1 騎兵学校
新作です。
一話目だけ長めとなってます。次回からは二千文字から三千文字くらいでの投稿となります。
昔、魔族と呼ばれる亜人種族連合と人間族との間で戦争があった。
いつ終わるとも分からない戦いが数十年続き、両種族ともに疲弊していった。
そんな戦乱の最中、人間側に青い翼竜に騎乗する男が現れた。
彼は特殊な能力の持ち主で、瞬く間に敵を打ち倒していった。後にそういった特殊能力を“ギフト”と呼ぶようになる。
翼竜乗りの彼の存在は大きく、人間に勇気を与え、一気に戦況が人間側に有利となっていった。
人々はそんなギフト持ちの彼を“蒼き勇者”と呼んだ。
形勢が不利になった魔族側は、この状況を変えようと召喚という手段を選んだ。
それは悪魔の召喚だった。
生き物を媒体にし、それに悪魔を降臨させるというもの。
その媒体となったのは、敵である人間の肉体だった。
人間に降臨した悪魔は自らを魔王と名乗り、勇者と激しい戦いを繰り広げていく。
戦いの余波は凄まじく、大地が割れ海が荒れ狂ったと伝えられている。
それは数日間とも数週間続いたとも言われる。
そして最後には勇者が瀕死の重傷を負いながらも魔王を倒し、その長い戦争は終わりを迎えた。
王を失った魔族は完全に勢いを亡くし、世界の果てへと撤退して行ったという。
それ以来、人間の間では翼竜に乗る者は誰からも羨ましがられ尊敬された。
□ □ □
子供の頃に「将来の夢は?」と聞かれたら、迷わず僕はこう答えた。
「翼竜乗りになる!」と。
翼竜乗りとは翼竜に跨り、大空を駆け巡るエリート騎兵。飛行騎兵とも呼ばれる。
ちなみに爵位のある貴族の場合は竜騎士と呼ばれる。
子供から絶大な人気を集め、大人からは羨望の眼差しで見られる職業。
僕は幼い頃からずっと翼竜乗りに憧れていた。
翼竜乗りになるには騎兵学校に入学し、操竜士の勉強をする必要があり、その入学試験は十五歳が条件だ。
それで僕は十五歳になった年に、近くの街で行われた臨時試験会場で、騎兵学校の入学試験を受けた。
結果、見事に合格。
憧れの翼竜乗りに一歩近付いたわけだ。
僕の村から騎兵学校に受かったのは僕が初めてで、村中で大騒ぎになったのには僕も驚いた。
両親があれほど喜んだ姿は初めて見たかな。
それほど騎兵学校は狭き門だったってこと。
そして僕は騎兵学校のある都市ドーラへと、一人旅だった。
騎兵学校は全寮制の寄宿学校で、僕としては生まれて初めて親元を離れるわけだ。
到着したのは入学式の三日前。
騎兵学校は、このドーラという街にあった。
ドーラの街はかなり大きな街であり、どこへ行っても人が多くて目が回りそうだった。
街には見たこともない魔道具や武具が売っているし、建物の造りも珍しいものばかりと、全てが新鮮に目に映った。
道に迷いながらもなんとか騎兵学校に到着。
そして手続きを済ませて、いざ寄宿舎へと足を踏み入れた。
僕が入る寄宿舎は平民用で、外見はかなり年季の入った建物だ。
貴族が入る寄宿舎も見たけど、まるで別物だった。
平民用の寄宿舎の中には八人部屋がいくつもあり、部屋の中には二段ベッドが四つと、各個人のテーブルとイス、そして鍵付き収納箱と棚があるだけの質素なもの。
ただ明りには、魔道具のカンテラが各個人のテーブルに配置されているのは嬉しかった。
到着して荷物を置くと、僕は直ぐに街へと出て行った。
都会が初めての僕は、どうしても街中を色々と見て歩きたかったからだ。
夕方になって寄宿舎に帰ってみると、部屋には一人の男性が居た。
どうやらこれから先、共同生活する部屋仲間の一人らしい。
早速挨拶をと思い声を掛ける。
「はじめまして、僕はトーリ。東方の村から来たんだ。よろしく頼むね」
そう言って手を伸ばす。
すると。
「ああ。俺はマッシュだ」
それだけ言って握手すると、彼は直ぐに自分の荷物を整理し始め、それ以降の会話は続かなかった。
何だか不良っぽい感じがする。
この学校は入学が難しいエリート学校なんだけど、彼は何だかここに似つかわしくない気がする。
翌日になると、次から次へと同室者が入って来て自己紹介も大変だった。
そして制服が配られ入学式が始まって、そこで初めて女子がいる事を知った。
寄宿舎は男女別なので全然分からなかったが、入学式は男女一緒とあって、男どもの視線は女子に集まっていた。
そう言う僕もその一人なんだけど。
特に女子の中で一人目立つ子がいる。
多分、一番男どもの視線を集めていた女の子。
銀色の髪で一見冷たそうな雰囲気の美人系だが、女の子同士の会話の流れで一瞬だけ笑顔を見せた。
その途端、男どもから「おおっ」と言う声が漏れた。
あの笑顔で何人の男どもがハートを射抜かれたことか。
ちなみに今年の入学者は百人ほどらしく、一年間の騎兵学校の訓練で翼竜乗りになれるのは、その中の数人だと知った。
ただし、翼竜乗り以外にも道はいくつもある。
例えば竜以外の魔獣の騎兵や、整備兵なんて道もあった。
入学式が終わると簡単な説明があり、その後直ぐに授業が始まる。
剣術に槍術の授業、そして魔法の授業もある。
さらには火槍術や騎乗術に操竜術、さらには飼育術とその内容は多岐に渡る。
そして竜に乗る前に、魔獣と呼ばれる二足歩行のトカゲの騎乗をへて、遂に竜への騎乗が始まる。
その頃になると僕は、毎日が楽しくてしょうがなかった。
ある日の操竜術の授業で、教官が僕を指して言った。
「トーリ訓練生、騎乗してみろ」
授業で使う翼竜は、年老いて一線を退いたベテラン翼竜を使うのが昔からの慣わしらしく、今回も年老いてはいるが実戦慣れした翼竜だった。
いつもは教官と二人での騎乗だが、今回は初めて一人で騎乗する。
僕はガチガチに緊張していたんだと思う。
目の前にいるのはワイバーンという種類の二足翼竜。
僕は恐る恐る近付き、騎乗しようとワイバーンに触れた途端、ワイバーンがブンッと首を振った。
地面と空が逆転する。
地面に転がされて初めて、ワイバーンに弾き飛ばされたと知った。
正直、何が何だか分からなかった。
幸い大した怪我はなかったが、精神的ショックは大きい。
教官が説明するには、僕の中の恐れや不安がワイバーンに伝わったからだと言う。
その後、同じ部屋のマッシュ君が騎乗を試みたところ、何の問題も無く騎乗する。
マッシュ君は運動神経が良く、実技では何でも上手くこなしてしまう。
そんな彼を僕は羨ましく思った。
□ □ □
学校生活が三ヶ月ほど経った頃、選抜試験が始まった。
この試験で今後の進むべき道が絞られる。
これが卒業までに何回かあり、最終的に各訓練生の進路が決まっていくのである。
もちろん僕は翼竜乗りへの道を希望していた。
学科試験は自信があったのだが、実技試験に不安がある。
「マッシュ訓練生、騎乗しろ」
マッシュ君の実技試験だ。
マッシュ君は実技が飛び抜けて上手い。クラスの中では一番上手いと思う。
試験官と一緒にワイバーンに乗って、校舎上空を一周するだけの試験。
マッシュ君にしたら簡単な試験だろうな。
案の定、難なく一周して見事な着地をして見せた。
試験官が黙って頷き、手に持った書類に何か記入している。
あれは間違いなく合格だ。
次に実技もそこそこの、とある訓練生の試験が始まったのだが、ワイバーンに跨がる前に試験官に止められた。
「はい、そこまで。戻れ」
納得がいかない様子の訓練生は、思わず声を荒げる。
「教官、何がいけなかったんですか!」
「安全確認を怠っただろ」
その一言で訓練生は黙り込んだ。
僕も驚いた。
騎乗具の一つを軽く流し確認しただけでこれだ。
これを見なかったら、僕も落とされたかもしれない。
「良し、次。トーリ訓練生。準備しろ」
とうとう僕の実技試験の番がきた。
僕は老いたワイバーンに近付く。
そっと触れた。
大丈夫、弾かれない。
騎乗具の確認も、試験官に分かるように大袈裟にやった。
そしてワイバーンに跨り、深く深呼吸する。
ワイバーンが小さく「グルルル」と鳴く。
僕は手綱を握り締め、ワイバーンに舞い上がるように指示を出した。
すると羽を一杯に広げて羽ばたき始める。
一瞬の浮遊感。
フワリと舞い上がるワイバーン。
良し、ここまでは順調。
後席に同乗している試験官も、特に何も言わない。
高度を上げるように指示すると、ワイバーンは徐々に上空へと羽ばたいて行く。
ここまでは順調。
次は校舎を回るコース。
高度が上がった所で、指示通り校舎上空を回り始めるワイバーン。
試験だというのに、何とも言えない高揚感を感じる。
遠くの景色までハッキリと見渡せる。
ああ、もっと飛んでいたい。
いつの間にかに緊張など吹っ飛んでいた。
そして後は着地するだけ。
ここまてきたら成功したも同然だ。
ワイバーンがゆっくりと高度を下げながら、地面へと向かう。
その時だった。
遠くの空に何かが飛んでいるのが見えた。
それが徐々にこちらに近付いて来る。
僕は思わずそれを口にした。
「グリフォン……」
ストックがあるのでしばらく毎日投稿します。