#37
子供達を無事に都市まで送り届けたスフェーンはそこで三人の買い物を無事に済ませるために装備を整える。
「まだかよ〜」
「待ちなさいって。アンタも良い歳でしょう?」
運転室の扉の前でソワソワするユウキにカオリが諌めていると、ナルクもそれに同情する。
「そうさ、あの人の持ってる武器とか見ただろ?」
「ナワル達はさ、あの女が嘘をついているとか思わないの?」
そんなユウキの疑いにナルク達は呆れていた。
「んな訳あるかよ」
「そうよ、ここで嘘吐いたって意味無いじゃない」
何より自分達は都市の事を何も知らない、生まれてからこの方。人生のほぼ全てをラストタウンで過ごしており、都市に出た事はほぼ無かったし。こうして自分達だけで来た事は初めてだった。
「はぁ…」
将来はこう言う街に出て仕事をするのが夢な三人はご馳走を目の前に待てを言われる犬のような気分を味わっていると、奥からスフェーンが散弾銃を背負って出てきた。
「待たせたね」
「遅い!」
そして相変わらず茶色いローブを被るスフェーンに悪態を吐くユウキ。
一人で飛び出してやろうとも思っていたが、列車のロックはスフェーンが握っており、外に出る事すらスフェーンの許しが必要だった。
「都市に出たら私の周りから離れない事。良いね?」
「「はい」」
「…はーい」
ユウキ達が返事をするその内心、ユウキは年頃の少年らしいスフェーンに悪戯をしてやろうと言う、今までの意図返しも含めた感情が芽生えていた。
その後、都市に入った四人はスフェーンの引率の元。言われた買い物をする為に都市のスーパーに向かう。
『列車のバキューム回収は申請しておきました』
「あんがと、エーテル残量は?」
『長距離運行でなければ補給は必要ないです』
「了解」
基本的にエーテルは燃料として使われるので、補給の際はエーテルスタンドと呼ばれる列車専用の補給所に行く必要があり、エーテルを積んだ給油列車は根が張るので、運び屋は基本的に安くて品質の高いエーテルを求めて掲示板の情報を見る。
質の低いエーテルは不純物が混ざっており、燃料庫を開けるといつの間にか混ざり物が溜まっていて掃除で大惨事、なんて言う話もある。
「私も何か買った方が良いかね?」
『部屋の冷蔵庫に入っている食料で、もし子供達に食事をさせると言うのであれば。少々買い足しを行った方が良いかもしれません』
「そう…」
ルシエルのアドバイスを受け、スフェーンはエコバックを取り出した。
「あれ?スフェーンさんも買い物ですか?」
「えぇ、必要なものをね」
そこで食材や調味料を購入しているスフェーンはそのまま子供達を連れてレジに向かい、子供達は生体認証で支払いを済ませると。鞄を片手に市場を出る。
「んじゃあ、帰りますか」
「「「えぇー!」」」
そして用事を済ませて、速攻帰ろうとしたスフェーンに三人は声を上げる。
「もう帰るんですか?」
「そりゃ無いですよ」
「そうだそうだ」
文句を漏らす三人にスフェーンは軽くため息を吐きながら言った。
「ここからラストタウンまで半日かかる。早めに出ないと夜中に着く事になるぞ」
「そんなぁ……」
そもそも君たち行きでほぼ寝ていたけど、あそこで一夜過ごしているんだぞ。移動時間考えてみなさい。
「昼はここで食べるから、それで我慢しなさい」
スフェーンはそう言い、子供達を近くのファミリーレストランに連れて行く。
子供達は初めて大人の居ない状態での都市に浮き足立っており、スフェーンはとっとと終わらせて帰りたいと思っていた。
「食い過ぎない事、良いね?」
「「「はい」」」
スフェーンに従う三人はそれぞれ好きなものを注文して行くと料理が出てきた。
「あっ、ちょっとトイレ行ってくる」
そして料理を食べている頃、ユウキはそう言って席を外し。スフェーン達も食事をしていたので、たいして気にした様子も無く空返事をすると彼はトイレのある場所に向かった。
「スフェーンさんって運び屋をしてどのくらいなんですか?」
「ん?大体一年位ね〜」
すると徐にカオリが聞くと、ナルクもそれに乗っかった。
「運び屋ってどんな事をしているんですか?」
「やる事は簡単さ、言われた荷物を言われた場所に運ぶ。まぁ、仕事は選ぶがね」
運び屋の事を聞かれ、スフェーンはカオリ達に少し意気揚々と答える。
「どんなものを運んだりするんです?」
「色々、貨車を繋いだらなんでも運べるわね」
鉄鉱石などのバラ積みからコンテナまでなんでも運ぶ運び屋は仕事柄、多くの都市を巡っていた。
「どんな街を回ったりしたんですか?」
「色々あるよ」
「どんな街があったんです?」
「知りたい?」
あえて興味がそそるような言い方をしたスフェーンに、カオリ達は期待の眼を向ける。
「気になるっす」
「聞いてみたいです」
そんな二人の反応を楽しんでいたスフェーンは喜んで今まで巡った街の話を、時折創作や嘘を交えながら話し始めた。
その後、今まで巡ってきた街の話を一頻りした頃。
「あっ、もうこんな時間ですか」
時計を見て、良い頃合いの時間となっていた事に初めにカオリが気づいた。
「そろそろ行かないとマズイな」
「あれ?でもユウキの奴、まだ戻ってきていないぞ?」
そそくさと食事を済ませた後にトイレに行くと言って消えていった彼。すでに時間は一時間近く経っており、トイレにしてはあまりにも長すぎた。
「っ!!まさかアイツ……」
その瞬間、たちまち顔が青くなったスフェーンは慌てて注文をしたタブレットを確認するとそこで軽く頭を抱えた。
「やりやがった……」
そこには既に支払い済みの商品、全てユウキが頼んでいた料理だ。
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「〜♪」
ファミレスを出ていくユウキは心底良い笑みをしていた。
元々嫌いだったスフェーンの元を離れ、一人で都市を満喫できる。時計もあるので一時間したら貨物ターミナルに行けば良いだろうと考えていた。
「本当はナルク達も呼びたかったけど……」
二人はスフェーンにベッタリとしていたので下手に関与すると疑われてしまうので、ユウキは一人で行動をしていた。
都市が危険だなんて一回も聞いたことがないし、いつも街では一人で歩くことが当たり前だったのでいけると思っていた。
あの女に怒られたって怖いとも何とも思わない。元々嫌いだから何を言われたって反省する気もさらさら無かった。
「しかし凄いなぁ……」
久しぶりに訪れた都市の景色。前に来たのは確か一昨年、ちょうど街の鉱山の掘削機械が止まった時だ。
鉱山会社で働く父さんが、偉い会社の人と話をするためにその時は市長だった今の町長と共に市長専用の気動車に乗って訪れた時だ。
あの時よりも背が大きくなったが、都市のビルの大きさは相変わらずで。自分はちっとも身長が伸びていないように感じる。
「おっきぃ……」
都市には多くの車や人が闊歩し、自分の今いる場所にも多くの人が歩いていた。
そんな自分達のいる街とは大きく違って、発展している都市の景色にユウキは興奮と感動で周りが見えていなかった。
自分が大人になったら、街から出てこの都市で仕事をしようと改めて決意していると、
キキーッ!!
「?」
自分の目の前に一台の車が急停車し、ユウキが首を傾げるとその直後にスライドドアが開き。ユウキの腕を強く掴んで引き入れた。
「うわっ!?」
そしてユウキはされるがままに車に乗せられると、そのまま勢いよく扉は閉まり。車は何事もなかったように走り出していった。
「っーー!!」
「おら、抑えてろ」
車に連れ込まれ暴れるが、子供の何も改造の施されていない体ではサイボーグの体を持つ彼らに対しあまりにも無力だった。
「ガキが一人でいたから助かったぜ」
「身なりも肉付きも良い。こいつぁ金になりそうな上物だぜ」
そう言い、笑う彼らにユウキは何をされたのか理解するまで困惑し。そして状況を把握した後、それに思わず顔が青くなって震えた。
「見ろよ、震えてやがるぜ」
「ははっ、こりゃ滑稽だ。よっぽど大事に育てられたんだろ」
「羨ましいでちゅねー」
そんなユウキを見て嘲笑う男達。
「あっ!馬鹿、漏らすんじゃねぇ!」
そして恐怖の余り失禁をしてしまったユウキは横に座っていたサイボーグの男に殴り飛ばされた。
「痛っ!」
「おい、殺すんじゃねえぞ」
彼を攫った集団はそのまま街を郊外に向けて走らせると、殴られて大あざを作って気絶したユウキの失禁で一人が文句を言う。
「くっそ、しょんべんクセェ」
「外に吊るすか?」
「このガキ売った金で消臭剤でも買っとけ」
速攻で車を飛ばす人攫いは軍警に通報される前に都市のスラム街にある自分達の拠点に逃げていた。
「…んっ」
ゆっくりと視界が開け、視界に薄汚れた壁と屋根が見えるとユウキは体を起こした。
「ここは…」
視界がはっきりとし、辺りを見回すと。そこでは明らかに痩せこけ、貧相な身なりをした同年代の男女問わない子供が膝を抱えていたり横になっていたりして倒れていた。
見れば自分の持っていたものは全部なく、服しか残っていなかった。
「っ!」
部屋はとてもボロくて臭く、ユウキは気分が一瞬悪くなった。人攫いに遭い、失禁してしまっていたユウキは部屋を見渡すと窓があり。そこから逃げ出せると思って戸を引いて開けると、そこはとても高い場所であり。下には何もなく、ただボロボロの…ラストタウンよりもひどく臭くて汚い街が広がっており、逃げるために飛び降りたら死ぬ高さだった。
「っ……」
諦めて窓を閉めると次に部屋の扉を叩く。
「開けて!誰かいるんでしょ!ねぇ!!」
扉をどんどん叩き、ドアのぶをガチャガチャ回すと奥から怒号が響いた。
『うっせぇな、黙ってろ!』
「ひっ!」
その声にユウキは軽く悲鳴を上げて後退りして転けてしまった。パニックでまともな判断ができていないユウキはその後は部屋にいた別の子供に睨まれた。
「うっさいぞ。テメェ、散々暴れやがって」
「うぐっ」
そして浅黒い肌の少し身長の大きい女の子にお腹を殴られ、食べていた物が一瞬出そうになった。
「人攫いにあったくらい理解しろよ、馬鹿が」
そう吐き捨て、その豹の獣人の少女は地面に倒れて啜り泣き始めたユウキを気にもとめず部屋の隅に戻っていた。




