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翼竜に乗った撃墜王  作者: 犬尾剣聖


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19/40

19 襲撃







 月と星の位置を頼りに飛んで行くのだが、地上は暗くてどこを飛んでいるのか全く分からない。

 段々不安になってくる。


 雲に入ればお互いの姿さえ見えず、ぶつかるんじゃないかという恐怖もあった。


 一度はケンキチ君のワイバーンの足に蹴られそうにさえなった。

 後でお礼参りをしてやろう。


 そしてどれくらい飛んだだろうか、徐々に東の空が明るくなってきた。

 日の出が近い。


 この時が寒さのピークだった。


 寒さに震えつつ徐々に高度を下げていき、日の出を背にする飛行位置に来た。

 これは敵飛行基地が近いのだろう。

 ということは、ここまでは順調を意味する。


 少しすると遂に太陽が多くの地表を照らし始める。

 すると前方に天幕が多数と、見張り塔が見えてきた。

 敵の飛行基地に間違いない。

 翼竜用の大きな天幕も見える。


 タイミングは完璧。


 それにまだ敵には気が付かれていないようだ。

 

 僕は段々楽しくなってきた。


 胸が高鳴る。


 初めにビーン小隊が緩降下を始めた。


 いよいよ突撃だ。


 次に僕達ウーゴ小隊も遅れて緩降下を始める。


 そこで見張り塔のゴブリン兵が気が付いたようだ。

 激しく鐘を鳴らし始めた。

 

 だがもう遅い。


 先に突撃したビーン小隊が突っ込んだ。


 かなり低い高度まで下がり、ビーン小隊長騎を先頭にして次々に爆壷ばくつぼを投下。


 合計六個の爆壷ばくつぼが地表に吸い込まれていく。


 ビーン小隊三騎は騎首を上げて退避する。


 遅れて六個の爆発が連続で起こる。


 まあ、ほとんどの爆発は見当違いの所だが。

 所詮は素人の爆撃。

 しかしその内の一個の爆壷ばくつぼだけが、ちょうど天幕が立ち並ぶど真ん中にたまたま落ちた。


 するといくつかの天幕が吹き飛ぶのが見えた。


 中に居たであろうゴブリン兵も吹き飛んでいく。


 ここでやっと敵からの魔法攻撃が始まった。

 しかしそれも散発的に過ぎない。


 そして今度は僕達ウーゴ小隊が突っ込んだ。


 狙うは翼竜の天幕!


 僕達からも六個の爆壷ばくつぼが投下。


 爆風に巻き込まれないように直ぐに上昇。


 僕は気になってワイバーンを傾けて地表をのぞき込んだ。

 

 それは僕が投下した爆壷ばくつぼが、翼竜の天幕をいくつも吹き飛ばす瞬間だった。

 

 やった! 命中!


 ウーゴ小隊長の投下した爆壷ばくつぼは、天幕から大分逸れて爆発した。


 ケンキチ君の投下した爆壷ばくつぼはと言うと、さらに大きく外れて森の中で爆発。

 どう落としたらあそまで離れた所に落ちるんだろうか。

 凄いよ、ケンキチ君……


 ただこれだけではまだ物足りない。


 僕は一人編隊から外れて再び降下する。


 そして必死に空襲警報の鐘を打ち鳴らす見張り塔を目指す。


 降下しながらワンドを取り出す。


 速度を上げて見張り塔の直ぐ横、地面スレスレをすり抜けた。


 ゴブリン兵が歯をむき出しにして僕を睨みつけるのが見えた。


 僕はそこに連続で炎弾を撃ち込む。


 そして素早く上昇。


 何食わぬ顔をして編隊に戻った。


 ウーゴ小隊長は燃える見張り塔を見ながら、あきれた表情を浮かべる。

 対照的にケンキチ君は羨望せんぼうの眼差しで僕を見る。


 戻ったら怒られるんだろうな。

 取り敢えず作戦は大成功だから、見逃してくれないかな。

 そんな事を考えながら、僕達は帰投した。


 飛行基地に戻ると、皆して大はしゃぎとなった。

 作戦は大成功。

 ゴブリン兵に一泡吹かせてやった。

 そう、見事に精神的ダメージを与えてやった。

 それが僕達の見解だった。

 幸いな事に、僕の勝手な行動の話は出なかった。



 それから数日経ったある日。

 一騎の味方偵察騎が焦ったように飛行基地に着陸して来た。

 そして操竜士とオブザーバーの男が二人して、凄い形相で降りて来て言った。

 「敵の大編隊がこっちへ向かっている」と。


 直ぐに非常警告の鐘が打ち鳴らされた。

 何事かと誰もが建物から外に出て来て気が付いた。


 西の空に見えるいくつもの黒い点。


 誰かが叫んだ。


「敵だっ、敵の空襲だ!」


 守備隊が慌ただしく動き回り、対空砲筒に取り付いていく。


 その時ホイ飛行隊の宿舎には、出撃から戻ったばかりのケンキチ君と僕しかいなかった。ウーゴ小隊長は指揮所に報告へ行ったきり。他の飛行隊員は出撃中だった。


 そこへ空襲警報の鐘が僕達の耳に入った。

 宿舎の外に出ると、皆が走り回っている。

 僕は直ぐに翼竜の元へ行こうとして気が付いた。哨戒任務を終えたばかりで、ワイバーンの魔素が余り残っていない。それに僕も魔力を大分使ってしまっている。

 これでは大して飛べない。


 それならと思い、宿舎から魔法のワンドを持って来た。

 最悪はこれで応戦するつもりだ。

 ケンキチ君も僕に習い、魔法のワンドを手にした。


「ケンキチ君、建物の近くは狙われる。森の中へ隠れよう」


「う、うん、そうだね。森へ行こう」


 二人して近くの森へ向かった。

 そして僕達が森へ入った頃、敵の翼竜の編隊が基地の上空に到達。


 これは絶対にこの間の早朝襲撃に対しての、報復攻撃に違いない。


 敵騎は二十騎以上はいるんじゃないだろうか。

 言ってみれば大編隊だ。


 僕とケンキチ君は、自衛用の魔法のワンドを握り締め、木の陰から空の様子をうかがっていた。


 すると三騎のプテラノドンが低空で、こちらに接近して来た。

 

 恐らく僕達の宿舎を攻撃するつもりなんだろう。

 悔しいが僕達は何も出来ない。


 そこで無謀にも、ケンキチ君が魔法を放ってしまった。


「ケンキチ君、何やってんだよ!」


「え、でも……」


 しかし魔法が届くはずも無く、結局は宿舎に爆壷ばくつぼを落とされる。

 その落とされた内の一発が命中。

 宿舎の屋根が吹き飛ばされ火が着いた。


 火を消したいが、今出て行くと見つかってしまう。だからしばらくじっとしていようと思ったのだが。

 すでに見つかっていた。


 明らかにケンキチ君の攻撃のせいだろう。

 宿舎を爆撃した三騎の翼竜が、方向転換をしてこちらに降下して来た。


「ケンキチ君、逃げるよ」


「う、うん」


 森の奥に走り出す。

 さすがに木々が邪魔して僕達を追うのは難しいはず。

 それでも三騎の内の一騎が、木の高さギリギリまで下がって飛行し始めた。

 きっとケンキチ君が魔法攻撃したのが気に食わないのだろうな。

 僕達を見つけようと森の上空を旋回している。

 その時の僕達は大きな木の陰に隠れて、敵騎をやり過ごそうとしていた。

 

 しかし、またしてもケンキチ君は、魔法のワンドを敵騎に向けていた。


「だからやめろって!」


 僕は叫んだのだがそれは少し遅かった。

 ケンキチ君は既に魔法を放った後だった。


 石弾が何発も空に向けて飛んでいく。


 この時ばかりは、ケンキチ君を張り倒してやろうと思った。


 しかし、ケンキチ君の放った石弾が、低空を飛ぶ翼竜の操竜士を直撃。

 制御を失った翼竜は、森の木に足を引っ掛けて墜落した。


 まさかの撃墜だった。


 開いた口が塞がらない。


 僕は振り上げた手をそっと下ろした。


 反対にケンキチ君は大はしゃぎだ。


「やった、やったよ!」


 だが、よくよく考えると届く距離じゃない。

 魔法の射程は個人差もあるが、だいたい四十メトルから五十メトルと言われている。


 あの距離はどう見てもそれ以上あった。


 僕は改めてケンキチ君を見た。


 何も考えて無さそうにヘラヘラ笑っていた。


 やっぱりこいつ、張り倒そう。









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