プロローグ
高校二年生の夏、今年は例年と比べて異常な暑さを誇っていた。このムシムシとした暑さは人類だけでなく動物や虫なんかにも影響する。普通ならこの時期に蚊が大量発生することはおかしいことではない。が、今年はそのウザったるい羽音を聞かなくて済みそうだ。
そして、このクソ暑い炎天下の中、黒髪のギリギリ頭髪検査に引っかかりそうな前髪とコンタクトやカラコンなど一切使用していない真っ黒い鋭い目、身長は中の下、The普通が似合いそうなこの男、皇 銃夜はサバゲーをやるためにお台場に向かう途中だった。
駅の中、薄暗いホーム、黄色い点字ブロックの前で皇銃夜は点字ブロックのすぐそばに書いてある『弱冷房車』という単語を頭の中で考えながらぼーっと立ち尽くしていた。
まだお昼過ぎだというのに駅のホームは薄暗い。
やがて、轟!!という周りの会話が一瞬にして暗黒へと陥る電車の汽笛とともに三番ホームに総武快速がやってきた。
猛スピードでやってくる電車に敬礼。
ドアがキュイーンという機械的で無機質な音を立てて開く。
開いたドアに銃夜はゆっくりと足を入れる。
そうするとさっきまで見つめていた『弱冷房車』という単語を思い出した。
『弱』と言ってもさっきまで炎天下に取り残されていた銃夜にとってはまるで砂漠の中のオアシスのようだった。
皇銃夜にとって銃とはなにか?
吊り革に掴まって電車に揺られながら、銃夜は心の中で淡々と語りだす。
物心ついたときから既に銃が好きだった。
剱でもなく刀でもない銃だ。
どんなピンチでも華麗に遠距離からぶっ放し、形勢をひっくり返す。まさに、ロマン。
銃は俺にロマンを与えてくれたのだ。
中学のとき親からのクリスマスプレゼントでデザートイーグルのエアガンを初めて買ってもらい酷く喜んだことを覚えているし、父親に「人に銃口を向けるな」と怒られたことは今でも鮮明に記憶している。
高校に入り銃をきっかけに友達なんかもできたりした。
友達といくサバゲーはとても楽しく、その時間が俺はたまらなく好きだった。弾丸のように一瞬で過ぎ去って行く時間の中で爽快に相手にヒットさせていく。今でも忘れられない感覚がそこにはあったのだ。
と、まもなくして電車が目的地に到着する。
いつも通りルンルンでスキップでもしながらサバゲーへ、その様は傍から見れば少し狂気じみているがそんなことはお構いなし。
しかし、そんな銃夜に悲劇が起きる。
「きゃーー!!助けてぇー!」
と、近くで女性の悲鳴が聞こえてきた。
銃夜は悲鳴が聞こえた方向へ走っていく。
するととある銀行に着いた。
銀行の中でナイフを持った男が女性を人質にしている。いうまでもない銀行強盗だ。
野次馬が入口から銀行を囲むようにして見ている。
銀行はガラスやシャッターが既に破壊されており、中の様子がむき出しで丸見えな状態だった。
野次馬が突然騒ぎ出した。どうやら警察の到着が遅れているらしい。
「お前らぁ下がれぇー!」
目出し帽を被っている犯人が野次馬たちに向かって言った。ナイフを人質の女性に押し当て脅す。
現在、犯人の目的は盗んだ金を仲間の車で逃走することらしい。
銃夜は「理由はどうあれ関係のない人を巻き込むことは許さない」と思った。
すかさず銃夜は自分の肩がけバックからエアガンを取り出し、それを犯人に向ける。
「止まれっ!」
自分でも危ない行動をしているのはわかっている。
しかし、このまま逃がすわけにはいかない。
銃夜の中では、それはほんの脅しのつもりだ。
自分でも何を考えているかわからない。
犯人というピンチを自分の力で形勢を逆転したいという中二病的欲求によってつい意味のないむしろ危険かつ周りへの迷惑という形になって発現してしまった。
傍から見れば犯人より『危ないやつ』それが皇銃夜だった。
しかも、銃夜は犯人からの圧力にびびってしまったのだろう、少し身体のバランスを崩してしまった。
そのまま後ろによろける。
後ろによろけたその先に待っていたのは車道だった。
ちょうど猛スピードで駆けつけたパトカーに轢かれ、皇銃夜はこの日17歳という若すぎる人生に幕を閉じた。
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