#51
高額依頼に目が眩んで、サラを目的地まで運ぶスフェーン。
行き先は少し遠めの中規模都市、ここからだと休憩込みで丸一日かかる場所だ。
「途中に、幾つか休憩できるおすすめの街があるわ」
「ほうほう、じゃあそこで休憩でもしますかね」
基本的に今回使う鉄路は全て危険度1の安全地帯だ。幹線を主に通るので、野盗の襲撃を考慮する必要はなかった。
ただ少し距離があるので、時間が掛かる。
「しかし…」
そこでサラはスフェーンの部屋を改めて見回しながら呟く。
「貴方の部屋、狭いわね」
「もともと一人暮らしなんだから、我慢しんさい」
前に子供三人を乗せた時は、まだ身長がスフェーンより小さいからこそなんとかなったが。スフェーンより大きい人間が入ると、それだけで窮屈になってしまう。
「じゃあ私はベッドね」
「え?」
思わず振り向いてしまうスフェーンだったが、サラはさも当然のように言う。
「だって、私は依頼主よ?依頼主に一番良い場所を提供するのは運び屋のお仕事でしょう?」
「……」
しかしスフェーンは大部嫌な顔をするので、サラはそんな彼女に言う。
「なら、依頼料を値下げしようかしら?」
「ぐっ…」
こう言う時、圧倒的に優位に立てるのは金を持っている奴だ。反論の余地の無い強気の姿勢にスフェーンは折れるしかなかった。
「分かりましたよ。お好きに使ってください」
スフェーンは諦めて運転室の通路に向かうと、サラは聞いてくる。
「あのレーズンはないのかしら?」
「…はいはい、出しますとも。お嬢様」
どうせ依頼料引き下げを餌に色々と要望してくるに違いないが、曲がりなりにも目の前に座るは良識あるお嬢様。噂の双子と違って備蓄分を全部食う事は無いだろう。
「よ…っと」
列車の食糧庫から詰まったレーズンを一つ取り出す。あの街で麻袋分を購入したスフェーンはまだまだ乾物を残しており、偶に夜中のつまみで食べていた。
「ふーん、まだまだあるじゃない」
「っ!?」
猫がきゅうりを見たような驚き方をするスフェーン、真後ろではサラが備蓄された乾物の袋を見ていた。
「あげませんよ」
「こんな量食べたら逆に変な病気で死ぬわよ」
そう言い、麻袋の半分以上もあるレーズンに苦笑するサラ。
「しっかし、色々詰め込んでいるわね。店?」
「趣味ですよ、一応これでも料理するんで」
そう言いスフェーンは取り出したレーズンを小皿に置くと、それをサラに差し出した。
「厳重に鍵までしちゃって…」
そう言い、食糧庫に繋がる扉にしっかりとアナログの鍵までされている事に苦笑すると、部屋に戻るスフェーンは言う。
「ええ、どっかの車上荒らしみたいに勝手に列車に乗り込んでくる野郎への対策ですよ」
「絶対つける順番間違えてるって…」
食に対する執着が強いスフェーンにただならぬ強い意志を感じると、サラはどこか価値観のずれているような気のするスフェーンを見ていた。
サラを目的地まで移送する途中、二人は休憩がてら小さな街に到着する。
待避線に列車を停止させ、運転室の扉を開けるとそのまま散弾銃を背負い。サングラスを付け、黒い肩掛けバッグを下げるスフェーンが最初に降りた。
「どうぞ」
「どうも」
そして振り返って降りてくるサラの手を取ると、彼女はやや苦笑気味に彼女の腰から見える散弾用スピードローダーを見る。
「そこまであからさまにする?」
「ええ、相手を先に威嚇するのも揉め事を避ける良い手段です」
そう言い、スフェーンはKS-23MとS&W M3を常に持っているサラにややジト目で見返す。
「では、今日の夜九時には出ますので」
「ええ、九時ね。分かったわ」
時計を確認し、二人は別れて街に入る。
スフェーンは街の銃器店に用事があったので、店の扉を押すと店内で今度は少々小太りの禿げたおっちゃんが店番をしていた。
「いらっしゃい」
そして店主は散弾銃を背負うスフェーンを見て察した様に聞いて来た。
「本日は何用で?」
「コイツに使えるバヨネットラグと銃剣、あと弾薬が欲しい」
「はいはい、弾薬以外は後ろにあるよ」
そう言い、店主は銃器やその他オプションパーツの付いた店の店を指差すと、スフェーンは欲しい弾薬を口頭で伝える。
「あと.357マグナムを二箱」
「はいよ」
注文を伝えると、スフェーンはオプションパーツを手で取って試してみる。
「これだな」
そしてなんとか会いそうなものを確かめ、それを手に取ると次に新しいホルスターも手に取り。その時、ガラスケースの中に入っていた一丁の拳銃を見た。
「おっちゃーん」
「ん?何だい?」
そこで店主のおっちゃんを呼び出し、ガラスケースの中の拳銃を指差した。
「これ一つ」
「はいよ、ありがとね」
少々、金額がカツカツになるが。今後のことを考えると購入しておいた方がいいだろうと思って、それを選んでいた。
「あとここって下取りやってる?」
「ああ、やっているよ」
店主に確認を取ると、スフェーンは鞄から今まで使ってきた拳銃の予備弾倉やホルスターを取り出した。銃弾はもしかすると使うかもしれないので残していた。
「これを下取りに、あとは払うよ」
「分かった」
そしておっちゃんは簡単に下取りの値段を見せて、スフェーンも頷くと支払いを行い。購入した弾薬と拳銃を鞄に仕舞って店を後にした。
『スフェーン、新しく銃を持つ必要はありますか?』
そこでルシエルが疑問に思った様子でスフェーンに聞くと、彼女は購入したS&W M327 TRR8を購入したホルスターに差し込むと其れを一旦ジャケットを脱いで利き手じゃ無い方の脇に差し込んでいた。
「何、貰った銃は大切にさせてもらうだけよ」
そう言うと、スフェーンはサラから貰ったMP-412 REXを利き手の方のホルスターに差し込む。
それぞれ.357マグナム弾を使うリボルバーで、装弾数はそれぞれ八発と六発。故にスピードローダーを使うことなく裸のまま弾薬をポケットに入れていた。
「まさか至近距離で通常の5.7mmが効かないアーマーが出てくるとは思わなかった…」
『このような世界でも技術進歩をしている証ですね』
「あまり嬉しく無いけどね」
スフェーンはそう言って軽く苦笑してあの驚愕した時の景色を思い返す。きっとあの時の自分の顔はさぞ驚いていたに違いない。
『その時の映像をお見せしましょうか?』
「阿呆、誰が好き好んで自分の恥ずかしい映像を見るか」
そう返すと、スフェーンは街の食堂に入る。
「あら?」
そしてそこで偶然、別れたはずのサラと運よく出会った。
「運が良いですわね」
「これから夕食?」
「えぇ、貴方もでしょう?」
サラはスフェーンを見ながら聞いてくると、軽く頷いた。
「じゃあ、一緒に食べます?」
「あら、貴方から提案とは珍しいですわね」
少し嬉しげにするサラに、スフェーンは少し笑みを作ると二人で店のメニューを見ていた。
「ご注文は?」
「フライドチキンとピザ、それからオニオンブロッサムを」
「了解」
「それから私には紅茶を」
「私はコーラで」
注文を受け取ってサラは紅茶、スフェーンはコーラを注文するとアンドロイドの店員が去って行き、二人はそれぞれ向かい合って話し始める。
「コーラとはまた随分ジャンキーな……」
「お嬢様のお口にジャンクフードが合う事が驚きですよ」
「あら嫌ですわ。伊達に市井に出ておりませんもの」
どこかの貴族のようなやり取りをする二人、しかしその表情は楽しげだ。
「ジャンクフードに紅茶?」
「あら、人の好みはそれぞれでして」
サラの嗜好にとやかく言うつもりはないが、ジャンクフードに紅茶という選択には少々疑問が残る。
「値段は割り勘でいいですか?」
「ええ、その方が喧嘩にならないでしょう」
すると店を巡回するカートに注文した料理が乗せられて目の前に届く。
大きめのピザにフライドチキン、それからまるで花のように開いて軽く小麦粉をまぶして揚げられ、真ん中にチーズソースの入った容器の置かれたオニオンブロッサム。それらが二人のテーブルに並べられた。
「さて、頂きましょうか」
「あぁ、もう腹減ってしょうがないよ」
そう言い二人は出て来た料理に齧り付いた。
サラは曲がりなりにもお嬢様と言うべきか、食べ方も少々小綺麗で。着ているお気に入りなのだろうワインレッド色のドレスにシミひとつ作らない。
「しかし、スラム出身で良く引き取られたものだ」
食事の途中、スフェーンはサラの生い立ちに軽く触れる。
「あら、羨ましいのですの?」
サラはスフェーンに聞くように返すと、彼女は軽く首を横に振りながら答える。
「いや、私は今の生活に満足していますよ」
「そう…」
「何故そこで残念がる」
スフェーンは軽くジト目で返すと、サラは揚げた玉葱を一つとってチーズソースにつけ、そしてそれを食べながら答える。
「貴方を妹にしたいから」
「…はい?」
真面目な様子でサラは少し小さめな声で呟くと、スフェーンは一瞬驚いた後に軽く笑う。
「何を馬鹿な事を…」
適当にあしらって答えたスフェーンにサラは一瞬手の動きが止まると、納得した様子でいう。
「…そうよね、貴方は運び屋ですものね」
「ええ、今回だって貴方に依頼されたから目的地まで運んでいるだけですよ」
少し冷たく答えるスフェーンに、少しだけサラは羨望の目を向けた。
「羨ましいわ。貴方みたいに自由に生きる人間が」
「そうですかね?色々と危険もありまっせ。運び屋は」
「それでもよ」
そう答えると、二人は世間話を軽くしつつ、夕食を済ませていた。
「しかし、いつもこの景色だけは変わらないわね」
「エーテルですか…」
陽がすっかり落ち、夜の景色になってもまだ見える活性化エーテルのオーロラ。昼夜問わず降り注ぐそれは誰が見ても美しいと答えるはずだ。
「でも、この景色が私は忌々しいわ…」
サラはそんな空を見上げたまま、小さく呟く。その時、彼女はどんな表情をしていたのかは分からなかったが。彼女はスフェーンを見ると、手を取って先導する。
「さっ、行きましょ。お父様たちが先に着いてしまうかも知れないわ」
「…あぁ」
スフェーンはそんな彼女に深入りしようとは思わないが、変な気だけは起こさないでくれと願いながら駅に向かった。




