第83話 彼と彼女のいざこざ
ヌルはサドラー少佐から貰ったアルカディオンをかつて妹と左眼を殺した親玉ワイバーンだと確信した。
ヌルはそのサソリ型アルカディオンの機体を左眼を気にしながら、何度も殴った。
妹のかたき。左眼のかたき。己の心のかたき。
そんな事を考えながら。
そして、ヌルは決意する。
「俺から全てを奪ったこのアルカディオンで魔王軍を殲滅するっ!」
再度、アルカディオンに拳を当てながら、
「妹と一緒にっ!ジシェルと一緒にっ!!」
ヌルは誰もいない満点の青空の下で、妹のそばで、涙を流し、号泣する。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
その声は天にいるジシェルに聞こえただろうか?
この決断をジシェルは許してくれるだろうか?
いや、きっと聞こえているし、きっと許してくれる。
ヌルは心中そう考えた。
◇
一方、リンジーは自室に一人、籠もっていた。
リンジーはやはり、ヌルを軸にした作戦というのが気に食わないらしい。
「なんで…?なんでよ…?」
目から小さな粒の涙を流し、そう呟いた。
青色の髪の毛が自室のライトをツヤツヤと反射させる。
「私は、、、死にたくない、、、」
その言葉が自室に響いた。
しばらくすると、涙は止まっていた。
まだ泣きたい気持ちは大いにある。
しかし、もう出し切ってしまったのだ。
そして、自室のドアがコンコンと2回ノックされる。
リンジーはそのノックに対して、
「はい!」
と、鏡を見て涙が出ていないことを確認しながら言った。
ドアがゆっくり開いた。
そこには、きらりとライトに反射する特徴的なおでこがあった。
「マディリン!」
不意に笑顔がこぼれ落ちる。
リンジーは続けて、
「どうしたの?」
「いやー勘なのだけれど」
と言ってマディリンは話を続ける。
「昨日の作戦会議の時、少し様子がおかしかったかなーって思って―――」
リンジーは悟られないよう無理矢理笑顔を作る。
「そ、そうかなー」
そして、リンジーは自分だけが知っているその気まずさを解消しようとマディリンを自室から追い出すことにした。
「さ、帰った帰った。私この後やることあるから」
マディリンをドアの方に追いやってそう作り笑いでそう言った。
「やることってなに?」
マディリンが振り返り、聞いてくる。
リンジーは何も言い訳を用意していなかったのでその場で咄嗟に考える。
「え、えとー、そ、そうだ。ヌルの所へ―――」
無意識的にヌルの事を考えていた。
言い終えたあと、自分が何を言っているのかに気づく。
「いや、やっぱ少佐に呼ばれていた気がする」
適度な言い訳を捏ねていたがマディリンはその事に気づいたらしい。
「嘘だよね?」
マディリンの表情が暗くなった気がする。
「ほ、本当だよ?本当だって」
少し焦ったのがマディリンに伝わってしまったのか、
「最近、ヌルを避けていない?」
「なんで?」
「わかるよ。何年一緒にいると思っているのよ?」
マディリンはリンジーの肩をガシッと掴む。
「ヌルとの間に何かあったの?あったのよね?」
そう訴えかけた。
しかし、リンジーは青色の髪を盾にして俯く。
「マディリンは何も思わなかったの?」
リンジーは俯いたまま続ける。
「少佐のあの作戦を聞いてマディリンは何も思わなかったの?」
「それは―――」
「今度こそヌルは死んじゃう。ワイバーンの時だって本当は行かせたくなかった。きっと無理をするから」
「違うの。そうじゃない!私は、私だって、そう思うよ。でも、そうじゃないじゃない。シーラを守るためならそれが最善ということじゃない?」
「もういいよ」
リンジーはマディリンに背を向ける。
「え?」
「もう出ていってよっ!」
「ちょ―――」
マディリンが何かを言いかけたがリンジーはそれを無視する。
「出ていってってばっ!これ以上マディリンを見ていると嫌いになりそう」
リンジーは自分でも分かる。
とても酷いことを言ってしまったと。
ここで、止まればよかったもののさらに怒りは加速する。
「リンジーってば―――」
マディリンがリンジーの肩を掴み交渉を試みようとしたが、
「うっさいっ!」
リンジーは鬼の形相でマディリンの頬を殴った。
その衝撃でマディリンは尻もちをつく。
「はぁはぁはぁ」
リンジーは拳を強く握り、荒い息を吐いていた。
マディリンは殴られた頬を気にしながらゆっくり立ち上がる。
「リンジーがそんな子だとは思わなかったわ」
最後にそう言い残してマディリンはリンジーの部屋から飛び出した。
マディリンがリンジーの部屋から飛び出すと、ちょうどそこを通りかかったバナン・パッカとエンカウントする。
「おうっ!!」
マディリンと急に出くわしたので一瞬怯む。
そして、バナンの瞳には泣いているマディリンの姿が写った。
バナンは泣いている彼女の姿を再度確認し、出てきた部屋をも確認する。
(ははーん…これは……さては喧嘩だな……)
どうやら、マディリンとリンジーの間ではよく喧嘩が起こっていたらしい。
バナンがその状況をすぐに呑み込めたのが証拠だ。
「おい、大丈夫かよ?」
バナンがマディリンに尋ねた。
「私はへーきよ。大丈夫じゃないのはリンジーの方だわ」
「何があったか知らないけどよ。そろそろ、魔王軍が来ちまうぜ。ここは仲直りをしていたほうがいいんじゃないか?」
「無理よ」
「無理って……そりゃねーぜ。とりあえず話してみろよ」
「バナン。ありがとう。でも、今は一人にしてほしいの」
「そーかよ」
マディリンは殴られた頬を気にしながら、走って自室へ戻ってしまった。




