#47
「くそっ、コイツら誰だよ」
追加で登場したサイボーグに慌てて建物裏に隠れ、思わずスフェーンは叫ぶ。
「恐らく…私を人質に取りたいライバル社の阿呆どもですわ」
そんな彼等を冷静に、律儀にお嬢様言葉で答える少女。
「あぁ畜生!デジャブじゃねぇんぞ…!!」
そう愚痴るスフェーンは恨む目を少女に向ける。
「変なことに巻き込みやがって!!」
「あら、だったら一人倒した時点で逃げればよかった物を」
「できたら苦労しねえだろうが!!」
こんな場所でおっ始めやがって、誰か通報したらすぐに軍警が飛んで来れる位置ぞ。
「通報は無理でしょうね、すでに人払いがされて居るかもしれないですわ」
「…あぁくそっ」
すでに買収済みかと軽く愚痴ると、スフェーンは持っていた拳銃を取り出すと、その引き金を弾いた。
パンパン
二発の弾丸は無事に命中したが、超硬ワックス弾では装甲にあたっても直ぐに砕けて効果が無かった。
「チッ、無駄か」
基本的に拳銃弾サイズの超硬ワックス弾の効果があるのは一般的なサイボーグの急所から軽装甲サイボーグまで。それ以外となると同じ場所に当てると言う神技でもできない限り無理だ。
「あぁ、めんどくせぇ!!」
そこで弾倉を抜いてスライドを引いて弾丸を出すと、新しく実弾入りの弾倉を入れて発砲する。
カン!
「っ!?」
しかし、5.7mm拳銃弾は撃ってくるサイボーグの頭に命中するとそのまま弾丸が弾かれた。おかしい、普通頭の装甲は拳銃弾でも致命的になりやすいはずだ。
「そんな豆鉄砲じゃあ、最新の重装甲サイボーグ相手には無理よ!」
そこで物陰から顔を出して拳銃の引き金を引いた後にレバーを押して中折れ式の弾丸を弾き出す少女。
「チッ、どんなアーマー使ってんだ」
「野盗やPMCとは大違いでして!」
そう言うと彼女はリボルバーを仕舞い、カーディガンの下から一丁の銃を取り出す。
「っ?!」
KS-23Mを片手に持った少女に一瞬驚くと、彼女は安全装置を切って引き金を引いた。
ドォンッ!!
「ひぇっ!!」
その直後に発射されたソリッドスチール弾は容易に重装甲サイボーグの腕部を吹き飛ばす。
カチャ ドォンッ!!
そしてレシーバーを引き、次弾を発射すると二人目の重装甲サイボーグの脚部を破壊する。
「さっ、さすが大口径散弾銃…」
そしてもう一発発射され、サイボーグの腹部を貫通。もう一発は倒れたサイボーグのガトリング砲を吹き飛ばす。
一回撃ち切り、再装填中を狙って接近してくる重装甲サイボーグにスフェーンが発砲する。大した効果はないが、注意を散漫させるのには十分だった。
「中々やります事ね」
「生憎と、変態サイボーグの相手は良くしていたんでね」
サングラスをつけており、こんな時間ではほぼ視界ゼロのはずだが。それでも射撃能力は高いので、バイザーかと推測する少女は三発の銃弾を入れて引き金を弾くと、
「お嬢様!!」
そこに先ほどの女性型アンドロイドを筆頭に数名の別の黒服に身を包んだ少女のボディーガードが現れると、襲撃してきた重装甲サイボーグ達は軽く舌打ちをした後に消えていった。
「くそっ」
そして消えていった重装甲サイボーグを見送り、スフェーンは軽く息を吐いた。
「終わったか…」
穴だらけになった貨物ターミナル、そこでボディーガードに囲まれた少女を見ながらスフェーンは拳銃を仕舞って男に刺した銃剣を抜いていた。
「全く、面倒なことに巻き込まれたものだ…」
するとルシエルが言う。
『スフェーン、この襲撃者の個人情報を解析いたしました』
「おっ、そう」
するとスフェーンの視界に先ほど袈裟斬りしたサイボーグの情報が入る。
『襲撃を行った重装甲サイボーグは、クローン兵の一人です。調べました所、マシュルー・グループ所属のPMC兵士の様です』
「クローン兵か…」
地面に倒れた重装甲サイボーグに軽く目を瞑って黙祷を捧げると、先ほども出会ったアンドロイドが話しかけてきた。
「スフェーン・シュエット様で御座いましょうか?」
「ええ、そうですが。何か?」
軽く首を傾げると、そのアンドロイドは一通の封筒を取り出しながら言う。
「ご当主様より、スフェーン・シュエット様への謝罪文でございます」
「あぁ、そうですか」
思ったよりも早く謝罪文が届いたと思いながら、同時に軍警経由じゃない事に軽く苦笑する。どうして金持ちは軍警を通さないのか…いや、この場合は恐らく例外だろう。
「そして、お嬢様より提案がございました」
「提案?」
そこで本格的に首を傾げたスフェーンはアンドロイドからその提案とやらを聞いた。
「此度のお嬢様より。御礼として、我がベガスシティ・サンズへの宿泊を提案しに参りました」
「……」
オーマイガッ、なんかすごい場所にごあんな〜いされちまいそうだぞ。後ろでは例のお騒がせ少女が自分を見てニコリと笑って手を振っていた。背筋がとても冷えた。
「い、いえ…その、こんな自分で良いのですか?」
「ええ、構いません。お嬢様の事情に巻き込んでしまった事は事実ですので。異論はございません」
すると上空に二発の中型ティルトローター機が現れ、近くの開けた場所に着陸する。
すると、少女はアンドロイドを軽く押し除け、困惑するスフェーンの手を取って引っ張った。
「あっ、ちょっ…」
「さっさとお礼がしたいから、乗ってくださいまし」
そして半ば拉致のような具合でティルトローター機に乗せられるとそのままボディーガードも乗り込んだ後にティルトローター機は離陸して行った。
ベガスシティのビルの合間を縫うように飛行するティルトローター機、その機内でスフェーンは呆然と見回す。
どうしてこうなった、おかしい。私は中華料理屋で食事を摂った後に列車でゆっくり過ごして明日の朝には仕事を探そうと思っていただけなのに……。
「こんな漫画みたいな展開求めてない…」
「あら、漫画みたいですって?」
すると反対の席に座る少女は片手にウェルカムドリンクのシードルを飲みながら一言。
「事実は小説よりも奇なりですわよ」
慣れた様子で椅子に深々と座る少女に、スフェーンは聞く。
「そもそもあなた何者よ」
「え?私を知らないんですの?」
スフェーンの発言に割とガチ目に驚く少女。そりゃそうだ、今までこんなお嬢様相手に直接話した事も無いし。
「ええ全く、そもそもここに来たの。今回が初めてですしお寿司」
「……」
それが本当である事を感じた少女は軽くため息をついた後に、改めてスフェーンを見ながら挨拶をする。
「私の名前はサラ・アンデルセン。アンデルセン一族に名を連ね、ベガスシティのカジノ王であるシェリド・アンデルセンの娘ですわ」
Oh、名前聞いた瞬間に分かる。こいつは超金持ちの娘だ。
するとサラに近づく、アンドロイドに目線をやりながら彼女を紹介する。
「このアンドロイドは私の主任執事のメアリー」
「改めてましてスフェーン様。ご紹介に預かりました、家事護衛専門アンドロイドのメアリーでございます」
女性型アンドロイドのメアリーはそう言って一礼すると、スフェーンも軽く頭を下げる。
「カジノ王…」
その称号を市井から与えられるほどの富豪。その娘が車上荒らしをしたとなれば…。
「これは脅し?」
企業の黒い部分を消すために、自分は体の良い誘拐でもされたかと思うと、少女は答える。
「我が家は脅迫などと言う低脳な事は致しませんわ」
「じゃあどうして私を連れ込んだ?」
「はぁ、先ほども申したでしょう。私からの好意ですわ」
その言葉に嘘はなく、スフェーンはそこで改めて悪意の無いものだと信じる。…と言っても体の良い買収だろうなと思いながら。
まぁ、買収であるならば大人しくして美味しい部分を貰うだけだ。
ここで余計な正義心を掻き立てれば次にあるのは死だ。こう言う上の人間のテリトリーで、下の人間の命は軽い。戦場で非戦闘員の民間人の命が軽いのと同様、テリトリー毎に人権の有無は変わってくる。
この世界では欲をかきすぎると次に命は無く、また金に驕れても命が消える。上手く出来た社会だ、曲がりなりにも秩序が一欠片残っているこの世界で長く生き残るには出過ぎた欲をかかない事だ。だが、無欲もまた身を滅ぼす事になる。
「では、ありがたく好意を受け取らせて頂きます」
「素直でよろしい事ですわ」
サラはそんなスフェーンに好感な様子でティルトローター機は街中を飛行すると、街で最も大きい統合型リゾートに備え付けられたヘリポートに着陸する。
「ここがベガスシティ・サンズですわ」
「うわぁ…」
超巨大なホテルにプール、カジノや劇場、テーマパークといった娯楽施設の全てが凝縮されたような施設。
ベガスシティに於いて唯一その名を名乗ることが許されるカジノ王、その人物が管理する一大統合型リゾート、この都市で最も最新にして最大となるその場所は。傲慢にも都市の名前を冠した富豪の遊び場だった。
「ハハハ…」
何もかもが桁違いだ。
ポンと置かれた花瓶だけで軽く私の一生分の稼ぎになるかどうかの価値がある。そんなような場所にいきなり貧乏な運び屋が連れて来られると、
「……」
緊張で何も言えなくなる。恐ろしいすぎて脚がすくみそうになる。こう言う場所は傭兵時代でも来なかったので、不慣れとは恐ろしい。
「さぁ、私が直接案内をして差し上げますわ」
「え?貴方が?」
「何か異論でもお有りで?」
直接サラが案内する事にややスフェーンが驚くと、彼女はそれに違和感を持っていない様子で返した。
「…いえ、何でも」
まるで自分より上の立場の人間を客にしているような感覚で、恐ろしさが勝ってしまうが。幸いにも拳銃といった武器等は持って行かれていないので、自分の身を守る事はできた。
『ベガスシティ・サンズの館内地図を検索いたしました』
「了解、出して」
そして今いる場所が赤く点滅する立体地図を見ながらスフェーンはサラと共に歩くと、彼女はある一部屋を案内した。
「さて、着きましたわ」
「ここは…」
ホテル区画の中でも良さげな部屋、上の下ほどの部屋だが。ここに泊まるだけでスフェーンの稼ぎでは一年必要なほどの良い部屋だ。
「すげぇ、良い部屋」
「ご満足で何よりですわ」
そう話すサラに、スフェーンは部屋の扉が閉まるのを確認する。
「今日はここで過ごしてくださいまし。私なりのお礼だと思って」
「ありがとうございます」
確実に正規の手続で泊まっているわけではないが、スフェーンは有り難く金持ちの好意を啜るとサラは最後に、
「貴方とは良き友人になってみたいですわ」
少し羨やむように溢した彼女に、スフェーンは少しサングラスの下で目元を細めた。




