第25話 キラーシャークその①
銃夜は新たに仲間となったユキヒメとフリーデンを引き連れ、一度、ヘリルスに戻った。
当然ながらアイリスに驚かれる。なぜなら、今回のクエストターゲットを連れてきてしまったからだ。
「どわぁぁぁ!!何このちっこいのっ!?」
ペチンッ
ユキヒメはアイリスの頭を叩く。
「ちっこいのはお前も一緒でありんしょ?」
「ッ……」
アイリスは叩かれた箇所を手で抑える。
さらに精神的ダメージも食らったようだ。
アイリスとユキヒメの身長を比較した時、少しばかり、アイリスの方が大きいらしい。
が、170cm代の銃夜とフリーデンからすると、どんぐりの背くらべである。
そして、銃夜はアイリスに事の経緯を説明する。
◇
「そんなことが……って、それじゃあ、クエストクリアになってないじゃないか。」
「?」
「だってそうだろ?クエストクリア条件は『討伐』だっただろ?」
「あれぇ?そ、そうだっけぇ?」
アイリスはクエストの詳細が書かれてある紙を銃夜の目の前に突きつける。
そして、『討伐』と書かれてある箇所を人差し指で指し、
「ほら、ここに書いてあるじゃないか!」
銃夜はしっかり現実を受け止め、その場でうずくまりながら発狂する。
「ああああああああああああああああ!!!!き、貴重なA+のクエストがああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
アイリスはここぞとばかりに、銃夜の肩に手を置きにやけずらを見せてしっかり煽ってあげることにした。
「字、読める?」
そうアイリスの声が聞こえてきたので、顔を上げる。
そこには、ぎこちない笑顔をしているアイリスの姿があった。
「はら、字、読める?」
「うん……」
「じゃあ、読んでみよう。はいっせーの」
「討伐……」
「はい、君は何をしたのかな?」
「連れてきた……」
「はい、もう一回」
「討伐……」
「もう一度」
「討伐……」
「もっかい」
「わかったよー!!!!また、クエスト行ってくるよぉぉぉぉ!!!!!!」
アイリスの声が、急に低くなって、
「じゃあ、さっさと行けよ!ほら!」
アイリスが一枚の紙を持ってくる。
アイリスは親指を横に向け、冒険者ギルドの出口を指し示していた。
しかも、よく見るとアイリスが持っていた紙には『S』という文字が入っていた。
「早くクリアしてきて」
銃夜はそのアイリスの一言ですべてを理解した。
「おま、紙に一瞬『S』って単語が見えたんですが……」
「気のせいだよ。とりま行って来い」
ギルドの出口でチラリと見えたアイリスの顔はどことなくいい笑顔だった。
そんなダブルパンチで『S』を受けた銃夜だったが、フリーデンとユキヒメもどうやらこのクエストに強制参加で、これもアイリスの仕業のようだ。
ユキヒメとフリーデンと目的地に向かっている際、クエストの詳細をアイリスが喋っていたことをおぼろげながらに思い出す。
「いい?クエスト詳細だけど、場所は『水没都市メナキサイア』ってとこでキラーシャークの討伐。討伐だからね!もう、持ってこないように!!それと、こいつはものすごく凶暴だからくれぐれも死なないように」
若干の脅しを込めながらアイリスは銃夜にクエスト用紙とは別に一枚の紙を押し付けた。
「これ、地図だから持ってけ」
「ええ……」
アイリスはユキヒメとフリーデンにも視線を送る。
「それと、お前達もだよ」
「「ええ……」」
といった具合に半ば強制だった。
そして、みんなでアイリスの愚痴でも言いながら地図に書かれてある道を進み、ようやく、目的地であるメナキサイアに到着した。
水没都市メナキサイアは昔、ヘリルスやシーラに匹敵するほどの巨大都市としてその名を馳せていた。しかし、その名は突然にして地獄と化する。ある日、メナキサイアは大きな災害に見舞われた。
何があったかというと、何故か、メナキサイアだけに10年間大雨が降るという異常気象が発生したからである。
一日たりとも狂わずに毎日降り続けた。
そして、メナキサイアの名には『水没都市』という悪名がついてしまった。
「ほぇーほんとに街が水没してますよー」
フリーデンがメガネをクイッとして言った。
「見たところ人の気配はなさそうでありんすな」
続いてユキヒメも辺りを見渡しながらそう言った。
メナキサイアには現在人は住んでいない。ここにいた人達はメナキサイアと共に水没したか、別の国に逃亡したかの二択である。
故に、その地は水属性を持ったモンスター達の住処となっていた。
「あ、あそこにボートがありますよー」
フリーデンが指し示す方向を見ると、木でできた小さなボートがプカプカ浮かんでいた。
「これを使えと?」
今回のターゲットキラーシャークはとても凶暴だ。全長10メートルから20メートルの巨大操る持ち主で現代で例えるとメガロドンのような存在。
こんなちっぽけな木のボートなんか簡単に丸呑みされてしまい、即ゲームオーバーである。
にも関わらず、「やったー!これでメナキサイアを探索できるー!」とフリーデンはもう勝った気でいる。
ボートに向かっていくフリーデンを銃夜は肩をつかんで止める。
「まてっ!」
「どうしたんですか?」
と、フリーデンは首をかしげる。
「どう考えてもこんなボートでキラーシャークに太刀打ちできる気がしないんだが」
「でも、どうするんです?海を探索するにはこれ以上進めませんが?」
「うーん」
銃夜が悩んでいると後ろからユキヒメが話しかけてきた。
「妾の能力ならここら一体を凍らすことは可能でありんす」
「たしかにな。こっちは氷の女王様だぜ。ぱぱっと氷の陸を作ってもらおうじゃねぇか」
ユキヒメは海に向かって「ふぅー」と息を吹きかける。
すると、海が真っ白な冷気に包まれ辺りがひんやり寒くなる。
気づくと冷気は消えて、カチコチに固まって水面が浮かび上がってきた。
銃夜は恐る恐る片足で氷の地面をつつき、耐久力を確かめる。
「耐久力は問題なさそうだな」
「何を疑っておる。当然でありんすジューヤもカチコチにしてやろうか」
「え、遠慮しておきます……」
銃夜とフリーデンはユキヒメが作った氷の地面を渡ってキラーシャークを探しに向かう。
しかし、これが全くと言っていいほど見つからない。
時間は既に3時間が経っていた。
「あーくっそー!全然いないじゃん!ほんとにこの場所なんだろうな!」
若干キレ気味である。それもそのはず、キラーシャークのキの字もないましてや、シャークすらいない。
見かけるのは団体行動をしている小さな小魚達ばかりだ。それ以上の魚影を見た気がしない。
「そうですね。場所はあっていると思います。私もメナキサイアにキラーシャークはいるという話を聞いたことはありますし、クエスト用紙にもこの場所と記されていますし……もう少し頑張ってみましょうよ!」
「ちぇ…はぁー…じゃあもう少しだけ頑張ってみるよ」
「その意気です!」
その時だった。
小魚の大群が勢いよくこちら側に向かって来た。
「なんだ?」
銃夜はすかさずスキルを発動させる。
【感覚探知】
白黒でサーモグラフィーのような視界が大きな魔力を感知した。
見えてきたのは一角の角が生えた大きなサメだった。
キラーシャークである。
「いたっ!しかも猛スピードでこちらに向かってくるぞぉぉ!!!」
小魚が水面下をジャンプしたのとシンクロして全長20メートルの巨体が姿を現す。
そのまま小魚を丸呑みし、ザップーンと勢いよく水面に巨体を叩きつけた。
そして、キラーシャークは銃夜達を敵だと認識した。




