#30
アイアンハウンドに訪れたスフェーンはそこで、マクシーラ大尉と言う前に出会ったあの軍警の隊員と偶然の再会を果たす。
「ど、どうも」
「まさかまた会うとはね」
狐の獣人だったマクシーラはスフェーンを見て少し驚いていると、彼女を案内していたマイクも驚いた様子でマクシーラに聞いた。
「隊長、知っているんですか?」
「ああ、前にこの子の列車を臨検した事があるのさ」
あの時は確かシフォーフェン所属の臨検部隊だった気がしたが、出世でもしたのだろうか。
「どうして大尉はここに?」
「この前異動して来たのさ。部隊丸ごとな」
「へぇ…」
ここに彼がいる理由を納得すると、マクシーラはマイクを見ながら言った。
「マイク、ここからは私が案内を代わろう」
「え?マジっすか?」
「さっき、補給課に呼び出しされていたぞ」
彼がマイクを探していた理由を言うと、マイクは少し顔を顰めてそそくさと格納庫を後にする。
「うげっ、始末書は勘弁勘弁」
マクシーラはマイクを見送った後、スフェーンを改めて見て手を出してきた。
「さて、どこから見たい?」
「その前に手を下ろしてもらえますか?」
「ははは、厳しいお嬢さんだ」
マクシーラは軽く受け流しながら出していた手を引っ込めると、二人は基地を歩き出す。
「取り敢えず私が運んだ戦闘機を見てみたい」
「はいはい、横にある空軍の格納庫ね」
そこでスフェーンはYa-41を格納している隣の格納庫に移動をすると、そこで灰色の耐Gスーツを着る一人の男が話しかけてきた。
「ん?陸者が何用だ?」
「観光客だ、自分の運んだ荷物を見てみたいだとさ」
そんな煽り口調の隊員に臆する事も無く後を付いていたスフェーンを見せる。
「このガキが?」
スフェーンを見て軽く鼻で笑う隊員だったが、スフェーンは持っていた運輸ギルドの証明書を見せるとその隊員は一瞬固まった。
「これでダメですか?」
「……」
運輸ギルドの発行した証明書を見てその隊員は呟く。
「運び屋に年は関係ないと聞いていたが……」
「今時はこんな子供でも運び屋をしているらしい」
「そいつはまぁ何とも……」
運び屋として当たり前のように暮らしているスフェーンだが、その隊員はスフェーンを案内した。
「まぁ、俺たちが飛ぶまでなら好きに見ていけ」
壊すなよ、と言ってそのパイロットは去っていくとスフェーンは改めて整備を終えて燃料を入れているYa-41を遠目で見ていた。
「ジャイロダインとは違うの」
「そりゃそうだ。あっちは複合ヘリコプターだが、こっちは完全に固定翼の戦闘爆撃機。回転翼を必要としないからな」
「こんな状態でよく空を飛ぼうと思うね」
外のオーロラを見ながら呟くスフェーンにマクシーラは言う。
「別に雲の上を飛ぶのが危険なだけで、低空であれば固定翼でも問題なく飛ぶことはできるぞ?」
「そうなの?」
聞く所によると障害物が多い陸地では激しい操縦が要求されるが、海の上ではほぼ無制限で固定翼機が使えると言う。
「ああ、軍警でも僅かに固定翼が運用されているのはそう言うこと」
「へぇ、今時固定翼でも飛べるのね」
「ずっと昔から軍警がやって来た戦術さ。企業と違って軍警は人が集まりやすいからな」
そりゃそうだ、都市の治安維持を一手に引き受ける軍警は企業のPMCよりも正義感溢れる仕事だ。市井の聞き覚えも良いので人気の職種だ。そしてこの星でも巨大で必要不可欠な組織なのでいきなり会社が倒産して放り出されると言った事も無いのだ。
そして軍警の採用に落ちた連中が大体PMCに出ていくものだ。
「腕の立つ人間は多いって事ね」
「そう言う事」
そしてYa-41を見終えると二人は基地内を歩くと、そこで飛び立っていく三機の大型ティルトローター機を見る。
「あれはCH-454 フライクレーンと言う大型輸送ティルトローターだ」
「ほぇ〜」
四つのジェットエンジンが特徴的な大型ティルトローター機はそのまま空に消えていく。
基地には他にもAH-172の姿も多数あり、観光をしていると言うのも周りの隊員達はわかっている様で特段話しかけられる事もなく慎ましく進む。
「二発のティルトローターもあったよね?」
「ああ、臨検や路線警護用の機体だな。君に臨検をした時に使った機体だろう?」
「そうそう」
そして基地の酒保でスフェーンはサイダーを購入する。
「満足かい?」
「最後にフリーフォールが飛んでいくのを見たい」
「そうか、分かった」
スフェーンの要望にマクシーラは短く頷くと、彼女を基地の建物の屋上に連れて行った。
キィィィィーーーーッ!!
その後、エンジンの回転数を上げながらYa-41はヘリポートとなっていた滑走路に向かう。
『管制塔、こちらワイバーン01。離陸許可を求む』
『ワイバーン01、こちら管制塔。離陸滑走路03、機首を北向きに』
そして四機の編隊は誘導路に入る直前で再び無線を取る。
『管制塔、誘導路の使用許可を求む』
『了解、ワイバーンはE4、D6、S2を経由して滑走路に侵入してください』
『了解、E4、D6、S2を経由して侵入する』
そして滑走路に向かう四機の戦闘機は夕方の誘導灯に照らされながら航行灯も付けて赤と緑の灯りが点灯する。
『ワイバーンは滑走路03に侵入してください』
そして四機編隊の内二機が滑走路に侵入し、最後の準備が終わる。
『ワイバーン01、ワイバーン02。風向25、風速2ノット、滑走路03より離陸を許可します』
『滑走路03より離陸します』
『了解、良い旅を』
そしてそれを最後に無線が変わると、エンジン音がけたたましくなり始め。騒音と共に滑走路で助走をつける戦闘機はそのまま機種が上がると、焼けた空に灰の翼が舞い上がっていた。
「おぉ…」
何気に初めて見る固定翼機の離陸。今までティルトローターやヘリコプターの離陸は飽きるほど見た方が、固定翼のジェット機の離陸は珍しい物だった。
「中々うるさいだろう?」
「まぁ、確かに」
見ていたスフェーンは離陸の時の音の大きさを思い返すと、昔ながらの化石燃料で飛んでいくジェット機を見ていた。
「低空で飛行すれば、多少燃費が悪いが問題なく飛べる」
「なんでPMCはそう言うことをしないんだ?」
「利点がないからだろう」
基本的にティルトローターやヘリコプターに比べて固定翼機は航続距離が長い利点を持つ。
限られたごく一部の地域で争う企業のPMCは物資を鉄道で戦域の近くまで運び、そこから戦線に物資を輸送するので固定翼機をあまり必要としないのだ。
代わりに軍警の守備範囲は星全体。足の長くて攻撃力のある機体が欲しいとなると自然と固定翼機の需要が生まれてくるのだ。
「なるほど、適材適所って事ね」
「そう言う事だ」
離陸していくYa-41を見ていたスフェーンとマクシーラはそのまま屋上を後にした。
「今日はどうも」
「ああ、もし君が転職したくなったらいつでも言うと良い」
基地の前、半分以上の時間を案内したマクシーラに頭を下げると彼は相変わらずの涼しげな表情で頭を下げたスフェーンに言うと、彼女が聞いた。
「この後は何か任務があるんですか?」
「ん?いや、簡単な任務があるくらいだ」
聞かれた彼はスフェーンの問いに答えるとまた簡単な概要を話した。
「へぇ、簡単な…」
「ああ、野盗討伐のな。サイボーグ兵のみだと言う」
「サイボーグ兵ですか」
今まで退治してきた野盗達は大半がオートマトンや戦車乗りばかりであり、理由としてはサイボーグ兵はどうしたって最大でも20mmの機関銃を持つのが限界であり。あとはもう何処ぞのサイコガン持った義手男ほどでは無いが、最大で47mmの低圧砲を腕に備えるのが限界だった。それでも機動性が死ぬので基本的に12.7mmや6.8mm機関銃装備だ。
その為、そんなサイボーグ兵にはオートマトンでもあれば一瞬だった。
「それはまた大変ですね」
「いつもの事さ、治安を守るのは俺たち軍警の仕事よ」
そう話す彼はポケットから一枚のワッペンを取り出した。
「土産だ、俺たちの部隊章」
部隊章をお土産で受け取ったスフェーンはそれを大切に仕舞うと、再び頭を下げた後に基地を後にしていた。
その日の夜は列車で過ごしたスフェーンは翌朝、マーストと合流して帰り道のルート策定などを行う。
するとそこでルシエルがある依頼を持ちかけた。
『スフェーン、アイアンハウンドの運輸ギルドにて破損兵器の運送の依頼があります』
「ホーン、行き先は?」
『目的地のヤブレコフ航空局の最終組み立て工場です。往路に依頼を受けるのに最適かと』
ルシエルの提案を早速マーストにすると、彼もその提案を了承した。
そして依頼を受けて移動をするとそこでは多くの壊れた兵器が並んでおり、長物貨車に次々と積み込まれていた。ジャイロダインや輸送ヘリコプターを含めたそれら破損兵器は、後方の工場にて修繕が施されてまた別の列車で帰還する。彼等はどこかの戦場で破壊された兵器なのだろう。
『追加報酬ですね』
「運がいいよ、ウチらは」
そう言いながらスフェーンはもう一稼ぎと意気込みながら列車に乗り込んでいた。
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『ーーーージジッ、司令部に報告』
少々雑音の入る音声が荒野に響く。
『第十八大隊マクシーラ大尉隷下、第二〇三中隊の被害甚大。救援を乞う、救援を乞う』
自動音声にも似た声の周りでは燃え盛るヘリコプターやオートマトンの残骸。
『敵、野盗団の戦力は事前より多し。さらなる増援を…』
その中で生き残ったアンドロイド兵が救援の通信を行っていた。
『またマクシーラ大尉の生死は不明。我が部隊は敵サイボーグ兵の外装式擲弾兵器による奇襲攻撃を受け、大尉の搭乗機は墜落した』
燃え盛るジャイロダインを背にそのアンドロイドは残った電力を使って通信を行い、来ている軍服も炎に巻かれて部隊章も燃えて消えてしまっていた。
『敵野盗団の戦力はサイボーグのみに在らず。現在までの被害状況は輸送ヘリコプター三機、攻撃ヘリコプター二機。オートマトン六台ーーー』
アンドロイドの広域通信は軍警察の前線基地に届く事を願いながら通信を行うと目の前を大型の多脚戦車やオートマトンが通過していく。
通信を行っているアンドロイドには目もくれない様子で通り去っていき。しばらくした時、荒野に無数のライトと機関銃、ミサイルの発射音が轟き。荒野に爆炎が広がっていた。
『こちら、第二二ヘリコプター部隊。…兄弟、仇は取ったぞ』
救援に駆けつけたパイロットは、奥で燃えるヘリコプターの残骸を見ながら弔うように呟いていた。
兵器解説
CH-454 フライクレーン
軍警察が主に使用する大型輸送ティルトローター機。クアッド・ティルトローター式に八発スクラムジェットエンジンを装備する大型輸送ジャイロダイン。機体後部の四発のジェットエンジンは莫大な推力を誇り、機体の格納庫にはコンテナを二つもしくはオートマトン一個小隊、又は完全武装兵士六〇名を格納可能。
格納庫部分はユニット化され、オートマトン格納庫や兵員輸送、物資輸送などに換装が可能。
基本武装
30mmガトリング砲 一基
モデルはCH-54とCH-47、X-22やMi-10




