#25
現在はグリーンボウルという街を拠点に運輸ギルドで稼いでいる。
「ふぅ……」
そして今日はオートマトンを用いてグリーンボウル周辺に現存している森の中を進んでいた。
「やれやれ、なんでこんな事せにゃならんのかね……!!」
軽く愚痴りながら森の中を進むと、ルシエルが宥めるように言う。
『これも依頼の内と思えば良いのです』
「俺はよろず屋か何かかよ」
そう言いながらスフェーンはオートマトンを進めていた。
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しゃぶしゃぶをしっかり堪能してから数日、生鮮食品の購入を終え。今後の軍資金獲得のために早速運輸ギルドに訪れていたのだが…
「はい?依頼受注出来ない?」
受付で言われた事実に思わず首を傾げると、職員は当たり前と言わんばかりに返す。
「いやぁ、だってあなた子供でしょう?」
「証明書はあるぞ」
いつものようにギルドの証明書を提示するも、職員はスフェーンに毅然とした態度で答える。
「無理ですよ。子供に出す仕事はありません」
「本物だって分からないのか?」
間違いなく運輸ギルドが発行する証明書である事は誰が見ても明らかだが、職員は首を傾げた。
「子供が働くの?」
「働いてないとおかしいだろ」
今の時代、子供の頃から働くのは当たり前な話だ。
義務教育がないので、金の無い子供は働いて食い扶持を稼ぐ。大半がスクラップ運びや街の店でのアルバイトといった具合だが、確かに運び屋というのは少ないかもしれない。
すると職員は軽く眉間に指を当てながらスフェーンに言った。
「…はぁ、この街では未成年就労は規則違反なんです」
「え…?」
「運輸ギルドから発行出来る仕事はありませんよ。仕事をお探しなら救貧院か、或いは子供ですので学び舎に行って下さい」
そう言われ、スフェーンは運輸ギルドから追い出されてしまった。
「未成年就労は規則違反だぁ?」
グリーンボウルの公園でベジタブルサンドウィッチを食べながら彼女は愚痴を溢す。
グリーンボウルの研究所が記した規則では十五歳以下の就労を禁ずと言う物があり、それのせいでグリーンボウルの運輸ギルドでスフェーンは仕事を受け付ける事ができないと言う。
「ふざけんなよ…」
公園のベンチに座り込んで天を仰ぐと、そこでは太陽と少しズレた場所に見える別の惑星が顔を覗かせていた。
『まさかここまで就労規則が厳しいとは思っていませんでした』
「運輸ギルドって管理局の人間じゃ無いのかよ」
見た目だけで判断されてしまったが、まあ元々運輸ギルドは企業の人間でも無い限り…と言うか企業でも年齢なんてほぼ気にしないと言うのに。
「どうしたものか……」
『すぐに街を離れますか?』
「それを考えないとな……」
ここで仕事ができないとなれば街を離れないと今後の事もある。飯の事や車両の整備費、武装の調達やらを考えると離れたほうが賢明だろう。
そんなことを考えていた時、
「お嬢さんや」
ふと横から声を掛けられると、声の下方を見たスフェーンはそこで一人の老人を見た。
「あっ」
そしてその老人が昨日話しかけてきた人と同じだと気づいた。
「隣、良いかね?」
「あ、あぁ…」
そこでスフェーンは少し端に寄って座り直すと、白衣を着た老人は空いた場所に座り込んだ。
「昨日も会ったな。爺さん」
そして座った老人に話しかけると、その老人は軽く首を傾げた後に納得した様子で返す。
「おや、もう一日経っていたのか……いやはや、歳を取ると時間が分からなくなるなぁ」
ついさっきの事のようだと、どうやら自分のことはまだ覚えていたようで。年寄りのボケはまだ酷くなかったようだ。
「気をつけろよ。一度ボケたら中々治らんぞ」
そんな忠告を老人は笑って飛ばす。
「はっはっはっ、研究所を退職した老骨など。ボケて構ってもらうほうが幸せなもんだ」
「爺さん、研究員だったのか……」
白衣を着ている人ばかりなので、正直誰が誰だか全く分からなかったが。その元研究員の老人は無理もないと言った様子で語る。
「この街じゃあ、白衣が正装のような物だ。研究員が誰なのか一見では分からんよ」
グリーンボウルを取り仕切っているのはこの都市にある研究所、そしてこの都市の住人はその研究所に関連した施設で働いている。
「最も、研究所で働いている人間は少ないがね」
「そりゃそうさ」
都市の全員が研究所に所属していたら、それこそ街の機能が崩壊する。この街は研究費を稼ぐために作られた繁華街であり、研究所の成果である生鮮食品を使った新鮮な料理が売りの一つだ。
「若いのに聡明だな」
「そりゃどうも」
老人に軽く褒められたスフェーンは適当に返事をすると、彼は続けて聞いてきた。
「今日はどうした?」
「いやぁ?街を離れようと思っていたところさ。仕事がないからな」
「ほほぅ、仕事を探しに来たのか?」
関したようにその老人はスフェーンを見ると、彼はわかっている様子で事の顛末を予測した。
「この街の規則で仕事が貰えなかっただろう?」
「そうだよ」
「まぁ、仕方ない。都市の規則はそこにいる限りは絶対だからな」
老人はそう語ると、
「お嬢さん、今日は時間あるかい?」
「まだ歴史談義か?」
時間はあるがと答えると、老人はならばと言った様子で聞いてくる。
「いいや、だったら一つ頼まれ事を受けてはくれまいか?」
「やだ」
スフェーンは即答してベンチを後にしようとすると、老人はやや苦笑してしまった。
「まぁ、話を聞きなさい」
そう言われ、スフェーンは少し間を置いて一考した後に去り掛けたベンチに座り直した。
「報酬が悪かったら乗らないぞ」
「ああ、良いとも。悪い思いはさせないさ」
そこでスフェーンは老人からの話を聞き終え、報酬も含めてその老人から私的な依頼を受ける事にしたのだった。
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「やれやれ、あの爺さんもよく言うよ」
『しかし報酬は比較的良さげなので、受ける事に問題はないと思われます』
ルシエルは改めて依頼を確認しながらオートマトンを動かす。
「この森の中から探し物とはねぇ」
そう言いながらコックピットに貼り付けた紙に記された簡易的な地図を見ていた。
かの老人の依頼はグリーンボウルを囲う森のある場所にあるかつて自分が研究していた資料の回収を依頼してきたのだ。
飯代五食分くらいの金額だったので去る前に受ける事にしていたのだ。
場所が貨物ターミナルの反対なので移動にはオートマトンを使っていた。
ここではオートマトンの使用制限こそあるものの。禁止をされているわけではないので、背中のバーニアスラスタの電源を落としていた。どうしたって噴射炎で燃えちまうからな。
『依頼主の指定された地域にそろそろ入ります』
「OK、そこで一旦機体を降りるか」
森の中をオートマトンが進むと、慎重に木々を折らない様にしていた。
グリーンボウルや、その周辺は森で覆われており。たびたび観光客が森の中で遭難して救難信号を出す例がある。上から見るとドーナツ状に緑の景色が広がっており、一種の観光名所となっていた。
こんな構造故にグリーンボウルはやや郊外に貨物センターがあるので、中心部に行くのにやや距離があるのだ。
森林外縁部では森林拡大を狙った植林や、空からの種まきが行われており。そう言った地域への立ち入りは禁止されていた。
『捜索区域に到着しました』
「了解」
ルシエルの丁寧な道案内を受けながら移動を終えたスフェーンは機体を背中から降りる。この構造だと正面を一個のパーツで作れるのである程度の防御力が上がるのだ。
バックパックには二丁の25mm自動小銃を備え、予備弾倉も腰に装着。
右腕には割と自信作の鋼鉄ワイヤー付き投げナイフがあり。左腕には12.7mm機関銃を装備していた。
「武器は拳銃だけか……」
『現在のスフェーンの拳銃の腕でも近距離であれば十分対処可能ですが?』
「いやぁ、拳銃ってまあ当たらんやん」
『5.7mm拳銃弾の持つ威力は一般的なサイボーグ兵に効果のある距離ですと、約20mからとなります』
「それならよっぽど小銃の方が効果あるな」
旧時代の完全火薬式の銃器であっても、そっちの方がサイボーグには効果があるなと軽く苦笑しながら相変わらずの茶色のローブを羽織ったままオートマトンを降りた。
『スフェーン、そろそろそのローブを買い換えてはいかがです?』
「えー、『古い車両を大切に末長く使いましょう計画』と同じよ。穴が開くまで使ってやるんだ」
『それ以前に服のバリエーションも一つしかないのも問題かと……』
現在のスフェーンの私服はなんと一着。しかも今の列車を見つけた場所に保管されていたツナギ服を切って改造しただけの物だ。
『ぶっちゃけその格好で毎度運輸ギルドに行かれるのはそろそろお辞めになったら……』
「良いだろ。特段嫌な顔されねぇし」
『その格好でウリヤナモールに行った時に違和感有りまくりでした。あの時はせめて新品の服を薦めておくべきでした』
「ひっでぇ」
森の中を歩きながらルシエルと話していると、スフェーンは森の中を上から下へと見回しながら探す。
「あの爺さんの依頼物ってどこにあるのかねぇ」
『データ関連と思われるので。観測装置などの機器が置かれていると思われます』
そして森の中を散策すると、木々の中で一本の杭状の機械が刺さっているのを見つけた。データチップを差し込む場所もあり、何かを計測している様だった。
「これか?」
『おそらくそうでしょう。依頼主からの条件はデータの回収のみ。簡単な仕事ですね』
「そんなに重要なやつなのかねぇ?」
学者様の考える事はよく分からんと言いながらデータチップを薄汚れた機械に差し込むと早速データの回収が行われ、スフェーンはチップがデータのダウンロードが終わるまで近場の木の根に腰を掛ける。
「しかし……」
そしてその間、スフェーンは上を見上げると。僅かに陽の光が差し込み、森全体を明るくしていた。
「この星にもこんな空間が残っていたとはな」
『今までのスフェーンは緑とは程遠い空間に身を置いていましたからね』
「はっ、事実だが。余計なお世話よ」
そこで時々鳥の囀りらしき音も静かに聞くスフェーン。そこで色々と物思いにふけ掛けたところで、目の前の機械からデータチップが出てきた。
「間が悪りぃよ」
なんと言うタイミングだと軽く苦笑しながらも、データチップを手に取るとスフェーンは間違えていないよなと改めて地図の場所と先ほどの機械がある場所との差異を確認し直した後、オートマトンに乗り込んで森を後にしていた。




