#39
その後、ラストタウンに戻る列車の中。スフェーンはキッチンの前に立っていた。
「〜♪」
側で軽く音楽を鳴らし、まな板の上で野菜を切っていく。
その後ろではユウキ達が半分気絶した状態でベットで横になっており、音を立てても起きる様子はなかった。
「よく寝てる」
『今日の事は、子供には負荷が大きかったでしょう』
「そらそうだろうよ」
人攫いにあったユウキの安否を不安に思うカオリやナルクの幼馴染二人。
鼻血を止めるだけでいまだに顔が赤いユウキ、少年とはいえ獣人に殴られた影響は大きかったようだ。
「都市部を子供一人で歩くのは危険よ。それを教えるのには十分伝わっただろ」
『それはスフェーンにも言える事ですが…』
「私は銃持っているから良いの」
ガンラックに仕舞われた散弾銃を見ながらスフェーンは黙々と夜食を作っていた。
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「ふぁ…あぁ……」
ポーカーに興じる三人の男達、その一人が欠伸をする。
「だらしねぇな」
「しょうがねえだろ。ガキが失禁して臭い消しにどれだけ苦労したか」
そう言い先程まで匂いの残っていた車内の消臭で疲労が溜まるそのサイボーグはため息を吐く。
「ぶっ飛ばしたんだから許せよ」
そこで運転手をしていたサイボーグの別の男がカードを引きながら答える。
人攫いを生業にする彼らの機嫌は比較的良かった。
「しかし、あんな無防備な奴がいるとは思わなかった」
「まったくだぜ」
「飛んだ田舎者なんだろ」
順々でカードを引く三人は昼に攫ったユウキの話をする。
「これで今度オイルでも買うかね」
「安物はやめろよ。腕が軋むのはもう勘弁だ」
「同感だ」
今日の見張り役をリーダーより仰せつかり、一夜はここから動けない。
「ビット」
「レイズ、二つ」
チップを出し、一巡するゲーム。
「様子はどうだ?」
「ピクリともしねえ。あのガキ」
先程レーションを配った時は蹲ったままで、無理ぐり押し付けて戻ってきていた。
「飯は?」
「見てねぇ」
「餓死させるんじゃねえぞ」
「そんな度胸あるかよ」
見るからに高く売れそうな身なりをしていたユウキに三人は期待していた。
「あとはボスがどれだけ値段を釣り上げるかどうかだ」
「そうだな」
そして三人は最後の一巡を済ませる。
「ストレート」
「悪いな、フラッシュだ」
「何っ!?」
手札を見せ、運転手が勝利を確信した時。
「フルハウス」
自分たちの知らない方向から知らない声が聞こえ、それの正体に気づいた時。
パパン
「うはっ?!」
「ごほっ!」
至近距離から拳銃を心臓に撃ち込まれ、二人が一瞬でやられる。
「くそっ!」
残った一人は腕からロケット砲を撃ち込もうとしたが、
「ぎゃっ!」
ポーカーをしていた卓を蹴り上げられカードやチップが舞い、同時に電球を潰され。視界が一瞬真っ暗になり、その瞬間に眉間に拳銃弾が撃ち込まれた。
そしてそのまま後ろにのけぞって倒れるサイボーグのその男は脳幹を破壊され、そのまま絶命する。
そして暗闇を上手く使って三人を制壓したスフェーンはそこで一旦息を吐く。
「ふぅ」
そして生命維持装置のまだ働いている最初に倒した二人のサイボーグの脳にそれぞれ二発ずつ撃ち込んだ。
「これで大半は終わったか…」
弾倉をスライドさせながらスフェーンは呟くと、ビルの探索を行う。
『ユウキ様の反応はこのビルより感じます』
「そう…様付けかいな」
『誰に対しても敬意を持って接するべきかと』
「はっ、言うことを聞かないクソガキに様付けなんていらねぇだろ」
その足元では数人の死体が血を一部は流し、一部はサイボーグ用の循環液やエーテルを垂れ流して階段などに頽れている。
「あーあー、勿体無い」
漏れ出るエーテルを見ながらスフェーンはそう溢すと、溢れたエーテルに手を触れる。
そしてそのまま階段を登って部屋の扉を開けたりして探索をしていると、ビルの前に一台の車が停まった。
「…ふーん」
そしてそこから降りてきた一人の大男、見るからに機嫌は良さげだった。
良い商談だったと、その男は思っていた。
今日連れてきたガキの写真を見せ、それを見た顧客は高めの値段を提示してきており。非常に良い案件だった。
「〜♪」
軽く鼻歌を歌いながらアジトに入ると、アジトはとても暗く。灯りが消されている様だった。
「ったく、どこ行きやがった」
普段なら誰かいるはずの相部屋やリビングにも人がおらず。灯りをつけようにも電球が切れているようで、電気がつかなかった。
「ちっ」
仕方なく上に向かう階段に移動すると、そこで横になって倒れている部下を見つけた。
「おい、お前。何して…」
軽く揺すった時、彼の体はやや冷たく。それに気づいた大男は嫌な気配がし、視界をサーモグラフィーに変えた。
「なっ!!」
そしてその時に見えたのは緑色の人影の数々、一部はまだ黄色や赤のものもあり。その景色にリーダーは一瞬唖然となる。
「チッ、カスどもが」
咄嗟に格納式の左腕のロケット砲を手に取ってビルを歩く。
部下の遺体と体液で舗装されているビルの廊下を慎重に進み、一つ一つの部屋の確認を行う。
「っ!!」
ドアを蹴破り、銃口を向けて一部屋ずつ探すリーダー。
上には商品をしまう部屋があり、下手に発砲できないのが痛かった。
「(ここにも居ない……)」
そして廊下の一番奥の最後の部屋の扉を蹴飛ばす。
「……」
部屋にサーマルの反応なし。死体で溢れかえっていたこの階層、部下は全員死んでいた。
手痛いのが深夜で全員がアジトに篭っていたことだ。そこで何者かの手によって一網打尽にされていた。
死体にまだ温度があったので逃げたとは考えずらい。
とすると部下を一掃した奴はまだビルの中に隠れている可能性が高かった。
「ふぅ……」
これで残るは商品のいる階だけだと思った時、
カチャッ
男のこめかみに冷たい金属の質感と共に銃口が向けられる。
これには大男も驚愕した。おかしい、サーマルビジョンには何も映っていなかったはずだ。
「うーん、君はサーマルの弱点を知らないのかい?」
「……」
「遮蔽物越しにサーマルが使える訳無いじゃないか」
声代わりをしているのかよく分からないが、若い女の声が聞こえ。彼女は何らかの方法でサーマルの妨げになる壁か何かを作っていたのだろう。
そして話しかけてくる暗闇の中に佇む少女の声、その後彼女からシャリッと言う咀嚼音が聞こえる。
「ふむ、中々良いリンゴではないか」
彼女は物色した冷蔵庫の中から取り出したリンゴを食べていたようで、暗闇に音だけ響いていた。
「誰だ貴様」
恐れる様な大男の問いにスフェーンはにっこりと口角を上げて答える。
「君を救う荒野の天使様」
その返答をした後、少女はテーブルに腰をかけたままリーダーの大男に銃口を向けたまま聞く。
「私は君に用事があってここに来たんだ」
「……そうか、何のためだ?」
「ん?それを聞く必要ある?」
「……」
状況で言うと圧倒的に向こうの方が有利だ。こちらが照準を合わせる前に向こうは引き金を引いているだろう。
「ああ、少々五月蠅かったので君のお仲間は処分させて貰った」
「っ!!」
少女は淡々と語ると、男はそこで笑う。
「ククク…そうか、やはりお前が……」
その時、男は目元の視界を切った。
「死ねぇ!!」
その瞬間、彼の目から眩い発光が発生するとその瞬間、彼は左腕の低圧砲を少女の声のした方に向けて撃つと、爆発を起こしてビルの壁に大穴を開けた。
「はははははっ!!」
彼の自慢の腕部内蔵の低圧砲の威力はご覧の通りで、こんな密室空間で生きている人間はまずいないはずだ。
「馬鹿めっ!生身のガキがサイボーグに楯突いて勝てる訳ねぇだろうが!」
跡形も無く吹き飛んだだろう少女に男は笑う。部下が死んだとて、またすぐに集まる。ここはそう言う世界だ。
傭兵から逃げた奴、薬の金が欲しい奴、戦場から逃げた奴、会社にクビにされた奴。色々な理由でこの世界に足を踏み入れる奴などごまんといた。
そして大穴の空いた壁を見て笑っていると、
「それで満足?」
「なっ…!?」
吹き飛んだ壁の側、一人のローブをかぶる小さな人影が一つ。その手には食いかけのリンゴがあった。
「馬鹿に付ける薬はないみたいね」
「てめぇっ!!」
その瞬間、今度は右腕を取って彼はその中から小型のガトリングガンを見せつける。
「おっと」
「死ねぇ!!」
その瞬間、5.7mm拳銃弾を使う小型ガトリング砲の弾幕が彼女を襲い、リンゴが木端になって消える。
壁の外に向かって拳銃弾の弾幕が飛んでいくと、スフェーンはローブを纏ったまま慌てて物陰に隠れる。
「逃げれると思うか!?」
「……」
左手に低圧砲、右手にガトリングガンを持つ奇妙な組み合わせのサイボーグの男。冷蔵庫の影に隠れたスフェーンはそんな彼に軽くため息を吐く。
「君は一つ勘違いをしている」
「あぁ?」
スフェーンはそこで背負っていた散弾銃に一発の銃弾を装填すると、ローブに手をやる。
「それは、」
そして彼女はローブを投げると、月影で暗くなったその影に男のガトリングガンが反応して再び銃声がする。
「っ!!」
そしてその一瞬の隙にスフェーンは冷蔵庫の影からオマケでフラッシュバンを投げ、散弾銃を向けた。
「サイボーグが最強と思っている事だ」
そして暗闇にフラッシュバンが炸裂し、一瞬目潰しと耳潰しを喰らい。その隙に発射されたサボットスラッグ弾は男の胸部に至近距離で命中し、恐ろしい破壊力が彼を襲った。
「このっ、クソガキィっ……!!」
胸を撃たれた男はそのまま部屋の床に倒れ込む。
「うほー、さすが重量級サイボーグ。揺れる揺れる」
一発のスラッグ弾で倒れたサイボーグを見ながら顔を覗かせると近づく。
「やれやれ、完全サイボーグを最強と勘違いする馬鹿がまだ居るとはね」
そう言いながら全てを機械にした男の上に登ると拳銃を抜いて頭に撃ち込む。そして生命維持装置を破壊する、これで完全にこの大男は絶命する事になる。
『サイボーグは損傷した部位の交換ができますが、生命維持装置が比較的すぐに作動するのが弱点ですね』
「まぁ、その分生き残る確率も高いけど」
戦場でサイボーグ兵は高火力を発揮すると言う点や、腕や脚といった機械化された部分は換えが効く。だが、今の戦場において、高貫通で火力の高い兵器が充満している以上、どうしたって一度の戦闘で何かしらの損傷を被る。
生身の人間と違い、完全サイボーグは体内に生命維持装置を備えており。これが厄介な代物だった。
重要な部位に損傷を受けるとすぐにこの生命維持装置が作動し、自動的に気絶モードに突入してしまうのだ。これが戦場だと肺や腹部に損傷を受けた時に生命維持装置が作動してその場で頽れて使い物にならなくなる。要はオンオフの差が激しいのだ。
「生命維持装置を切る馬鹿もほぼ居ないしね」
なのである程度怪我を負っても継戦能力のある生身の人間の方がよっぽど役に立つのだ。故に完全サイボーグと言うのはどこでも敬遠される傾向にある。
「あーあー、ボロボロだ」
大男のガトリングの餌になった茶色いローブは穴だらけとなり、もう使えなさそうだった。
この際、新しいのを買うかと思いながらローブを地面に落とす。
「まぁ、クソガキのお出迎えに上がるとしますか」
今まで使ってきたローブを捨て、スフェーンは上の階にいると思われるユウキを探しに部屋を後にしていた。




