#28
マーストと言う青年と共に仕事をする事になったスフェーンは長い貨物を引いて先頭を走る。
「はぁ〜」
そしてプッシュプルで走る中をスフェーンは軽くため息を吐くと、この前もらったあのソーダ味のドロップを一つ取り出す。
「疲れた時には甘い物甘い物」
『食べ過ぎには注意してくださいね』
「分かってるよ」
そしてドロップを口に入れて転がしながら前方の車窓を眺める。
今走っている湖の湖畔の景色は壮大で、速度制限中で速度を落としながら進んでいると。大きな山に残る緑の低木や林なんかを見ながら優雅に紅茶を飲むのも中々に良い物だ。
しかし見える緑は雑木林程度のものであり、グリーンボウルのような大規模な森はやはりなかった。
『スフェーンさん』
「何か?」
そんな壮大な景色を見ていると、通信をマーストが繋いできた。
『近くに駅があるので、少し休憩をしませんか?』
「そうですか、分かりました」
予定しているルートの先に駅があるのを確認しているので、そこでスフェーン達は待避線に列車を移動させて休憩をする事にした。
その後、古めかしい石造りの二階建ての駅舎とホームと街を見つけ、スフェーン達は街の郊外にある待避線に入って列車を停めた。
基本的にこう言う貨物列車は企業の場合、平均は一〇〇両ほどだが、長いと二〇〇両とかを繋いで走ってくるので、待避線だけでもう一つの町ができるくらいにはある。
ただ、この街の待避線はあくまでも荷下ろし用に設計されており、規模はそれほど大きくなかった。
「お疲れ様です」
「ええ、そちらも」
これから向かうアイアンハウンドには主に戦闘機を運ぶ。何のためかは知らないが、軍警が戦闘機をある分だけ購入し、それを運び屋に運ばせていた。
大量に荷物があるので周辺にいた運び屋の殆どがこの仕事に従事しているだろう。
「あっ、後続だ」
そして待避線で休憩をしていると、ちょうど目の前を同じ荷物を運んでいる別の貨物列車が爆速で駆け抜けていく。時速は約一二〇キロ、都市内制限速度キッカリだ。大型コンテナのダブルスタックや布巻きの戦闘機が後に繋がれていた。
「同業者に先を越されたなぁ」
「別に良いでしょう、遅れなければ報酬は減らないし」
「そうですね」
そして街のカフェで軽く休憩する二人は色々と世間話をし始める。
「若いけど、いつぐらいから運び屋を?」
「まぁ、大体一年ほど」
「若いねぇ」
そう言いながら運輸ギルドの証明書を取ってからもう一年かと勝手に感慨深く思うスフェーン。
「これでも指名依頼受けてますけどね」
「おぉ、凄い。一年で指名依頼ってのは、よっぽど腕が立つんだね」
一年という新米で指名依頼を受ける運び屋というのはそうそう居ない。しかも数件もこなしたとなればそれは運び屋として大変箔が付くわけで。
「五両編成…実質四両の零細運び屋にしてはよくやっていけるよ」
「元々貨車のレンタルをしなくて良いですしね。カーゴスプリンターは」
「良いよねぇ、そう言う所が強いよ」
代わりに貨車の増減設をしづらいと言う欠点があるカーゴスプリンターは列車だけで運用可能な普通の運び屋から比べると幾つかの利点と欠点を持っていた。
「こっちは古い機関車を買うだけで資金が空っぽだ。最初はずっと自転車操業だったよ」
「でも強力な機関車じゃ無いですか」
そう言いながら二車体型の機関車を扱っているマーストを見ると、彼は少し嬉しげにしていた。
「ははは、嬉しい物ですね。自分の機関車を褒められるなんて」
「普通嬉しいでしょうよ」
自分が嫁のように動かす機関車を褒められると言うのは、船乗りが自分の乗る船を愛するのと同じ事だろうと思っていた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
しばしの休憩の後、鉄道管理局に通達を行って出発許可が降りたのを確認するとスフェーンはブレーキを切ってマスコンを動かす。
ガクンともっさりした動作をしながらも、速度を上げる列車は切り替わったポイントを確認してそのまま進むと本線に入って徐々に速度を上げていく。
アイアンハウンドまでの道のりは最長三日、そこから荷物の積み下ろしを一日で行うと考えると帰りに三日。なのでマーストも一週間ほどの付き合いと言ってきたのだ。
「速度を上げます」
『了解、僕はゆっくりさせてもらうよ』
運転は交代制で、数時間ごとにスフェーンの運転台からの映像を後ろでマーストが確認して制御客車の如く後ろから運転するのだ。
先ほどの休憩前まではマーストが運転していたので、今度はスフェーンが動かしていた。
「少し早めに移動しようかね」
『予定より早く目的地に到着すれば、それだけアイアンハウンドの観光もできます』
「どっちかって言うと、とっとと仕事を終わらせたいんだけどな」
運んでいる貨車自体が大量で、積んでいる荷物も軍需品なのでレジスタンスや野盗の襲撃を警戒する必要がある為、いつでもオートマトンに乗り込めるようにしていた。
「向こうに着いたら、色々と買いたい品物もあるしなぁ」
『アイアンハウンドは軍警の一大拠点です。今のスフェーンに必要な物の購入は容易でしょう』
スフェーンの考えにルシエルも賛同すると列車の速度を上げていた。
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要塞都市、アイアンハウンド。
軍警が保有する拠点の中でも大規模な総合基地であり、空軍と陸軍、宇宙軍の主力基地である。
当地には何本も滑走路やヘリポート、格納庫、宇宙艦用の港が存在し、南北に伸びる貨物ターミナルを挟んで反対に市街地がある構造だ。
『間も無く、制限速度区間です』
「了解」
幸いにも野盗達の襲撃も無く、目の前に並ぶ列車の編成や荷下ろしされている状況を見ながらスフェーンは速度を落としていくと低速で構内を進む。
『管理局より連絡、構内では誘導員の指示に従ってください』
「あれか…」
視線の遠くで黄色い車が現れると中から誘導員が赤旗を振っており、スフェーンはその誘導に従って列車を停車させた。
「ご苦労様です」
誘導を行ったヘルメットにサングラス女性軍警の職員が扉を開けたスフェーンに敬礼をすると、スフェーンは運輸ギルドの証明書と今回の依頼の保証書を携えて挨拶する。
「保証書を」
「こちらです」
そして依頼内容を確認した職員は軽く頷いた。
「確認しました。こちらがあなた方への報酬となります。お疲れ様でした」
そこで敬礼をしてその場を後にすると、そこでスフェーンは思わず呟いた。
「アンドロイドか……」
顔や足首や手首の機械的な強化プラスチックを見て今の軍警の人間が人並みの知能を持ったアンドロイドという事実に軽く驚いていた。
アンドロイドは人と同じような知能をもって自分達と対等な立場にいる機械人間で、傭兵では偶に見かける程度だったが。軍警では広く採用されていると言うのがこれだけで伺えた。
すると上からガントリークレーンが現れ、積まれていたコンテナの回収を始めていた。
スフェーンの自宅兼、オートマトン格納庫はあらかじめ列車に固定され、コンテナの登録を消しているので回収されることは無く。黙々と積まれた物資をトラックに積み替えていた。
「さて、荷下ろしを済ませたら休憩をしよう」
「ええ、明日に帰るんですよね?」
「そうだ」
マーストと確認しながらスフェーンは荷下ろし作業を見ている。
積んでいた戦闘機や予備パーツは続々と運ばれており。見ると他の列車からも同じように新品同然のYa-41が下ろされており、予備パーツも次々と下ろされていた。
「……さて、行くか」
列車のロックシステムは容易には破られない仕様となっている。そして不審者がいれば即座にルシエルが教えてくれるので、荷下ろしが完了する前に貨物センターを後にしていた。
そして貨物センターから街に入ると、そこでは多くの運び屋や軍警の職員が闊歩し、屋台が立ち並ぶ景色が広がっていた。
「おぉ〜!」
そこには美味しそうな飯屋や屋台料理に並ぶ人の山があり、スフェーンとしては直ぐにでも飛び込んでいきたい気分だった。
『スフェーン、ご飯の前にするべき事をしてからですよ』
「はい…」
ルシエルのありがたい忠告を前にスフェーンは軽く肩を落としながら街を歩いていた。
この街は軍警の保養のために作られた街であり、軍警の基地に勤めている人数も含めれば膨大な人数が暮らしていた。
そして軍警の拠点という事は、それだけ軍需産業に関連した企業や店も存在している。
基本的にどの企業にも肩入れをせず、かと言って企業の手助けが必要な軍警は持ちつ持たれずの関係を持ち、この星でも最も権威ある集団として企業は恐れていた。
何せこの星の企業のPMCに宇宙艦艇に対抗する能力は皆無であり、何よりE兵器の大半が置かれている各都市部の防衛砲は軍警の管轄にある。悪戯に企業が手を出そう物なら忽ち制圧されるのは火を見るよりも明らか。
こうした軍事力を背景に、軍警は企業の幹部を簡単に逮捕できる権限を有していた。一部では統一政体結成を目論むレジスタンスと共謀していると言う噂があるが、あくまでも噂の域を出ていなかった。
そして軍警のお膝元の街であるアイアンハウンドでは軍用品を扱う店が必然として多くなる。例えば…
「いらっしゃいませー、本日はどのような銃器をお求めでしょうか?」
銃などである。
軍警の職員は全員、勤務中は非番であっても銃器の携帯が必須であり、支給される小銃を持っていた。
弾薬は軍警が徹底して管理しているので余分に持ち出しはできないが。必ず装填状態の小銃を持って街に出ていた。銃の購入には審査が必要であり、犯罪歴などがあれば購入は不可能だった。
「散弾銃か小銃が欲しい」
「畏まりました。どのような用途でお買い求めでしょうか?」
アンドロイドの店員が問いかけてくると、スフェーンは答えた。
「近づいてくるサイボーグを一撃で黙らせられる武器」
「あぁ…畏まりました」
おそらく、目の前のアンドロイドもスフェーンの容姿を見てロリコンが近づいてくるのだと察してくれたのだろう。やけに息巻いて一丁の銃をお勧めしてきた。
「でしたら、こちらの散弾銃がお勧めかと」
そこで店の奥から出してきた一丁の散弾銃を取り出した。
この時代でも散弾銃はコイルガンとの複合銃では無い、完全火薬式の銃である。
理由としてはコイルガンとの併用はあくまでもライフル弾を加速させ、貫通力向上の為。そもそもの有効範囲が近距離な散弾銃ではスラグ弾でも使わない限り、あまり意味がないのだ。
その為、スラッグ弾専用でもない限り複合銃はほぼ存在していなかった。
「Panzer Arms EG220です。如何でしょう?」
そしてお勧めされたのは黒をベースに、木目の銃床を持つレバーアクション式の散弾銃であった。




