#41
ラストタウンは嘗て鉄鉱石の鉱山産業で大儲けをした都市だ。
街の主要産業は勿論、良質な鉄鉱石だ。
しかしその採掘業者も一昨年より稼働を停止し、すでに掘り出されていた鉄鉱石を運び出すだけの卸業者となっている。
設備更新の為の銀行からの投資が無く、投資家からの投資もされなかった事が鉱山停止の要因であると聞いている。
街に残っている住人は大半がその鉱山会社に勤めている人間だ。
「この前、町長さん達が銀行に行ったんだけどねぇ…融資が出来なかったみたいで」
「まぁ、薄々分かってはいましたよ」
「はぁ、一体何がダメなのかね……」
駅舎の食堂でムサカを待ちながらスフェーンはおばちゃんと話す。
先ほどユウキ達を送り届けた後。約束通り、おばちゃんのムサカを食べさせて貰っていたのだ。
「おばちゃんの再就職は?」
「うちらは心配ないさ」
「どうして?」
するとおばちゃんは出来立てのムサカを出しながら答える。
「そりゃあ、アタシらは製鉄所の職員だからね。はい、お待ちどう」
「製鉄所の職員?」
首を傾げながらムサカをナイフで切るスフェーン。するとおばちゃんは事情を説明してくれた。
「そうさ、ここいらの鉱山会社は少し特殊でね」
「ほーん。…アチッ」
出来立て熱々のムサカで軽く口を火傷すると、水を飲んで慌てて冷やす。
「親会社に製鉄所があって、鉱山を所有する鉱山会社を作ってその会社の株の51%は製鉄所が保有するのさ」
「リスク分散で良くある手法ね」
自分たちで設立した鉱山会社を地元の人間に任せ、ストライキや問題が起こった時の責任の押し付け先や損切りの対象として確保しておく。大きな会社になればよくある話だ。
「それで設立した子会社の鉱山会社は製鉄所から人材が派遣されてくる。まぁそう言う人は幹部に抜擢される事が多いね」
「へぇ〜…」
故に鉱山会社の経営自体は完全放任状態だと言う。
「今街に残っているのは親会社から派遣された人ばかりだね。社籍は親会社の方だから、街を去っても親会社に次の就職先を斡旋してもらえる」
おばちゃんはそう言うと、スフェーンは少し冷めたナスをミートソースと共に口に入れる。
熱々のナスから溢れる水分と、トマトの水分が合わさってひき肉と良くあわさる。
「じゃあなんでこの街に親会社から派遣されてきた人達が残っているの?」
製鉄所のあの会社より派遣されてきた人物しか残っていないと言うのであれば、鉱山が閉鎖した一昨年に撤収しなかったのかと疑問に思うと。おばちゃんは少し作った笑みを浮かべて街の方を見た。
「今残っている連中の大半は、この街に愛着を持ったり此処で嫁さんを持った人達さ」
「……」
「かく言う私も、夫がここで眠っているものでね。まぁ、中々離れられなくなっちまったのさ」
おばちゃんはそう言うと、厨房に戻っていった。
その後は静かな食堂でスフェーンはムサカを食べ終えると、そのままホームに向かった。
「再就職ねぇ……」
『不思議ですね。上の親会社が子会社の社員の面倒を直接見ているような業務形態です』
「まぁ、鉄鉱石を運び出すだけの仕事ならそれほど人数もいらないがねぇ」
今いるラストタウン中央駅は、嘗ては巨大な鉄鉱石鉱山に訪れる坑夫や鉄鉱石の積み出しの為に多くの列車が行き交っていた。それが今ではこの有様。使われていないホームには埃と砂が溜まり、設備も古いものばかり。
「戦車が余ったら欲しいなぁ」
『無理でしょう。いくら何でも』
自警団の保有している戦車六両、いずれもモスボール状態から持ち出した戦車であり。火力としては軽装な野盗相手には十分な火力だった。
少し前にスフェーンが損害比の狂った狩猟をした影響で街を襲ってくる野盗団の数は激減していた。
それまで自警団は役目を果たせておらず、野盗団が襲ってきた時は大人しく街の物資を差し出していたと言う。
子供達が知ったら幻滅するだろうなと思いつつ高架橋を降りる。
降りたホームには自分の列車が待機しており、その前に町長が立っていた。
「おや、町長さん」
「あぁ、スフェーンさん。お会いしたかったですよ」
「おや、何か御用でも?」
スフェーンは防弾チョッキや散弾銃を付けたまま外では生活をしており、素顔を一時的に晒しているので街を歩くと必ず誰かの目線を向けられる。
濃紺のナッパ服の上に防弾チョッキ、胸部の拳銃ホルスター、拳銃用予備弾倉を入れるポーチ。
腰には六発の散弾用スピードローダーを数本巻いており、ぱっと見でも威圧感があった。
「ええ、貴方に運送の依頼をしたく……」
「何です?」
町長からの依頼とは珍しいと思っていると、彼はコンテナを積んでいないスフェーンの列車を一瞬見た後に内容を伝えた。
「実は先日、自警団が数台の野盗のオートマトンを破壊しまして。それをスクラップ工場に運んで欲しいんです」
「へぇ、あの自警団が戦えたんですか」
「ははは、手厳しいですが…貴方の腕であればそう言われてしまうのも仕方ありませんね」
スフェーンの列車防護の腕前としては街にくる野盗の数が減ったことで町長も少し安堵した雰囲気を漂わせていた。
「恐らく、これが私からの最後の依頼になりますがね」
そう言い、疲れた表情で町長はスフェーンに溢すと報酬を形式的に提示した後にホームを後にしていく。
「諸行無常の響きあり…か」
『繁栄に滅びはつきものです。永遠に繁栄もなければ、永遠の滅亡もないと言うことです』
「そうね…」
スフェーンは疲れて出て行った町長にラストタウンの終末時計が刻々と進んでいることを実感していた。
そして依頼通り、破壊されたオートマトンの残骸を回収しに駅を出た先で待っていた自警団の車両の横で停車する。
戦車に引き摺られる形で横たわる四台のオートマトンと二台の戦車。
それぞれには所々焦げた穴が空いており、戦車の砲弾が貫通した跡だとすぐに分かる。
「うわぁ、よくやりましたね」
「はんっ、お嬢ちゃんに負けてられるかよ」
そんな破壊されたオートマトンを見ながらスフェーンが言うと、自警団のおっちゃんは自慢げに語った。
「俺たちは最後の自警団だ。最後くらい、花を添えて終わらせてぇからな」
「…そうですか」
ラストタウンは残された鉄鉱石を運び終えて、街としての業務を終える。
聞けば鉱脈にはまだ多くの鉄鉱石が眠っていると言うが、それでも貸付屋は首を縦に振らなかったと言う。親会社も出てきたが、結果は変わらず。
確実に利益が出るこの鉱脈で設備投資ができない理由が分からず。ユウキの父親達も困惑の色を隠せていなかった。
「無茶はしないほうがいいですよ?」
「ははっ、俺たちは街に来る奴を返り討ちにするだけで十分さぁ」
そう言うと、スフェーンは試しに聞いてみた。
「ちなみに街を捨てる時に戦車ってどうするんです?」
「あ?んなもん親会社のPMC行きだ。俺たちの再就職先でもあるしな」
「あっ、そっすか」
どうやら戦車の行き先はすでに決まってたらしい。トホホ…
『こうなると予想できたのでは?』
「聞かないで崩れるより、聞いて崩れるほうが何倍もお得だ」
スフェーンはそう言うと、クレーンで無造作に乗せられて縛られるオートマトンと戦車を見ていた。
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ラストタウンの鉄鉱石は品質が高いことで製鉄所も重宝する品だった。
そして鉄鉱石を輸送する列車は、言ってしまうと換金可能な物資を運んでいるのと同等。
故に狙われやすい。
『周囲に熱源反応。数六』
「おっと、取りこぼした奴が居たかな?」
上を飛ぶドローンはマイクロ波給電により、半永久的に飛行が可能。その為飛行禁止の都市部を除いてスフェーンは常にドローンを索敵用に飛ばしていた。おかげですぐに敵機の接近を確認できた。
『列車はどうしますか?』
「このまま、ウチだけ出るさ」
『座標は常に更新いたします』
後ろのオートマトン格納庫に移動し、そこでオートマトンを出すスフェーンは列車の防御兵装のガトリング砲が火を吹いたのを感じる。
「子供がいなくて良かったな……」
そして格納庫の天井を開けると、援護射撃でE兵器の砲撃が荒野に飛んでいた。
「うわぁ…」
最小出力でもオートマトンを一撃で破壊する戦術E兵器。流石の威力で、無線を盗聴する。
『おい!一台やられたぞ!』
『くそっ!レーザー兵器があるなんて聞いてないぞ!?』
『逃げろ!』
『おい!馬鹿っ!』
強襲してくる四台のオートマトンと一台の多脚戦車、多脚戦車は他のオートマトンを輸送する為に馬を模した多脚戦車だった。背中には一台のオートマトンを乗せていた。
「うほー、珍しいやつ」
『スクラップに致しましょう』
「そうね」
そこで装備する30mm狙撃銃の引き金を弾く。
ドォンッ!!ドォンッ!!ドォンッ!!ドォンッ!!
そして放たれた30mmの弾丸は四発目で多脚戦車を破壊すると、荒野に放り投げ出されて潰れる乗っていたオートマトン。
「ブルーほどじゃないが。狙撃も案外できるのよ」
コックピットで自身げに語るスフェーン。確かに四発目で同行する多脚戦車を射抜く狙撃能力の高さは高いと言えるかも知れない。
『これならガトリングの方が有効かと』
「へいへい、人が余韻に浸っているのにねぇ」
残った三台のオートマトンに対して列車を飛び降りると持っていた25mm自動小銃の引き金を弾く。
『うおっ!?』
そして同時に127mm散弾銃の引き金も弾き、中に詰まった装填するだけでもスフェーンは非常に苦労する127mmケースレス散弾が放たれる。
いくら体力が増えたとて、流石に艦砲クラスの砲弾を装填するのはオートマトンを使わないと無理だった。
「あーらよっと」
『うわぁぁぁあっ!!』
散弾が命中し、中に詰まった手榴弾程の大きさの小爆弾が炸裂して関節部のパーツに損傷を耐える。その隙に30mmガトリングの砲弾が無数に命中した。
『射撃します。注意を』
その瞬間、二台が放たれるE兵器の横薙ぎで機体が真っ二つに切断されると、中のパイロットたちは一瞬で焼け焦げた。
血すら流さない圧倒的な温度、金属を溶断したその威力はレーザー兵器と勘違いしていたようでスフェーンは安堵していた。
「さて、追加報酬だな」
撃破したオートマトンを引き摺りながらスフェーンは良い笑みを浮かべていた。




