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TS若返り傭兵は旅をする  作者: Aa_おにぎり
付属編成 二両目

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438/440

#438

スフェーンとサダミの両名は、セコイアの森での襲撃を経て確信したことが一つあった。


「これ、絶対狙ってるよね」

「じゃなきゃ説明がつかん」


炭水車の補給口を開けて30mm弾薬を補給していく途中、二人は言う。

この旅程において、まず二回も襲撃を受けたことで二人は流石に憔悴の色を見せており、一号車のオートマトン格納庫から弾薬箱を運んで受け口に投入していく。


「何狙ってんの?」

「さぁ?…まあ、後で依頼主をボコボコにする理由が増えたくらいだろう」


サダミはそう言うと真新しい弾薬を装填していく。先ほどの一戦でかなりの弾薬を消費しており、その分の弾薬の補給はセルフサービスである。


「自動補給装置買おうかな…」

「やめろ。アレ高いんだから」


スフェーンの呟きにサダミは即答すると、返されて面白くなさそうな顔を浮かべた。


「そもそもさ、この列車に人質をとりにくるってだけでだいぶ相手は絞られてくるわよ」

「引き算してみりゃわかるわよ」


正直、知りたくもない事実が出てきそうなので知らないふりをしておいた方が身のためだとスフェーン達は長年の経験で感じていた。少なくとも相場の数倍の依頼料を提示してきた時点で何か考えているのは明白だからだ。


「分かりたくもない事実だ」

「それな。まあ、金払いもいいし、会社で領収書も通るからやってるんだけどさ…」

「受けた理由はそれか…」


やや苦笑気味にサダミはスフェーンを見ると、彼女は常につけている軍用ゴーグルを使って網膜に自衛武器のガンカメラの映像を投影する。

視界の外には相対式ホームが映り、屋根上が薄汚れているのが見えた。


「まだ聴取終わらないのね」


少なくとも出発の許可が降りていない状況にこぼすと、弾薬を装填し切ったサダミが言った。


「まあアレだけの襲撃で色々と聞きたいことの方が多いんじゃないの?」

「長引くと思う?」

「三回目だからそうなるんじゃ無い?」


サダミはそう答えると、スフェーンは少し考えて無線で連絡を取る。


「こちら運転室。今から先頭車の整備をします」

『了解しました』


軽く無線でやり取りを済ませると、彼女は運転室のドアを開けて先頭の装甲車によじ登る。


「整備?」

「いや、即応弾の充填」


キャノピーを開けて中を覗き込むと、そこではロボットを操作しているシエロが顔を上げた。


『あれ、どうしましたか?』

「即応弾の状況の確認」


シエロにそう答えると、彼女は納得した様子で片手に榴弾を抱える。


「でしたら問題ありませんよ。近接と着圧も異常なしです」

「ん、了解」


射撃システムも異常は確認されず、摩耗の類も問題ない。この装甲車の主砲は76.2mm。旧式の主力戦車すら貫通可能な性能を持っており、最近の多脚戦車でも対応可能である。実際、先ほどの戦闘でこの車両は四台のオートマトンと一台の多脚戦車を破壊している。

そもそもの話、今の時代のオートマトンや多脚戦車と言うのは、37mm機関砲で胴体の一番分厚い場所を貫通できる。それで無くとも関節部などは20mm弾でも破壊が可能なほど脆弱だ。多様な武器を装備可能だが、装甲面では歩兵戦闘車にすら負けてしまう器用貧乏さが更に出る兵器であった。

ただ、七〇度のほぼ崖のような斜面でも姿勢制御で砲撃や銃撃が可能な圧倒的な地形対応能力は他を差し置いている。その為、この国では火力支援を目的に山岳猟兵師団などに多く配備されていた。


「他に不足気味のものとかはある?」

「いえ、特には無いです」


シエロの返答に問題無さそうだと確信してからスフェーンは装甲車から飛び降りる。


「うおっと」


綺麗に着地をしたつもりだが、最後に膝がカクッと耐えきれなくなって崩れた。


「気を付けろよ?体幹弱いんだから」

「おまけに体力もない。呆れたものだよ」


スフェーンはそう言ってため息を吐く。そして運転室のドアを開けて機関車に戻る。悲しいことに今でも彼女の体は体力があの幼女のまま止まっている様子だった。


「なんでかね?核は分裂しているんだろう?」

「じゃなきゃアレできないわよ」


彼女はそう言うと、事情聴取を終えたのだろう。列車から警察官が降りてきて出ていく。


『飯豊様。こちらはいつでも』


するとすぐに執事からの返答を確認し、彼女は運転席に座ってタブレットを操作する。


「すぐに指示出ると思う?」

「この時間帯でこの路線なら多分…」


司令所に出発許可の申請を行うと、タブレットに返答があった信号が切り替わった。


「ほらね」

「…また戦闘になりたくは無いな」

「全くもって同感ね」


サダミの呟きにスフェーンは大いに頷くと、列車は汽笛を鳴らしてゆっくりと走り始める。




そして列車がゆっくりと走り始めるのを窓から見ていたジョンは、携帯電話を耳に当てながら見ていた。


「ああ、分かった。あとは好きにしてくれて構わない」


すると電話の相手から言われる。


『申し訳ありません先生。これ以外に最善の方法が思い浮かばなく…』

「構わないよ。私とて、どれほど彼らに恨まれているのかが自覚できた」


そう言い、彼は先ほどの戦闘を振り返った。


かつて彼は、不老者を作り上げた人間として自らを進化した人類と唱える(アドバンスド・)人類(ホモ・サピエンス)論者に対し、はっきりと『不老者は人類の進化ではない』と言い放った。

少なくとも持論ではあるが、獣人は歴史上初めて人類が産んだ遺伝子改造によるホモ・サピエンスの分裂である。すでに彼らの登場から数世紀が経過し、多くの獣人はこのトラオムの世界に根付いていた。彼らはもはや、多数の種族に分かれて営みをしており、大災害以前に生み出された生物であった。


「私は、彼らにとっては目障りだろうからね」

『…』


ジョンはそこで自ら不老者でありながら、不老者を進化した存在ではないと否定した矛盾したことにただ淡々と答えた。

あくまでも不老者というのは『死ににくするための外科手術』であり、優れた存在ではない。彼は不老者に対してそのように定義していた。


かつて、肌の色だけで差別をしていた時代があり、獣人に対しても人と獣の間の存在であることから、長い間差別の対象となってきていた。

そんな歴史のジレンマに対し、彼は自らの身と発言をもって、ささやかな抵抗のつもりであの発言を行い、今でもその持論を崩さなかった。


しかし彼にとって意外であったのは、不老者という言葉が既に世間一般では『超人』や『仙人』のような扱いを受けていたことだろう。

彼らにとって、この不老者という不死身にも似た体を作り上げたジョンという研究者にまるで宗教の教祖の如く崇拝の対象と仰いでいた。そんな中でのこの発言である。まさに衝撃であっただろう。冷や水を被せられたと言ってもいいだろう。

この肉体を作り、尚且つ自分さえもそのように成った存在が、真っ向から優れているわけではないと言ったのだから。


『先生の判断に間違いはないです。問題なのは自らが不老不死の超人であるかのように振る舞い、その力を誇示しようとする連中の方かと』

「そうだろうかね」

『ええ』


かつての教え子に断言をされ、ジョンは少し嬉しそうに口角と声色が少し上がった。


「まあ、そうだと信じよう。少なくとも、国内にいる進人類主義者はどれくらい炙り出せそうかな?」

『特殊部隊が拘束をしたと報告があがりました。しかし自然主義者と違って国内共通の敵ではありませんから、これからもいくつか出てくることでしょう』


アニータは片手にリアルタイムで受け取った情報を伝える。少なくとも軍用の複雑に暗号化された通信であるので、まともなテロリストでもまず盗聴されない通信を使用しての通話であった。


「まあ、その時は優秀な部下に任せる。幸い、今日はとびきり腕のいい傭兵も雇っているからね」

『どうかお気をつけて。こちらでも国家憲兵の監視任務も行わせます』

「悪いね」


ジョンはそこで電話を切ると、聞いていたユウナが少し苦笑気味で彼に話しかける。


「後でスフェノスさん達に殴られるわよ?」

「構わんさ。その分、特別報酬が向こうから振り込まれるはずだ」

「それ、逆に激昂するのでは?」


ユウナは今までの経験からそんな疑念を抱くと、ソファに座って彼は当然の如く言う。


「アンナを預けてきた借りだ。当然だろう?それに彼女達は賢いから振り込めば文句も言わなくなる」

「えぇ…」


なんとも清々しいコンニャク(札束)ビンタに彼女は顔が引き攣ってしまう。

スフェーンとの出会いももう長いこと経過しており、その過程でスフェーンからアンナを養子に迎えたこともよく覚えている。

はるか昔、まだ不老者もできていない頃に二人は一度子供を設けた。たった一人の娘で、夫妻はよく可愛がって育てた。

しかし、その後にジョンが不老者の技術を開発してその非検体に彼が志願した時、彼女もまた続いて志願をしたことで見た目の変わらない体に作り変えた。その後、娘は嫁に出され、そこで孫や曾孫を見た。


そして不老者にならなかった娘が先に死亡した。不老者であった為に、親よりも先に娘が棺の中に入れられた。後にも先にも、子を成したことを後悔したことはなかった。不老者の夫婦の自殺率の高さというのが問題視される前の話である。

それ以来、二人は子供を作ることもなく長い時を、時に自然主義者による命の危機を感じながら転々とした暮らしをしていた時にスフェーンからの呼び出しである。


「懐かしいわね…養子なんて初めてだったわ」

「正直、こんなことをする子だとは思っちゃいなかった」


そう言い、今の爵位を受け取った彼はため息を漏らす。一時は伝承に準えてサン・ジェルマン伯と拝命する予定であったのが、実際はまさかの本名である。今でも数は少ないが、一部の人間は自分のことをそのように呼ぶ人がいた。


しかし想像できるだろうか、かつて異能の使い方についてイロハを教えた弟子が、その後に国を作って研究所をポンと十万ドルの感覚で渡されることを。


「あの子は今や救国の聖女よ?」

「聖女?あれでか」


軽く鼻で笑って、当時暮らしていた山間の家でお転婆娘で暴れていた記憶しかないことに懐かしさを覚えた。

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