15 哨戒任務
哨戒任務は一日に二〜三回程あるのだが、前線を飛べば必ず敵に遭遇する訳じゃない。
軍に入る前は飛べば必ず接敵し、空戦になるもんだと思っていた。
しかし実際は敵が見えても偵察騎や攻撃騎だったりすれば、こちらの姿が確認されたら真っ先に逃げられる。
こうした理由から僕は最初の二騎撃墜の空戦以来、スコアを伸ばすことが出来ないでいた。
そんなある日、僕達小隊はいつもの様に哨戒任務に出掛けた。
最前線の地上では、敵味方が激戦を繰り広げている最中で、その上空を僕達は哨戒していた。
地上への攻撃装備などしていない僕達は、何も出来ずに上空を旋回する。
そこで僕は雲の合間に、低空で地上を攻撃する翼竜を発見した。
だが前線が入り乱れているこの状況では、味方が攻撃されているのか、敵を攻撃しているのか判断が難しい。早い話がこの距離だと敵味方の判断が出来ない。
それでウーゴ小隊長は、降下して接近する判断をとる。
僕達は雲の影に隠れながら、敵味方不明騎の上空を抑えた。
そこで低空を確認すると、三騎のアズダルコ系翼竜が見えた。敵の複座攻撃騎だ。
地上の味方部隊へ攻撃を終えたばかりのようだ。
ウーゴ小隊長はやる気満々の様子で、直ぐに急降下攻撃をすると合図を送ってきた。まさにその瞬間だった。
僕の相棒のワイバーンのハルバートが、上空に首を持ち上げ鳴き声を響かせる。
その鳴き声に僕は、無意識の内に反応した。
急旋回!
回避行動を取りながら上空を確認する。
雲の間から真っ逆さまに降下してくる、三騎の翼竜が見えた。
ゴブリン軍のプテラノドンだ。
三騎の敵は、空中で同時にパッパッパッと光を放つ。
火槍の発射だ。
物凄い速度で火槍の航跡が伸びてくる。
僕の真横を三本の火槍が通過する。
危なかった。
避けなければ当たっていたかもしれない。
火槍を放った敵騎は再び上昇。
ここに居たら喰われると思い、周囲を見回したところで異変を感じた。
オトマル兵曹の翼竜の様子がおかしい。
敵騎の動向もお構いなしに、僕はオトマル兵曹のワイバーンに近付いて行く。
近くから見て分かってしまった。
オトマル兵曹の足を火槍が貫通している。
その貫通した火槍はなおも、ワイバーンの背中に突き刺さっていた。
苦しそうに唸り声を響かせるワイバーン。
出血が酷いように見える。
鮮血が風に散って赤い霧と化していく。
僕は叫んだ。
「オトマル兵曹、治癒ポーションです。ポーションを使って下さい!」
しかし良く考えたら、刺さった火槍を抜かないと治癒ポーションは効かない。
オトマル兵曹は自分の足に刺さった火槍を抜こうと必死だが、騎乗したままの体勢で抜くのは無理だろう。
僕はオトマル兵曹騎と並走しながら叫んだ。
「オトマル兵曹、降下して下さい。ワイバーンを地上に着陸させて下さい!」
僕の声は聞こえていないのか、オトマル兵曹は足の火槍を掴んだまま苦しんでいる。
ウーゴ小隊長はというと、オトマル兵曹のワイバーンの周囲を旋回して何か叫んでいる。
そこへ第二波攻撃が来た。
再び上空から三騎のプテラノドンが降下して来る。
僕は叫びながらも旋回して回避。
「オトマル兵曹っ、避けて!」
敵騎は先程よりも降下速度を上げている。
僕達の下へ抜ける気か。
三騎同時に火槍を発射。
そのまま僕達の間を擦り抜けて、低空へと滑り込んで行く。
オトマル兵曹のワイバーンが、苦しそうに鳴き声を上げた。
僕は直ぐにそちらに視線を移す。
オトマル兵曹のワイバーンの尻尾の付け根辺りに、新たに火槍が突き刺さっていた。
オトマル兵曹のワイバーンの羽ばたきが、徐々に力無く弱まっていく。
そして、そのままゆっくりと落ちて行く。
「オトマル兵曹、ワイバーンを操作して下さい。このままだと墜落します!」
僕の声が聞こえたのか、オトマル兵曹のワイバーンが少し持ち直す。
しかしオトマル兵曹もワイバーンも、苦しそうなのは変わりない。
僕は敵騎に視線を向ける。
旋回しながらこちらに騎首を向けている。
もう一度仕掛けて来る気だ。
そうはさせない。
僕はウーゴ小隊長にオトマル兵曹を頼みますと合図を送り、三騎のプテラノドンへと向かった。
敵は逃げるつもりは無いようだ。猛然と僕に突っ込んでくる。
だが三騎対一騎は不利でしかない。何としても数を減らしたい。
そこで騎兵学校での事を思い出した。
僕は大きく目立つ様に旋回。
そのまま下降して行く。
すると三騎の敵は標的を僕に合わせた様だ。
僕は低高度でひたすら逃げた。
しかし僅かに敵の方が早い様で、徐々に距離が縮まってくる。
このままだと滝の射程内に入ってしまう。
間に合うか……
その時、地上の味方陣地が見えてきた。
良し、いける!
味方陣地の上空に差し掛かった所で、地上から対空射撃が始まった。
味方部隊が敵騎に対して火槍を撃ち始めたのだ。
僕は心の中で感謝しつつ急旋回。
突然の攻撃に慌てた敵騎は編隊がバラバラに崩れ、三騎が別々の方向へと退避して行った。
騎兵学校時代のグリフォンを追っ払った方法だ。
僕はその内の一騎、上昇反転する敵に狙いを定めた。
旋回しながら正面に敵騎を捉える。
そして引き金を引いた。
二本の火槍がパッパッと発射炎を残して射出される。
そして空中に白い煙の線を描きながら、上昇旋回する敵に吸い込まれていった。
空中にパッと鮮血が舞う。
命中だ。
プテラノドンが真っ逆さまに落ちて行く。
僕は撃墜を最後まで確認する事なく、次の標的に向かう。
残った二騎の内一騎は、対空射撃で傷付いたらしく、既にヨロヨロとした飛行だった。
そっちは放って置いて、残る一騎を追う。
敵は味方対空部隊から逃れた所で大きく旋回。
僕に向かって来た。
一騎打ちか。
望む所!
僕も敵騎を真正面に捉え、速度を上げていく。
そして射撃。
すると敵も釣られて発射。
ただ、僕は初めから当てにはいってない。この距離では当たらないからだ。
僕が発射した火槍は全然違う方向へと飛んで行く。
敵の放った火槍も上手く躱した。というより当たらない。
問題無い、作戦通りだ。
軌道を修正して、そのまま敵とぶつかりそうな距離に迫る。
僕はこの瞬間を狙っていた。




