#22
ノルの整備工場に戻ったスフェーンは、そこで綺麗に清掃された自分の列車を見る。
「おぉ〜」
清掃された赤と灰の二色塗装の自分の列車。一見新品のように整えられていたその見た目にスフェーンも満足気な表情を見せる。
「オーバーホールが終わって、君の要望していたコンテナの改修も終わったよ」
先頭車に積み直されたコンテナを確認に行くと、そこにはしっかり部屋になったスフェーンのコンテナがあった。
「うほ〜、まじの部屋だ」
『しっかりキッチンにベッド、それから窓もありますね』
キッチンはガスコンロ二つのみでシンクの類はなかったので、排水は窓から投げ捨てるタイプだった。まぁ、今の時代じゃあよくある話だ。まだ体の排泄物が線路にブツで放り出されないだけマシだった。
他には後付け注文した冷蔵庫やオーブンレンジ、ケトルも用意され、十分な一部屋だった。
しかし、よくもまぁ制御室がここまで変わると感心していると、スフェーンは列車から乗り出してノルを見た。
「よく出来ていますね」
「そう言ってくれると幸いです」
そして支払いに入るのだが、その前にスフェーンは前にノルが言っていた例の件の話をする。
「とりあえず、前に言ってたオマケの話。どんな貨車を繋げてくれるの?」
「ん?あぁ、どう言うのがいい?」
「コンテナ貨車」
「ん、腐るほどここにはあるよ」
車両基地にはアホみたいな量の貨車の売買がされている。その中でも需要が最もあるコンテナ貨車は大量に在庫があった。
「一両のおまけで、この価格ね」
「了解」
提示された金額に文句はないので、素直に支払いを済ませると早速コンテナ貨車が一両運ばれてくる。
「車軸も金属負荷も問題ないから、このまま使えるよ」
「了解」
新品に塗装し直されていたコンテナ貨車は列車のちょうど中央に連結するので、列車を真ん中で分割する。
「これで五両編成か……」
「むしろよく今まで四両で運び屋やれたよ」
そこで同じく工場に来ていたマルシュはやや呆れや様子でスフェーンに言う。
「増やそう思ってたけど、レンタルは面倒なんです〜」
「まぁ、カーゴスプリンターじゃあ面倒か……」
その特性上、動力分散式の貨車であるカーゴスプリンターは貨車の前後に機関車を挟むプッシュプル運転で運用される事が当たり前なので貨車の増結がし辛いと言う欠点がある。
しかし、動力分散式なので今回のように一つ機関が故障しても自走可能なのが有利な点だ。
「普通の機関車と違って色々と制約も多いんですよ」
そう答えると、簡単に中央部の連結を外し。軽く構内を自走してポイントまで移動すると。他の従業員が機関車を入れて貨車を運ぶ。
『OK、連結した』
「機関車が退避したら連結します」
工場所有の黒に黄帯の機関車はスラスラと移動するとスフェーンはそれを確認して後進を入れる。
「……」
白旗が振られ、それを映像で確認しながらゆっくりと後進入れて直前で止めるとノルが確認を行って再び旗を振ると少しバックしてカチャリと金属同士がぶつかる音と、錠が落ちる音が響く。
そして連結確認のために前進と後進を入れて連結器に問題がないかを確認してもらうと貨車に電源を繋げて車両のデータに一両分の貨車が追加されたのを確認した。
「どうだい?」
「問題ありません」
運転室横の窓から確認をすると、サムズアップして答えた。
「よし、これで俺達の仕事は終わり」
「ええ、色々とありがとうございました」
そう答えて去ろうとした時、マルシュが聞いた。
「これからどうするんだい?」
「そろそろ別の街に行こうかと思っています」
「そうかい……」
スフェーンの返答に少し残念となりつつも、運び屋の性格をよく知っているが故に引き留めることもしなかった。
そんな彼女にスフェーンは言う。
「色々と有難うございました」
「良いさ、お互い同業者だ。そう言うのは助け合いの精神って言うだろう?」
「……それもそうですね」
そこでスフェーンは軽く笑うとそのままエーテル機関を回す。
すると気のせいではなく、前よりも遙かに機関の音が良くなった気がした。
「おぉ……」
オーバーホールするだけでこうも変わるのかと感心しながらスフェーンはノル達に手を振りながら走り出す。
ッ!!
軽く汽笛を鳴らすとスフェーンはゆっくりと前進し、修理工場を後にする。
「これからどの仕事にしようかな〜」
『距離が長いものにいたしますか?』
そんなルシエルの問い掛けに彼女は応える。
「ん?いや、短めで良いよ。でも、こんな砂漠地帯じゃない場所が良いなぁ」
『分かりました。スフェーンの要望に応える依頼を検索いたします』
生まれ変わったかの如く快調な機関の様子を確認しながらスフェーンは走り出していた。
走り出したスフェーンを見送ったマルシュ達は、彼女の列車が見えなくなった辺りでマルシュが問い掛けた。
「……んで、どうしたんだい?」
「ん?」
惚ける様子のノルにマルシュは軽く鼻で笑った。
「アンタが珍しく興奮した様子で、しかもオマケなんてしたんだ。その持っている紙には、何が書いてあるんだ?」
そう言いながらノルの持っていた紙筒に視線をやると、彼は軽く笑った後に手を頭の後ろにやって軽く掻いた。
「やれやれ、マルシュは気づいていたか」
「誰だって気づくさ。あの子も半分無視していたが分かっていたぞ」
マルシュは呆れたように話すと、彼は持っていた紙筒を軽く広げながらマルシュに見せて、説明をした。
「まぁ、簡単な話で言うと。彼女は珍しいエーテル機関を載せてやって来たって事さ」
「ほぅ?」
そこでマルシュは少し興味深そうにノルの見せた設計図を見た。
正直、何が書いてあるかは専門家じゃないので良くわからないが。彼は続けてこう言った。
「所詮、僕たちの作るエーテル機関は過去の遺産を元に再生したコピー品って事」
「ふーん?」
その意味をマルシュは深く理解する事はできなかった。
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貨車一つをおまけでもらうと言う、普通ならあまり無い話だが。それでも貰って上機嫌なスフェーンは早速改造した部屋で調理をしていた。
「ぬほ〜、本格的なやつが出来る〜♪」
『冷蔵庫も取り付けられていますね』
「おぅ、野菜も乗せられるぞ」
生身の人間に必要なビタミンを補給するために必要な野菜。ビタミン剤を使えば解決してしまうが、どうせなら美味しく食べたい。
「幸い、調味料は色々と買ったわけだし……」
『ずっとこの日の為に準備していましたからね』
キッチンの戸棚に仕舞われた数々の買った調味料。ウリヤナバートルで購入してきたのだ。これの他には乾麺の類も購入していた。
「おまけして貰ったからちょくちょく買っちゃったけど……」
『購入した殆どが乾物な事は褒めるべきでしょう』
「そうしろって言ったのはルシエルでしょうに……」
そう言いながらスフェーンは買った細ネギを全て短く切る。
今日の料理で一部は使うが、残ったネギはビニール袋に入れて冷凍庫に放り投げておくのだ。
こうする事で後でネギで彩に加えたい時などにすぐに取り出して使うことができる。
「取り敢えず、今日は何にしよう」
『麺類などは如何です?』
「あぁ〜、それ良いかも」
せっかく買ったんだし、と言う事で今日の夕飯は購入したラーメンと言うことになった。
「簡単に塩にすっか」
その中でも簡単にできる塩ラーメンを選択していた。
その後、ウリヤナバートルから離れる様な仕事を選択したスフェーンは改造された自室のキッチンで早速料理に取り掛かる。
ガスコンロで火を付け、湯を沸かしながらその横でケトルに水を注いで電源をつける。
鍋の湯が沸いたら乾麺を入れてタイマーセット。その間にケトルの湯が沸き、それを食器代わりの洗ったカップ麺の容器に注ぎ込みそこに鶏がらスープの元を入れ、塩、ごま油を入れて掻き混ぜる。
麺が茹で上がったら網に入れて軽く湯切り。下に残った茹で汁はそのまま窓の外に投げ捨てていた。ゴミじゃ無いからヨシ!再利用もしづらいしな。ただ、一応マナーで他の列車がいない方向にやるのだ。
これが企業のやつだと排水タンク付きだったりするが。生憎とそんなものはここにはない。
そして作ったスープに入れた後は先ほど細切りしたネギを少々、調理用ハサミで切ったパック入りのハムを乗せ、上から胡椒を軽くかける。
「でけた〜」
そして出来上がった自家製塩ラーメンに満足なスフェーンはそのまま箸を持ってラーメンを啜り出す。
「ズズズズッ!」
そしてしっかり茹でた麺のコシを噛み締めながらカップ麺とも違う旨さを感じる。
「すげぇ、胡麻油美味っ!」
そしてラーメンに絡んだ胡麻油のあの味がほんのりと香り、鶏がらスープや塩とよく絡んでいた。
「胡麻油もっと入れよ」
そしてより胡麻の旨さを出す為に少し追加して入れるとさらに胡麻油の旨さが伝わる。
「胡麻油は入れれば入れるほど美味くなるな」
そう感じたスフェーンはホクホク顔で色々とアレンジを加えていた。
そしてあっという間にラーメンはスープまで全部飲み切っていた。
「あ〜、満足」
『美味しかった様ですね』
「ああ、暫くラーメンでも良いかも」
そのくらい満足していたスフェーンは早速ベッドの上で座りながらルシエルと話す。
「やっぱ改造して正解だったな」
『そうですね。それにここは完全に一人部屋になっていますからね』
そう言いながらコンテナ側面上部に開けられた小窓から見える景色を見る。
「横に行ったらオートマトンの格納庫と運転室。これほど便利なものも無いな」
『ただし、運転室が反対だった場合は地獄ですが……』
「まぁ、そうなっても最悪移動できるし」
『コンテナの上を走行中に歩くと言う狂行を除けばですが……』
カーゴスプリンターの特性上。前後に運転席がある影響で、もしコンテナを置いた車両から離れた運転台で運転していれば襲撃があった時は移動しなければならない。
かと言ってコンテナの中を通り抜けるのは不可能なので、スフェーンは危険を承知で列車の天井に登って歩くのだ。大体そういう時は列車の速度も落としているので飛ばされる事はないが、それでも十分大変危険な行為である。
このコンテナはあらかじめスフェーンが列車の扉に合わせて穴を開けていたので問題なく移動が可能。ドアは手動のスライド式で、スフェーンの趣味も混ざっていた。
「まぁ良いさ。今まで事故った事ないし」
『そういう慢心が事故を呼ぶんですよ』
呆れたように注意するルシエルを他所にスフェーンはベッドで横になる。
「さて、今日から柔らかベッドで寝られる!!」
背中に感じるフカフカな質感にスフェーンはそのまま多幸感を感じながら睡眠に入っていた。




