#3
「嬢ちゃん、ここを通るなら金払いな」
いかにもチンピラな三人に絡まれたスフェーン。
シフォーフェンの街で一番うまいと思うハンバーガー屋に近道でズルをしようとしたツケが回ったかなどと考えていると、一応念のため聞いてみた。
「ちなみにいくら払えば良いんでしょうか?」
するとチンピラたちの表情はニタニタに変わり、軽く指を四つ出す。
「これくらいだな」
「……」
なるほど、欲張った金額だ。どれだけ巻き上げられるかと思って初めに大金をふっかけたのだろう。よくある手だ。
「では、これくらいで…」
そもそもバーガーを食べたいが故に私はこの道を選んだ。とっとと店に行きたいので用事を済ませよう。
そして指を一つ出すと、その先でポッと空間が光りだし。それを見た三人はそれが何たるかを知っているが故に目を見開いた。
「かっ、活性化エーテル?!」
「馬鹿なっ!?」
「ひぃっ!!」
その光る正体を見て、慌てて三人は逃げ出した。
そして通りからチンピラらしい逃げ方をした三人を見送ってスフェーンは軽くため息を吐いて裏通りを歩いていく。
「まぁ、無理も無いだろうな」
目の前の活性化エーテルに似た光が見えれば誰だって逃げ出すわけだ。
まぁ、実際ははめている電子グローブの発光なのだが……そもそも大気中の微量な活性化エーテルはすぐに消滅するって知らないのか?
ただ、ある一定量の活性化エーテルは大気に降り注ぐエーテルに誘爆する危険性があり、企業は活性化エーテルを非常に警戒していた。
そもそも大災害の時の異常活性化エーテルが発生した理由が臨界エーテルの過剰利用による暴走だ。
この星全体が巨大なエーテルの炉であり、地中奥深くには臨界状態のエーテルが常に蠢いていると言う話だ。
企業連中はこれをどうにかする為の試行錯誤をしているそうだが、まだ完成したと言う話は聞かない。
「さぁて、ハンバーガー屋にでも行くかな……」
裏道を抜けて表通りに出た時、街の上空に巨大な影が現れ。住民が一斉に顔を上げていた。
「あれは……」
見た事のある巨大な艦影と、そのロゴにスフェーンは軽く驚く。
『あれは……』
「ああ、軍警だ」
この星に残っている各都市の治安維持任務を行う為の惑星治安維持組織の軍警。その大元は惑星開拓事業を行う大災害前に存在していた星間国家の軍隊の生き残りと言われている。
彼らは衛星軌道上に存在する宇宙要塞から宇宙艦を乗り回して地表に降りてくる。
厄介な事にこの強襲揚陸艦、あのエーテルでできたオーロラを突き抜けて移動する事が可能なのだ。
「強襲揚陸艦とは…穏やかじゃあねえな」
彼らの目的は企業のエーテルの過剰利用や違法なエーテル使用の取り締まり。強盗の逮捕などを主な任務としている。
企業の重鎮すらも簡単に逮捕できるのだからある意味でこの星一番の厄介な敵とも言える。
「…」
軍警の強襲揚陸艦から上陸機が、シフォーフェンの食料生産関連企業に降りていく様を見たスフェーンは少し表情を暗くして背を向けた。
『スフェーン、ハンバーガーはよろしいのですか?』
「ああ、気が乗らなくなった」
彼女はそう答えると、自分の列車に戻って行った。
今のこの世界の物資輸送の主力を占める鉄道、かつて航空機が発展していた大災害前は大きな輸送機や超大型軍用車両が駆け抜けていたそうだが、今ではオーロラの景色がただ見えるのみ。
『スフェーン、そろそろ荷物が届く時間です』
「…んっ」
運転室で横になっていたスフェーンはそこで軽く休息をとっていたが、ルシエルに起こされた。
場所は都市の郊外にあるコンテナターミナル、企業専用列車や契約社員の貨物列車が行き交う中でスフェーンの列車は静かに時を待っていた。
『登録番号790824、スフェーン・シュウェット様。ご依頼されたお荷物を配達に参りました』
機械音声が聞こえ、列車の通信装置に先ほどのオートマトンディーラーのログを確認すると、運転室横の扉を開けた。
外ではコンテナを積んだトレーラーが待機しており、いつでも積み込みができる様子だった。
『お荷物はいかがなさいますか?』
「あぁ……とりあえず二両目に載せておいてください」
『畏まりました』
アンドロイドの従業員が確認を終えると、ガントリークレーンがやってきて簡単にコンテナを二両目に乗せるとそのまま帰ってしまった。
『二両目に載せてよかったのですか?』
「オートマトンを自力で移動させればいいし。ガントリークレーンはギルド証持ってたら自由に使える」
『それはそうですが……』
運輸ギルドの中でも契約社員ではない…いわゆるフリーと呼ばれるタイプの珍しい方の運び屋のスフェーン。しかしそんな彼女でも歴とした運輸ギルドの構成員。各都市に存在するガントリークレーンは申請すれば好きなように使う事ができる。
「ともかく、届いた品物を確認してみよう」
先頭車のコンテナを抜け、二両目に入ったスフェーンは軽く機器を操作するとコンテナの天井ハッチが解放され、そこに格納された一機の軍用オートマトンを確認した。
「ナンブ製DB-99…流石に第四世代ではないが……」
『新しいスフェーンの…いえ、この場合は
レッドサン
と言った方が正しいでしょうか?』
ルシエルの言葉にスフェーンは返す事は無く、ナンブ製軍用オートマトンに乗り込んだ。
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深夜、エーテルのオーロラが我々の全てを見下ろす中。荒野の砂漠に閃光が飛ぶ。
『くそっ!』
『不明機!一機のみ!』
右手で25mm自動小銃を発射しながら深夜の砂漠で呑気に停車していた貨物列車を狙おうとした野盗団は次々と撃破されていった。
『ぐあっ!!』
そしてもう一機のガトリングを発射していた僚機が反対から投げられて飛んできた超音波ナイフがコックピットを貫いて即死する。
『クソがぁぁぁああっ!!』
最後の一機が闇雲に燃える残骸に向かって射撃をするも、反応はなかった。赤外線センサーで確認をするも、まだ残骸に熱が篭っており判別不能。
『何処だ…何処にいやがる……!!』
周囲を銃を持って警戒するも、先ほどまでいたオートマトンの姿は確認できなかった。
「手緩い」
『っ!?』
その瞬間、オートマトンの視界に何かが覆い被さり。その瞬間に背中からコックピットを超音波ナイフが突き刺さり、中身のパイロットの意識を消失させた。
「なるほど、汎用型を選んだだけあって欠点も利点も無しだな」
砂丘の上、接近してきた最初の前衛部隊を殲滅し。撃破した敵から25mm自動小銃を拝借したスフェーンはルシエルから聞いた。
『反対方向、二時方向に敵機接近を確認。数五』
「そっちが本命って訳ね」
『敵機接近に伴い、車両の自己防衛システム起動。敵機の積極的排除、並びにディフェンスを開始します』
ルシエルの声と共に車両の上面に収容されていた六銃身30mmガトリング砲塔が火を吹く。実弾を使っているので、シールドを気にせずにある程度の損害は与えられる。
『はっはっはぁっ!!』
『そんな射線で当たるかよぉっ!!』
ホバーで接近してくる五機のオートマトンは車両の自己防衛用のガトリングの射撃を抜ける。
『ぎゃっ!!』
しかし最奥のオートマトンは避けきれずに脚部関節に数発被弾。そのままホバーを維持できずに砂漠に転がってしまった。
『はははっ!馬鹿め!』
『お前は慣れねぇ機体なんか使うかrーーー』
その瞬間、先頭を走った隊長を務めていた男のオートマトンの頭部が砕けた。そしてその直後にコックピットを的確に真正面から二発叩き込まれて破砕された。
『何っ?!』
『隊長ぉっ!!』
『くそっ!何処からだ!!』
足を止めて警戒をすると、その機体は砂丘の裏から現れ、その左手に内蔵されていた12.7mmの機関銃の引き金を引いた。
『うわっ!』
『くそっ!』
『落ち着け!50口径なんて豆鉄砲だ!!』
しかし悲しいか、すでに機関銃を撃ち込まれたそのオートマトンは上からのナイフ投擲でコックピットを貫通。持ち替えた25mm自動小銃で射撃を加える。
『くっそ!!』
また一機破壊され、その襲撃してきた新品らしきオートマトンに照準を合わせた時。
『やれぇっ!!がぁっ!?』
背後に居た列車の防衛装置の30mmガトリング砲の餌食となった。
「背中を確認しないのは、戦いにおいて死を意味する」
スフェーンは右手にオプション装備だった12.7mm機関銃の射撃を加え、先ほど投げたナイフを回収するとそのままの勢いで背中にいた敵に投げつける。
超音波で振動するナイフはそのまま投げた質量と相まってコックピットに深く突き刺さって沈黙。
「よく胸に留めおくと良い」
そして敵から奪った25mmの自動小銃の引き金を先ほど銃撃を受けて転んでいた機体に打ち込み、トドメをさす。
『あっ、あぁ……!!』
「新品の動作確認のつもりだったが……まぁ、良いか」
そして自動小銃の下部に装備されていたグレネードランチャーの引き金を引くと、目の前に残っていた最後の機体は爆散した。
「……終わったか」
そして囂々と燃える残骸と、燃料のエーテルが地面に消えていくのを確認しながら手に持った25mm自動小銃を見て呟く。
「敵の武器を鹵獲って、していいのかな?」
そんな問いにルシエルが答える。
『鉄道管理局に当該、及び関連する規則は確認されておりません。よって、スフェーンの行動は咎められる事はありません』
「敵から武器を奪って戦う…昔はよくやっていたが……」
鉄路管理局から咎められないのなら、遠慮なくやらせて貰おう。
『私が直接出なくて良かったです』
「あんな修繕だらけの機械で出るのか?」
今の列車に残る機体は第一世代の旧式作業用オートマトン。元々、ここに来るまでに色々と軽い戦闘や列車の修繕を行ってきた機体だ。
元々の設計が古いのと合わさり、この時代では化石も同然。
『やり方はございます。作業の方は残りはこちらが引き受けましょうか?』
「いや、ついでに手伝え。その方が効率が良い」
『畏まりました』
そして先頭車のハッチが開き、そこから今スフェーンの乗っている機体よりもやや角張って大きめな機体が現れると残骸の回収を始めていた。
「はて、どうしたものかね……」
古い物はとっとと売るに限るか、この機体でもある程度の修繕作業はできる訳だし。
ただ一つ言わせてもらうと、自動小銃で武装した相手にナイフと小口径機関銃で戦闘を挑むのは自殺行為に等しい。
武器解説
25mm自動小銃
オートマトンが使用する兵器の中では最もメジャーな実弾武装。銃身周りにコイルがあり、銃弾を加速させる。
古い薬莢を使用する実弾兵器であり、発射後は銃身周りのコイルを使いさらに加速を促す複合型の銃器でもある。どのような形式のオートマトンでも使用可能。
さらにオプションとして散弾銃やグレネードランチャー、銃剣を装備可能。
一回り大きい武装に30mm自動小銃が存在している。