『変身』
「こっちだよ、ヴェルディ」
エリーゼはヴェルディと一夜を過ごした後、城へと向かっていった。
信頼できる彼にジュエルを預けるため、その隠し場所を教える。
ヴェルディは自分が魔王軍に狙われることを分かっていながら、エリーゼのためにその責務を引き受けたのだ。
今、エリーゼの心は攻守両方の愛でいっぱいだ。
「それにしても…タツヤはあの後戻ってこなかったね…。」
「そうだね。目の前であんな風にされたら、そりゃ気まずくて出ていきたくもなるさ。」
自分たちが二人きりになる。その時間に気を使って、タツヤはどこかへ行ってしまった。
エリーゼは申し訳ないと思いながらも、なんとなく感謝している。
お金は大丈夫だろうか、いろいろ困っていないだろうかという心配はついてくるが。
「まずまずさぁ…なんで魔王軍はあんなにジュエルを欲しがるんだろう。」
「それなりの価値があるからだろう。特別な力があるって、君が言っていたじゃないか。」
「その特別な力も、そう言われているだけでよくわかんないし。…私には価値が見いだせないなぁ。」
魔物騒ぎがあったことから、街の外へ出る人間は極端に少ない。
街の外壁より広がるケルト風の景色は、二人の青春の独壇場となっていた。
「なんにせよ、君のような女の子がそんな危なっかしい物を持つべきじゃない。…すぐに僕の手へ渡すべきなんだ。」
「わかってるよ! ほら、もうすぐだよ。」
そう言ってエリーゼは城の裏手、街の隅っこを指さして見せた。
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「ここは…、」
「見ての通り、我がエルメスティア領の教会だよ。」
エリーゼはヴェルディの手を引いて、在りかへと突き進んでいく。
「まさか…ここで結婚式でもしようなんて言う冗談じゃないだろうね? ハハハ…。」
「ちょ、ちょっともう! ヴェルディは気が早いよ…。」
この性知識・下ネタ耐性皆無の箱入りお嬢様は紅潮し、ヴェルディの手を強く握った。
足を速め、そのまま教会の敷地内にある複数の建物を通り越していった。
進み続けた先に広がる景色が、随分と薄暗い。
「ここは…、墓地かい?」
「そうだよ…。ここがジュエルの隠し場所。」
「まさか…お父さんの骨と一緒に埋めたのかい⁉ 君みたいなお嬢様がそんなホラーなことをするとは…!」
なんとこの娘、クモの魔物に殺されたお父様や家臣の骨と一緒にキングジュエルを埋めてしまったというのだ。
という事はそれを掘り出すとき…、死人の墓を掘り起こすことになる。
エリーゼは幅の狭い墓石の間を潜り抜け、その中でも特に豪華な造りをした墓石の前に立つ。
〈エルメスティア領 歴代領主の墓〉
「だってお父様…、あのジュエルをずっと大事にしてたんだよ。これは由緒正しき家柄だけが持てる、特別な石だって。」
「エリーゼ…、だからジュエルを一緒に埋めたのか。お父さんの意志を尊重するために。」
彼女はそっと墓石の前に座り込み、中央の祭壇へと手を伸ばす。
ズズズ…ッ! という音を立て、祭壇の蓋を取り外したのだ。
これを日本で、いやどこでやっても罰当たりだろう。
しかしそんなことお構いなしだ。
束縛親父が死んでなんとなく清々している奴の倫理観なんて、たかが知れている。
「――あった…キングジュエル…!」
「ね、言ったでしょ? これなら安全だろうとは思ったんだけど…やっぱりこれは信頼できるあなたに託すわ。ヴェルディ?」
取り出されたキングジュエルは、太陽光で光り輝く。
ヴェルディはそれをジッと…見つめていた。
まるでエリーゼの言葉が聞こえていないかのように、ジッと。
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しばらくの沈黙の後、
「――エリーゼ…君は本当に、、心優しい女性だ。」
「…え? 何急に、」
「あれだけ嫌っていた父親の意志を、死後も尊重するなんて。」
ヴェルディの手が、ゆっくりとエリーゼの頬へと伸びる。
そして、耳元の髪をそっとかき上げた…。
「無邪気で夢を見ていて…それでいて美しい。」
「え、ちょっとなんですかぁ…! 急になんかそういうムード創っちゃってぇ…。」
「本当に…いい女だ…!」
エリーゼの首元に回ったヴェルディの手が、彼女を逃がさなかった。
その手で押さえつけるように、ヴェルディは自身の口を彼女の顔へ近づけていく。
――キッスだ…!
「ちょ、ちょっとそんな急に…! ―――ッ…!」
エリーゼも覚悟を決めた。
急にアレな空気を作り出したヴェルディに戸惑いつつも、目を閉じ、その瞬間を待ったのだ。
「―――だが、それだけだ…!」
「え? ……――ッ⁉」
今の瞬間まで優しかった彼の手は、エリーゼの口を強く抑え込んだ!
そして、もう一方の手で彼女が握っていたキングジュエルをむしり取る…!
咄嗟の事に何もできないエリーゼ。
一瞬だけ感じたのは、大好きなヴェルディをヴェルディだと思えないことだった。
「そうだ…お前にはそれしかないんだよ‼ 無知で哀れな小娘よ…‼」
「――ヴェル…ディ…?」
「いやぁまさか…こうも簡単にジュエルを渡してくれるとは! 予想以上に人を見る目がないなぁ。」
そのまま壁石へとエリーゼを突き立てる…。
その瞳孔を赤く光らせ、これ見よがしにジュエルを振りかざして見せた。
「お前がジュエルを持ち出した時だ…、あの時は失敗することも視野に入れていたよ! その時はこの俺自身が直接回収すればいいだけだからなぁ。」
「ヴェルディ…、一体何を言っているの⁉」
「ただ俺は、無駄にリスクを増やしたくはないのでね。多少回りくどいことをしても、ジュエルを回収しやすい位置まで引っ張り出したかった。お前はそれに十分役に立ったよ…!」
ヴェルディは手を広げ身振り手振り。
まるで演説をするかのように語り始めた。
「ヴェルディ…なの? ――ッあなたは一体誰なの⁉」
「…もう流石に分かっただろう? 俺は俺だよ…》
自身の衣服に手をかざし、それを勢いよく投げ出した。
それと共に剥がれる上っ面。
その優男顔を作り出していた仮面が、その下を見せる。
「――ッ⁉ 嘘…でしょ…?」
《お前たちが呼ぶところの魔王軍…。クモのキメラ・ヴェルディ‼》
現れたヴェルディの本当の顔。
それはまさしく、城を襲撃して大勢の人間を殺したあのクモ…!
エリーゼはこの魔物に殺されかけたのだ…。
その魔物の正体は、自分が最も信頼していた最愛の男だった。
こんな作り話のようなことがあっていいの⁉ と、エリーゼは心の中で叫んでいる。
しかしそれが現実であり、またその現実は非情にも、彼女に再びあの世への片道切符を渡そうとしていた。
《だいぶ遠回りをしてしまったが、これで俺の目的は達成された…! という訳でエリーゼ、お前は用済みだ。》
「…私を…殺すの? 用済みだから?」
《うーん、正確には俺の姿を見た奴には死んでもらうって感じかな。だからあの男…タツヤにも死んでもらったよ!ハハハ…!》
「――タツヤも⁉ 彼は無関係なのに…!」
《あいつは昨晩のうちに死んだと思うぜ? 俺のスープにたんまり仕込んだ毒でな…!》
それを聞いて、エリーゼの絶望はより一層と度合いを増した。
自分が無関係のタツヤに濡れ衣を着せ、事件に巻き込んでしまった…。
その結果、タツヤは殺された…! 自分のせいで…!
やり場のない絶望と懺悔が、エリーゼから「逃げる」という選択肢を奪った。
「――あなたは…私に自由を教えてくれた…。私が冒険に出てみたいって言ったり、魔法を覚えてみたいって言っても…私の大好きなヴェルディはそれを尊重してくれた…!」
《あー、そんな話もしたっけな。》
「世界へ私を連れ出してくれるあなたは…私の英雄だったのに…‼ あれが全部嘘だったって言うの…⁉」
《まったく…どこまで夢見がちなお嬢様なんだか。》
ヴェルディは自身の尖った指先を振り上げ、
《まぁせいぜい楽に殺してあげよう…。せっかくいい女なんだからね。》
「いや…!助けて…、、、」
《さようなら…愛しのエリーゼ…》
その手が振り下ろされた。
―――その瞬間、二人はデジャヴを感じることになる。
「なるほど…やっぱりそういう事だったかぁ。」」
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俺は教会の三角屋根の上に立っています。
眼下の墓地でエリーゼが襲われている所を、しばらく様子見していました。
ヴェルディがその素顔を晒したところ。
エリーゼが泣き叫び、現実を直視できなかったところ。
そして、俺が毒で死んだといったところ。
奴がその鋭い爪を振り上げるまで、俺は待っていた。
「そいつがお前のヒーローだって? …安心しろ。本物の英雄様が登場だ!」
『正確には悪党呼ばわりされるダークヒーローだけどねぇ。』
「おうリトル、お前ちょっと黙れ。」
なぜここまで様子見して、助けに行かなかったって?
それは…ヒーローは遅れて参上するものだからだ!
今のシチュエーション、完全にそういう感じのやつでしょ。
カッコいいでしょ。
《貴様…死んだと思っていたのだが…。》
「いやぁ正直、てめぇの毒はそこそこ苦しかったよ。あのスープ、おかしいと思ったんだ。なんか舌はピリピリするし体調は悪くなるし…。」
《あぁそうだ…! あれには魔獣でも死ぬくらいの猛毒を仕込んでおいた!》
「…じゃあタツヤ、、なんで生きてるの…?」
エリーゼもやっと勝機を取り戻したみたいだ。
では、その疑問にお答えしよう!
「最初は死ぬかと思ったけどさ、解毒能力の復活が間に合ってよかったわ。」
『転移時にリセットされたのは特殊能力とかで、肉体的な能力は戻るみたいだね。』
という訳で強化人間の要素の一つ、解毒が戻りました!
他にも筋力だとか嗅覚があるけど、それらの復活はまた追々だな。
《貴様…貴様は一体何者だ⁉》
「異世界より召喚されし地獄からの使者…かな。どうやらてめぇらを倒して世界を救え、とのことだ。」
怖気づくエリーゼのことなどとうに忘れ去ったヴェルディ。
ヴェアウルフの変身機能はもう使えないが…今はコイツがいるからな!
「行くぞ…リトル。」
『了解…! ――この者に、創造主の加護があらんことを…』
リトルが詠唱を唱え、俺の体にまとわりつく…。
そして、俺は俺の詠唱を…!
「―――変身…!」
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リトルと同化した俺の体。
神の力的なもので強制変異させるその肉体は、激しい熱と光に覆われる。
前の世界での技術で強化された体が、この世界の理論に合わせて変異を遂げる。
それなりに苦しいが…力を出すにはこれしかない。
「嘘でしょ…?」
《―――ッ⁉ 貴様やはり、あの時のオオカミ男か…‼》
「いつもは人狼って呼ばれていたよ。…こっちの世界での名前は、まだない。」
俺は両足に渾身の力を込める。
創造主の使い・女神の化身であるリトルと同化することにより変身。
イーグルマスクと戦った時よりは弱体化しているが…人間体に比べたら格段にその力は増している!
ーーーーー
「――フッ…‼」 込めた力を解放し、教会の屋根から跳び上がる…。
その勢いでヴェルディへと急降下し、キックを見舞ってやろうとした。
《流石に当たらん…!》
滞空時間が長く、それは回避された。
体を転がして墓石や木々の隙間に入り込んでいくクモ野郎。
「エリーゼ、あぶねぇから隠れてろ。」
脚力を生かし、ヴェルディの後を追った。
走れば走るほど、奴の背中は近くなっていく…。奴の足はそこまで速くない。
『タツヤ、ヴェルディは自分をキメラだと言ったね。キメラは簡単に言えば、複数の遺伝子を合体させた生物だ。』
「なるほど、ゲームにもよく出てくる奴か!」
『きっと、この世界のクモとヴェルディという人間を組み合わせてできたのがアイツだ!』
じゃあクモの特徴や能力までも引き継いでいるってことだな!
って言いたいところだけど、この世界のクモは見たことないから知らん!
なんせ魔法があるような世界だ。下手すりゃドラゴンとかそういうのだっているだろう。
ならクモ一匹がメチャつよの可能性もあり。
《ちっ…! スレッド エレクトリック‼》
「とか言ってたら早速魔法か…!」
奴の手から飛び出してくる細い糸。
それを伝ってくる雷魔法が、俺の目に映った。
ありゃ即死することはないが、当たればそれなりに痛い。
いや、普通の人間なら当たり所によっては感電死だ。
=== 糸は俺の右腕に絡みつき、電流を走らせる。
《――どうだッ! 痛いか…痺れるだろう⁉ 俺の糸は…》
「…確かに痛いな…。―――だが甘いッ!」
俺は糸を左手で引っ張り、逆にヴェルディをこちらの射程圏内まで引き付けた!
「オラぁ…‼」 《――グっ…⁉》
引っ張るときの勢いを利用し、カウンター左ストレート。
怯んだ隙に魔法が弱まった…!
すかさず痛みが引いた右手でジャブを二発…!
そしてラスト…跳び蹴りッ‼
《――ガハッ…!》
うーん、効いちゃいるが手ごたえは薄いな。
もっとこう…ドカーンッ! と一発強めのが欲しいところ。
「なぁリトル、必殺技的なものないの? 前世だと原子兵器なるモノを使ってたんだけど。」
『ないね。今のタツヤはこの世界的にレベル5くらい。今のところ復活した能力含め、バカみたいに強い筋力しか武器はないよ。』
説明しよう。
原子兵器とは、かつて俺が属していた組織が俺に搭載した、原子の力を利用したスゴイ兵器の事である。
それがない今、決定的な一打を得るには…
「…殴り続けるしかねぇなァ‼」
建物を伝って距離を取ろうとしたヴェルディに、回転キック一発。
体勢を崩したところへアッパー、ストレート、跳び蹴り。
敵に反撃の隙を与えない…それが近接戦のマニュアルだ!
そして、俺の攻撃は面白いようにヴェルディへ吸い込まれていく。
コイツが本能的に防御しようとしても、そのガードは完全に見切っている。
「ハッハッハ…‼ どうしたよヴェルディ…ご自慢の糸と魔法が全く使えてないじゃねぇか⁉」
《…グっ⁉ チクショウ…この俺が!》
「こちとらお前の数十倍は場数を踏んでんだ! それに比べてお前は、攻守が全て甘いんだよ!」
コイツが魔法を使えない、俺の土俵まで引き込んだ。
そこまでの過程も、それからの戦いも、経験豊富な俺の方が圧倒的に上だ!
魔法ありきの戦いしかできない異世界人とはわけが違う!
一方的な蹂躙だ!
*******
― その頃のエリーゼ ―
エリーゼは力の戻った足を動かし、障害物に隠れながらその戦いを見届けている。
魔王軍、異界の魔物が二人。
正体を知っているからまったくの別人に見える…。
「つ、強い…。でも…!」
悪魔のような笑い声を出し、蹂躙ともいえる戦いをするタツヤを見て、
「やっぱり悪者にしか見えない…!」
主人公、または救世主・勇者ポジションのはずのタツヤ。
その姿はまさに、悪役!
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《ちッ…! ――スレッドッ!》
「あッ、待ちやがれ!」
今度は近距離用でなく、長い糸を上空に発射した。
それは教会を出たところにある長屋の屋根に張り付いた。
それを使って逃げるヴェルディ…スパ〇ダーマンかよ!
…いやそうだった。
「逃がすかァ…! ―――とうッ…‼」
唯一の能力である筋力を脚に集中し、跳ぶ。
オオカミはそれほど跳躍力はない。
だがギリギリ、長屋の屋根に手が付いた。
片手で登り、再びヴェルディの背中を捉えた!
俺の追跡を察知し、大きく距離を取ってある…。ヴェルディは構えた。
《魔力最大…‼ エレクトリック ストライク…‼》
「電撃を飛ばしてきたか…! ――だから甘いんだよ!」
こちらに向かって放たれる雷光も、俺は見切る。当然、回避した。
建物に直撃する魔法が、爆音と共に屋根を破壊する。
魔物の戦闘に気付いた一般人が、大騒ぎしだした。
「そろそろ終わりにしようか…!」
『必殺技は無いからね? 渾身の一撃で決めるんだ!』
《ま、まずい…魔力が⁉ …動けん!》
チャーンス…!
渾身の一撃には勢いが必要。よって、高度を稼ぐ。
もう一度ジャンプ…からの急降下!
振り下ろす拳の勢いで、落下はさらに威力を増す。
「よくも毒なんざ持ってくれたなァ⁉ ――ッ死に晒せぇッ‼」
ーーーーー
殴った力が強すぎて、俺の手には感覚が残らなかった…。
しかし、今のパンチは推定でもトンはあったんじゃないかな。
ヴェルディの頭部は、完全にぶっ潰れた。
******************
「…ほらよ。ジュエルは無事だぜ。」
「あ、ありがとう…。」
奴の血と肉片が付いたままの手で、エリーゼにジュエルを返した。
エリーゼは泣いていた。
怖かったのか、信頼していた人間が魔物だったという悲しみか。
「…私、本当に彼が好きだったんだ…。彼は、私の…」
「ヒーローってか? …辛いとは思うが、早く忘れたほうがいい。新しい男でも見つけるんだな。」
…こいつにとってのヒーローは、まさにこの世界の悪。魔王軍の手先。
自分に勇気と自由を教えてくれたヒーローがいなくなったのか…。
「あぁ…辛いなぁ…。受け入れたくないなぁ…!」
本当に…正義ってのは何が正解かわからないな。
イーグルマスクの野郎にも、それを自覚してもらいたかったよ。
「――でもこれだけは…言っておく!」
「ど、どうした…?」
「…ありがとう、タツヤ。 あなたは…〈今から私の、英雄です〉…!」
お、おぉ…。
初めてだ…人からそんな風に言われたの。
いつもは世界の敵扱いで…、みんなイーグルマスクとか言う正義面野郎ばかりを…。
でもこいつは、
『フフフ…! よかったね、タツヤ!』
「な、なんか言われてみると照れくさいな…。」
なんて会話をしていたら、そこに駆けつける多数の足音がする。
この感動的なシーンを邪魔するものと言えば…。
「――いたぞ! 魔王軍の魔物だ…!」
「あぁ! エリーゼお嬢様⁉」
それ見ろ。さっきの戦闘を見た街の人間が、騎士を呼んできやがった。
全員、俺を見るなり即座に剣を抜き、
「お嬢様から離れろ…!」
と言うんだ。
やっと、俺を悪者扱いしない人間に出会えたと思ったら…。
やっぱり世の中は、どこの世界でも俺を悪だと判断するんだな。
「これ以上ここにはいられないみたいだ…。じゃあな、エリーゼ…!」
残る力を思って、俊足を生かして逃げ切った。
最期はヒーローらしく、何も言うまい。
俺の異世界ライフは、波乱万丈なスタートを切ったのだ。




