#56
『スフェーン、起きられますか?』
「…んっ」
ルシエルの呼びかけに答えるように目をゆっくりと開けると、そこで自分は何処か小さな部屋の椅子に座らされていると分かる。
「…」
そして部屋を見回すと、そこで微かに聞こえる掠れた声。
「うっ…あっ…」
そこで横を向くと、そこでは裸になって倒れている数人の女の姿があった。
「…」
一瞬なんだと首を傾げていると、部屋の扉が開き。その奥で男の怒号が聞こえる。
「この、クソ野郎が!」
その声にビクッとする横で倒れていた裸の女。そして部屋に入って来た黒いジャケットにしたは薄汚れたズボンを履く一人の男。その後ろでは汚い大きな腕部を持ったサイボーグの男が喚いていた。
「昔からボスに気に入られているからって、調子乗ってんじゃねぇぞ」
「はいはい、血の気が多いから貴方は出世しないんだ」
「…チッ」
矢鱈と不満な表情を浮かべる如何にも野盗の臭い男と言ったそれを体現したような見た目の男は青筋を立てながら去って行った。やれやれ、馬鹿丸出しで恥ずかしく無いのか?
「全く…」
そして呆れるようにその男を見送った男はそのまま椅子に縛られた少女の方を見た。
「起きているんだろう?」
そして話しかけるも反応は無く、その男は軽くため息を吐きながら少女の顔を少し強引に顎を掴んで上げると軽く頬を叩いた。
「…痛い」
そこで狸寝入りをしていたスフェーンは目を開けて男を睨みつけた。
「そんな恐ろしい顔すんなって…」
スフェーンの睨みに男は少し肩を浮かせて答える。
「野盗は貧乏で臭いから嫌いだ」
「はははっ、強気なのは良い事だ。お嬢さん」
軽く笑って答えると、その男は戦闘糧食を部屋にいた女達に配り始めていた。
「ほれ、食っとけ」
「……」
そこで差し出された戦闘糧食を見ながらスフェーンは腕をグイッと動かす。椅子に座らされている間、後ろ手で縄で縛られていたのだ。
「あぁ、スマン」
縄で縛っていた事を失念していた男はナイフで切ると、スフェーンは自由になった手を軽く動かして確認すると男を見た。
「変な奴」
「俺に幼女趣味はねぇよ。馬鹿にすんな」
そう答える男は横にいた女を見ると、その女は男を見て怯えていた。
「…」
多分、野盗の肉便器にでもされたのだろう。心が壊れていない分、まだマシかもしれない。多分この都市は野盗のアジトだ。
『スフェーンへの身体的な害は認められません』
「だろうな」
小声で返すと、その女の腕を見て男は腕を掴んだ。
「ほれ、行くぞ」
「…」
そこで上からボロい毛布を被せられ、そのまま腕を軽く強めに掴むと
「うっ!?」
そのまま電流が流れ、サイボーグだったのかその女は気絶した。
そして気絶した女を抱えて男は消えると、部屋はまた閉じられ。静粛が戻った。
「…」
やれやれ、攫われたかと冷静に分析できる心の余裕があったスフェーンはそのまま戦闘糧食を手に部屋の窓のある端に座り込む。
武器は無く、着ているのはナッパ服のみ。こんな状況じゃあまだ服があるだけマシだろう。
ナイフも銃も無く、サングラスも持って行かれていた。
「あぁ、クソが」
『これから如何なさいますか?』
「この状況で何かできるとでも?」
部屋の反対でこちらを伺う様に見ている虚な目をした女達。しかしスフェーンは気にもせず呟く。
『列車は私が監視をしておりますし、スフェーンが目を覚ますまでにここの構造は全て把握しております』
「なら先に起こしてくれよ…」
そう言い呆れるスフェーンだったが、ルシエルは聞いてくる。
『映像もありますが』
「回して」
部屋に押し込まれた姦しい部屋の中、スフェーンは目を閉じるとそこでルシエルが記録した映像を見ていた。
『けっ、ガキかよ』
『他に誰か居るか?』
『いや、見なかった』
自分が見上げているような格好で三人の男を見ている。そのうちの一人はあの男だった。光学迷彩を使っていたので中々に金をかけているのが分かる。
『しかし綺麗なガキだ』
『あぁ、このまま売っても良さげだが…』
『待て』
そこでさっきの男が軽く髪をたくし上げて触ると、軽くため息を吐いた。
『ダメだ、チップが入っている』
『くそっ』
インプラントチップを無闇に取り外すのは危険であり、専門家以外が下手に手を触ると簡単に死亡してしまう。
『売るのも無理か…』
『どうする?』
『いつもの部屋に入れとけ』
そう言うと、気絶した状態の自分の腕を掴んでそのまま背中に乗せられる。
『けっ、またお前かよ』
自分を抱える男に別の野盗がぼやく。
『構わん、俺は大人じゃねえと興奮しねぇんだ』
別の一人がそう答えると二人は消えていき。男はスフェーンを担いだまま今いる部屋まで運んでいた。
「馬鹿馬鹿しい…」
そう言って一蹴したスフェーンは天井を見ると、そこではライトの付いていないライトが吊り下がっていた。
「さて、どうしたものかね…」
野盗に襲われ、おそらく野盗のアジトと化した都市に訪れてしまったスフェーン。この四面楚歌な状況に一考する。
「ふぅ…」
まぁ、考えると初めから少し怪しい部分はあった。もともと廃棄された都市の復興の為の会社の様子だが、明らかに規模が小さかった。それに、設立から半年以上経っているのに何の評価もされていない企業と言うのもおかしな話だ。普通は何かしらの評価がないと怪しいのだ。
そして道中襲ってきた野盗の数の多さ。一般的な野盗団二つ分が襲ってきていたのだから違和感はあった。まぁそれでも全滅させてきたのだが。
「窓は…」
見上げて、少し差し込む月明かりの窓。試しに登って動かしてみるも固定されていてダメだった。
「ダメか…」
『たとえ開けれても、空間エーテル濃度が高いこの場所での長期滞在は人体に負担が掛かるものかと』
固定された窓を開けようとした時、まだ起きていた一人の女が手を伸ばして近寄って来たので少々申し訳ないが、
「ぐっ」
首元に手をやってサラのサイボーグの腕を止めたのと同じ電流を流して気絶させる。
おそらく追い剥ぎでもしようと思っていたのかもしれないが。そもそも部屋にいる女と自分では服のサイズが全然違うので着れないだろうに。
いや、この場合は同じ状況に陥したかったのだろうか?
「こいつらまだ生きているのか…」
『この様子を見るに大部憔悴しているかと。一部はサイボーグ化されています』
「んじゃ、詳細見てみますか?」
気絶した裸の女達には幸いにも個人情報を記したチップが埋め込まれており、そこに写っている写真と今の憔悴具合にため息が漏れてしまった。
「やれやれ、野盗もひでぇ事しやがる」
そう呟いた時、
カチャッ
部屋の鍵が開く音がし、外の真っ暗な廊下から一人のサイボーグの大男が現れた。
刺青に盛り上がった肩。つるっぱげでいかにも野盗と言った汚い様相の男はスフェーンを見ると、少し汚い笑みを浮かべた。
「へっ、」
「…」
嫌な予感のしたスフェーンは男を睨み返すと、その男はやや強引にスフェーンの肩をつかんだ。
「来い」
「やだね」
「ふんっ」
その瞬間、大男はスフェーンの顔を一発軽く殴ると簡単に吹っ飛び、部屋に居た女達も飛び起きてビビっていた。
「さぁ、来い!!」
「誰が行くかよ。バーカッ」
そう言って何事もないように軽く煽ると、短気な大男は顔を赤くした。
「このっ、クソガキッ!!」
「オウオウやれるもんならやってみろ単細胞。そんなんだから野盗の下っ端なんだよ」
「何だと!!このぉっ!!」
そこで男は腕部に格納されていた武器を一斉に展開し、スフェーンに見せつける。
武器をここで使うほど理性が無くなっていた訳じゃ無いらしい。
「おい、もういっぺん言ってみろ」
「ああそうかい。ご所望なら何度でも言ってやるよ下っ端。こんな夜中に人目を盗んでしか女に会えないような奴なんだろう?」
「っーー!!」
本当のことを突かれたのか、嫌に腹を立てる男はスフェーンを睨みつけると、大きく腕を振りかぶった。
「あーらよっと」
しかし振りかぶった時、スフェーンは男の足を思い切り踏んづけた。
「ぎゃあっ?!」
足が粉砕され、金属片と化した足を蹴り飛ばすと今度は脛が吹き飛んで大男は部屋の床に倒れた。
「ふふーん」
そして男の上に馬乗りになって男を見下すと、その男は後ろを見ながら言う。
「テメェ!!」
「ほーら言わんこっちゃ無い」
馬乗りになったスフェーンに向かって男は武器満載の機関銃を発射しようとした時、
パシュ
暗闇から飛んできた何かがサイボーグの首元に突き刺さると、そのまま内部に電流が流された。
「があぁぁぁぁあっ?!」
飛んできたデバイスによって沈黙した大男はそのまま白目を剥いて気絶する。幸いにも飛んできたデバイスはスフェーンには感電しない対象のみを鎮圧させるための特殊なものだった。
そしてそんな大男を見下ろした後に廊下を見ながら問いかける。
「んで、なーんでずっと隠れていたんですか?」
「…なんだ、気づいていたのか」
するとフード付きの光学迷彩が剥がれ、上まで閉まったチャックが開くと暗闇の廊下からあの男が現れた。その様子に部屋にいた女達はただただ怯えていた。
「えぇ、ずっと部屋の前で隠れていたんでしょう?」
「ああ、そうだ」
すると男はスフェーンに銃口を向けた。
「なら、君は始末しておかないとな」
そこでスフェーンはふんっと笑った後に男に言った。
「何を言うのやら…
軍警の癖に」
その瞬間、男はピクッと一瞬動きが止まった。
「どう言う事だい?」
「まぁ、初めから違和感はありましたよ」
そこでスフェーンは男を見ながら追求する。
「歩き方がやけに軍人寄りだったり、さっき女性を運ぶ時に軍警が使うサイボーグ鎮圧用のデバイス使ったりしてましたので」
しかし、スフェーンの言葉に男は反論するように答える。
「軍警の品が裏に流れるのはよくある事じゃないか」
そんな男に軽く鼻で笑ったスフェーンは男に言う。
「そうやって言い訳をしている時点で軍警を名乗っているようなものですよ」
スフェーンの指摘に男は軽くため息を吐いた。
「はぁ、やれやれ負けたよ。まさかお嬢さんに見破られるとは…」
するとその男は手帳を見せながら改めて自己紹介をした。
「俺の名はロト、この地獄で潜入捜査官をしている治安官だ。階級は中尉」
その男はスフェーンにとってもよく知っている人物だった。




