第19話 暗殺の実行
翌日、正午、ルーナとフランメンの試合が今始まろうとしていた。
場所はヘリルスの最内にあるロワ区の闘技場。
コロッセオのように観客に囲まれながら中心部で試合を行う。
上ではフリューゲルを含めた魂の守護者や貴族などが優雅にお茶でも飲みながら高みの見物をしている。
今日は雲一つないきれいな青空。
そんな中、観客席の一番上で銃夜とアイリスは陣取っていた。
「この位置からは十分狙えそうだな」
銃夜はエターナルライフル(スナイパー)をアイテムボックスから取り出す。
「言っておくがアイリス、俺が弾丸を撃ち込む時はルーナがピンチになった時だ。俺はあくまでもルーナの可能性に賭ける」
「ああ、とりあえずはそれで問題ない」
まもなくして、闘技場にルーナとフランメンが姿を現した。
ルーナはいつも通りキャラを崩さずキョドっている。
(やばい…私、今日死ぬかもしれない…いや、考えるのはよそう。今は目の前の障害を取っ払うだけの作業だと考えよう……)
ルーナは一旦深呼吸をし、心を落ち着かせた。
対して、問題のフランメンは大きなあくびをかいている。
余裕たっぷりな仕草だ。
フランメンはアイリスの言う通りとてもでかい大男だ。
身長は約3mほどで最早軽く巨人の域だ。
身長160cm代のルーナがまるで豆粒のように写っている。
ルーナは鞘から剣を取り出し、構える。
一方、フランメンは何も武器などを持っておらず素手で闘うつもりのようで、ファイティングポーズを取る。
「なんで、俺の最期はフリューゲルじゃないんだ?」
フランメンは息を吐くようにボソッと言った。
「え?」
ルーナは聞き返す。
「俺はお前の兄、フリューゲルに捕まったんだよ。ホント、あの時はどーもって感じで、あ〜お兄様と闘うつもりだったのによぉー」
フランメンは狂ったように続ける。
「あ〜殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい」
この時、フランメンの目は本気だった。目が充血していて、まさに血に飢えた野獣。
究極の殺意。
現在の彼なら最強チートのフリューゲルを粉々にできるんじゃないかと思うくらいの殺気。
「イライラするぜぇ」
フランメンはルーナを睨みつける。
その殺気を感じ取ったのかルーナは一瞬びくっとなり、瞳孔が開いた。
「でもまぁールーナちゃんよぉーお前殺したらお兄様は出てくんのかねぇー?」
ドクン、ルーナの鼓動が鳴り響く。
まるで耳の真横に心臓があるのかと思うくらいその鼓動は近かった。
「名目上これは俺の処刑らしいが、処刑されんのはお前の方だぜっ!!!」
フランメンは自分の力を見せつけるかのように素手で地面を殴って砕いた。
地面は地割れでも起こったかのように砕かれる。砕かれた地面のひびがルーナの一歩手前まで押し寄せていた。
まだ闘いすら始まっていないにもかかわらずルーナは既に押されている。
普通は闘技場内に勝敗を決める審判がいるのだが、今回はなんでもありの殺し合い。つまり、そんなものは必要ないのだ。
これから待っているのは実質的な公開処刑。
両者どちらかを死ぬまで戦わせる狂ったゲーム。
そして、今、闘いの火蓋は切られる。
(まずは剣で腕を切るっ!)
ルーナはそう思い、
「はああああああああああっ!!!!!」
と、フランメンに突進し、切りかかった。が――
「遅い」
フランメンの手にはルーナの顔面が握られていた。
「このまま頭蓋骨を砕いてやってもいいがどうする?」
「ふぐっ!」
ルーナは足をバタバタしたりしてなんとか抜け出そうと試みる。
「そんな足をバタつかせちゃってよぉ〜。15秒やる抜け出してみろ」
フランメンはニヤリと不敵な笑みを見せた。
(まずい…どうしよう…考えろ。私はこれでもこの国の兵士だ。まずは、握られているこの手をどうにかしたい。切るっ!)
ルーナは掴まれているフランメンの太い腕に向かって勘で剣を振った。
ザクッとフランメンの腕に突き刺さる。
(命中した感触。一気に落とすっ!)
しかし、フランメンの腕はあまりにも大きすぎた。
ルーナは力いっぱい剣を動かし腕を切断しようとするが刃が致命傷まで届くことはなかった。
「9、8、7」
淡々とカウントしていく。そのカウントはルーナの死のカウントを意味していた。
(カウントは既に半分を切った。このままこいつの頭を砕いてやってもいいがそれだと何も面白くない。俺が闘いたい相手はフリューゲル。フリューゲルの野郎を誘い出すには、、、、)
フランメンは考える。
考えた結果あることを思いついた。
フランメンは上で見ているフリューゲルを睨みつける。
フランメンは一瞬フリューゲルと目があった気がした。
(妹であるこいつをこの場でなぶり殺すっ!!そして、フリューゲルの野郎を引きずり出すっ!!!)
フランメンはルーナを宙に投げた。
「っ…」
一瞬の脱出。しかし、それはただの次なるステップでしかない。
空中の放り出されたルーナは地面に着地する瞬間―――
「ふんっ!!」
フランメンの拳はルーナの肋骨を砕いた。
殴られたルーナは闘技場内の壁に勢いよく打ちつけられた。
フランメンは壁にめり込むルーナに向かってゆっくりと近づいていく。
「よえーよ。弱すぎるよぉ〜。ほんとに兄妹か?お前らもっと遊べると思ったんだが、これじゃあ遊びにもなんねぇな〜ルーナちゃんよぉ。」
と、言ってフランメンはルーナの顔面を一方的に殴りつけた。
「ほらっ!ほらっ!ほらっ!どうしたっ!!ほらぁっ!!」
もう、ルーナは顔面の原型を留めていないほど打ちつけられた。
真っ赤な血でルーナの顔はよく見えなくなっている。
フランメンは拳を強く握りしめ、
「次で殺s……」
プスン……フランメンの頭に銀色の弾丸が食い込む。
唖然・・・
観客達はシーンと静まり返っていた。
なぜなら、目の前で起きている現実が信じられないから。
フランメンは壁にめり込まれているルーナの前で頭から血を流し、白目を向いて倒れている。
「悪いなアイリス。我慢できなかった」
そこには銃夜が怒りをこらえ、拳を強く握っている姿があった。




