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#1

とある砂嵐吹き付ける砂漠の一角。

空は昼夜問わず、空を織るように永遠と緑のオーロラが淡く光り、時折りスペースデブリが産む流星が見える。


そして、そんな大地を縫うが如く複数の鋼鉄とガチガチの鉄筋コンクリートでできた線路。

その数は計り知れず、よく見るとさらに遠方にも同様の線路が無限に伸びている。


そして、そんな鉄路の上を一本のカーゴスプリンターが駆け抜ける。その速度は時速300キロ。


『エーテル残量、30%』


四両編成の貨物列車は動力貨車の間にコンテナを四つ挟んでおり、その列車の近くで小規模な爆発音があった。


「ったく、今回は安全な鉄路じゃ無かったか?」

『あの程度であれば問題ございません。私がサポートいたします』


そして先頭の運転台の上で二本足で立つ金属で出来た作業用人型機械ウォーク・オートマトンが一つ。

その中で一人の女の軽く愚痴る声が聞こえた。


すると無線で割り込むように男達の汚い声が聞こえた。無論、盗聴している無線である。


『おいっ!また一機やられたぞ!!』

『ふざけやがって!旧式の工作機械の癖にっ!!』


そこでは列車を囲うように襲っている同じ二本足や四脚・六脚などの多脚戦闘機械の姿も確認できた。


彼らはここら辺を縄張りにしている小規模な強盗団だった。

今回はある連絡を受けて言われた列車を襲撃に来ていたのだが、すでに三機がやられていた。


『くそっ!取り付く前にやられた!』

『相手は一機だぞ?!ふざけるなぁっ!!』


すでに手痛い損害を受けていると、そこにさらに列車に積んでいたコンテナからガトリング砲がせせり出し、襲ってきた強盗に銃弾の雨を降らせる。


『チッ!自己防衛装置か!』

『くそっ、撤退だ!これ以上は防衛砲の射程圏だ』


旧式の軍用人型機械ミリタリー・オートマトンを四機失った強盗団は追随する速度を落として列車を忌々しげに見送っていた。






====






「はい、確かにドムドム団四機の破壊を認証しました」


俗にギルドと呼ばれる場所で案内係の女性が目の前に立つ目深くフードを被る人物に戦果確認を行うと、次に報酬を支払う。


「今回の運送報酬に加え、敵機撃墜による追加報酬も合わせてこの金額となります。それと依頼主より伝言を受け取っております」

「…データをくれ」


フードの奥から少女の声が返ってくると、係の女性は『やっぱり…』という感情を抱きながらも忠実に仕事をこなす。


「かしこまりました。メッセージにデータを送信いたします」


そしてカタカタと軽くキーボードを叩くと少女も軽くデータを確認した後に頷くとそのままカウンターを去って行った。


「あれが噂のフリーの運び屋ですか…」


係の女性は少女を見送りながら小さく溢していた。






その後、街の飲食店で大勢の大人達が仕事やらで盛り上がる中。カウンターで仕事をしていた給仕はある茶色のフードを被ったやや小柄な人物の前に立って聞いた。


「ご注文は?」


そう聞くとその少女は給仕に注文をした。


「ビールはあるか?」

「生憎と、ガキンチョに出せる酒はないよ」

「そうか…」


声やその見た目から子供と見た給仕は街のルールに従って酒の提供を断ると、その少女はやや肩を落としつつも注文をしなければならないので適当な物を選んだ。


「じゃあクラブハウスサンドを一つ、それとジンジャーエールを一つ。Mサイズで」

「あいよ」


注文を受けた給仕はゴロツキ共もいる様なこんな店に一人で来ている少女に少し訝しむも、このご時世ではよくあるなと良く良く思い返すとテキパキと料理を作っていた。


「…」


そして店の隅でなるべく絡まれないようにひっそりと過ごしていた少女は料理が出てくるのを待っているとそこに一人の、一部がメタリックな機械部品で出来た大柄な男が話しかけてくる。


「よぉ嬢ちゃん。こんな場所で何しているんだい?」

「…」


そのサイボークの男は少女に話しかけるも、彼女は無言を貫く。


「観光かい?」

「…そんな所だ」


うざったらしいと言う感情が見え見えな少女はぶっきらぼうに答えると、手に付けていた手袋付きの掌を向けると今日のニュースを見始めていた。


「良かったらおじさんが街を案内してあげようか?」


明らかに下心を持った様子で男は話しかけると、少女はキッパリと答えた。


「結構、一人で良い」

「この街は危険がいっぱいだ。おじさんと一緒にいれば絶対安全だよ?」

「生憎、ロリコンと歩く趣味はない。…失せな、デカいだけの変態」


少女の返事はその後も強火で答える。


「汚いイチモツ下げてる男と街を歩くつもりはない」

「テメェ、言わせておけば…!!」


短気なその大男は顔を赤くすると、立ち上がって少女を掴みかかった。


「危ねぇっ!!」


それには遠くから見ていた他の傭兵の一人が思わず叫んでしまう。

少女の前に立つ大男はここらへんではロリコンで一番強いと言われた男で、一旦暴れると収拾を付けるのに一苦労する輩だった。


やりやがったと誰もが思い、一部に至っては逃げた者もいる中。少女は大男を見ながら一人呟く。


「マンリ社製の重装型武装腕部…中々珍しい物を使っているな」

「最後の警告だ。泣いて媚びろ」


振り払われた大きな腕はたとえ武装を展開して居なくとも少女を容易く挽肉にできる代物。誰もが選択を誤るなと思う中、少女は右手を差し出す。


「しかし、マンリ社はかつて倒産した企業。残ったパーツも高いだろうに…」

「あぁ?聞いてんのか?!」


そして少女の手が大男の剥き出しとなった腕部の大砲に触れると、接触した電子グローブから僅かな光が出る。


「マンリ社が倒産した理由は、武器は高火力だが。エーテル耐性が無いに等しいことだ」

「はっ…?!」


そして僅かな光が一瞬点滅した後に大男は驚愕の顔を見せた。


「今の時代、エーテル耐性の無い装備は動かしづらいだろう。よくもまぁうまく動いている」


そして仄かな光が消えると、大男は白目を剥いて頽れて地面に倒れた。

その光景に誰もが唖然となった。少女が何をしたのか、未だに理解できなかった。ハッキングでもしたのかと思ってしまった。


「今の光って…」


その光は自分達ですら偶にしか見ない光景。それ故に少女が行ったことが末恐ろしかった。

すると気絶した大男を前に少女はカウンターを見て一言注文を加えた。


「…すみません。注文した物、テイクアウトにして良いですか?」






結局満足に店で食うこともできなかった。と少女は疲れた表情を浮かべる。

今居る場所は都市の中の小さな公園のベンチ。周囲には車やバスが走り、天を穿つほど高く見える高層ビルが立ち並ぶ場所の一角にそれは存在する。


「やはりこの体では酒すら満足にやれないか……」


そう溢し、鏡で見ても明らかに10代前半の少女の身長の自分を見て溜め息を溢す。

すると少女の脳裏に響くかの如く別の声が聞こえる。


『今のあなたの容姿でも、お酒は飲んでも問題ありませんよ?』

「はっ、人間はなんでも見た目で判断されちまうのさ」


テイクアウトで持ち帰ったクラブハウスサンドを食べると、そこでジンジャーエールを飲んでゴミを軽くゴミ箱に放り投げて立ち上がる。


『今のところ、新たな仕事は運輸ギルドより発注されておりません。如何なさいますか?』

「食糧、それから武器弾薬の購入だな」

『畏まりました。この街の質の高い食料品店、銃火器店の検索を行います』

「はいはい」


相変わらず便利な妖精さんだと思いながら少女はフードの端を掴んで上を見上げるとそこでは該当の立体ホログラムで今日のニュースが上がっていた。


『本日、アイデン第三区にて発生した火災により多数の死傷者が…』


そんなニュースが出る中を一人少女は街を歩く。

周囲の人間はサイボーグや強化人間が数多く存在し、ウォーク・オートマトンの姿も確認できた。


『また、赤砂傭兵団が近く。アイリーン社との業務提携を締結することが発表されており…』


そんな中、あるニュースを見ていた傭兵が横に居た仲間の同業者に話しかける。


「なぁ、赤砂傭兵団って。確かレッドサンの…」


同じニュースを見ていた仲間がそれに関連した情報を呟く。


「赤砂傭兵団の団長レッドサンが行方不明になって半年。流石に死んでるだろ」

「まぁ、あの人は何をしたって目立つ男だったしな」


そんな事を軽く言い合っている傭兵達。しかし、話題を口にした傭兵が溢す。


「世界最強と謳われた伝説の傭兵集団…何処の企業の味方にもならない完全独立した傭兵団。俺憧れてたんだけどなぁ」

「まぁ、今どき企業と提携しない傭兵団の方が少ないだろう。あっちもビジネスだ」


そんな事を話し合う傭兵達の間を抜けるように少女は歩くとそのまま街の地下にある巨大なプラットフォームに降り立つ。






そこは数多の線路とホームが並び、多くの列車が行き交っていた。

今の世界の物流の中心である鉄道は、他の都市を繋ぐ重要なインフラ。何十キロと繋ぐ長い貨物列車にガントリークレーンが積載されたコンテナを運んでおり、それに合わせてトラックも何台とトレーラーを繋げて待機していた。

中には複々線での運用を前提とした巨大な貨物列車も待機していた。


「ルシエル」

『はい、何でしょう。スフェーン』


互いにルシエルとスフェーンと名乗っている二人は短く会話をする。


「俺の列車は?」

『24番ホームにてエーテル補給とコンテナの積み下ろしを行っております』


長いエレベーターを降りながらスフェーンはルシエルに聞く。


「異変は?」

『御座いません。それから、先ほどの依頼主からのメッセージですが…』

「流してくれ」

『畏まりました』


確認をするとスフェーンの網膜に音声データが投影される。


『スフェーン君、先の任務。ご苦労だった』


メッセージは依頼主のある人物からだった。


『君の活躍のおかげで我が社の大事な荷物は無事にこちらに届いた。今後も宜しく頼む』


そう言って通信が切れると、スフェーンは軽く目元を細めた。

そしてエレベータが最下層の貨物用プラットフォームたどり着くとゲートが開いてスフェーンはホームで停車する灰と赤のツートンカラーの四両編成の貨物列車を見た。

コンテナは先頭車以外は既に無く、依頼主が荷物のコンテナを運んだ後だった。


「まさか、俺が行商人をするとはね」


人生分からんもんだと零しながらスフェーンは自分の列車に乗り込んだ。

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