愛され体質から卒業したい
ユウ君は小学3年生の男の子。毎日、自分の愛され体質に困っているのです…
(なろうラジオ大賞6応募作品です)
ユウ君は愛され体質だ。自分で愛想を振りまいたわけじゃないし、彼は愛している訳じゃない。なのに向こうから勝手にユウ君に寄ってきてしまって本当に困っているんだ。
朝、ママが「早く朝ごはん食べなさい」って急かすから、ユウ君の口の周りをマーガリンや牛乳が愛してくる。気付くと指にはジャムもユウ君にまとわりついて、なかなか離れない。
朝からユウ君は自分の愛され体質のおかげで大忙しだ。
ママに「口と手をしっかりきれいにしなさい」と言われて、勝手にユウ君を愛してきたパンくずたちとさよならして慌てて学校に向かう。
今日は習字も図工の授業もあるじゃないか。はあ、とユウ君は学校で時間割を確認して小さくため息をついた。今日は授業でも愛され体質が発揮されそうな予感しかしない…
案の定、鼻の頭と爪の間を墨に愛されて、トレーナーの袖を絵の具に愛されてしまった。こいつらに一度愛されてしまったら、なかなか離れてくれないから大変だ。「帰ったらママに怒られるかなあ」ユウ君は少し気が重くなった。
放課後、そんな気の重さも忘れて、早く家に帰ってゲームがしたくてユウ君は急いで帰っていた。すると…バターン!!と大きく前に転んだ。ユウ君は「僕は地面となんか頬ずりしたくないんだ…」と半べそだ。ユウ君は地面にも愛されてしまってこれまた大変。
「ただいま~」ちょっと元気なく玄関へと着くと、ママが出迎えてくれた。帰ってきたユウ君の姿を見てママは「今日も学校で盛大に愛されてきたんみたいね。今日の給食はカレーだったでしょ?あとは習字とお絵かきもあったでしょ。」とちょっと笑った。そしてすぐさま来ていたトレーナーを脱がされてママは洗面台へと向かっていった。そして擦りむいた膝小僧に消毒とばんそうこうをしてくれた。
「笑いごとじゃないよ!…でも、カレーにも愛されていたのは気付かなかった…」とユウ君はため息をついた。
本当はこんな愛され体質は治したいんだ、愛され体質からそつぎょうしたいんだ!とユウ君はいつだって心に誓っているのだ。努力だってしているんだ、多分…
「これからはきっと、こんな一方的な愛され体質は終わりにしていくぞ」そう意気込みを新たにしているユウ君のズボンには給食のご飯粒がしっかりしがみついてた。ユウ君は愛されていることには気が付いていない。
ユウ君の愛され体質の卒業までの道のりはまだまだ長そうだ。