#14
この世界の基本であるエーテル、その用途は大半がエーテルの為に使われるエーテル機関の燃料だ。
核融合炉機関を過去の物にしたエーテル機関の優秀な点は不活性エーテル単体では動物に無害であると言うことだ。
エーテルは核融合炉よりもエネルギー効率が高く、採掘したエーテルは精製を行わずとも使用が可能となる。
そしてエーテル機関を元にオートマトンやE兵器と言った技術が生まれ。我々の生活にわずかな光を齎している。
大災害で多くを失ったが、それも過去の記憶。今や大災害の頃を生きた人間はほぼ死んでしまった。今は生きている人間を探す方が難しい。
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空にエーテルが浮かんでいる景色は当たり前の事だった。オーロラのように淡く輝く景色は私や、この時代を生きる人々からすると当たり前の光景だった。
別に目障りとか、そう言う煩わしさは無い。何せ記憶にある頃からこの景色だ。むしろ夜の時に光るそれに魅了されて、首が痛くなるまで見ていた事があるくらいだ。
「綺麗な景色だ……」
『本当ですね』
列車の上に上がってスフェーンは空を見上げる。そこではエーテルの作るオーロラとその上に光る星々が輝く空が全てを覆っていた。
「この空の上に軍警の本拠地があるんだってんだから、不思議な話だ」
軍警察の本部がある宇宙要塞に行くには軍警察が保有する艦艇で宇宙に上がる以外の方法がない。
この惑星トラオムは大災害以降、星全体が封鎖されたと言う話があり。軍警察は嘗てこの星を領土としていた星間国家の軍隊という話がある。
軍警察は各都市からの治安税を元に活動を行っている。企業もわざわざ都市部の治安維持や路線の防衛をまとめて肩代わりしてくれるのであればと言うことで大人しく治安税を支払っている。下手に軍警と対峙しても彼らの保有する戦力には敵わないというのがあるのかも知れないが……。
逆に治安税を払えない街は自分達で守るしか無く、そう言ったコミュニティーは野盗の襲撃に頭を悩ませ、傭兵やPMCに依頼をする事になって資金繰りに苦労するか、街を捨てて消えるかのどちらかだ。まぁ、たまに自警団を組織している村があるが……。
『軍警察はこの街の各地区に駐屯部隊を配置しているようです』
「ああ、街に軍警のオートマトンを見たよ」
ルマリテの街に到着したスフェーンだったが、時間が夜だったこともあって手続きは明日の朝に回されてしまったのだ。
「まさか業務停止時間があるとは……」
『この街は深夜の時間帯はほとんど人気もありません。街に出たとしても店はやっていません』
「皆さん夜中は一斉おねんねですか」
そう言い、静かな街を見ながらラーマヤから買ったレーズンを摘んでいた。ここにワインか何かあればもっと完璧だったが……。
そして翌朝、朝イチで仕事の受け取りの為に運輸ギルドの職員を呼び付け。荷物の確認をさせる。
「うん、これで終わりよ」
「はい、了解です」
「報酬も確認してね」
小麦色の肌の職員がタブレットで確認を取ると証明書と報酬をスフェーンに渡たすとさっさと去って行った。ちょっと日焼け後の残った肌って良いよな……。
ちなみにここでは次の目的地に運ぶ荷物はなさそうで少し残念だった。
「お疲れ〜」
そして報酬を得た後、スフェーンはこれからの行動方針を考える。
「さて、どうしたものか」
『ルマリテには多くの出店があると言います。ついでに、昨日お会いした彼の言っていた市場に向かってみるのはいかがでしょうか?』
「おっ、そうだな」
茶色いローブをかぶってスフェーンは早速街に繰り出す事を選んだ。
ルマリテは広大な砂漠の中に存在している中規模な都市だ。
付近の村々で生産された品々の取引所として発展した街であり、大災害後に建造された街であった。
「おぉ〜」
『人で賑わっていますね』
「ここが街一番の市場なのも納得だ」
そこでは砂漠用の装備をしたサイボーグ傭兵や、食料を購入しに来たPMCの兵士。地元民であろう、頭に巻き布をしている人々の姿があった。
「おお!出店もちゃんとあるぞ!」
肉の焼ける音を上げながらケバブを焼く出店や他の料理を出す店が並んでおり、前までいた都市部とはまた違う景色が広がっていた。
「すみませんこれ一本」
「アイヨ!」
基本的に世界中で使える共通電子通貨がここでは使えるからありがたい。偶にその地域でしか使われない独自通貨がある時があり、そう言ったものは現物の通貨であることが多いためわざわざ両替所で換金する必要があるのだ。これがめんどくさい事この上ない。
支払機に電子グローブを置いてケバブ一本分の料金を支払うと、紙の包み紙に入れられて二本のケバブが入っていた。
「おまけね。可愛いお嬢さん」
少し訛りの入った口調で店主はウインクすると、スフェーンはありがたく頂戴した。
「ありがとうございます」
「場所が無いからここで食べるといい」
そう言い、人混みで塗れている市場を見てスフェーンは横の縁石に座り込んでケバブを一本口にする。
「うん、美味ぁ」
一口噛んだだけで溢れる肉汁、美味い。
「これって培養肉なんですか?」
「おいおい嬢ちゃん、バカ言っちゃいけねぇ。ウチのは全部本物の牛さ」
「本物…」
そう言われ、改めてスフェーンはケバブを見直す。
「おや、本物の牛は初めてかい?」
「ええ」
都市部なんかで売られている肉は培養肉が基本だ。そして本物の牛を使った肉というのは総じて高いので食べたことはなかった。
「はっはっは!だったら驚くだろうね、偽物が本物に叶うわけないからな」
「すごく美味しいです。本物はこんな味なんですね」
驚くべきはその本物の牛の値段が都市部よりも圧倒的に安い事だ。庶民でも簡単に買える値段でここでは本物の牛の肉が売買されていることになる。
「おいおい、」
そんな中、スフェーンはケバブ屋の横の出店の店主から声をかけられた。
「そんな肉を刺しただけの棒じゃあ詐欺もいいところだ」
「お?何だぁ?うちにケチつけかい?」
その煽りに乗っかるようにケバブ屋の店主が返すと、横の屋台の店主が言う。
「お嬢さん、うちの食ったらコイツのケバブなんか屁でもねぇぜ」
「じゃあ、叔父さんのも一つもらえますか?」
「おう、とびきり美味いやつを出してやる」
そう言い、その店主は鶏肉をふんだんに使ったバターチキンカレーとナンのセットをスフェーンに手渡す。
「お金払いますね」
「おう、割引しておくよ」
そしてそこでスフェーンはカレーとナンを見て首を傾げる。
「これは、どうやって食べるんですか?」
「ああ、小さい方から千切ってカレーに掬うようにつけて食べるんだ。…お嬢さん、旅の人かい?」
「えぇ…普段は運輸ギルドで運び屋をしています」
運輸ギルドの証明書を見せながら答えると、感心した様子で店主達は頷く。
「ほぇ〜あんた運輸ギルドにいるのか」
「珍しい。こんな若い子が運び屋か」
「大したもんだ」
「俺の息子にも見習わせたいもんだ」
そう言い合う親父たちの間でカレーを掬って付けたナンを口に入れると、香辛料のスパイシーな風味が口の中を包み込み。その後にバターのクリーミーな柔らかい舌触りの味が駆け抜ける。
そんなカレーのスパイスは香りが良く、鼻腔を駆け抜けてして嗅覚を刺激する。
「これも美味しい」
「だろう?俺の作るカレーは好評なんだ。全て本物のスパイスを使った俺のオリジナルだ」
溶かしたバターを掛けながら次の客に提供をしていると、スフェーンはこう言う不衛生に見える清潔感に新しいものを感じながらカレーやケバブを食べる。
「どのくらい滞在するんだ?」
「まだ配達の仕事があるので、今日中には出るつもりです」
ルマリテに最初の荷物を配達し終え、最終目的地はこの路線の先にある大規模都市、ウリヤナバートル旧宇宙港である。
「それまでは何をするんだい?」
「食料調達ですね」
スフェーンはそう答えると、店主にどこかいい場所は無いかと聞くとまず初めに聞かれたのが、
「乾物はいけるかい?」
だった。一昨日買って試しに食べて美味いと思っていたのでいけると答えた。
「列車で移動するなら、この通りの奥に乾物のでかい市場がある」
「ああ、長旅になるんならそこで買うのがおすすめだな」
列車での旅人と思われているのかは定かではないが、乾物に少しはまっているのでその意見をありがたく聞いた。
「ありがとうおじさん」
「おう、また来てくれよ」
「他の屋台を回ったら〜」
スフェーンは去り際にそう返すと言われた乾物を多く扱う市場に向かって移動をする。
実際、ここの屋台はとてもおいしかった。まだまだ数多くあるというが、食べ切れるかは定かではない。
大勢の人が行き交う中にはロバやラクダ、馬の背中に大量の藁や荷物を乗せて引く姿や、コンテナを積んだトラックが人をかき分けながら走る姿もあり。なかなか面白い空間ができていた。
元々交易のためにつくられたこの街には大規模な露天マーケットが用意されていた。
「おっきいなぁ……」
そこでは多くのテントが連なる店が並び、多くの商品が売買されていた。毛皮から食料品、武器やサイボーグ装備まで、何でもござれだ。
支払いは共通電子通貨のみと書かれ、支払いに安堵しているとスフェーンはローブを被ったままマーケットに突入して行った。
マーケットには実に様々な商品が置かれていた。
ドライフルーツは勿論、缶詰や飲料水。中にはオートマトンの装備やサイボーグ用の武器もあった。
「すみませーん、これ一つ」
「毎度」
ある店で干し肉を購入すると、支払いをする。支払い方法は電子グローブによって相手と手を触れる事での支払いだ。
ハッキングはルシエルによって監視されているので、穴あきグローブ見た目の電子機器でもハックされてお金が抜き取られるような事はない。
『食料を大量に購入していますが、今の列車にキッチンはありませんよ?』
「保存の効く乾物を買っている。それまでに簡易キッチンがはいるだろうよ」
そもそも一応ガスバーナーがあるので、最悪はそれでスープでも作って仕舞えば良い。さっきここで包丁やまな板も購入したし。
「あと買うのは……」
『強いて言うのならば水です。車内に残された水の残量はあまり多くありません』
「了解、ありがとう」
ルシエルは本当に優秀で有難い。こう言う必要な物をすぐに教えてくれるし、戦闘の補助もしてくれる。
正直、この体になった時。ルシエルがいなかったら永遠にあの洞窟で生活していたかも知れない。
『そんなに褒めても、私からは何も出せませんよ?』
「分かってるって。いつも感謝しているって事だよ」
スフェーンはそう言うとマーケットでさらに買い物をしようとした時。
「ん?あれ?」
とあるドライフルーツの店で見たことがある顔がいた。
「よっ、ラーマヤ」
「ん?おぉ、スフェーンじゃないか」
ドライフルーツの店で荷下ろしをしていたラーマヤに彼女は声をかけていた。




