#58
「っ!!」
目が覚め、視界には目が痛くなるほど白い純白の天井が見える。
体は動くので軽く見ると、自分の腕や足はちゃんとある。死んだわけでは無いのか。
よく見るとここは集団の病室で、薄いカーテンの壁の外では少々騒がしい声が聞こえた。
「…」
どう言う事だ?確か、俺はあの都市で…
「よぅ、起きたか」
話しかけられて横を見ると、そこでは病室の椅子に同僚が座っていた。
「…ライルか」
別の課に所属している同時期に就職した友人は何処か安堵した様子でロトに話しかける。
なるほど、ここは軍警の病院らしい。
「目覚めて何よりだ。英雄さんよ」
「…何があった?」
そう聞くと、ライルはロトを見て首を傾げた。
「何だ、覚えていないのか?」
「…あぁ、」
どこか含みのあるような口ぶりにライルは真面目な表情で聞く。
「何があった?」
その問いにロトは自分が覚えているビルから突き飛ばされた時の少女を思い返しながらこう表現した。
「地獄で天使を見た」
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「どうだ?」
「駄目だ、鍵が固すぎる」
赤と灰に塗装された列車の前で、三人の野盗がぼやく。
積んでいたコンテナは運んでいる最中だった。
「壊しゃ良いだろ」
「馬鹿、高く売れなくなるだろうが」
「それに壊したら足がつく」
鍵が壊された後を残したまま売ると、ディーラーは仲間では無いので怪しまれるのだ。向こうも贓物売買をしていたとなれば店の評判が地の底に落ちるので売る時は恐ろしく色々なところを見て行く。
裏の店に卸すと何でも引き取る代わりに安く買い叩かれるので野盗は嫌がるのだ。
「しかし、コイツを動かしてたのがガキって話だが…」
「はっ、あり得るかよ。二つ部隊を潰したんだぞ?」
「だが他に生体反応は無かったぞ?」
そう言い、この列車が途中で撃退した野盗の損害を彼等は信じていなかった。
「あらそう、」
「「「?」」」
すると三人の耳に知らない声が混ざった。
「なら試してみましょうか?」
するとその瞬間、鍵穴に触れていた一人が一瞬で目の前から消えると二人が驚くが、
ドオンッ!!
「ガッ」「おうっ」
至近距離で放たれたサボット弾が一人のサイボーグの胸部を貫通すると、二人目の胸部で止まった。
三人を斃し、列車の入り口の前に立つスフェーンは足元に溜まるエーテルの水溜まりを踏み付ける。
「…さて、死体を隠さないとな」
そして倒れる三つの死体に手を触れると、忽ち死体は一瞬で消滅し。色も変わって自分たちのよく知る液体に変わった。
そしてその液体に触れると、それは磁石で吸い寄せられるようにスフェーンの手の中に消えていき、何も無かったように三人分の死体は消えていた。
『スフェーン、事は早急に済ませるべきかと』
「…はいよ」
少し懲らしめますかと呟き、そのまま灯りの灯る街の中心を見ていた。
「遅いな…」
「どうかしましたか?ボス」
都市の大通りで戦利品である今日来た列車に乗せていたコンテナの中身を早速嗜む。
「おい、ロトの野郎はどうした?」
「さぁ?いつもの女部屋じゃ無いんですか?」
そんな事を話しながら、男の前では怯えた様子の貧相な女が給仕をしていた。
「おい!酒持ってこい!」
「は、はい…」
リーダーの声に怯えている女は持っていたワインをグラスに注ぐと、リーダーは汚い笑みを浮かべて椅子に座り込んだ。
「おい、そっちもそろそろ飲みに来いよ」
そんな中、一人の野盗が崩れかかったビルに訪れるとそこで壁に座り込んでいた見張りの男達を見た。
「ったく…おい」
そこで軽く揺さぶって起こそうとした時、
「なっ…!?」
その男は脳に貫通痕があり、よく見ると足元はサイボーグ用の循環液で水溜まりができていた。
「なっ、何が…」
その瞬間、暗闇の中から宙に浮いたハンマーが現れると足元を思い切り殴られ腓骨が折れる。
「ああぁぁぁあっ!?」
足のサイボーグ化をしていなかった男は痛みで悶絶したその瞬間、
「あっ…」
暗闇の中から一人の虹色の瞳が特徴的な少女が男に向かって思い切り持っていたハンマーを振り下ろしていた。
「…」
そしてそんな脳髄を撒き散らした哀れな男を見下ろしながらスフェーンは男の陥没した頭蓋骨の中に指を入れるとそこでスフェーンは目を閉じた。
『おいっ、どうした返事をしろ!』
そして聞こえてきた男への無線を聞くと、そっと指を抜いた。
「…先に回収しておくか」
『その方が得策かと。そして本格的な戦闘は極力避けるべきかと…』
「ん〜、取り敢えずプラン野盗ホイホイで行きますかね」
そう答えると、彼女は次に来る野盗を片手に血だらけの保線用ハンマーを持って待っていた。
「ボス」
「何だ?」
そして宴会も中盤になったところである異変が伝わる。
「駅にあいつらが居ません」
「あぁ?鍵屋の連中か?」
部下からの報告によると、駅にいたはずの三人がいなくなっていたと言う。
「ふんっ、逃げたか…」
「如何なさいますか?」
「ふんっ、決まっておろう」
そしてリーダーは傍に置いていた50口径の機関銃を手に握った時。
「ん?」
月明かりに一点の黒い影が映ると、それはだんだん大きくなり。リーダーの目の前に落ちてきた。
「っ!?ヒィッ!!」
そしてその正体を見た時に報告に来た部下が一瞬悲鳴をあげた。
「…ふんっ、始末されていたか」
鍵屋の男の首を見てリーダーは鼻で笑うと、部下を大声で呼び出した。
「武器を持て!敵襲ーー」
そう叫んだ時、奥の方から大きな音と土煙が上がった。
「何だ?!」
その方を見ると、そこでは一人の重量級のサイボーグが暴れていた。
「たっ、助けてくれぇ!!」
「ぎゃぁぁああっ?!」
「何だっ!?ブギャッ!?」
暴れて近くにいた野盗を挽肉にしながらリーダーに近づいてくるそのサイボーグ。
「…」
するとリーダーは持っていた機関銃を暴れるサイボーグに向ける。
「ボ、ボス、何を…」
「ふんっ、馬鹿を止めるまでよ」
そう言うと、機関銃の引き金を弾き。暴れていたサイボーグに周囲を含めて命中する。
「ボ、ボス!や、やめ…」
しかし機関銃の銃声は男から何も言わなくなるまで続き、静まるとそこでは血塗れになって倒れるかつての部下の姿。
「…終わったか」
そして死んだ構成員の人数を数えようとした時、
ドゴーンッ!!
また別の場所で爆発音が響き、武器を持っていた部下が走り、同時にオートマトンもその方に歩き始める。そしてその直後、
『『『『『うわぁぁあああっ?!』』』』』
爆炎と共にサイボーグが焼かれて腕や体といった部位が飛翔、オートマトンもコックピットごと吹き飛んでいた。
「何事だ!?」
流石にこれにはリーダーも目を見開いて現場に走ると、そこでは異常な景色が広がっていた。
「たっ、助けてくれ…」
「誰か!俺を!俺を止めてくれぇ!!」
そこでは数人の暴れる部下がその手に自動小銃やロケット砲を無造作に撃ち、同じ部下を殺している様だった。
「こっ、これは…」
その景色に唖然となっていると、一人のサイボーグが銃を持ってこちらに近づいてきた。
「あアぁぁァアあっ!!」
その手に6.8mm機関銃を持って突撃してくる部下にリーダーは銃を向けるも止まる様子はなく。その男の持っていた銃を狙って一発撃って破壊すると、そのまま突っ込んできたサイボーグの腕を掴んだ。
「貴様!何のつもりだ!?」
耳元で叫ぶも返事がなく。違和感を感じたリーダーは、その男の異変に気づいて慌てて部下を放り投げると、その部下は空中でパシャリと音を当てて液体になった。
「なっ…!?」
その虹色の液体は自分たちが良く見るものだった。
「エーテルだとっ!?」
地面に散らばった液体の正体に絶句するリーダー。そして周りで暴れている部下達の共通点は一つ。
「エーテル機関の暴走か…!」
サイボーグを動かすためのエーテル機関の暴走。その様に推測したリーダーは目の前で起こった不可解な事象を他所に、持っていた機関銃の引き金を弾くと、ロケット弾を使い切った重装甲サイボーグに機関銃を放つ。
「オートマトンを前面に出せ!」
「戦車は!?」
「戦車もだ!!サイボーグは下がらせて一箇所に集めろ!」
叫ぶと、建物の影から現れたオートマトンや戦車が暴れるサイボーグ達の鎮圧の為に出動し、そこで燃え盛る都市の広場に入ると。その時、
『良い武器を持っているわね』
「っ!?」
オートマトンに乗っていた野盗は真後ろで聞こえたその声に驚いていると、視界が手で塞がれ。耳元で少女の声が聞こえた。可笑しい、後ろに人が入れるような空間はないはずだ。
まるで駄々を捏ねる子供のような口調で、少女は野盗の男に耳元で囁いた。
「これちょーだい」
その直後、パイロットの男は視界も記憶も真っ白に染まり、男は訳が分からずコックピットの中で途絶えた。
『くそっ!!』
『どう言うことだよ!?』
シディムの一角、そこでオートマトンや戦車を動かすパイロット達は愚痴る。
『おい!何台やられた!』
『…十二台』
『クソッタレめ』
そして目の前で残骸と化した戦車やオートマトンの山の上に立つ一台のオートマトン。
『テメェ!裏切ったのか!!』
かつて仲間だった野盗のオートマトンだったそれに叫ぶと、そこで公開無線で知らない声がコックピットの響いた。
『あら、ごめんなさいね。お仲間と思ってもらって』
『っ!?誰だ貴様!!』
知らない子供の声に野盗達は驚愕すると、山の上に立つオートマトンのパイロットは答える。
『まぁ特にこれといった理由はないんだけど、取り敢えず死んでもらって良いですか?』
『わっ、』
その瞬間、持っていたレーザー・ライフルの引き金が引かれると一台のオートマトンのコックピットを貫通し、中のパイロットを蒸発させて擱座させると擲弾を投げて更にもう一台を破壊した。
『逃げたぞ!』
『追え!!』
そして逃げ出したオートマトンを追って走ると、その時通信が入った。
『おい、聞こえているな?』
『っ!ボス…』
野盗のリーダーは追撃するオートマトン部隊と通信を行う。
『二つ目の角に追い込め、そこで俺たちが固めている』
『りょ、了解!』
『行くぞ!』
『これ以上やられてたまるかってんだ!!』
そう言い、逃げる一台のオートマトンを追いかける六台のオートマトン。
飛び出た戦車は踏み潰されて蹴り飛ばされ、オートマトンは飛び蹴りを喰らった後に至近距離で射撃されて沈黙。とても常人じゃああり得ない軌道を描きながら撃破されていく様はいっそ美しくもあった。
『撃て!!』
そこで持っていた25mm/30mm自動小銃や30mmガトリング砲、ロケット弾が火を吹いてオートマトンに攻撃を加えて角を曲がらせると、
『おっと、』
都市の通りで土嚢や瓦礫に紛れて臨時で設営された陣地に機関銃や対戦車ロケット弾が多数照準を合わせていた。
「撃ぇっ!!」
そこでリーダーの指示で一斉にロケット弾や銃弾が発射され、飛び出たオートマトンは真正面から多数命中し。同時に銃弾もオートマトンが蜂の巣になる程撃ち込まれた。
「止めろ!」
そして射撃を終え、静かになった都市。撃破されたオートマトンを除く野盗達は恐る恐るオートマトンに近づくと、
「っ!?ぐぁぁああっ!?」
突如、リーダーの横にいたエーテルを使う武装を装備したサイボーグ兵が呻き声をあげた後に持っていた銃を乱射し始め、焦点の合っていない視線をリーダーに向けた。
「くそっ!」
「始末しろ!」
そして暴れるサイボーグ兵にリーダーは持っていた機関銃で壊れたサイボーグ兵を破壊すると、誰かが愚痴った。
「くそっ、一体誰の仕z」パンッ!
ヘルメットを付けて顔を上げた瞬間、脳を一発の銃弾が貫いた。
「狙撃だ!」
「伏せろ!」
脳漿を撒き散らしながら倒れた野盗に全員が隠れる。
安堵する間もなく襲撃を受ける野盗達、
夜が明けるのはまだ遠い。




