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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
六両

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44/336

#44

エーテルは三つに分けられる。


一つはただのエーテル。

これは最初期に発見された物質であり、無味無臭の人が飲んでも安全と謳われた物質だ。ただし飲んだら下痢になるが…。

一般的にエーテル機関の燃料として使われ、世に一番流通しているエーテルだ。




次に活性化エーテル。

これはエーテルに電気的な微弱な刺激を与えることで生成する誘導体のエーテルであり、こちらは体内に過剰に蓄積されると衰弱を引き起こし、最終的に死に至る。

大災害の直接的な原因とされ、企業や軍警が最も恐れているのがこの活性化エーテルだ。

人や動物、植物の全てを飲み込み。星を無に期した厄災の元凶。


活性化エーテルは少量であれば問題ないが、多量の活性化エーテルは空から降り注ぐエーテルと反応してその大地が死の土地と化す場合がある。

通常のエーテルに比べて爆発的なエネルギーを発し、現在のエーテル機関の多くはエーテルを活性化させ、それを制御することでエネルギーとしている。




最後に臨界エーテル。

これはほんの極一部にしか現れない、活性化エーテルがさらに変化した状態を指す。

臨界エーテルの詳細はほとんど一般人の知るところではなく、使用するには加圧型エーテル炉と呼ばれる特別なエーテル機関を装備する必要があり、非常に大型となるので一般に出回ることはまずなかった。

生成方法も失われたと言われており、一部では活性化エーテルに更に特別な刺激を加えることで発生すると言われているが、大抵の人間は臨界エーテルを目にする事はほぼ無かった。






====






エーテルはこの世界での生命線。人々が明日も生きるための絶対的なものであり、私たちはその恩恵に預かっている。

企業や軍警もエーテルの下で生きており、エーテルがなかった場合。この星は忽ち滅びていただろう。


ただ、大災害の時に打ち上がった活性化エーテルが常時降り注いでいる事で、この星の人間は完全サイボーグでもなければ最大で七〇年程しか生きることができない。これは完全サイボーグの約半分だ。


故に、長生きしたい人間は稼いだ金で順々と身体を改造していき、最後に一番金のかかる脳の機械化をすることで約束された長寿を全うする。


体の部位の中で最もサイボーグ化され易いのは四肢、特に腕である。脚よりも機械化した際の恩恵が大きく、需要が最もあるので腕の中に武器も内蔵できるほどまで進化している。必要は発明の母とはよく言ったものだ。


『まもなく、目的地です』

「ん…」


運転室で帽子を顔にかぶって足を前に乗せてだらしない格好をしていたスフェーン。

帽子をとって前を見て、遠くに映る新たな都市を眺める。


「あそこか…」

『ベガスシティ、眠らない街と称される大陸随一のギャンブルの都市です』


遠くに映る無数のビルや旅客車両。そして何より、昼間だと言うのに煌びやかで派手な外観をしたカジノやホテルがスフェーンの目にこれでもかと見せつけてくる。




ベガスシティ


荒野の窪地に残っていたオアシスを中心に大災害以降に作られた俗に言う新都市と呼ばれる形の都市だ。

カジノ・競馬・競艇など、ありとあらゆる賭博場が存在し。欲望と夢を呑みこむ、まさに富豪の為の遊び場であった。


「おぉ〜…」


『Welcome to Fabulous Vegas city』と書かれた大きな看板の横を列車が通り過ぎていく。

旅客列車や貨物列車が多く行き交い、街の郊外に存在する貨物ターミナルはもう一つの街を作り出すほどの大きさを持っていた。


『制限速度区間に進入します』

「はいはい」


今回は企業からの指名依頼が入り、嗜好品の入るコンテナを輸送していた。

六両編成の車両はそのままベガスシティ貨物取扱センターに進入すると、そこで運輸ギルドからの承認を貰っていた。


そう、六両。この前コンテナ車を新たに追加したのだ。

武装強化を行った際に余った資産を勢いで突っ込んで増やしていた。


「さて、ベガスシティには何があるかねぇ」


眠らない街として有名なベガスシティ、ありとあらゆる娯楽が存在し。その中には高級レストランも含まれていた。


『今回の依頼で入る金額ですと、まず初めに服装を整えた方がよろしいかと……』

「…ゲェ〜」


スフェーンはそこで露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


『スフェーン、この都市は富裕層や上流階級が多く集います。前のウリヤナバートルと比べても、圧倒的に富裕層が観光で訪れています』

「スカートは嫌ぞ」

『せめてナッパ服はやめた方が良いかと…』


所々油が付着し、紺色のナッパ服は少々匂いが付いていた。今まではそういった場所に行ってもゴリ押しやローブで隠していたが、ここでは流石に限界があった。ローブももう無いし……。


『如何でしょう、女性らしいドレスを見繕いますが…』

「いる?」

『スフェーンがこの都市で満足な食事をしたいと言うのであれば』

「うーん…」


確かに男でも、女物の服を着るのが好きな奴だったり女装してたり。ニューハーフのやつも見たことあるが…いざ自分が着るとなると少し抵抗感があった。


「せめて男っぽい服にさせてくれ」


結局スフェーンは折れてせめての妥協を言った。






ベガスシティを歩く時、ローブを失ったスフェーンは代わりにガスマスクと帽子をして街を歩く。

この時代、ガスマスクを付けて市井を歩くと言うのも特段珍しい事では無かった。なぜなら、


「エーテル過敏症か…」

「あんな幼いのにねぇ…」


どこか哀れんだ目で見て来る富裕層の人々、身なりも油付きのナッパ服ということでこの街のスラムの子と思われているらしい。

まだ蹴飛ばされないだけマシだなと思いながらスフェーンは拳銃を隠し持ちながら街を歩く。


空間を漂うエーテルに対し、咳き込んでしまう病気であるエーテル過敏症。軽度であれば花粉症に症状は近く、大した問題ではないが。重度になると酸素呼吸器をつける必要が出てくる厄介な病だった。


本物の方々には申し訳ないが、自分の身を守る為なので致し方無い。


「いらっしゃいま…!?」


そこで街の比較的安めの服飾店に入ると、スフェーンの格好に一瞬店員は驚くとスフェーンは手短に言った。


「新品の服をくれ」

「か、畏まりました」


アンドロイドの店員はそう答えるとスフェーンはローブの購入も考えながら店内を物色する。


『もしドレスコードのある店に行きたいと言うのであれば、身なりを整える必要があります』

「金かかるなぁ…」


しかし美味い料理の為となるなら高い服を着ないこともない。

基本的に食を中心に世界が回っているスフェーンはどんな服がいいかとルシエルと相談をする。


『ドレスを好まないと言うのなら、タキシード系の服をお勧めします』

「仕立てるのか?」

『その方がスフェーンの体に合うものが提供できるかと』

「身長伸びてないからいけるのか…?」


この身体になってから身長や体重に一切の変化が無く、スフェーンとしては少し物悲しかった。

せめてもう少し背が大きくなって、できれば胸も大きくなったらなと淡い欲望を抱きながらスフェーンは店から女性用の背広を一式購入する。

紺色のスーツとベストに無地の白シャツと水色ネクタイを子供用に合わせて貰い序でに軍用サングラスを一つ。次にTシャツ三着とズボン二着、黒のインナーを選ぶ。


「有難うございました〜」


後者は特に寸法を選ばず、適当に投入するとそのままスフェーンは店を後にした。


『長袖は購入しなかったのですね?』

「必要な時にまた買えばいいさ」


そう言い、都市を歩いているとルシエルが叫んだ。


『スフェーン、列車周辺に侵入者です』

「はい?!」


寝耳に水な話にスフェーンは身体が半ば無意識で動いていた。


『列車のロックシステムへの干渉を確認』

「がっつり黒じゃねぇか!!」


慌てて走るスフェーン、貨物ターミナルに停車中の自分の列車はルシエルによって強固に固められており。時折車上狙いの被害に遭うが、その悉くを返り討ちにしていた。だが今回は違った。


『ロックシステム、間も無く突破します』

「マズイマズイマズイ!!」


赤信号を突っ切りたいが、軍警の世話になってさらに時間がかかる方がはるかにやばいので、信号の色が変わった瞬間に急いで走る。


「あぁ、畜生。こんな時バイクでもあれば……」


そんな口を軽くしながらスフェーンは貨物ターミナルに向かって走ると、そこでは扉の閉まった自分の列車が一つ。


「……」


列車のロックシステムを正規の手段で解除し、そのまま乗り込むスフェーン。その手には拳銃を持っていた。


「…」


車上狙い相手に容赦は無いので、出会い頭にうっかりがあっても軍警に証拠として突き出す。


「手を上げろっ!」


そして慎重に自分の部屋の扉を開け放って銃を向けた。


「ひぇっ!?」


するとそこでは隠れてやり過ごそうとした様子の一人の少女が蹲っていた。






その後、速攻銃を突きつけながら軍警を呼び出したスフェーン。それを泣いてやめてくれと縋られても容赦しなかった。

すると軍警の方から妙な事を聞かされる。


『その少女は身なりが良さげですか?』

「え?えぇ…ワイン色のドレスに白いブローチ付けてますけど……」


そう答えると、軍警の方から軽くため息が聞こえた後に『すぐに向かいます』と言って切った。どう言うこっちゃと思っていると、貨物センターの交番から飛んできた軍警の人がすぐに列車の扉をノックした。


『通報受けてきましたー、軍警でーす』


まるで出前のように言ったので、スフェーンは待ってましたと言わんばかりに少女…と言っても自分より身長が大きいその人を後ろ手に掴んで突き出した。


「はい、車上荒らし」

「な、なんで動けないんですの!?」


手首をしっかりと握り、満足に動けない少女は軽く驚いていると。対応する軍警は慣れた様子で呆れていた。


「またですか、サラ嬢」

「五月蝿いですわね」


良い身なりをした少女は軍警をガッと睨み返しながら答え、対応する側も呆れた様子で列車のロックシステムを確認する。


「…あー、クラッキングの痕跡ありますね」


クラッキングの痕跡を発見し、軍警の職員は慣れた様子で指示を飛ばす。


「んじゃあ、そこのお嬢ちゃんに事情聴取。サラ嬢は…まぁパトカーに乗せて」

「分かりました」

「あっ、ちょっと!!」


そのまま連行されていく少女は何やら喚いており、スフェーンは冷めた目線を向けると。軍警の職員が聞いた。


「んじゃあ、親御さんの連絡先は分かるかい?」

「あっ、私運び屋なんで居ないっす」


そう言うと職員は首を傾げていた。

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