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第77話 シーラという国

 ヘリルスで勇者選抜が行われている途中、同時刻、魔王ヴォルガロスはシーラへの侵攻を着々と進めていた。


 ―――シーラ帝国。

 それは、剣や魔法が存在しない国。

 人々はその概念を覆すべく編み出した。

 自律型戦闘兵器M18アルカディオンを―――。


「ふわぁー。昨日はお疲れー。ヌル」


 ヌルの横からリンジーが顔を覗き込むように言った。

 リンジーの青髪がヌルの視界を隠した。


「ああ」


 それに対して、ヌルはとても淡白な態度で返す。

 ヌル・バタリアン。いつだって冷静で冷徹で合理主義な人だ。

 人に興味がないと言えばそうなのかもしれない。

 数多もの戦闘で左眼を怪我をしたのか眼帯が巻かれている。

 戦闘員としての実力はあるようなのでシーラを防衛する特殊戦闘部隊BLUEの大尉を務めている。


 昨日だって自律型戦闘兵器M18アルカディオンを巧みに操作し、シーラを襲いかかるモンスターを蹴散らしていたのだ。


 世界観が若干あっていない気もするが、シーラが生き残る手段は剣や魔法などではなく機械に頼ることにしたらしい。

 シーラ人には例外なく全ての人に魔法の適性がないためである。


 自律型戦闘兵器M18アルカディオン。

 それは、一言で言えば虫のようなフォルムをしている。

 クワガタムシからムカデまで、蜂や蝶、さらに、蜘蛛といったような種類がある。

 そして、クワガタムシなら攻撃特化、蜘蛛ならスピード特化といったふうにそれぞれにはそれぞれの役割や得意分野がある。

 その自律型戦闘兵器M18アルカディオンは人一人入れるコクピットがあって一つにつき一人が運転操作が可能となっている。


 シーラ人はそれらを使って防衛するのだ。


 そんなある日。

 ヌルやリンジーが所属しているBLUEから緊急招集がかかった。


『緊急事態発生。緊急事態発生。』


 機械的アナウンスが廊下に鳴り響く。


「なんだろうね?」


 ヌルの隣を歩いている少女、リンジーはそう呟いた。


「さぁな」


 しかし、やはりヌルは表情を変えず淡白に答えた。


 そして、ヌルとリンジーは集まるように言われた会議室に到着した。

 ヌルはその会議室の扉を開けようとした時別の男の手と触れた。

 どうやら、同じタイミングでドアを開けようとしたらしい。

 その男の手はゴツゴツとしていて筋肉質でヌルの頭なんか簡単に砕かれてしまいそうなほどだった。


「ちっ、隻眼のデッドライナーか」


 男はそう小さく呟いた。

 ヌルは開けようとしたドアから手を離す。


 そして、そのままその男がドアを開けて先に中へ入っていってしまった。


 それを隣で見ていたリンジーは何か嫌味な顔をして、


「べぇー」


 ヌルは呆れたと言わんばかりに大きなため息をついた。


 会議室のドアを開くと、これまた機械的でサイバー的な場所になっていた。

 基本ベースは青色。それは、パソコンやモニターなどの画面から発せられるブルーライトによるものだろう。


 手前に2席の空席がある。

 おそらく、ヌルとリンジーのものだろう。

 その他の席は全て埋まってしまっているので、ヌル達が最後だったようだ。


 席につくと左上をホチキスで止めている資料のような物を渡された。

 その資料の表紙には大きく『対魔王軍討伐作戦』と書かれていた。

 これで、今回の会議の意味がわかった。


「全員来たな。それでは緊急会議を始めさせてもらう」


 総司令官が眼鏡のレンズを反射させながらそう言った。


「今回の会議だが、資料がある通り、対魔王軍討伐作戦についてだ」


 そして、ここで一人立ち上がる。

 その立ち上がった人物はサドラーという女性だ。

 少佐にあたる。

 サドラーは総司令官の横までやってくる。

 そして、アイパッドを取るやいない、


「これを見てください」


 サドラー少佐は総司令官の背後にある大きなモニターに注目を促した。

 そのモニターはバーチャル上の地図のようで、真っ赤な点々が徐々にシーラ側に向かっているといった感じだ。


 おそらく、その赤い点々は魔王軍によるものだろう。


「な、なんと!!」


 このモニターを確認し、他のみんなは慌ただしく声をあげた。

 そして、サドラー少佐の説明は続く。


「はい。見てもらった通り、魔王軍と思わしき部隊がこちらに向かってきています。

 このままだと1週間程度でシーラに到着する見込みです。戦う他ありません!!」


 すると、中年太りのおっさんが焦ったふうに、

「戦う他ありませんって。それはそうだが、君ぃ勝てる見込みはあるのかね?サドラー少佐、相手はただの魔物ではない。魔王軍なのだろう?」


 サドラー少佐はすぐにそれに対して答えを出す。


「はい。勝つ見込みは十分にあると思います」


「その根拠は?」


 その中年太りのおっさんは少し嫌味っぽく言った。


「それは……」


 と言って、サドラー少佐はヌルの方を見つめる。


「ヌル・バタリアン大尉ならば可能かと」


 その緊急会議に参加していた者の視線は一斉にしてヌルの方に集まる。

 しかし、リンジーだけが悲しそうな目を向けた。


「隻眼のデッドライナーか」


 中年太りのおっさんは一言そう吐き捨てた。

 隻眼のデッドライナーとはヌルの二つ名だ。

 かつて、ワイバーンの群れの討伐任務にて、ヌルの部隊はボロボロにやられてしまった。

 しかし、ワイバーンに左眼が奪われても、機体がオーバーヒート寸前で限界を向かえても、戦うことをやめず残りのワイバーンを全て一人で駆逐してしまったという話から来ている。


 当時の機体では耐久力、持続力、攻撃力全てにおいて乏しかったが、ヌルはそれらの機体を操り、ワイバーンを一掃してしまったのだ。

 故に、現在の高スペックな機体をもつ自律型戦闘兵器M18アルカディオンを使えば、魔王軍だって退ける可能性が生まれてくるということだ。


 ヌルはどこか遠くを見ているような視線のまま、

「はい」


 と一言告げた。

 が、その目は明らかに死んでいた。


 やがて、騒ぎ立っていた緊急会議が終わる。

 みんなそれぞれの持ち場に戻っていく。


 ヌルもさぁ立ち上がるぞという時にリンジーが話しかけてきた。


「いいの?」


 リンジーはうつむいたままヌルにそう言う。


「ヌルはいいの?この戦いで死んじゃうかもしれないんだよ。それでいいの?」


「……」


 ヌルは無表情で無言だった。


「私は、ヌルに死んでほしくないよ……」


 とても、悲しそうな声を上げた。

 しかし、どこまでも淡白なヌルはそんな言葉を無視して、会議室を出ていってしまった。



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