#42
ラストタウンの鉄鉱石運送の依頼を受けて早数週間。一日一回、時には二回運ぶスフェーンは製鉄所に運ぶたびに報酬が支払われていた。
かつて自分の子会社が採掘した鉄鉱石の回収。その量は中々あり、日数がかかる物だった。
ヘルプを誰かに入れても良いが、どうせなら自分の手で終わらせたい。そして報酬を丸々欲しい。幸いにも時間的余裕はあるのでスフェーンはのんびりとしながら仕事を続けていた。
そして鉄鉱石を運ぶ際、擦れた鉄鉱石などがどうしても車体などに付着し、車両全体が汚れてしまう。
そんな時、ある程度溜まった汚れを落とすために車両洗浄装置がコインランドリー感覚で存在している。
支払いは電子決済で簡単、列車をゆっくり前進させるだけで大量の石鹸水が吹きかけられて列車を綺麗にブラシで擦ってくれる。
「……」
窓一面に水が吹き掛けられ、ワイバーで水を落とす。
そして洗浄機を出た後は綺麗な車体が姿を現していた。
「よっと」
そして少し走って止まったところで列車を止めて足回りの確認を軽くする。
「問題はなさそうね……」
ライトを照らして全体の車輪周りを確認すると運転室に戻って列車を動かす。
「さて、少し寄り道しますか」
そこで運び屋のチャットを確認して近くの車両工場のレビューを確認して信頼できる車両工場に連絡を入れて向かった。
「どうもどうも」
そして車両工場に到着すると、そこで奥から工員が出てきて軽く手揉みをしていた。
「今日は何の御用で?」
そしてスフェーンは何か言われる前にギルドカードを見せると、工員はやや驚くも流石な対応でスフェーンに要件を聞いた。
「列車武装の更新を行いたい」
「ほうほう、どのような武装をご所望ですか?」
カタログを持ち出してきながら問いかける職員にスフェーンはあらかじめ決めていた武装を指差す。
「これを二つ、列車の武装枠の最前と最後に。これは真ん中の一つに」
「はいはいこちらですね……」
列車武装の強化をいよいよ行うスフェーン、そして指を差されたカタログを見て在庫の有無を確認する職員。
「あぁ、ありますね。すぐに換装できますよ」
「ではよろしく頼みます」
「はいはい、前の武装は売却でよろしいですか?」
「ええ、下取りに出してください」
「了解です」
そしてロックを外し、中から武装を取り出す様を眺めるスフェーン。例の戦術E兵器を格納する武装スペースはロックしてあるので取り出されることはないが、どうしても不安が残っていた。
『大丈夫ですよ、スフェーン。私が監視をしているので』
「いやぁ、昔の癖でね。他人にオートマトンを任せられなかったからなぁ」
オートマトンの整備は基本的に自分達でする事の多かった傭兵時代。そんな状況にルシエルも思わず憐んでしまう。
『それを思うと、とことんオートマトン業界は悲惨ですね』
「全部の企業がユニバーサル規格で製造しているが故の競争だからね〜」
そこでスフェーンは工場の待合室の自販機で購入したラムネを飲む。
ビー玉入りのガラス瓶でできたラムネの炭酸の弾ける少し痛い感覚と、冷たさによって幾分が抑えられる糖分の甘みが喉を潤していく。
「その点業界の狭い運び屋は真面目でいいよ」
基本的に運び屋は動く金の単価が船ほどではないが、車やオートマトンよりも圧倒的に高く。それ故に金の投資額も大きくなり、それで儲かる工場などはニーズに合わせて自然と多くの商品をとり揃える必要が生まれ、企業の直接運営する工場が生まれ難くなっていた。
この業界で大企業はあくまでも機関車の新造が主な業務であり、その他装備品の開発は数多ある製造企業に委ねられていた。
「おまけに下手な争いも起きない」
『運び屋を選んだスフェーンの判断は正しかったかも知れませんね』
そして運ばれてくる複合型CIWSが二つ。二門の30mmガトリング砲に八本のミサイル発射筒、真ん中には各種レーダーの付いており。二つだけでも前のガトリングの門数より多かった。
そして引き抜かれる嘗ての30mmガトリング砲塔三基、列車の武装区画にギリギリで収納されたそれは今までよりも格段に攻撃力が上がる代物だった。
「まぁ、運び屋やってて不満に思った事はないわな」
そして残った武装区画には|178mm多連装自動迫撃砲が積み込まれる。対潜迫撃砲を元に二四発の一斉発射が可能な自動迫撃砲で、撃ち切ったら自動で再装填がされる。
『ラストタウンの鉄鉱石運送も順調に進んでいます。このまま行けば二週間で鉄鉱石運送を終えることが可能です』
「じゃあ、あの街の寿命もあと二週間か…」
掘り出した鉄鉱石を運び終えればラストタウンは放棄される。それまで鉄鉱石を運ぶのがスフェーンの仕事だ。
『資金に余裕があれば、新たな銃を購入する事をお勧めします』
「そしたら小銃でも買おうかね」
現状は散弾銃と拳銃の二丁の銃を持つスフェーン。貫通力の高いライフル弾を使用する銃器の保有も考えていると、今回の責任者が出てきた。
「作業を完了しました。こちらが料金となります」
「んっ」
そこでスフェーンは見積書を確認して、それが真っ当な価格かを確認する。
「これで良いかしら?」
「どうも、毎度あり」
妥当な値段、許容範囲の値段だったので代金を支払う。流石はレビューの高い整備工場、質の高い仕事をしてくれる。
先にガトリング砲も下取りに出していたので幾らか安く済ませることができた。
「さて、仕事行きますか」
そして運転室に戻り車両工場を後にするスフェーン。時刻は夕方、ここから街に向かえば到着は深夜になる。
それまでスフェーンは列車の中で静かに過ごしていた。
深夜、駅に到着をするとそこではすでに鉄鉱石を積んだホッパー車がすでに停まっており。いつも通り空のホッパー車を解放し、線路を移して鉄鉱石満載のホッパー車を連結する。
コンテナを積載できるスフェーンのカーゴスプリンター、いつも街に物資を運ぶためにコンテナを搭載し。帰りは空となったコンテナを運送したりする。
「よろしく〜」
「おう、任されて」
夜中は働かないラストタウンの人間は連結を済ませると街に帰っていく。スフェーンはこの時間からも出ていくので運転室で制御系を移すとそのままコンテナの回収に向かう。
大体空のコンテナはダブルスタックで運ぶので、スフェーンはリーチスタッカーを待っていた。
ここ最近は深夜に到着して早朝に出ていくことが多いので、街の子供達と顔を合わせる事が滅多にない。
子供故に夜中に起きるのはキツイらしく、待っている事もあるらしいが。我慢できずに寝落ちすると言う。
「すっかり好かれてるねぇ」
「あまり嬉しくないね」
コンテナを載せる間、コンテナを管理する人とそんな話をしているスフェーン。前までローブで顔を隠していたが、例の人攫いの馬鹿にボロボロにされた影響で今は街に出る時は帽子にガスマスクと言う異様な格好をしていた。
「相変わらず顔は隠すのかい?」
「余計な問題を引き起こさない為です」
シュコーと言う息遣いと共に答えると、空のコンテナを積み終えてその人は軽くため息を吐いた。
「まぁ、リスク回避は重要だな」
そう言うとリーチスタッカーは離れ、スフェーンの列車は走り出して行った。
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最近は全くと言って良いほどスフェーンの運転する列車を見ない。
理由は分かっている、いつも真夜中に来て貨物を持っていくからだ。
命を助けてもらった僕としては色々と会って話をしたいが、夜中に来ると言う事もあって耐えられなかった。
あの後、治療も兼ねた三日間の謹慎で反省したと言う事でナルク達にも許しをもらっていた。
「はぁ…」
寺子屋で軽くため息を吐くユウキにナルクが話しかけてくる。
「よっ、また会えなかったのか?」
「そんな所」
少し椅子にもたれて天井を仰ぐと、カオリが察したように軽く言う。
「諦めなさいよ。スフェーンさんは夜中にしか来ないんだから」
「それ考えたら凄いよなぁ…」
真夜中まで運転をして仕事をするスフェーンに尊敬するユウキにナルクは苦笑気味に言う。
「前までとは大違いだな」
「まぁ命の危機救ってもらっているし。当たり前よ」
そこにカオリも同調していた。
そんな中、ユウキは天井を仰いで軽く貧乏ゆすりをしながら口にする。
「この街の復興って出来ないのかなぁ」
「「え?」」
突然言い出したそれにカオリ達は驚いていると、至って真面目な表情でユウキは言う。
「いやぁ、さ…ちょっと色々と思ってね」
「「?」」
首を傾げるカオリ達にユウキはここ最近で急激に変わっているような街の雰囲気を思い返す。
「最近、お父さん達が色々と忙しそうにしているじゃん?」
「あぁ…」
「そうね」
二人の親も鉱山会社の社員であり、最近は目に見えて忙しくし。空のホッパー車に鉄鉱石を載せる仕事以外にも何かをしているようで。帰りが遅くなる事もしばしばあった。
「もしかしたら、近々引っ越しをするんじゃないかって思ってさ…」
「「……」」
それの意味する所は、自分たちがもうすぐこの街を離れる事を意味していた。
確かに前までは自分たちは大人になれば都市に出ると言っていたが、まさかこんな直近で移動するとはあまり考えていなかった。
しかし妙にリアリティのあるその話に一瞬背筋が凍った気がした。
「まさか…」
「そんな事ある?」
カオリ達も少し否定をしてしまうが、その不安は拭いきれなかった。
「町長さんだってなんか腑抜けた様子だったよ?」
そう言い、ユウキ達は朝に駅のロータリーで街を見ていた町長の様子を思い返した。
「でも本当に街を捨てるってことになったら……」
「それはそれで悲しいな」
「生まれた場所だからね」
そう言い、寺子屋を出る三人。今日の授業はすでに終えているので家に帰るだけだった。食堂でのバイトもなく、今日の午後はフリーだった。
「この後どうする?」
ユウキが話を振るとナルクが適当に返す。
「駅にでも行くか?」
「何するのよ」
そんな事を言い合いしつつも、結局行くところがないので街の駅近の雑貨屋に足を運ぶ。
「で、結局ここって言うね…」
「田舎の宿命だな」
「寂しいなぁ」
そこでいつも通りそれぞれの好きな飲み物を買って店を後にすると、遠くでは気動車に引かれて駅に進入する十二両のホッパー貨車が見えた。
「あっ、貨物」
「鉄鉱石の列車ね」
町長さんが持っている一両の気動車、ホッパー車には鉄鉱石を山積みにしており。夜中に列車を取りに来るスフェーンが持っていくので、翌朝には空のホッパー車が置かれている。
「いよいよ終わりか…」
そしてそんな貨物を見ていると、駅前のロータリーで停車している戦車で休憩している自警団の一人が溢す。
「まぁ、町長達はよく頑張った方さ」
二人乗りの戦車で、二人の自警団員が話す。その話にユウキ達も少し気になって耳を傾けていた。
「二週間後にはみんなここを離れるんだ」
「さらば、悠久の時よ」
少し期待するような口調で話す二人にユウキ達は少なからずのショックを受けていた。




