で踏ん張りながら列車の停めている場所まで移動する。


「ここで停めて」

「ほいよ」


そして留置線でスフェーンを降ろし、そのまま真っ黒に日焼けしたおっちゃんは走り去っていくと、スフェーンは紙袋を部屋に放り込み、そのまま飲み物片手に再び街に繰り出そうと思っていた。


「さて、飲み終わったら海にでも行きますかね…」


そう呟くと、そこでルシエルが水を指すように言う。


『残念ですがスフェーン。ビーチはもうすぐ閉まります』

「えっ…?」


それに驚いて慌てて時計を見ると、時刻は午後の三時。ビーチに入場できる時間は四時。今から行っても間に合わないことは確実だった。ナイトビーチは危ないからほぼやっていないんだよなぁ。


「嘘でしょ…」

『水着選びに時間をかけすぎましたね…』


なにせ水着を選ぶだけルシエルや水着屋のおばちゃんの所為で三時間はかかっており、その後に市場でジュースを買ったりして寄り道をしていたらあっという間に時間は夕方になってしまっていた。


「じゃあ何だ?私は無駄に海にも行かないのに水着を着ていた事になるの?」

『そう言う事になりますね』

「どうするのよこれ」


水着姿のスフェーンはこの後の予定をどうしたものかと考えていると、取り敢えず列車に入った。


「何なのよ。着て損した気分」

『そんな事はありません!』

「うおっ!?」


少し食い気味に答えたルシエルにスフェーンもやや驚くと、列車の中で取り敢えず着替え始める。


『着替えるのですか?』

「えぇ、だってまた明日海に入るならいいでしょ」


そう言いジーンズに履き替えると、ルシエルは露骨に残念そうにする。


『そうですか…』

「また明日着るんだからいいでしょうに…」


そんなルシエルに苦笑するスフェーンはヘソだしのこの格好は海以外では恥ずかしいと言う理由で黒インナーの上に白Tシャツの私服に着替えた。




ラ・チャンコの名物は海鮮料理、前に寄ったカール・ポートとも違う魚料理があればと思いながら街の沿岸部の店に向かうと、


「おっ?」


甲高いエンジン音と共に街の上を一機の大型の固定翼機が飛んでいた。


「おぉ〜」


恐らくは付近の島巡りの観光艇だろう。巨大な飛行艇は日の入り間近の海の上に着水し、近くの桟橋に停泊する。


『P-248M飛行艇です』

「デカいねぇ…」


軍警でも海難救助や爆撃などで使用される大型飛行艇、真っ白に塗装されているので民間機仕様だろう。

拡大してみると、桟橋には観光客が多く降りており。空の旅を満喫していたようだ。


基本的に旅行というのは一ヶ月などの月単位で取るものであり、その間宿泊するホテルも同様に大きなものへとなって行く。

しかしラ・チャンコの海岸に面するように立ち並ぶホテル街は街の景観に合わせて高層化しておらず、精々二〇階までが限界だった。


「いつか乗ってみたいなぁ…」

『では長期滞在を考慮したプランを提案いたしましょうか?』

「お願いしよっかなぁ」


そう言いながら近くのレストランに入るスフェーン。彼女は夜でもサングラスをしており、少々違和感はあるものの。それ以上にサイボーグでバイザーをつけっぱな奴もいるので問題なかった。


「このパエリア、サルモレホ、トルティージャを一つずつ」

「畏まりました」


そして店の空いている店に座って注文をすると、アンドロイドの店員がお辞儀をして少し待つと目の前に黄色の米に魚介類の乗った熱々のパエリア鍋が出てくる。


「ふーっ」


スプーンで一つ掬って口に運ぶと、サフランで色付けされた米に染みるオリーブオイルと魚介の旨みが口の中に広がり、その後にエビのしっかりした身が口の中で暴れる。そしてレモンの淡く爽やかな風味が最後に残り次の一口にスプーンが進む。


次の一口では取り出したムール貝の身が口の中で貝の旨みを破裂させる。

その後に野菜の少し硬めの食感と、少し焦げた米のざらっとした食感と風味が走る。


「美味い!」


そして次にサルモレホと呼ぶ野菜のスープを一口。口の中が海鮮になったところをトマトの程よい酸味がこれを押し流し、後味もサッパリしていた。


「次は…」


そこでトルティージャを手に取ると一口頂く。噛んでそこからとろっと溶け出す熱々の卵の次にホクホクのジャガイモが崩れた。


「あちっ!」


軽く口の中が火傷しそうな温度だったが、さすがの出来立て。店も夜の時間ということで少々混雑し始め、その中には水着姿の客も多く見受けられた。

基本的にこの都市では海がメインなので水着姿でどこに行っても許される風潮が強くあった。なので都市部の大通りでも普通に水着姿の観光客もいた。


「ここってヌーディストビーチもありそう…」

『この都市にもヌーディストビーチは存在しますよ?』

「あるんだ…」


行こうとは思わないが、エロ目的で人間が集まりそうだ。混浴で男たちが群がるのと同じように…。


『場所はメインから少し離れた場所にありますね』

「行かないよ?」


そんな裸体主義者しかないような場所を検索するルシエルに真顔で答えるスフェーン。するとルシエルもそんな彼女に反論する。


『この前は散々裸体で戦っていましたが?』

「あれは仕方がないの。光学迷彩使えないんだからさ」


服を着た状態で光学迷彩を使えば透明人間のように服が宙に浮くような形になるので、そうするとステルスの意味がないのであれは苦肉の策だった。


『まぁ、アレのおかげで私も色々と知見を増やす事はできました』

「だからって勝手に体乗り換えるんじゃないよ。全く…」


そうブツブツと文句を溢すスフェーン。そして口にスープを入れる。


「ルシエル、変な時に乗り換えるんじゃないよ」

『えぇ、私にも常識というものは存在しております』

「はっ、勝手に水着買ってよく言えるよ」


最後にソカラと呼ばれるこげた米の部分を美味しく頂くと、夕食を終えていた。

機体解説

P-248M マリーンアルバトロス

軍警や民間で使用される大型のジェット飛行艇。民間型と軍用型では内装が大きく変わっており、一部は観光用で飛んでいる。

八発のジェットエンジンを装備する大型飛行艇であり、広い海面を使用した圧倒的な滑走距離を用いて地面効果翼機としても使用可能で、その場合は圧倒的な爆弾搭載量を有していた。

カツオブシと呼ばれる波押さえ装置のリブを持っており、荒波でも着水することが可能。


基本兵装

30mmガトリング砲 二門

爆弾等最大25t 地面効果使用時40t

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