第82話 隻眼のデッドライナー
ワイバーンの手によってシーラ帝国は一瞬にして炎の海になってしまった。
BLUEでは刃が立たなかったことに民衆は絶望する。
すると、ここで、上空を支配するワイバーンのもとに爆撃が放たれた。
これは、BLUEによるただの悪あがきでしかないがやらない他ない。
少しの希望を掴むための淡い努力に過ぎない。
しかも、放たれた爆撃がワイバーンの逆鱗に触れてしまったのだ。
「キュイイイイイイン!!!」
ワイバーン達が一斉に咆哮を始める。
ワイバーン達は再び火炎放射で街を支配した。
その街では子供の泣き叫ぶ声や逃げ遅れた人達の悲痛な叫びが周りを包んだ。
しかし、ワイバーンの手によって、その叫びすらも無に帰すだろう。
『っ………』
さっきまでワイバーンと戦っていたヌルの通信機器が回復した。
「ヌル!」
サドラー少佐はヌルに呼びかける。
『もう、シーンは全滅するわ!!あなたも早く逃げなさい!!』
その声を聞いてヌルは思う。
自身の家族について、父と母はもう昔に死んでしまっているが、たった一人の妹について。
「俺はまだ戦えます!!」
ヌルはそう言った後、サドラー少佐の警告を無視して通信機器を破壊する。
そして、もう壊れかけのアルカディオンを操縦し、街へ向かった。
ワイバーンによるシーラの支配がさらに侵攻する。
「うわぁーん!お母さんー!」
幼女が真っ赤なシーラでそう泣き叫ぶ。
上空では未だ無数のワイバーンが飛び交っている。
ワイバーンはそのうるさい幼女の泣き叫ぶ声を目標に、口を大きく開いた。
すると、その大きく開いた口に魔力がどんどん集積していく。
「キュイイイイイインン!!!」
三度、火炎放射。
ワイバーンの口から火炎放射がその幼女に向けて発射された。
幼女は動こうとはしない。
動けないのだ。
腰を抜かし、幼女の中では恐怖が支配していて、動くことができないのだ。
瞬間、ジャギン!という効果音がシーラに鳴り響く。
そこには、クワガタムシ型のアルカディオンの姿があった。
―――ヌルだ。
間一髪でその火炎放射はヌルのアルカディオンに直撃し、その幼女は無事守られたのだった。
ワイバーンは困惑する。
先程撃ち落としたはずのアルカディオンが目の前に再び現れたことに。
「ぶち殺してやる!!!」
ヌルは普段あまり、感情を見せることはないが、シーラがやられていることに腹が立ったのかかなり、殺気立っていた。
そして、ヌルのアルカディオンからワイヤーのような物が発射された。
そのワイヤーの先端は自身と物を接着するようで、ワイヤーが向かった先にあった建物の壁にペタリとくっついた。
そして、そのワイヤーをワンタップ操作で縮ませ、ヌルのアルカディオンがその建物の壁に移動した。
その建物の壁に垂直にくっついたので、ワイバーンとほぼ同じ高さにいる。
アグレッシブなことに、その垂直状態から、ワイバーンに飛び移った。
刹那、飛び移った瞬間に、アルカディオンの足についてあるブレードでワイバーンを切り刻んでしまった。
「まず、一匹」
ヌルはそのまま、すぐさま、別のワイバーンを斬り刻みに行く。
シーラを支配していたワイバーンはヌル一人の手によって一気に数を減らしていった。
しかし、当然ここで、ワイバーンの親玉が出てくる。
そいつは、他のワイバーンと違い明らかに大きな体をしていて、ダイアモンドのような硬い装甲を持っている。
「くっそ!!こいつ!!かなり硬い!!」
ヌルのブレードは全く刃が立たない。
それもそのはずここに来るまでにいくつものワイバーンを討伐してきたので、ブレードの刃こぼれがしているのだ。
なんども、ブレードで装甲の破壊を試みたが全て弾かれてしまう。
そして、装甲ガチガチ親玉ワイバーンの強力な火炎放射がヌルのアルカディオンに直撃した。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!」
アルカディオンの装甲を超えて、ヌル本体にも熱が伝わる。
これは、全身火傷も間違いないだろう。
炎の温度がヌルの全身を覆った。
熱い……とても熱い……もう…いいか…?
ヌルは心中そんなようなことを考える。
もう頑張ったんだ。疲れた。と。
親玉ワイバーンは次に一人の少女を標的にする。
ヌルはアルカディオンのコクピットからその様子を見ていた。
「……っはっ!?」
ヌルはアルカディオンに搭載されているズーム機能を使ってその少女の姿を拡大する。
「―――ジシェル……!!!」
ヌルの妹だった。
ヌルはワイバーンはもうここまで侵攻してきていることに改めて気がついた。
ジシェルはバタバタと足をバタつかせ親玉ワイバーンに必死に抵抗している。
そして、その親玉ワイバーンは抵抗をしているジシェルに大きな口を開け、そのまま飲み込んでしまった。
丸呑みだった。
その光景を見ていたヌルは今までの自身の考えを改める。
「貴様ァァァァ!!!」
ヌルは再度アルカディオンを発進させる。
(何が疲れただ?何がもうやっただ?何もできていない。それどころか大切にしていた物を奪われた。目の前で)
ヌルのアルカディオンは建物と建物の間を駆け抜けていき、あっという間にジシェルの命を奪ったワイバーンのもとへ到着した。
ヌルは怒りの涙を流しながら、
「ぶち殺してやる!!!」
ヌルは燃料ギリギリ、オーバーヒート寸前のアルカディオンを無理矢理操縦する。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
ヌルはアルカディオンのブレードで親玉ワイバーンを斬りつける。
すると、ようやく親玉ワイバーンから血が吹き出た。
ヌルは最初からブレードで同じ箇所にしか攻撃をしていなかったらしく、とうとう傷をつかせることに成功した。
「あとはこの傷を広げてやらぁぁぁ!!!」
ヌルはその興奮状態から周りが見えていないのか、少し前のめりになっていた。
親玉ワイバーンの反撃が来る。
爪をヌルのアルカディオンにぶっ刺した。
―――貫通。
親玉ワイバーンの爪はアルカディオンを貫き、ヌルの左眼をも貫通していた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
火の海のシーラにヌルの悲痛な叫びが辺りに鳴り響く。
今まで生きてきてこんな声なんて滅多に出ないだろうといったような声だった。
そして、その声はカラカラに乾いていた。
しかし、ヌルは攻撃をやめない。
「死ねぇぇぇぇ!!!ワイバーンっ!!!」
この時、ブレードで攻撃した回数は計100回を超えていた。
そして、そのブレードが親玉ワイバーンの傷をさらに広げ、内臓に貫通する。
「キュイイイイイ!!!」
親玉ワイバーンはその場で咆哮し、シーラの地に落ちていった。
その後も、残りのワイバーンをも建物と建物を飛び移り、全て駆逐していってしまった。
そして、親玉ワイバーンを倒して1時間が経過する。
ワイバーンの殲滅は終了し、シーラの真ん中でヌルはぐったりしていた。
やがて、本部から救急隊員が駆けつけ、無事ヌル・バタリアンは一命をとりとめた。
以降、この話がシーラで有名となり、ヌルは
『隻眼のデッドライナー』
と、呼ばれるようになった。




