#32
ラストタウンと言う街で仕事を請け負ったスフェーンはそこでホッパー車を引き、コンテナを積む仕事をここ数日行っていた。
『〜♪』
自室でレコードプレーヤーで軽く音楽を流しながら運び屋御用達の鉄道雑誌『Railway era』を読んでいた。
これは一般的な鉄道ファン用の雑誌よりも、業界向けの技術誌やカタログに近く。新しい機関車や列車の部品の性能や値段が書かれていた。
「新しい機関車に、新型の誘導ミサイルねぇ…」
シャークノーズが特徴的なクラシカルなデザインのSL風機関車や複線専用のディーゼル風機関車、列車防護用の兵器の特集などが記され。他にも汽笛やエーテル機関のブースターなども載せられていた。
基本的に運び屋は単線運用が可能な小型の機関車を使用するので、複線専用機関車は中小企業向けの物だった。
『列車武装の強化はいつ行うのですか?』
「うーん、この仕事が終わったら?」
適当に返すスフェーンにルシエルは呆れた口調で言い放つ。
『そう言いながら何ヶ月過ぎましたか?』
「うぐっ」
手痛い言葉のボディーブローを食いながら言葉の詰まるスフェーンは虚空に向かって軽くアタフタしながら答える。
「ほ、ほら。今回は運ぶたびに報酬でるし、なんなら街に運ぶコンテナ物資も含めたら結構な額入るからさ」
『全く、この前はわざわざ高い木材を購入してガンラックを作成して……本気で武装強化する気ありますか?』
「あるある、ここん所。野盗の襲撃多いから」
スフェーンはあくまでも事実を申すと、ルシエルは再びため息を吐く。
『はぁ…兎に角、そろそろ本気で列車の装備を改修しないと手痛い被害を被りますよ。無闇にE兵器も撃てないんですから』
「あい…」
列車に搭載された最強の兵器の戦術E兵器。その威力は抜群だが、火力が良過ぎる性能故に下手に撃つと他の余計な物も巻き込みかねないのだ。
『それからオートマトンの強化もお忘れなく』
「えぇ〜それ要る?」
スフェーンのオートマトンの武装はある野盗より強奪した25mm自動小銃二丁と、付随していたアンダーバレルの203mm擲弾発射機や127mmポンプアクション式散弾銃が一丁ずつ。
「ぶっちゃけ今のままで良いでしょう」
『いえ、武装の種類が少ないと私は言っているのです』
ぶっちゃけ武装がこれだけだと色々と不安が残る所だった。予備弾倉は今まで撃破した敵などから奪って今では六つほど予備弾倉を持っていた。
「肩に伸縮式のロケット砲発射機かレーザー砲でも付けろってか?」
『その方がスフェーンも武装の幅が増えてよろしいのでは?』
「正直邪魔なんよな。そう言うのって」
そこでスフェーンは真面目なオートマトン乗りとしての意見を呟く。
「頭や胴体カメラで全天見えるとは言え、両肩にロケット弾があるとそれだけで少し動きが鈍くなるし。旋回砲塔じゃ無いから使いずらいと言うかさ……」
彼女の戦闘スタイルは中・近距離高機動型、持っている高周波ナイフを投擲してコックピットに突き刺すのがとても得意だった。高周波ナイフのみは新品で予備を備えており、鋼鉄ワイヤーと繋げられる改造も行われていた。
『それはそうですが……』
「奪えるものは倒した奴から奪えば良いの」
スフェーンはそう言うと、列車の扉が軽くノックされた。
今、スフェーンは仕事がてらこの街の余ったホームに列車を停めさせて貰っており、今日の仕事を終えて休憩をしている最中だった。
元々は大きな鉱山都市だったので、其の遺構で旅客駅自体大きかったのだ。いやぁ、整えられた駅舎と線路ってやっぱ最高。
『スフェーンさーん!居ますか〜?』
そして聞こえる元気な声、この街に住むガキンチョ…確か獣人じゃない方だ。
「なんだ坊主?」
そして扉を開けると、そこでは一人の子供。ユウキがスフェーンに不満げな様子で言い返す。
「坊主言うな。子供の癖に」
「ああそう」
そんなユウキの文句を適当に受け流すスフェーンは彼がここに来た理由を聞いた。
「んで、何の用?」
「お父さんからだ。後で駅舎の待合室にだってさ」
「ん、分かった」
ユウキの伝令を受け取ると、スフェーンはそのまま列車の扉を閉めた。そんな素っ気ないスフェーンの対応に、ユウキは不満そうな表情を浮かべたまま駅舎を後にした。
「なんなのアイツ」
そしてその表情のまま寺子屋に向かったユウキは不満たらたらでスフェーンの陰口を言う。
「いっつもフード被ってるし。なんか暗いし、ちょっと僕達より身長でかいし」
「落ち着けよ」
「そうよ、らしく無いわよ?」
そんな状態のユウキを幼馴染達が宥める。ここ数日、毎日彼女の姿と列車を見ているが。彼女は話しかけても短い返事をするだけで特段話そうとはせず、どちらかと言うと町長や街の大人達と話している事が多かった。
「話しかけても全然返してくれないし」
大人たちの評判が悪く無いのもユウキを苛つかせている要因の一つだった。
「元々違う街の人なんだから仕方ないわよ」
「そうさ、俺たちと知り合いなわけじゃ無いだろう?」
ナウルの意見も尤もであるが、ユウキはそれでも文句を絶やすことはなかった。
「さっきもお父さんの伝言も届けたのにありがとうの一つもなかったんだよ?」
「そりゃそうよ、あの子は朝まで働いでたんだもの」
「何さ、僕たちだって駅の食堂で働くじゃないか」
ユウキ達は小遣い稼ぎと社会勉強の一環で駅の食堂で週に二日働いていおり、それを持ち出したが…
「運び屋と食堂のバイトは違うわよ」
「比べる対象が違うだろ……」
そんなユウキに軽く呆れたり苦笑する幼馴染。そんな二人の反応にユウキはさらに不機嫌になった。
「ふんだ、二人もあの女の味方するの?」
「そう言うわけじゃ無いわよ」
カオリはすぐに否定するも、今まで彼女に悪口を言わない二人にユウキは軽く嫌気がさしていた。
「あっ、ちょっと」
「どこに行くんだよ」
そして苛立ちが頂点に達したユウキはそのまま寺子屋を出て行ってしまう。
「なんで誰もあの女の悪口を言わないんだ……」
彼はスフェーンの素っ気ない対応や、やけに低い腰をする大人達に不満を抱いていた。
駅舎に父親から頼まれた伝言をしに行く時もくれぐれも粗相の無いようにと言われたのが更に腹が立った。
そしてそのままユウキはその足で街の駅舎に向かうと、そこでは父や町長さんを含めた大人達が会議をしているようで。ユウキはそれを遠くから見ていた。
「あっ!」
そしてそんな会議の席の中に知っているフードを被ったスフェーンを見た。
「アイツ……!」
街に関係のない人間がどうして会議に参加しているのかと言う驚きで困惑していると、町長さんがスフェーンに向かって平身低頭な様子でスフェーンの手を強めに握っていた。そして父や他の大人達もスフェーンに大小頭を下げていた。
「なんで……」
あんな奴なんかに父さん達が頭を下げているのだとユウキは驚いて仕方が無かった。
「ふふ〜ん♪」
そして駅舎の待合室を出たスフェーンはやや上機嫌な様子で階段を登る。
「いやはや、追加報酬ゲット〜」
『これで列車の改装はすぐにできそうですね』
ルシエルがそう話しかけると、スフェーンはそれに頷く。
「美味しい依頼だわ。なかなか無いぞ、こんな利潤の高い依頼は」
上機嫌なスフェーンはそこで軽く指折りをする。
「ぶっちゃけ新型買うのにちょっと足りなかったのよね〜」
そんなことを言いながら高架橋を歩くと、そこで改めて街の景色を見渡した。
そこで見えるのは寂れた大通りとかつての駅前ビル、鉱山都市として繁栄した面影だけを残すだけの廃墟の街。
「一体残った住人はどれくらいなのか…」
『営業を一時止めているこの都市の鉱山では、設備更新が満足にできず。年々生産量は減少していったようです』
「設備投資が出来た訳じゃあなさそうだがな…」
そう言い、比較的整えられた駅前のロータリーを見ながらスフェーンは自分の列車に戻った。
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その日の夜、スフェーンはオートマトンの整備の為に背中に台車を挟んで格納された機体の点検をしていた。
「よっ……と」
油圧系やバンパーと言った機械類を慣れた手つきで触り、油を塗っていく。
ここにくる途中でも何度か野盗の襲撃を確認していたのでスフェーンも少し警戒をしていた。
「注文品は特に無いか…」
そしてオートマトンの点検を終えた時、ルシエルが言って来た。
『報告、列車に近づく人影有り』
「……」
『手に何か持っている様子です』
其の報告を聞き、軽くスフェーンはため息を漏らす。
「やれやれ、穏やかじゃ無いなぁ」
そして即座に自室を通ってガンラックに手を伸ばしたスフェーンはフラッシュライト片手に列車の扉を開けた。
「誰だ?」
ライトで照らしながら銃を構えるも、すでにそこに影は無く。ルシエルの言う怪しい人影はどこかに消えていた。遠くでは高架橋を一目散に走り抜ける足跡が聞こえ、扉が開いたのを見て逃げたのだとすぐに分かった。
『追跡を行いますか?』
「……いや、いい」
ルシエルの提案をスフェーンは断ると、ライトを消していた。
「列車に傷は?」
『一切ございません』
「なら良いさ、こう言うのは実害出たらで良い」
スフェーンはそう話すと、そのまま列車に戻って行った。
『しかし宜しいのですか?あなたに害を与える可能性もありましたが……』
「実害出てからの方が動き易いだろう?」
『それはそうですが……』
基本的に列車への落書きは立派な器物損害罪となり、軍警の御用となるが。この町は治安税が払えなくなったからか、軍警の姿は何処にもなく。街に野盗が襲撃してきても守る手段がなかった。
一応自警団も居るそうだが、余り戦力は多くなさそうだ。
「しかし軍警の連中は綺麗さっぱり持って行った様だな」
『元々ゴーストタウン見たいな状態になっていましたからね』
街の、かつて軍警の駐屯地があった場所は軍警のパソコンすらないような状態だった。その為、武器調達をするには鉄鉱石の搬入先の都市まで移動する必要があった。
「今度の補給は、多めに弾薬を買っておいた方が良さげだな」
銃を置き、ベッドに座ったスフェーンはそんな事を呟きながらそのまま横になっていた。




