『街を出ていざ旅へ』
簡潔に言おう。俺は旅に出ることになった。
まず第一に、この世界に召喚された俺の使命だ。
簡単に言えば、この世界は魔王軍と呼ばれる謎の勢力が、裏で暗躍している。
魔王軍が生み出し、人間社会に送り出す者たち。
それは奇怪な能力、残忍性、そしてその見た目や経緯から、異界の魔物と呼ばれていた。
だが魔王軍と言うのは、この世界の人間がそう認識しているに過ぎない。
実情は俺が元居た世界、つまるところの地球に関係している。
その経緯から…。
ーーー
世間から正義の味方と呼ばれる正義のヒーロー・イーグルマスク。
そして奴が戦うのは、強化人間を生み出して世界征服を目論む〈悪の組織〉。
かくいう俺も、その組織が生み出した強化人間の一人だ。
組織の連中と違うのは、俺に世界征服なんて野望が無いことだった。
正義への復讐の為に強化人間になった俺は、イーグルマスク組織の両方と対立していた
そして俺は負けたのだ。イーグルマスクに殺された。
ーーー
しかし、そこが問題だったんだ。
イーグルマスクがいつも使う必殺技・イーグルセイバー。
実はその技には、何らかの物理的要因が重なって時空を歪めてしまうらしい。
結果、それで殺された俺を含む複数の強化人間たちが、時空の歪みによって異世界に転移してしまったという事だ。
その後、転移した強化人間の技術が利用され、この世界が危機に陥る。
そう、その転移技術を持って創られたのが魔王軍だ。
ーーー
他の連中とは違う意志を持った俺。
この世界の創造主とやらは、そんな俺を利用して魔王軍を排除しようと試みたらしい。
女神の化身・リトルと名付けた小さなオオカミを添えて。
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『タツヤ、忘れ物はない?』
「そもそも持ち物がねぇよ! いきなり異世界に放り込まれたんだからよ。」
魔王軍のキメラ・ヴェルディとの交戦で、俺は街の人間に見られてしまった。
俺を完っ全に魔王軍の手先だと思い込んだ民衆。
誰かを悪だと決めつける思い込みは、どう説明したって理解してくれないんだ。
だからもう、俺はこのエルメスティア領にはいられない。
『それに、他の魔王軍を探し出さないとね。』
「わかってるよ。…それが俺の使命、だろ?」
次なる怪人と、魔王軍の情報を求めて。俺は旅に出ます…!
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まるで「今から出発します」みたいなこと言ってるけど、実際はもう街から離れている。
文明がさほど進化していない景色。
人が歩いて築いただけの街道を、俺は歩く。リトルは飛ぶ。
「さて、これからどこに行くべきだろうか…。」
『ここからだと…この街なんかどうかな。〈商人の地・カレティア領〉』
「商人の街…? そうか、まずは金を稼がないと。」
『ここならお金の種になる物も多いし、クエスト的なのを受けることもできるよ。』
金の問題は頭が痛くなるなぁ…。
日本でも金に苦労したっけ。安い牛丼やカップ麺には助けられた…。
クエストと言えば、スライムみたいな魔物と戦ったりするんだろうか。
先へ進めば進むほど、異世界らしくなってきたな…!
「――ちょっと待ったァァァァァ‼」
「…あ?」
『…おや?』
突然、後ろから響く声。聞き覚えのある、女の声だ…。
パッと振り返ってみれば、街道の先から走る人影。
あのピンクの髪は…⁉
「エリーゼ…⁉ お前こんなところで何してんだ…?」
見れば大荷物を背負って、ラフな上着に、太もも丸出しのエッチぃ短パン。
大して速くもないダッシュで、俺の元までやって来た。
「ハァ…ハァ…、お願い…! 私も連れて行って‼」
「ふぁ⁉ 急にどうしたよ、実家は?」
「抜け出してきました…!」
抜け出したって…、こいつは一応領主の娘だ。
それにここからの旅、どんな危険に突入するかわからない…!
強化人間との戦いに、戦えない奴を連れて行くわけには…、
「ヴェルディに裏切られた私だけど…、やっぱり私は冒険をしてみたい、たくさんの人と出会いたい、世界を見てみたい…!」
「し、しかしなぁ…。」
「私はもう、領主の箱入り娘じゃないんだから‼」
俺がエリーゼに手を焼いていると、リトルが肩を突いてきた。
『いいんじゃない?彼女の決意は本物らしいし。…それに、初めて君をヒーローと言ってくれた人だろ?』
そういうとリトルは、俺の背後から飛び出して驚くべき行動をとった。
『やあエリーゼ、初めまして。私はリトル。タツヤの相棒で、力の根源たるオオカミだよ!』
え…?いやいや、リトルは俺以外の人間には見えないはず…
「え、なにこの子可愛い…! タツヤの仲間…?」
「いや見えてんのかよ…⁉」
『前にも言ったじゃん。見せようと思えば見せられるって。』
ありゃ、既にイチャイチャし始めてる…。
リトルの毛並みをモフモフ、尻尾でぺちぺち。
『タツヤ、彼女と一緒に魔法を習得してみない? これから先、その馬鹿力だけじゃ大変だよぉ?』
「あ、私も魔法覚えてみたい! やりたいことの一つ。」
うーん。俺はこの世界の人間じゃないから、いろいろ不都合なことがあったりするのか。
だとしたら現地人の仲間がいたほうがいい…かも?
それにリトルの言う通り、こいつは俺をヒーローと呼んでくれた初めての人間…。
魔法だって覚えなきゃいけないし…。
「…仕方ない。エリーゼよ、ついてくるがいい。」
「――やったぁ! これからよろしく、二人とも!」
『よろしくねぇ。』
「ただし! 俺の戦いにとって邪魔だと思ったらすぐ見捨てるからな? どこかに売り飛ばして飯のタネにしてやる。」
という訳で、これから二人と一匹の旅になりそうです…。
ダークヒーロー、これからどうなるのか見当もつきません。
ひとまずは金を得るため、商人の街へ向かいます。