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プロローグ

 人々はヒーローとはなんぞと言われた時、どう答えるだろう。

他者を救うためなら自らの命を惜しまない。

世界から笑顔を奪おうとする輩を許さない。

大方そんなところだろう。


そういうことをして、みんなから羨望の眼差しで見られるのが〈英雄(ヒーロー)〉って奴だろうな。

そのヒーロー様と、それを信奉する奴らが口を揃えてほざくのが〈正義の味方〉とかだ。



そして、俺の人生はそれとは正反対の位置にある。いや、あった。

()()()()()()()()()()()()()()()

誰に負けたのかって?そりゃ…そのヒーロー様って奴に。



俺は戦う力を持っていた。俺にしかない、誰も寄せ付けることのない、特別な力だ。

その気になればどっかの中小国くらい滅ぼせるだろう。頑張れば。

俺はその力を自分の私欲や願望の為に行使した訳じゃない。と、自分なりに思っていた。

しかしそれは俺がそう思っていただけで…世界から見れば悪そのものだったらしい。


俺はその力を復讐と言う目的のために使っていた。

そしてその復讐が、俺と同じ思いをしたこの世界の人間の為になると。そう信じて戦ってきた。

だから目的の為なら命を奪うことだって厭わない。


大多数の笑顔は少数の苦しみを糧に成り立っているから、その少数の命を生贄にしても構わない。それが世界の仕組みであり、道理なのだから。

だけどこの犠牲を乗り越えた先に、真の幸福が待っている。平和じゃない、幸福だ。


それが、俺の中にある正義。

そう。俺はいわゆる…〈ダークヒーロー〉って奴。



もう一度言う。俺は、正義の英雄(ヒーロー)に殺された。

俺自身はソレになれなかった。



*******************


― 時は遡り、日本 ―



「―――イーグルパンチッ!」


「―――グハっ…⁉」  



ビル群の中での空中戦。俺は自称:正義の味方とやらの攻撃を一方的に喰らい続けた。

今しがたパンチをもろに受けた俺は、そのままコンクリのビルに叩きつけられた。



「いいぞ!イーグルマスク!」

「その悪党を倒すんだ!」

「「「「「 イーグル!イーグル!イーグル!イーグル!… 」」」」」



俺が攻撃を受けるたびに、真下で見ている街の連中が歓声を上げやがる…。

赤と白のスーツを身にまとった戦士〈イーグルマスク〉。鷹は正義の象徴だ。

イーグルマスクと相反する俺に付いた名前は〈ヴェアウルフ(人狼)〉。狼は…邪悪な存在!



「…!なんでみんなてめぇばかりを…⁉ どうして俺が…!」


「もう諦めろ、ヴェアウルフ…。お前の企みもここまでだ。」


「黙れ!何が正義だ…何が英雄だ!てめぇがこの歓声を浴びる中で俺は…!」


俺はエネルギーを腕に溜め、得意の技を発動する。


「ライトニングブレット…!」 いわゆる光弾。エネルギーを溜めて放つ単純な技。


「――うわッ…⁉」  「「「あぁ…⁉」」」  



この距離なら簡単に命中する。イーグルマスクのスーツから火花が飛び散った。

だが俺は知っている。コイツには大して効いていない。

大げさなダメージを受けたふりだ。そう、これは奴の演出だ。



「くっ…お前がどれだけ悪の手を振りかざそうと…!みんなの為に俺は…負けられないんだ!」


「頑張ってイーグルマスク!」 観衆のガキが叫んだ。

「「「「「 イーグル!イーグル!イーグル!イーグル! 」」」」」



ほら見ろ…。正義の味方がそれっぽいセリフを吐けばすぐにこれだ…!

誰も俺の戦いを理解しようとはしない…!誰も俺が見てきた犠牲を弔ってはくれない…!

民衆が求めているのは…上っ面だけの正義!「らしさ」だけだ!



「ヴェアウルフ…君と、君の属する組織は世界を闇に陥れる…。それは断じて許されないんだ。」


「組織…⁉俺は奴らとは違う!確かに俺の力は組織の技術だ…。

だが俺は自分の正義の為に戦ってきた…!」


「お前には正義なんてない‼お前はその手で命を奪ったんだ!」


「じゃあ教えてくれよ!てめぇの正義は一体何なんだ⁉」


「人々の笑顔と平和を守る…!それこそが真の正義だ‼」


「「「「「 いいぞ!その意気だイーグルマスク! 」」」」」



なんだよそれ…。みんなを守るだ?

お前のその綺麗ごとの裏には…いくつもの苦しみがあったんだ!

お前も民衆も!それを直視していないだけなのに…!…なんで、、、



「行くぞヴェアウルフ…!これが最後の戦いだ…!」


「あぁ…ぶっ殺してやる…!来いよ…正義のヒーロー様よ!」



体感時間にして数時間。現実時間にして数分。周囲のビルをぶっ壊しながら激闘が続いた。

その間にも俺は、戦いに巻き込まれて怪我を負い、最悪死んだ人間を何人も見かけた。

そのたびに心が痛んだ。まるで昔の自分を見ているようで…。

だがイーグルマスクは違う!そんなこと気にも留めず、ただひたすら俺を攻撃した!

民衆もそれにエールを送り、俺に罵詈雑言を浴びせた!



「――死ね…!アトミックブレイク…!」 一撃必殺並みの技。


「イーグルシールド…!」

 

「イーグルキック!」 

「がッ…⁉」


防御からの素早いキック。ちなみにこのキックの重量は約10トン。

俺のスーツを通り越して肉体に届くその威力。俺は簡単に吹っ飛ばされた。



「これで終わりだ…!ヴェアウルフ!」

「なんで…こんな…」  



俺は必死に足掻こうとした。だがダメだった。キックのダメージが残っている。

だが最大のダメージは、民衆の声。俺を殺せという歓声だった。



「イーグル…セイバアァァァァァァァァ‼」

===================

「―――ぐふ…⁉⁉」



イーグルマスクの必殺剣。それは容赦なく俺の肉体を貫いた。

痛い、苦しい…。だが怖くはない。俺が今まで犠牲にしてきた奴の気持ちを考えれば。

…このまま俺は死んでいく。死ぬのは別に構わない。戦いを始めた時点で覚悟はできていた。

だが悔しいんだ…。俺が、あの犠牲の為に手に入れ、磨き上げたこの力。

それが悪の力と言われたまま…罵詈雑言の中で死んでいくのが…とても…、、、



俺の意識は、()()()()()()()()()()()と共に段々と消えていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


*************



(ここは…どこだ…?目の前が真っ暗で…)


《……ろ  …きろ  目を…んだ…》


(そうか…俺は死んだのか…。じゃあこの訳の分からない空間は死後の世界か…。)


《ヴェアウルフ…目を覚ますのだ…》


(冥界が五感すらもない貧しい場所だったとは…。どうしよっかなぁ…)


《起きろ…起きるのだ…本当に死んでしまうぞ…》


(これからどうやって生きよ…、じゃなくてもう死んだんだったw…)


『起きろっつてんだろッ…‼』


(うるせぇよ!さっきから! 仏さまにはちっと優しくしろや⁉)


なんとなくだが、視界が開けてきたように感じる。

見えている訳じゃない。そう感じるだけだ。

そして声まで聞こえるんだ。

死ぬのはしゃーなしだから安らかに眠ってやろうと思ったのに。

どこのどいつだ。戦士の永眠を妨げる奴は。


《…お前のような奴は初めてだよ、ヴェアウルフ…。いや、クロキ・タツヤと呼ぶべきか。》


(ちょいちょい、それ俺の本名。なんで知ってんだよ…。)


《この状況からしてわかるだろう。僕はお前の事なんて全て知っている。》



まぁこの状況から推測できることなんて一つしかないだろう。いや、二つかな。

前提として俺は死んだんだ。そしてここは死後の世界。

その状況下で死んだ人間に語り掛ける存在なんて、こいつらしかいないだろうな。



(あんたあれだろ…。神様か宇宙人のどっちかだろ?)


《そうだ。僕は人間が呼ぶところの神だ。…、、、驚かないのかい?》


(別に?俺は今までいろんな輩を見てきた。全身サイボーグとか人食い人間とか、ゲロ吐いて金属溶かす奴もいた。 今さら神様が現れたところでなーんも驚かないね。)


《そ、そうか…。でも肝の座った面白い男だね…。気に入った。》



いや別に神様に気に入られても…どうせ死んだんだし。

と、俺は思ったがこのどうすることもできない現状、俺は下手なことは言わないようにした。



《ヴェアウルフよ…。お前は何故、その力を手に入れて戦い続けた?人々から悪党と呼ばれながらも、なんの為に戦うのか。》


(…簡潔に言えば復讐だよ。ヒーロー様が正義を行使する過程で犠牲になった、俺の大切な人たちのな。)


《その為に…お前は悪魔の組織にその肉体を売ったのか?》


(まあね。組織は俺の望む力を与えてくれた。その力で俺がヒーロー様を殺せば組織にとっても万々歳。お互いにWin-Winな関係だった。奴らが世界統一だなんて言い始めてからは離れていったがな。)


《そうか…。》


(俺は…復讐の果てに本当の英雄(ヒーロー)になりたかった…。犠牲は承知の上で…でもその先に、本当のあるべき世界が来ると信じて…!俺はそれをもたらしたかった…。)


《それなのにお前は…ダークヒーローか。》



それから俺は、自分の人生で何があったのかを、鬱憤を晴らすようにぶちまけ続けた。

力を手にしても辛かったこと、悔しかったこと、そして正義を憎む気持ち。

神様は俺の話を親身になって聞いてくれた。

少しばかり若々しい口調。一人称も僕だ。

俺が想像した冥界の神様とはイメージが少し違ったが、それが意外な神の姿という事だろう。



《じゃあ…その人生をやり直させてやろう。そうすれば、お前が憎む上っ面だけの正義への復讐も続けられるし、()()()()()()()()()()()だって目指せるさ。》


(はぁ…?急になにを言い出すのかと思えば…、、、ちょい待ち?それまさか…)


このシチュエーションで今のセリフ…!


《単刀直入に言おう。お前には別の世界に行ってもらう。そこでやってもらうことがあるんだ。》


(ちょいちょいちょい⁉急にそんなこと言われても…1)


《黙れ。簡単に言えば、お前たちの戦いが別世界にも悪影響を及ぼしているのが現状だ。お前にはその尻拭いをしてもらう。》


(いや待って待って!俺は行くなんて一言も…)



《生態強化人間であり特殊能力も持つ…。さらに変身機能も備わっているとは。()()()()()()()は随分と器用だな。…ただ、それだけあれば十分だ。》


(それになんで俺が…ちゃんと説明を…)


《説明は転移してからさせるよ。お前に付けておく、()()()()()にね…。」


なんで…死んだらやっと解放されると思って安心したのに…!



《それでは…さらばだ。》========================



**************



『初めまして…。今からあなたは英雄(ヒーロー)です!』


「…は?」


気が付いた俺の目の前にいたのは、小さなケモノだった。


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