表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

『悪役にしか見えない』

天井の闇に光った赤い目が、俺たちのいる地上へ落下してくる。

落下の狙いはどこか…長年の戦いで培った第六感でわかった。

その落下点にいる人間に対して、


「――ッ避けろ…!」


「―――⁉ なんだッ…」


だが一歩遅かった。

赤い目の持ち主は目標であろう人物、領主の目の前で着地する。

領主は咄嗟の事で身動きが取れない…。


「な、何だ貴様…――ッ!」 


その勢いで領主は首を絞めつけられる。

ソイツから伸びる真っ黒な片手が領主の首を、もう一本の手が領主の握るジュエルへ伸びた。


《…こいつは頂いていく…!あの女がしくじったからな…。》


ガラガラでかすれそうな太い声がソイツから流れた。

この場にいる全員が咄嗟の事で理解が追いつかなかった。

だが次第に、赤い目の男を脳で認識していく…。


誰もが硬直する中、一人の騎士がこう叫んだ…。


「奴だ…()()()()()だ…‼」


ーーー

露になるその全貌。

首からつま先にまで広がる獣のようなブラウンの姿…俺と似たようなスーツに見える。

俺のようなアーマーは見えないが、内側の肉体が見てわかる生々しいスーツだ。

頭部を覆い隠すマスク、そこに光る赤い目。

スーツの無い関節部に見える皮膚(?)からは獣のような産毛…。

気味が悪い…背筋がゾッとなる姿。

ーーー


「おいリトル…異界の悪魔って、、こいつも⁉」


『たぶん…君と同じ転移者か、こっちの世界で作られた強化人間のどっちか…』


噂をすれば何とやら…、俺はこの訳の分からん怪人の濡れ衣を着せられていたんだ…!

天井から飛び降りてきたのを察するに、忍者のような手段で城へ侵入したのだろう。


『タツヤ!この怪人に見覚えは…?』


「えぇっと…少なくとも俺の世界にいた張本人ではねぇ!」


『ってことはこっちで作られた奴か…。見た感じ、他生物的な何かを感じる。』


「壁に張り付いてきたのか…()()かよ‼」


キングジュエルを領主から剥がし取ったかと思いきや、首を掴んだ方の手が力む。

「ぐっ…ぐぎぎぎぎ…」みたいな苦しむ声が、城の大広間に響く。

そのまま領主は泡を吹いて倒れた…。



「お父様…⁉」  万事を硬直して見ていたエリーゼがようやく声を上げた。


「な、なにをしているお前達…⁉ 剣を抜け‼ かかれ…ッ‼」


「「「「「 …ッうおぉぉぉォォォォッ! 」」」」」」


さっきまで断罪を見物していた騎士たちが抜刀し、クモ(?)に襲い掛かる。

だが、この状況で襲われるっていったら騎士たちの方だ。

奴の赤い瞳孔が騎士たちへ向かう。


《無駄に手を下したくはないんだが…自主的に死にたい奴が多いのは結構。》


ーーー

騎士たちの剣が振り下ろされ、外から差し込む光がその剣に尾をつける。

一人、二人、三人目と繰り出していくが、全て空を切った。

剣と剣の隙間を縫って回避していくクモ擬き。

奴の手にはしっかりと、キングジュエルが輝いていた。


《今度はこっちの番だ…!》


後方に体を反したクモ擬きは長い手足を駆使して、騎士たちに打撃を与えていく。

軽めのアーマーを着ている騎士たちだが、攻撃されるのはアーマーの無い部分。

関節部や首筋を狙われ、そこから体の芯にダメージが通る。


《あらよっと…》


「近接武器か…⁉」


よく見ればクモ擬きの指先は鋭く尖っている。

それをうまいことアーマーに入り込ませ、最後まで立っていた騎士の首をはねた…。


「ひいいぃぃぃぃぃ…⁉」

「バカ者!うろたえるな!」


怖気づく若い兵士を無理やり叩き起こす、騎士の隊長。


「貴様か…、この領地で人攫いを行なっているのは…!」


《さぁ…それはご想像にお任せするぜ。》


「余裕かましおって…! ――成敗してくれるッ!」

「かかれ…!」


再び斬りかかっていく生き残りの騎士たち。

俺もそこで突っ立っているわけにもいかなかった。

次々と吹き飛んでくる兵士の死体や武器…!

それを避けなければならない。

だが拘束されているが故、上手く身動きを取ることが出来なかった。


「あぶねぇ…⁉ 下手すりゃ死ぬって!」


《遊びは終わりだ…。 〈スレッド〉!》



〈スレッド〉とクモ擬きが唱えたとき。

避けた斬撃の隙間から光る細いモノが見えた。…糸か?

何やらもっと危なっかしいモノが来そうだと感じて、大幅に位置を変えるべく移動を試みた。

俺とリトルが丁度、城の大きなガラス窓の前に来た時…、


自分の体が、後ろから何かに引っ張られている感覚を覚えた。


「まずいぃ…⁉ 糸か!」


《そこの逃げ回ってる奴も死ね…!〈エレクトリック〉》

================================





何が起こったかはわからない。

だが、自分があのクモ擬きによって殺されそうなのはわかった。

…感覚がおかしくなりながら、ガラスを割って外へ落下していく。

自分から落ちたのではない。恐らくはクモ擬きの攻撃による衝撃。


視界には、騎士たちが首をはねられる光景が映る。

その奥でエリーゼが、怯えすくんでいた。


「あの女…ぜってぇ許さん…!、、、、」


そのまま地上十数メートルから落下。タツヤの視界は途絶えた。



*****************************



《残るはお前のみだ…。》


「いや…来ないで! 」


エリーゼは怖気づいて立てもしない。

異界の魔物が放つ真っ赤な瞳孔が、この娘を縛り付ける。

目の前に転がっている騎士の死体。

遠目に見える、事切れた父親。


スプラッタ状態の惨状で、そこに転がっているモノがさっきまで生きていた人間だと信じられない。


「なんでこんなことを…!そのジュエルが目的なら、それ持って逃げればいいじゃん!」


《ケケケ…》


気持ち悪い、嘲笑するかのような声。

涙溢れるエリーゼの顔を楽しんでおいでだ


「なんでみんなそれを欲しがるの…。だから()()()()()()()()()()()()…!」


《あぁ…本当に間抜けな女…。》



クモ擬きが尖った右手を振りかざす。

エリーゼの精神は耐え切れそうになかった。

殺される前に意識を失いそう…、、な時



「――どこの世界でも、悪役はテンプレが好きだねぇ…!」


《誰だ…⁉》


先ほど戦闘の衝撃で割られた巨大窓。

そこから差し込む光が、何者かのシルエットを作り出している。

人型、背の高い男、ゴツゴツした体表…

「誰…?助けて!」と言いたいエリーゼ。だが恐怖の名残で喉が開かない。



「――エネルギー全開…。ッッッ!」===


男は姿勢を低くしてダッシュの構えを取った。

一瞬で加速する…、ぱっと見てどう動いたかわからない。

男が加速したと同時に、床のガラス片が空中に撒き散った。


「――おるぁッ‼」=====  《がッッッ!⁉》


エリーゼの前に立ちふさがっていたクモ擬きが吹き飛んだ。

加速の勢いを利用して、男が殴り飛ばしたのだ。

エリーゼの目から涙が止まる。唖然として逆に硬直した。



「――異界の魔物が…二人…?」


「誰が魔物だ…! このクモ野郎がどんな奴かは知らんが…俺は魔物呼ばわりされる筋合いはない!」


男の姿を今一度よく見る。

ーーー

筋肉を(かたど)ったようなゴツゴツした服(?)。服か体表すらもわからない。

その顔はヒトではなく、まさに他生物のような頭部。

生々しさもあれば、金属のような質感も見受けられた。

ますます意味が分からない男だが、異界の魔物を自分から否定するのだ。


何に似ているかとすれば…オオカミか。と、エリーゼは感じた。

ーーー


《貴様…俺と同じ力を…⁉》


「お前みたいな()()()()()と一緒にするな。俺は、()()()()()だ。」


《バカバカしい…邪魔をするなら死ね! 〈スレッド〉〈エレクトリック〉!》


クモ擬きの発射する糸がオオカミを捉える。

そのまま糸を伝って流れるのは電流だ。

エレクトリック  雷魔法


「なるほど…これが魔法か。俺のアトミックウェポンとは違うな…!」



電流が効果を発揮する前に、オオカミが動いた。

糸を引っ張ってクモ擬きに殴り掛かる。

《--グぅッ⁉》

一撃目、続いて二撃目、最後に振り切った腕を逆手で戻して三撃目…!

クモの顔面が鈍い音を立てて回る。


「オラっ…! オラッ! 死ねぇ!」

跳び蹴りに、膝蹴りに、右ストレートも追加。

クモ擬きは一気に体勢を崩した。


「まだ肉体が馴染んじゃいないが…ただの生態強化とは違う感じがして面白い…!」


《…グぅ‼ コピーだのオリジナルだの生態強化だの…!何をわけわからんことを⁉》


「訳が分からないのはお前と!このピンク髪の小娘だ! 一体何なんだよお前らも!この世界も!」



続く攻撃。クモ擬きも負けじと、帯電の糸と爪で反撃する。

だがオオカミは、それを面白いように回避していく。

一撃、二撃とあざ笑うかのように避け、それに対しクモ擬きの攻撃は段々と荒くなっていった。


「ハハハ…!どうだ?圧倒的な優位性が失われた気分はよぉ⁉」


《クソッ…クソクソクソッ…!》


「ヒャッハハハッ…!」


突然現れた異界の魔物に、突然現れた魔物を否定する訳の分からないオオカミ男。

その先頭を見て、エリーゼは呟いた。


「この人…味方なの…?そもそも人間なの?

…ジュエルを奪いに来たようには見えない。――でもッ!」


「遅れて参上して悪をボコボコに…ヒーローのテンプレだなぁ‼」


ーーー

「――でもッ…!全然いい奴(ヒーロー)には見えないぃッ…‼ ()()()()()でしょこんなの!」

ーーー


エリーゼはもはや、このクモ擬きが少し可哀そうになってきていた…。

だってこのオオカミ、明らかに英雄(ヒーロー)的な立ち位置でしょ。

なのに…悪役にしか見えない!



*****************************



しばらくの攻防の後…オオカミにも変化が訪れた。

攻撃のキレが悪くなってきたように見える。

依然としてその威勢は衰えない。

だがそれと反比例して、クモ擬きが攻撃を回避し始めた。


「―――ッ⁉ なんだ…どうした…。」  《がッ…ハァ…ハァ…?》


突然、オオカミが膝をつく。

転んだのか、ダメージか、そんなところではない。

足の筋肉から力が抜けるようだ。


「おい…!どうしたよリトル!――なに?限界だって⁉」


ブツブツと一人で語り出す。

一瞬の戦闘停止に戸惑うエリーゼ。クモ擬きもだ。

だがそれ以上、オオカミが立ち上がることはなかった。


《よくわからんが…お互い限界か。 それじゃ、戦略的撤退とするか…!》


「おい待ちやがれ…!」


瞬きもしないうちに、クモ擬きは壁に張り付いてそのまま天井へと昇っていく。

動きまでまさにクモ。カサカサと天窓にたどり着つ。

そのままどこかへ消えてしまった。


「ハァ…まさか限界時間があるとは…。――あぁ、初めてだからか。」


「い、いったい…なんなの?」



ーーーーーーーーーー


「お嬢様!一体何が…、、、、ッ⁉」

「なんてことだ…」「これはひどい…」


城の従者や、残りの兵隊がやって来た…。

諸君らは大広間の惨状を見て驚愕、グロテスクさ故に落胆する者もいる。

そこらに転がる生首、死んだ騎士、中央で倒れる領主。


そして…腰が抜けたエリーゼ嬢に、謎の男。


「い…異界の魔物⁉」 「貴様ァ…よくもこんなマネを!」


兵隊が武器を取った。

さっきの騎士ほど強そうではないが、戦闘の様子を伺っていないがために威勢がいい。

オオカミはゆっくりと立ち上がり、


「どいつもこいつも悪者扱いしやがって…どこの世界でも変わらねぇじゃねーか。」



そのまま破壊された壁に向かって走り出す。


「あ、――待って…」


エリーゼが呼び止めようとするが、遅い。

瓦礫を飛び越え…クモと同じようにどこかへ消えた…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ