#60
「火災はそうだが…都市一帯が封鎖だと?」
「あぁ、特殊武器防護隊が出動する大騒ぎだ」
「何があったんだ…?」
主にエーテル関連の事故や災害、NBC兵器に関する事件の対処の為に派遣される特殊武器防護隊。そんなものが出てきるほどの事態に発展している事実にロトは唖然となっていると、ライルは軽く溜息をついた後に持っていたタブレットを触る。
「まぁ、この報告書を見りゃあわかるが。おまえさんの意識も朦朧としていたんだろうな」
「あぁ、すまない…」
ロトは何も覚えておらず、最後にあの少女の強烈な一発を喰らった以降の話は全く分からなかった。
「お前さんはまだ電脳じゃないから、悪いが聴取を取るぞ」
「ああ、構わない」
電脳化された人間の場合、記憶は全て体内のチップに埋め込まれているので簡単に読み取ることができるが。そうでない生身の脳の場合はこうして昔ながらの事情聴取を取るしか方法がなかった。
情報部の治安官は秘密裏に行動をするため、治安官が普段装備するボディーカメラを搭載していないのがまた今回は痛かった。
「俺たちが到着した時、お前は駅で生命維持装置が起動した状態で倒れていた」
「…」
ロトの所属している情報部は生命維持装置が起動した際に、近くの軍警の部隊に出動命令がかかる特別な仕組みが存在しており、今回もその信号を受けて周辺の軍警の部隊に出動命令が降り、ジャイロダインや装甲列車が急行した。
そして頭の回転には孤児院でも自信のあったロトは、あの少女がなぜ自分を突き落としたのか理解できた。
おそらく最も簡単に最も重武装の軍警が呼び出せると踏んだからだろう。あの見た目で恐ろしい脳の回転率だ。
「しかし、シディムはあらゆる建物が崩壊し。同時にあらゆる場所で火災が発生していた」
「…」
今も消火作業中だと言うシディム、よほど大きなものだったのだろう。
「まぁ、ここら辺は飛ばそう。気になったのは、生存していた運び屋達の証言だ」
「っ!生存者…」
おそらく、目の前で見てきた被害にあった運び屋達の事だ。歯痒く、申し訳なさがあったあの景色を思い出す。
「取り敢えず、被害者全員の安否を確認した。まぁ、死者も出ているが。内偵捜査後からはゼロだ」
「そうか…」
そこで少しロトは安堵していると、ライルは軽く苦笑する。
「本当、おまえは現場の治安官向きだな」
「生憎と上層部の足の引っ張り合いは苦手でね」
「まぁ、その辺は俺に任せとけ。口は俺の方が立つ」
そんな軽口を言いながらも、すぐさまライルは生存者達の証言を続ける。
「んで。生存者の証言によると、都市で爆発が始まった時に、死にかけのお前さんが被害者を駅の地下街まで誘導したと残っている」
「は…?」
「複数ある証言だ。最も、その様子じゃあ覚えていないらしいが」
ライルはそう言うと、さらに詳しい証言を伝える。
「従わない奴は殴ってまで言う事を聞かせたらしいじゃあないか」
「それは…」
全く身の覚えのない話だが、証言が複数あると言うことは確定事項なのだろう。
「まぁ、意識が朦朧としていたんだろ。よくやってくれたよ、おかげでおまえさんの名声は今や鰻登りだ」
被害にあった運び屋達は今は治療中で、色々と奪われた財産はわかっているものから順々に返却されていくらしい。金塊も散らばっていたが、全て回収され。損害分の補償はほぼ可能との事だった。
まぁ、元々被害にあった運び屋は気絶させた後に遺体を運ぶふりをして仲間の軍警に届けていたのだが…。
「幸いにも野盗団の金の出入りが誰かさんのおかげで詳しい帳簿になっているおかげで追跡は簡単に終わりそうだよ」
ロトを見ながらライルは溢すと、少しだけロトも苦笑する。
あの野盗団で帳簿を書いていたのは自分だ。会計係はもう一人いたが、そちらの安否は不明と来た。
「都市に居座っていた野盗団は一部の確認は取れているが、大半は判別不明だ」
そこで報告書を見せてくると、そこでは焼死体と化した野盗の一人の遺体があった。
「さて、問題はここからだ」
そして遺体を見せて一転、真面目な表情でライルはロトに話す。
「まだ公式の発表前だが、シディム周辺の空間エーテル濃度に急激な変化があった」
「変化?」
首を傾げるロトだったが、ライルは短く頷くとタブレットをテーブルに置いて少しゆっくりと話し始める。
「あぁ、シディム周辺の空間エーテル濃度がゼロを示した」
「ゼロだと?あそこは空間エーテル濃度が高いから放棄された都市だぞ?」
シディムは戦災と空間エーテル濃度上昇の影響で放棄された都市だ。長期間いれば衰弱死してしまうので、その前にロトは被害者を運び出していたのだ。
ただ、そんな見えない毒霧が一夜で一切消えたとなれば確かに特殊武器防護隊が出てくるわけだ。
「つまり、お前の信号を捉えた後から俺たちが到着するまでの約八時間の間で、あの都市では何かあったと言う事だ」
「…」
「何か心当たりは無いか?」
そう聞かれ、ロトは考える仕草をとる。
正直、心当たりと聞かれれば一つしか思い浮かばなかった。
しかし、あの虹色の瞳と人外のような美しさを持った少女を口外するのは心の奥底からやめておけと警告する自分がいた。
「すまん、分からん」
こう言う時は直感に頼っていたロトはその通りに答えると、ライルは軽く溜息を吐いた。
「…まぁ、仕方ねえな」
そこで彼はタブレットを片付けると、立ち上がった。
「お前には治療後に休暇と表彰だ」
「そうか…」
目を閉じて短くなずく彼にライルは羨まんだ。
「お前に出世で遂に負けちまったよ。この野郎」
「お前だって期待の出世株だろうが」
「阿呆、後方の駆け引きは大変だっつーの」
少し笑って答えると、彼は今のシディムの状況を伝える。
「まぁ取り敢えず。シディムは今、企業どもが慌てて過去の資産を探しているって話だ。大変なこったねぇ、彼方さんも」
そう答えると、ライルは病室を後にしていた。
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燃える都市、地面のアスファルトが発火をするほど高い温度で燃える状況。
その中で数台のオートマトンや戦車、サイボーグなどが銃を持って発砲していた。
「くそ!くそぉぉぉおおっ!!」
ヤケクソになって338口径機関銃を放つも、炎の奥から一本の細いレーザーがサイボーグの目を貫通すると焼けた肉が血すらも蒸発させ、全く血の出ない遺体が出来上がる。
逃げようにも周りは崩れたビルの残骸で塞がれ、炎も撒かれて退路は絶たれてしまっていた。
『死ね!死ね!』
最後のオートマトンでももはやそれしか言葉が出ず、半狂乱で持っていた30mm自動小銃の引き金を弾くとその先で一人の裸体の少女が立っており。銃弾が飛んでくるとユラユラと陽炎のように姿が消えた。
「っ!?光学迷彩!!」
「ぎゃっ!!」
その瞬間、横に居たサイボーグの喉元に赤いレーザー光線が貫き。一瞬だけ彼の首元に纏わり付く光学迷彩の残像を見つけた。
「くそぉっ!!」
咄嗟に機関銃を放つも、銃弾は虚空を飛んでいき。すでにそこに光学迷彩の影がなかった。
『サーマルを使え!』
残った戦車兵からの通信でサイボーグ達も一斉にサーマルに切り替えるも、
「ダメだ!」
「周りが明るすぎる…!!」
そこでは炎の赤色一色で染め上げられる視界があった。
野盗達の使うサーマルビジョンの性能はまちまちで、戦車兵の使う高性能な物とサイボーグのそれとでは全く違った。
ゴンッ「?」
最後の戦車のキューポラの上で変な音が聞こえたと思って戦車兵は恐る恐るキューポラのハッチを開けると、
カラン
その瞬間、中に何かが転がり。それを見た時、戦車兵は慌てた。
「っ!?手榴弾!!」
その瞬間、キャノピーが蹴り閉じられ。その直後に中に転がった手榴弾が爆発した。
そして爆発した戦車を見ていた近くのオートマトンが瞬時にサーマルを向けるも、
「いっ、居ない?!」
全く何も映らないサーマルに驚きを隠せないでいた。すると、
「っ?!」
いきなり勝手にオートマトンの緊急脱出装置が起動し、外に弾き出されたパイロットはパラシュートが展開されると、その時真後ろに気配を感じた。
「っ!まt」
その瞬間、宙に浮かんでいた黒い拳銃の引き金が弾かれ、パイロットは絶命した。
そして自由落下するパラシュートから飛び降りると、そのまま一人の頭の上に飛び込み、そのまま足で地面に叩きつけられた頭は潰れ、持っていた散弾銃は横に居た別のサイボーグの胸に向けてサボット弾が放たれ、胸部に大きな穴が開く。
「散弾銃が目印だ!」
「撃て!金属反応だ!」
中に不自然に浮かんでいるレバーアクション散弾銃を目印にする野盗達。光学迷彩を使用し続けている少女に一つの大規模野盗団は防戦一方だった。
すでに多くの野盗が死亡し、多くの戦車やオートマトンも破壊されていた。
すでに野盗団としての機能は周辺の小規模の野盗と同じほどになっており、都市一つを支配下に置けるほどの力はなかった。
「…」
燃える都市を眺めながら野盗団のリーダーは唸る。
「くそっ!」
持っていた50口径機関銃を投げ付けたくなる感情を抑えながら下の街で次々とやられていく部下を見つめる。
そして最後のサイボーグがやられたのを見た後、リーダーは持っていた機関銃を持ちながら地面に降り立つと、彼の降りた地面の周囲にヒビが入った。
「出てこい!サシで勝負だ!」
あらゆる所で燃えている中、リーダーは叫んで周りを注意深く見ていた。
「…」
そして注意深く見ていたが為にその動きに一瞬早く反応できた。
「くっ…!」
機関銃を持っていた右腕を蹴り上げられ、そこを支点にサイボーグの機械類が飛散。咄嗟に左腕の機関銃と肩のロケット砲の引き金が弾かれると、無造作に命中し、彼女を隠していた光学迷彩が解けた。
「…へっ」
そして炎の奥から現れたその姿にリーダーはニヤリと笑った。
そこでは左腕が半分吹き飛び、持っていた散弾銃を持つのがギリギリの、一人の少女が立っていた。
同じ頃、燃える都市を見ていた運び屋達は逃げ惑っていた。
皆、同じように野盗に囚われていた身だったが。この混乱を前に生き残りたいと言う本能が働き、一度も攻撃を受けていなくて炎の来ていない駅の方に自然と集まっていた。
「…」
そしてそんな様子を当然スフェーンが収容されていた部屋にいた女達も見ており、不安から逃げ出そうと扉を叩いて開けようとしていると、ドアの鍵が開けられ、扉が開くと女達は軽く悲鳴をあげた。
「…」
そこでは虚な目で若干サイボーグが損傷したロトが片手に使い古したブランケットを持って女達を見下しており、怯えていた彼女達に向かって一言。
「地下街に逃げろ」
そう言い残すと、ロトは一歩下がって道を作るとそれでも怯えて動けない女達に向かって叫んだ。
「さっさと行け」
そう言い、近くにいた一人の女の腕を掴むと頬を軽く殴って部屋にブランケットを放り投げ、それに慌てて頷いた女達は一枚ずつブランケットを持って部屋から逃げ出していた。
「…」
そしてそんな女達を見送った後、虚な目のロトからルシエルの声がした。
「すみません、一時的にお借りしました。ロトさん」
そう呟くと、ロトはビルを後にして駅舎に向かって足を進めていた。




