#27
線路の上を巡航速度の時速三〇〇キロで駆け抜ける。
我々人類の宗主国ではこの速度は高速鉄道ほどの速度だと言う。異様なまでに鉄道技術が発展したこの星ではこれが当たり前の速度だった。
世界中、津々浦々まで伸びた線路網を持つこの大地だが。その中の一角でスフェーンはぼやいた。
「良い仕事が見つからない……」
店のテーブルで突っ伏しながら溢す彼女にルシエルが話しかける。
『こう言う時は例のチャットアプリを使う事をお勧めします』
「おぉ、そう言えばそんなのあったな」
マルシュが勧誘した運び屋のグループチャット、そこを開くと延々と流れてくるコメント欄を流し見をする。
このチャットは運び屋同士が遠方の街などにある運輸ギルドの話や修理工場のレビュー、さまざまな会社から出ている鉄道部品の質などを話し合う場であり。割と地域ごとに細かく部屋ができている優れものだった。
その為、スフェーンは今いる地域のチャットに入るとそこで割りの良さげな仕事はないかと問いかけた。
『それなら良い仕事があるよ!٩( 'ω' )و』
すると自分の呟きに反応したある一人の運び屋がスフェーンにDMを送る。
「どんな仕事だ?」
試しに返事をすると、すぐに既読が付いて返ってくる。
『物を運ぶお仕事、ちょっと量が多いから手伝って欲しい!』
「カーゴスプリンターだが、良いのか?」
カーゴスプリンターはコンテナを積むことに特化した車両であり、運べる荷物も限定されてしまう。しかしその送り主はそれでもと言った様子で返答をした。
『貨車の増結が出来るなら問題ない!』
それならばと言う事でスフェーンはさらに踏み込んだ質問をした。
「報酬はどのくらいなんだ?」
『うーん、運んだ量によって変わるけど。提示されたのはこれくらい』
そう言い、見せてきたのは結構高めの報酬だった。運ぶ荷物は軍需製品、行き先はアイアンハウンドだった。
「軍警の拠点かよ……」
予想外の行き先に思わず苦笑してしまうスフェーンだったが、割の良い仕事なのでその話に乗ることにした。
この業界では信用と信頼が命、嘘をかけば忽ち噂が広まるので下手な事は書かないのが一般的だ。故にスフェーンも比較的安心してその依頼を受けることにしていた。
「よう、嬢ちゃん」
「…何ですか?」
そして移動しようとした矢先、スフェーンは一人のサイボーグの男に軽く肩を触られて話しかけられた。
「可愛い子だねぇ、俺と一緒に街を観光しないかい?」
「……はぁ」
そこで軽くため息をついた彼女は持っていた拳銃を取り出しながら男の股間目掛けて盛大に蹴り飛ばす。
「汚い手で触らないでもらえますか?」
「っあぁ…!?」
豪速で蹴り飛ばされた股間部は容易に外の保護パッドを破壊し、クリーンヒット。男の自慢だった伸縮自在の逸物は無惨に破壊されてうずくまった。
そして股間部を蹴り飛ばされた男や、そこを蹴り飛ばした少女を見て若干の恐怖を覚える周囲の人々。一部は自分の股間の確認を思わずしてしまっていた。
そして一人のロリコンをまた処したスフェーンは店を出ると少し考える。
「銃を持った方が威圧感があるかね?」
『やっかみを受けない、と言う面では銃の購入はお勧めできます。小銃や散弾銃を保有するのが良いでしょう』
「じゃあ、この仕事終わったら銃器店に行こうかね」
そんな事を言いながら、この地域の別の街に移動する為に列車に乗り込んでいた。
そしてスフェーンは少し移動して先ほどまでいた場所の隣町の待ち合わせ場所に移動すると、そこはとある巨大な工場を備えた街であり。その貨物ターミナルには他にも数名の運び屋が集まっていた。
「場所は確か……ここだな」
街の小さな噴水を見つけて待っていると、声をかけられる。
「チタナイトさんですか?」
ネットの名前を言われて顔を上げると、そこには一人の金髪のオーバーオールを見に纏う青年が立っていた。文章の雰囲気から女と思っていたので少し驚いた。
「ええ、そうです。マースさんですか?」
スフェーンはそう答えると、その青年は頷いた後にやや驚いていた。
「若いなぁ。まだ子供じゃないか」
「何か問題でも?」
「ああ、いや。僕が見てきた中でも一番若かったからね。驚いただけさ」
「ロリコンだったら股間を蹴飛ばしますよ?」
「ははは、勘弁勘弁」
今週だけで五人をしばいたスフェーンは軽く怪訝な目を向けながら青年を見ると、彼は手を出しながら挨拶をした。
「僕はマースト、君と同じ運び屋をしている」
「スフェーンと言います。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
今回、ペアを組む事になるマーストと手を交わすと早速彼はスフェーンを案内する。
長い車両や、大量の荷物を運ぶ時に多くの運び屋は自分と共に荷物を運んでくれる同業者を探し、プッシュプル運転で同じ仕事に就く。
そしてこう言う仕事は大体割りが良い仕事が多いので立候補する人間は多かった。
「早速で悪いけど、君の列車を見せてくれ」
「分かりました」
そして二人は街の貨物ターミナルに移動した。
「しかし、カーゴスプリンターとはねぇ」
自分の列車を見ながらそう溢すマーストにスフェーンは聞いた。
「あなたの機関車はどこに?」
「すぐ、持ってくるよ」
そう言ってその場から消えたマーストは暫くすると貨物センターに一両の機関車が入って来た。
「あの機関車は?」
『VL85形機関車。長編成、重量級の貨物列車牽引用に開発された機関車です』
彼の持っていた機関車を見て軽く感嘆の声を漏らすと、彼は運転台から降りてきた。
「さて、仕事に入りたいからそろそろ行こうか」
「分かりました」
今回の仕事は軍需物資を運ぶ事。長物やコンテナも運ぶと言う事で貨車をレンタルして運ぶ。
貨車のレンタルは、基本的にレンタカーと同じで借りた場所で返却を行う必要があり。そのため今回の行き先であるアイアンハウンドに向かった後はこの街に戻って返す必要があった。
ガシャンッ!!
そしてレンタルした三六両のコンテナ貨車を列車の後部に連結し、最前部にはマーストの機関車が接続される。貨物から電源も繋げられ、列車の編成表示にマーストの機関車までズラリと並んだ。基本的に貨車は十二両一セットで貸し出しが行われており、今回はそれを三セット借りていた。
『こっちは連結したよ』
「編成表に全ての車両が映っています」
通信でやり取りをしながら話すスフェーンとマースト、今日の仕事の為に変則的なプッシュプル運転を行うペアはそのまま進行方向のマーストに操縦を任せると運転台のマスコンが勝手に動き始める。
『それじゃあ、動かすよ』
「了解」
二人の列車を合わせて四三両編成の貨物列車はそのまま一瞬ガクンと動き始めた後、ゆっくりと加速を始め。後ろから複数のエーテル機関を備えたスフェーンの車両が押す。
そして列車はそのまま街一番の工場に入ると、そこではすでに多くの布巻きされた荷物やコンテナが待機し、頭端式の貨物ターミナルでは準備が進められていた。
そして同様の編成の列車も並んでおり。大半が企業の運送業者ではなく、運び屋だった。
「よし!クレーンを出せ!!」
そして貨車に人が乗り、布に包まれた荷物をクレーンに吊るし、専用の固定具を置くとそのままゆっくりと荷物が下ろされる。
そしてスフェーンの列車は係の人間と交渉してコンテナを優先して積み込んでいた。
このホームは前後に機関車を挟むことを考慮して五十両編成が入るように設計されているので兎に角ホームが長い。
「何を運ぶんです?」
そして荷物を乗せる中、スフェーンは先ほど交渉した係のおっさんに聞くと。彼は言える範囲で教えてくれた。
「軍警からの注文さ、不良在庫で残ってたYa-41を全部引き取るってな」
「それって…」
「ああ、固定翼機だよ」
聞き覚えのあるその機体名にスフェーンは驚きながら訝しんだ。
「なんで空が使えないこの時代に?」
「さぁ?俺に聞かれてもね」
Ya-41は大災害以前の技術を用いて設計されたVTOL機であるが、空を雲の上より飛ぶ事はできないこの世界において固定翼機の居場所など無いに等しかった。
ここはYa-41を製造していたヤブレコフ航空局の最終組み立て工場、そこで大災害以降。不良在庫として倉庫の肥やしとなっていたこの戦闘機を軍警がある分だけを纏めて回収に来たと言う。
「売れるものは売っとく、まぁ安く買い叩かれちまったが…倉庫に空きが出るとなると、良い気分だったよ」
その倉庫の管理をしていたのだろうおっさんはやや陽気に答えると、予備バーツの詰まったコンテナをスフェーンの列車にダブルスタックさせながら見ていた。
「あぁ、事前に言ったとおり。先頭車にはコンテナを乗せないでくださいね」
「おう、分かってるよ」
アイアンハウンドに向かう際、先頭は必然的にスフェーンの列車となるので運転の際は色々と注意する必要があった。
「スフェーンさん」
「マーストさん」
そこで構内移動用の軽トラに乗ってきたマーストが話しかけてくると、スフェーンの列車の先頭車に一つしかコンテナが載っていないことに少し首を傾げた。
「あれ?あのコンテナどうしたの?」
「ああ、あの中。私の部屋とオートマトンが置いてあるんです」
「ああ、オートマトン……へぇ」
オートマトンが格納してあると知り、納得した様子のマーストは積み込みされていくYa-41やコンテナを見ながら感心していた。
「列車防御用かい?」
「そんな所です。オートマトンの扱いは慣れているので」
「すごいな、僕は下手すぎて無理だったよ」
そして先頭の列車と同じ塗装の施されたコンテナを見ていると、そこでさっき話していたおっさんが現れた。
「あと三十分で完了だ」
「了解」「分かりました」
そこで荷物の積み込み完了時間を聞くと、二人は軽く頷いて返した。
「一週間くらいの間だけど、よろしく頼むよ」
「ええ、よろしくお願いします」
そして改めて二人は挨拶を交わすと、それぞれの機関車に乗り込んでいった。
この運び屋の世界では、他人の機関車には滅多に入らないと言うのが鉄則だった。
そして貨物の積み込みや固定を完了させ、出発の準備が整った。
「出発します」
『了解』
通信で確認をしながら、今度はスフェーンがマーストの運転台の制御権をもらうと指差し確認をした後にマスコンを動かす。
「出発進行!」
汽笛を鳴らし、ゆっくりと前進を始めたスフェーン達は既に出発していた数編成の後を追うように工場の線路から本線へと移動を始めた。
兵器解説
Ya-41 フリーフォール
軍警察が保有している多用途艦上戦闘機である。超音速VTOL機であり、空が閉鎖されたこの星で運用されているほぼ唯一の固定翼機体である。
軍警の海軍と空軍部隊へ配属されており、特徴的な二発の推力偏向ノズルとリフトエンジンを備えている。
AH-172と並び各種ミサイルや誘導爆弾、ガンポッドを搭載可能であり、高い攻撃力を有している。
元ネタはYak-141とF-22




