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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
六両

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52/336

#52

サラを目的地まで運ぶ為に、列車を深夜も走らせるスフェーン。


自動運転に切り替えて運転台から離れると、そこではネグリジェにナイトキャップを被ったサラがまだ湯気の立つカモミール・ティーを傾けて優雅に過ごしていた。

これはさっきスフェーンが夜に紅茶が飲みたいと言ったサラのために淹れたお茶だった。


「まだ起きていたんですか」

「あら、貴方の方こそ」

「運び屋は寝られる時に寝るんで大丈夫ですよ」


そう答えると、スフェーンはコーラ味の電子タバコを吸い始める。


「ふぅ…」


そこで一息吐くと、じっと自分を見ているサラ。


「何ですか?」

「いいえ?何でも」


スフェーンに少し目を閉じて答えるサラに少し訝しみながらも自分の淹れた紅茶を飲む。


「あとどのくらいで到着?」

「まぁ、このままだとあと一日。と言ったところでしょうね」

「そう…」


到着までの時間を聞き、サラは再び紅茶を飲むと、スフェーンは言う。


「だから朝まで寝てていいですよ?」

「そうね、これを飲み終えたら寝るとするわ」


鞄の中に着替えまで持ち込んでいた彼女は今は純白のネグリジェとナイトキャップを着ており、普段ナッパ服や下着姿で寝ていたスフェーンとは大違いだった。

そしてサラはカップをテーブルに置くと、スフェーンに話を切り出す。


「あんな昼間のような事で怯まないのは流石ね」

「あんなのスラムじゃあ、ありふれた景色でしょう?」

「ええ、それもそうね」


サラもスラム出身の孤児だ。たまたま親がカジノ王で、母は出産時に死亡。彼女が生き延びられたのも、恐らくスラムに訪れる慈善団体が何かしらの支援をしたからなのだろう。


「あそこは兎に角治安が最悪ね。ど底辺」

「どの街でもブレないねぇ。そこは」


基本的に大きな都市になればなるほど、スラム街も大きくなる。そしてここら辺で一番大きいベガスシティにも当然スラム街は存在しており、その大きさもまた巨大だ。

特にカジノと言った賭博で繁栄して来た都市故にそこで大金をふっかけて爆散した奴なんかも中にはいるわけで…。


「悲惨だな」

「ええ、特にカジノで爆散して来た人はね」


賭博に財産をかけて破滅するのはよくある景色だ。それで地元まで帰れなくなって、街のスラムにはそうした賭けに負けて落魄れた奴が大勢いた。そう言う点では、ベガスシティのスラム街は他の街と少し違うのかも知れない。


「でも、そうしたスラム街の中でも子供だけは食い扶持に困る事はない」

「まぁ、企業に取っちゃあ割のいい投資対象だからな」


子供というのはその能力は未知数だ。大人のスラム街に住む人間は多くがインプラントチップを埋め込んでおり、過去の経歴はそれを読み取れば一瞬で分かってしまう。

即戦力を欲しがる時はそう言う大人の中でも過去の経歴がマトモだったり一度もクビになっていなかった者達を雇う。そう言うのは再就職に失敗したような奴らだからだ。そしてマトモな奴じゃないのは即座に切り捨てられ、夢を強制的に絶たれる。


「私も、企業の投資活動を見ていたわ」


その代わり子供は、まだインプラントチップを埋め込んでおらず。過去の経歴も無いので、企業は後の戦力足り得るかも知れないスラムの子供を引き取って教育を施す。そこで能力のある子供はそのまま企業に採用され、足りえない者達は再びスラム街に送り返される。

教育に金はかかるが、優秀な子供も得られるので。相対的に見ると良い人材を早く囲えるので子供は良い投資対象となるのだ。


「まぁ、そこで遺伝子調査されたから親が分かった訳だけれども…」


そんな子供への投資活動の中には、子供の遺伝子登録や健康診断と言った公共福祉に関する内容もあり、そこで彼女も遺伝子登録を行ったのだろう。


「きっとおったまげたでしょうね。半分カジノ王と同じ遺伝子が混ざっていたのだから」

「ははっ、それはさぞ。腰を抜かしただろうね」


そんな話をするスフェーンはサラを見ると少し顔が緩む。


「いやぁ、その時の顔を見てみたいもんだ」

「お父様は心底驚いた様子だったわ。スラムで私達を引き取って…」

「へぇ…そうなんで…すか…」


うつらうつらと船を漕ぐスフェーンは、吸っていた電子タバコを机に置き、眉間に指を当てる。


「あらっ、ちょっと眠たくなってきたな…」

「きっと疲れているのよ」


スフェーンにそう言うサラ。


「あぁ、不味い…眠むっ」


そこで軽く目を擦ってそのまま机に腕を置いてその上に顔を置くと、そのまま寝息を立て始める。




そんな眠りこけたスフェーンを見ながら最後の紅茶を飲むと、彼女はそのまま寝たスフェーンを抱き抱える。


「ごめんね」


そしてそのままスフェーンを抱き抱えると、ベッドの上で寝かせてそのまま彼女の着ていたスーツを脱がせると、少し楽な格好にさせる。

ジャケットやホルスターは取って丁寧に畳んでちゃぶ台の上に置く。髪を縛っていたゴムバンドもまた同様に取って置く。


「…ふぅ」


そしてそのままサラは自分の入れた睡眠薬で眠るスフェーンの服を脱がせ、鞄の中から一着の薄い灰色のネグリジェを取り出す。


「…」


それが一夜限りの我儘というのも分かっていたし、後でめっぽう怒られるのも予想していた。だけどこれだけはどうしても今回の旅でしたかった。


「あとで私を殴ってもいいからさ」


そしてサラは取り出したネグリジェをスフェーンに着せると、そのままサラは真横で寝る。


「…グレイ」


あの子と同じ、灰色の髪の少女。だけど瞳の色は全く違う少女。


「…」


そこで少しの願望を交えながらサラはゆっくりとスフェーンを後ろから優しく抱きしめると、そのまま彼女の髪に顔を埋める。

一定の寝息だけが聞こえ、彼女の髪からは何も感じない。汗の匂いも、さっきまで吸っていた電子タバコの匂いも。


「もし生きてたら……」


もし、あの子が生きていたら。こんな生活をできていたのかも知れない。


スラム街で一緒に生活してきた私の妹。

血は繋がっていないけど、私が世界で一番愛していた妹。いつも咳き込んでいたけど、それでも元気な笑顔を見せてくれていた。

たとえ生活がドン底でも、グレイと一緒に生活をするならそれで良かった。


私の元に父親が訪れた時、グレイを見捨てるくらいなら行かないと言って血の繋がりのある父と取引をさせた。人生で初めての大人との取引だった。

元々重いエーテル過敏症を患っていた彼女の為に私はあの父親に引き取られる事を選んだ。


「もし生きていたら…」


そして少し抱きしめる力が強くなると、スフェーンから漏れた少し譫言に意識が戻って、少し力を緩めた。


「フゥ…」


そして少し息を大きめに吸ってゆっくりと吐き出しながら再び目を閉じる。


スラムから引き取られた私達はそれぞれ別れて生活することになった。


グレイのエーテル過敏症の治療のためだったら、私は父の言う事を全て聞いた。勉学を怠らなかった。

アンデルセンの名に連ねる者として、長男の為に尽くす一人の娘として、会社の利益のために働く社会の歯車として。


そしてその間もグレイに会う事も欠かさず、治療のための病院に通って彼女の笑顔を見ていた。

スラム街で、私の記憶のある頃から一緒に生活してきたグレイ。


でもエーテル過敏症の症状は治る気配は無かった。

日に日に悪くなって行く彼女だったが、それでも私が会いに行った時は欠かさず私を見て喜んで、笑ってくれた。


「…グレイ」


欠かさず通った病院の中で、それで毎日を精一杯に生きた彼女は病院のベッドの上で静かに眠った。

幸いだったのは、私が彼女の死に立ち会えた事だろう。

最期まで私を見て笑ってくれた彼女は私の手を握って静かに『ありがとう』と言ってくれた。


彼女はアンデルセンの子では無いので、その姓を名乗る事はなかったが。それでも彼女の名前を彫った墓を作ってあげる事ができた。

どれだけ妾の子と罵られようと、ここまで努力できたのはグレイが居たからだった。

彼女の別れもしっかり出来たし、あの場に立ち会わせてくれた父や兄にも感謝している。


でもやっぱり彼女が生きていたらと時々考えてしまう。

血の繋がっている家族が居たとしても、私にとって最も愛したのは彼女である事に変わり無かった。

灰色の髪の子供を見ると、どうしても私はグレイの事が脳裏をよぎってしまう。


しっかりとお別れを済ませたはずなのに。どうしてか、いまだにグレイの事を引きずっている私がいるのだ。


そこから逃げるように私はあの街を離れて軍警や父の世話になってきた。

あの街にいると、私はどうしてもグレイの事を思い出してしまう。それが何よりも辛かった。


「もし貴方が生きていたのなら…きっとこんな生活をしていたのでしょうね…」


少し懐かしい、もう遠くなってしまったその時の思い出に静かに馳せていると、




「…なるほど、だから私について来たんですか。あんな大金払ってまで」




「っ!?」


その声に驚愕したサラは飛び起きそうになるも、スフェーンは静かに続ける。


「どうして貴方が私に会うことに執着するのか、ちょっと気になったんです」

「…」


今の格好はサラがスフェーンを背中から抱きしめたままの状態。先程まで浸っていた余韻から抜け出せずにいた。


「すみませんね、睡眠薬があまり効かない体質なんです」

「あっ、えっと…」


必死に言葉を探すも、なかなか見つからない。


「初めは睡眠薬を紅茶に入れてレズでも考えているのかと思いましたが…」


スフェーンの言っている事が正しいのなら、最初から全部演技だったことになるのか?


「まさか、ネグリジェに着替えさせられるのは予想外でしたけどね…」


そう言って軽く苦笑するスフェーンに、サラはとっ散らかった思考を引き寄せた。


「ご、ごめんなさい…」


とりあえず出て来た言葉を伝えて、抱いていた腕を解こうとするサラにスフェーンはそっと腕を添えた。


「まぁ良いですよ。貴方に悪意がないのは感じれますので」

「……」


そう言い、スフェーンはベッドで横になったままサラに静かに言う。


「一日くらいは、我慢出来ますから」

「…ありがとう」


その意図にサラは目を閉じて回していた腕に少し力を入れてスフェーンを引き寄せると、背中で濡れる事も構わず静かに涙を流していた。

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