第78話 妹
「ヌル、今回の対魔王軍討伐任務ではヌル大尉の部隊を中心に迎撃します」
サドラー少佐はヌルを呼び出し、こう言った。
「はい、わかりました。少佐」
ヌルのその言葉にはまるで魂が感じられない。
まるで、どこか遠くに行ってしまいそうなそんな危うい感じをサドラー少佐は読み取った。
「はぁ~。大尉、あなたにはこれっぽっちも恐怖を感じられないわ」
「はぁ」
サドラー少佐は呆れたといったご様子。
「まぁいいわ。おそらくあなたの最期の戦いになるでしょうね。今日一日大切な人との別れを許可する日にします。わかる?休暇よ」
ヌルは少しびっくりしたような表情をする。
「あなたもそんな顔をするのね。まぁいいわ、とっとと行ってちょうだい。私にはまだやるべきことがあるのよ」
「はい」
ヌルは静かに部屋を出ていき、サドラー少佐の言う通りに、たった一人の妹に別れを告げに行く。
いや、ヌルにとってそれは別れではなくただの報告なのかもしれない。
なぜなら、ヌルの妹は二年前に亡くなっているのだから。
ヌルは妹のお墓の前に来る。
右手に花を持って。
お墓には『ジシェル・バタリアン』と書かれていた。
ヌルは持ってきた花を無表情かつ無言でそのお墓の前に並べる。
「ジシェル、俺もようやくそっちに行けそうだ。一緒にケーキを食べよう」
そして、ヌルはその墓をスタコラと立ち去っていく。
本部に戻る途中、ヌルの視界に一般市民の姿が入る。
その一般市民はおそらく、兄妹だろう。
こんな会話が耳に入る。
「お兄ちゃん!あれ買ってよ!」
妹が洋服屋の目の前にあるショーウィンドウに入ったおしゃれな服を指さしながら言った。
それに対して、兄の方は、
「もぉ~しょうがないな。今回だけだぞ〜」
「やった!」
そして、その兄妹は店の中へ入っていく。
ヌルはそのやり取りを見て、妹の事を思い出した。
「お兄ちゃん!ケーキ買ってよ!」
優しい表情をしながら、
「しょうがないな」
「やった!」
といったふうだ。
ヌルは無意識に彼と自分を比べていたのだ。
しかし、ヌルはその場で首を横に振り、さっさと立ち去ってしまった。
特に外への用事がないので、一度本部の自室に戻り、ベッドの上で横になる。
それから、一時間ぐらい時間が経ち、部屋のドアがコンコンとノックされたことに気づき、ヌルはベッドから立ち上がる。
「はい?」
そう言ってドアを開ける。
すると、そこにはリンジーの姿があった。
「なんだ。リンジーか」
「あのね……やっぱさ……私。ヌルに死んでほしくない」
リンジーとはいわゆる幼馴染というやつだ。
一緒にこの部隊に入ったのだって同じ。
いっつもヌルの後をついてくるそんなやつだ。
今ではヌルが率いる部隊に属している。
「今からでも遅くないよ。サドラー少佐に頼んで作戦を変えてもらおうよ」
その声はとても弱々しく震えていた。
しかし、当然、ヌルは首を横に振る。
「だめだ。もう決まったことだから」
「なんでよ!ヌル、昔はそんなんじゃなかったじゃん!なのに、なんで、そんな……ジシェルちゃんが死んでからだよ……」
瞬間、ヌルは鬼の形相でリンジーの胸ぐらをつかむ。
そして、部屋のドアに叩きつけた。
「お前には何もわかるまいっ!!」
「わかるよ……ヌルはずっと死に場所を探している!!」
ギクリとヌルは正解を言われた気がした。
一瞬、緩んだヌルの手をリンジーは振りほどく。
「このシスコン野郎!そんなに死にたきゃ勝手に死ね!!」
リンジーはヌルにそう言い放ってどこかへ行ってしまった。




