#18
マルシュに連結されて移動するスフェーンは傷ついたエーテル機関の修理のために。彼女が信頼しているという修理工場に向かった。
場所はウリヤナバートル郊外の旧ロケット発射場、そこまで路線が続いているのでスフェーンは運転台からその様子を眺めていた。
「ほぇ〜」
そして旧ロケット発射場に並ぶ数多の路線。
そしてそこに並ぶ数々の機関車や数々の貨車や客車。
中には列車防護用の武装も売っていた。
「すごい色々あるなぁ」
『新旧問わず多様な列車が停車しています。ここには多くの技術者が集っているようです』
「ああ、企業のそれとは全く違うな」
清潔感が無い代わりになんでも取り扱っている。まさに運び屋専門の列車市場だった。実際、これから独立するのだろう数名の人が機関車を吟味していた。
傭兵の時のオートマトンの整備工場でもここまでの大きさのものは無かった。
『そろそろ着くよ』
「わかりました」
そんな景色に見惚れているとマルシュが連絡をして来てスフェーンは答えると、数々のポイントを移動して。途中で転轍機を手動で切り返しながら移動をしていると、元はシャトルの格納庫だったのだろう大きな施設に入って行った。
「おい、ノル!」
そして着くや否やマルシュは運転台から顔を覗かせると、視線の先に屈んで作業をしていたツナギ姿の一人の青年を見た。
「マルシュか、今回はやけに短い期間だな」
「いや、今日の用事があるのはアタシじゃないさ」
そう言いマルシュは親指で後ろをさすとそこで連結していた列車を見せた。
「おいおいついに客引きしたか?」
「阿呆、アタシがお前のためにそんな事するかよ」
そんな与太話をしている中、スフェーンは扉を開けるとマルシュに聞いた。
「この人がそうですか?」
「ああ、修理工のノルだ。この修理工場を経営している」
「子供……?」
降りてきたスフェーンを見てノルはやや驚くと、マルシュはスフェーンを見ながら言う。
「これでも指名依頼をこなした箔付きだよ」
「ほぇ〜、そいつぁ凄い」
ノルは改めてスフェーンを見ると手を出した。
「初めましてスフェーン。僕はノル、ここの修理工場で働いている人間だ」
「よろしくお願いします」
スフェーンは手を出して握り返すと、ノルはスフェーンの列車を見て大方の予想を立てた。
「壊れたのはエーテル機関かな?」
「はい、貫通してしまって……」
するとそこでマルシュがさらに細かく伝えた。
「エーテルタンクに穴が空いて、機関部に貫通していた」
「場所は?」
「二両目の前方」
動力分散式の我が車両、ぞれぞれのエーテル機関が独立しているので一機が壊れようと全て壊れなければ列車は走ることができる。
「よし、修理に回そう。価格交渉はその後だ」
早速ノルは目の前のカーゴスプリンターを見ると、スフェーンは列車を移動させて連結を解く。
「よし、まずは修理箇所を軽く見ていこうか」
穴の空いた外板を取り外し、中の様子を確認する。
「なるほど、これは綺麗に貫通しているね」
「野盗の撃った弾丸が掠めたみたいで……」
「うん、これならかなり楽に修理できそうだ」
貫通したエーテル機関を確認すると、ノルはその機関を見ながら言う。
「これ、だいぶ放置されてたのを動かしている雰囲気があるねぇ」
「ええまぁ……元々長く置いてあった列車を引き取って動かしていますから」
そう答え、スフェーンはこいつと出会った時の事を思い出すと、マルは機関の状態を見た。
「なるほど、何度か修理した形跡はあるけど。全部君がやっているのかい?」
「はい、壊れたたびに」
そう答えると、ノルは納得した様子でスフェーンに言った。
「んじゃあ、一回きちんとした整備をする事をお勧めするよ」
そう言うと、スフェーンは色々と考えてしまう。
「それは……オーバーホールをしろって事ですか?」
「そう言う事になるね」
気の良さげな修理工の青年はそう答えると、スフェーンは考えた。
ここまでウリヤナバートルを起点に活動して来たので資金に余裕はまだあった。
しかもよくよく考えれば、今までコイツの本格的な点検はしたことがなかった。
「値段はまけるよ?」
「……いえ、ちょっと改造を考えていました」
「改造?」
そこでスフェーンは先頭車に常に積んでいるコンテナを見ながらノルに言った。
「少し、居住区画を増設しようかと……」
「ああ、成程ねぇ」
そこで改めて見て納得する。彼女のカーゴスプリンターはほとんどが機関部と防御兵器で構成されており、居住区画は非常に少ない。あるとすると前後の運転席とその後ろにある小さな倉庫くらいだ。
「いつもはどんなふうに寝ているの?」
「このコンテナの中」
そう言い、オートマトンの格納庫を軽く叩く。コンテナ式のオートマトン格納庫で寝れる場所と言うとオートマトンの調整を軽くするための部屋しかないので、そこで寝泊まりしている事にノルは納得するとスフェーンに聞いた。
「因みに改造するならどんな風にするつもりだい?」
その疑問にスフェーンは即答する。
「コンテナにキッチンとベッドを置きたい」
「ふむふむ」
「いつも運転室で寝袋だから」
運転室で寝袋と言うのを聞き、ノルは納得すると列車についた汚れを見てさらに聞いた。
「長距離を移動することは?」
「時々。長いと一週間くらい」
「成程」
目の前の少女、いろいろな場所を移動して来ているようだ。マルシュと違い、大陸を移動する事に慣れているのだろう。
「できる?」
「僕達に不可能はないさ」
「じゃあ依頼する」
スフェーンはそう答えると、ノルは頷いて列車のオーバーホールと車両の改造を依頼した。
「オートマトン格納庫に手を加える形かい?」
「それで良い」
場所的に車両に改造はかけられないので、必然的に搭載されたオートマトン格納庫の調整用の部屋を改造する事になる。
「金額は?」
「これくらいなら出せる」
そう言い、スフェーンは指を出すとノルは頷いた。
「OK、喜んで引き受けよう」
そしてノルは工場にいる全員を呼ぼうとした時、スフェーンは付け加えていった。
「あとそれから、」
「ん?」
「列車の武装は開けないで」
「…了解」
列車の防護用の武装の蓋を開けるなと言うクライアントの命令を聞き、ノルは了承するとそのまま工場にいる職員全員に招集をかけた。
その後、オーバーホールと言う大きな仕事を前に工場にいた多くの人間はやる気に湧く様子で四両の列車を分割し、吊り上げて中の機関部を台車ごと引き抜く。
ここの修理工場はかなり大きめなようで、複数の線路に列車を丸ごと持ち上げるクレーンや工作機械の数々。他にも修理を請け負っている機関車などが待機していた。
オートマトン格納庫も降ろされ、調整室の改造が始まり。その様子をスフェーンは眺めていた。
「おいおい、何しているんだ?」
そんな監視するように見ていたスフェーンにマルシュが話しかける。
「何って、見ているだけですよ」
「そんな監視しているような目で言われたってねぇ」
やや引き気味にマルシュはスフェーンを見る。なにせオートマトンの場合は中抜きしようと必死こいて、品質の良く見える部品を使っている修理工場をよく見て来ていた。故に色々と不安が残るのだ。
「安心しなって、うちら運び屋の世界じゃあ信頼と信用が命なんだ。それにノルの工場は評判も良い」
「……」
「今のうちだ、外に並ぶ商品でも一緒に見に行かねぇか?」
スフェーンはそこで思わずルシエルに助けを求めると、彼女は答えてくれた。
『列車のオーバーホールに関しては私の方でも見ておきます。なのでスフェーンは安心しても構いません』
列車の武装の戦術E兵器を見られないようにしておくと言うことでルシエルに列車の護衛を任せた。
列車の防衛をルシエルに任せると、マルシュと共に外の列車の市場を見に来ていた。そこには意外にも多くの運び屋が集まっており、機関車の点検や修理。武装の取り付けなども行っていた。
「ここはまだ小規模だが、もっと大きな場所に行くと新造された機関車も売っている」
「マルシュのは?」
「アタシはここで中古であれを買った、走行距離が全然なくて新品同然だったから安くお得に買えたさ」
そして市場を回っていると、スフェーンはそこでかつてのロケット組み立て場にある機械式立体駐車場のように機関車や客車が叩き売られている景色を見た。
「すげぇ、こんなに客車や貨車が売られているのか」
「まぁ、年中バーゲンを何処かでやっている。整備費がかかるから私は買った事ないが、偶に買っている奴を見ている」
個人所有の貨車は用途に分けて色々と存在している。
大半の貨車や客車などはレンタル企業から借りて運用するが、一部の運び屋や運行許可をもらった新興の鉄道会社などが必要な分を買っていく。そこで買うのは大半が中古品だ。
「客車を家代わりに買う奴もいるな」
「それは豪華な家ですね」
基本的二階建て客車がメインだが、ここでは一階建て客車も売っており、中には食堂車もあった。
「まぁ、機関車はうちら運び屋にとっちゃあ家も同義だ」
「そうですね」
自分も列車には色々と中で改造をしている。マルシュの機関車も同じように運転台に何かの飾りをしていると言うのが外から見ていても伺える。
「私らは何処にでもいくことができるフリーの運び屋だ」
「ええ、」
「だからこう言う場所は覚えておいた方がいいぞ」
そう言うと、彼女はある番号の書かれた紙を手渡した。
「これは?」
「コミュニティーへの招待状」
「……」
「まぁ、運び屋同士の通信グループだな。大勢が集まって情報を出し合ってる」
「そんなものがあるんですね……」
そんな番号の書かれた紙を受け取りながら驚いていると、マルシュは言う。
「傭兵と同じさ、何処の街に何の仕事があって。それほどの大きさがあるかを共有するの」
「…正直、運び屋は個人主義だと思っていましたが……」
「個人主義だが、荷物の共有はしたほうがいいだろう?」
彼女はそう言うと、スフェーンも頷く。電子グローブを使って番号を打ち込むとグループチャットの加入画面と推薦人の名前を書くように言われた。
「推薦人はメフテルハーネと打ってくれ」
「偽名ですか」
「そこじゃあ、皆んなそうさ」
そう言われ、傭兵の通信ネットワークとも違うオープンチャットでの通信に感心しつつもスフェーンは認証を受けるとスフェーンはアカウント名を適当に打ち込む。
すると加入時の推薦人に連絡が行ったのだろう、今考えたアカウント名に少し苦笑していた。
「チタナイト……名前変えただけじゃん」
「参加人数が膨大です。どうせ誰も気にしません」
こうして運び屋のコミュニティーに加入することができたスフェーンは大量に飛んでくる通知を一旦切っていた。




