表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/112

第93話 失敗

ここはSランクダンジョン。

『猛獣の領域』


「では、お気をつけてください」


「はい」


レベル的にAランクまでにしなれない俺は、一人では内部に入る事が出来ないため、ここには田吾さんの同伴という(てい)でやって来ている。


体と言ったのは、このダンジョンは俺が単独でクリアする予定だからだ。

なので田吾さんはここで引き返す。


「まあ、不死身のお方に言う事ではありませんが」


「ははは。まあそうですね。俺は絶対に死にませんから」


因みに、姫ギルドによるSSランクダンジョンはあの後、特に問題なく終わっている。


SSランクダンジョン『アンデッドランド』の最後に待ち受けるボス。

それはアンデッド化した巨体の竜——ドラゴンゾンビだ。


その討伐方法は――


ボスを姫路アイギスがほぼタイマンで押さえ、そして常時湧き続ける取り巻きのアンデッドを、他のメンバーが始末するという形である。


ボスはダメージが蓄積するとアンデッドの同時大量湧きを発生させて来たが、アリスが陣頭指揮をとって雑魚敵を引きつけて誘導し、田吾の罠で一気に処理するという形でそれを上手く処理していた。

まさに完璧なチームワークと言えるだろう。


ただやはり、一番目を引いたのは姫城アイギスの強さである。

正直、彼女の強さは俺の想像以上だった。

流石は世界ランク37位だけはある。


「では、私はこれで――」


「さて……」


田吾がさり、一人になった所で俺はダンジョン攻略をスタートする。


ここへ来たのは――


アングラウスに、『(ゆう)よ。もうじき(うい)も目を覚ますだろう。その前にサクッと終わらせてきたらどうだ』と促されたからだ。


その言葉には一理あった。


憂の状況を考えれば、目覚めてからしばらくは俺が側についていてやる必要がある。

そうなると、アングラウスからの情報入手がだいぶ先になってしまう。

状況的に考えて、それは余り宜しくない。


だからアングラウスに促された通り、さっさとSランクダンジョンの攻略へと乗り出したという訳だ。


「出来ればサクッと終わらせたい所だが……まあそうはいかないよな」


Sランクダンジョン『猛獣の領域』は密林と平原の2パートになっている。

出て来る魔物はどれも動物系で、熊や虎、狼タイプの、基本フィジカルで勝負して来る単純な奴が多い。

そして搦め手(からめて)のない単純な力押しの分、敵は強めだったりするので、中々に侮れない強敵となる。


え?

今の俺の実力なら、楽勝だろう?


そうだな。

ぴよ丸が居れば、ここの敵ぐらいは楽勝だったろう。


だが――


『ぴよ丸を連れて行ったのでは、一人でクリアとは言えんだろう?我の話が聞きたいのなら、ぴよ丸は置いていけ』


――アングラウスにそう言われ、此処へは連れて来ていなかった。


なので今の俺は、正真正銘の一人だ。

そして命が6つの状態の俺の実力はSランク程度でしかないため、このダンジョンの敵は決して侮れる相手ではなかった。


ま、不死身だから負ける心配は絶対ない訳だが……


とは言え、雑魚相手に梃子摺る様じゃ攻略に時間がかかってしまう。

そしてあまり長期間家を空けると、母に余計な心配をかける事になってしまう。

それは避けたい所だ。


「久しくやってなかったけど……ここはやっぱ、防御無視の攻撃特化で行くしかないか」


牽制や回避は完全に捨てて、敢えて相手に喉笛を噛ませたうえでボコボコにする。

かつてエンドレスダンジョンの際に行っていた、シンプルイズベストのやらせてやる作戦だ。

恐らくそれが一番手早い。


まあビジュアル的には少々格好悪い戦い方だが、誰かに見られている訳でも無し。

昔に戻った気分でガンガン殺し合うとしよう。

って、言う程昔でもないか。


という訳で、俺は魔物を始末しながらガンガン進む。

休憩一切なしの全力疾走だ。


普通ならあり得ない行動だが、不死身の俺には疲労が発生しないから楽勝である。

因みに、十文字みたいな強者が未だにSランク攻略どまりで、SSランクへの単独攻略に挑んでいないのは、この疲労が原因だったりする。


単独だと、ダンジョン内で真面に休憩を取る事も出来ないからな。


いくら強くても、コンディションが悪ければ本来の実力を発揮できなくなってしまう。

下手したら疲労困憊で、本来の実力の半分も発揮できないなんて事になりかねない。

だから彼女も、長期戦確定のSSランクダンジョンへの挑戦を避けているのだ。


ま、普通はSランクをソロ踏破ってだけで大概ではあるんだが……


「ワンキルワンデス!等価交換だ!」


出て来る魔物を相打ち攻撃で屠り、俺はノンストップで進み続ける。

地図は姫ダンジョンから情報を貰って事前に頭に叩き込んでいるので、迷う心配はない。


ガンガン進み。

そして四日目。

遂に俺はボス部屋へと辿り着く。


「急いだお陰で相当早く着いたな。ボス戦が長期戦になるとは言え、それでも数時間程度だろうし……ま、上出来だな」


俺はボス部屋へと続く扉を開けて中へと入る。


「——っ!?なんだ?」


ボス部屋には、ボスの姿が見当たらない。

代わりに、その中央には黄金色に強く光り輝くゲートが存在していた。

そしてその前には、ローブを着た人物の後ろ姿がある。


あの人が先に討伐したのか?

けど……


ボスがいないのはそれで説明がつく。

だが、問題は中央にある謎のゲートだ。


脱出用のゲートは、ボス部屋の奥にある部屋に出現する。

けっしてボスの居る場所に直接出たりはしない。


……それに、あれは脱出ゲートとは毛色が全く違う様に感じる。


通常のゲートは青く、こんな眩しい程光り輝いてなどいない。

このゲートは一体なんだというのか?


「ん?」


まあ遠くから見ていても仕方がない。

取りあえず、ローブの人物に話を聞こう。


そう思って近づき、気づく。


謎のゲートの側に立つ人物。

その後ろ姿に見覚えがある事に。


「まさか……」


そしてその背中が誰の物か答えが出た瞬間、俺は駆けだす。


「久しぶりですね。いや、初めましてと言った方がいいかな?」


俺に気付いたその人物が振り返る。

それは予想通り、俺のよく知っている人物だった。


俺の恩人。

そう、俺に希望を与え。

そして俺に、その術を与えてくれた人。


この人こそ俺の――


「師匠!」



★☆★☆★☆★☆★



顔悠かんばせゆう

Sランクダンジョン単独攻略。



――失敗。



顔悠はSランクダンジョンから帰って来る事は無く。

協会は死んではいないだろうが、何らかのトラブルでその帰還は絶望的と判断。

顔悠を死亡した物として発表し、その覚醒者(プレイヤー)記録を抹消した。



★☆★☆★☆★☆★



「ん……んん……」


気怠かった。

そのままもう一度寝ようかとも思ったけど、さりとて眠気もない。

仕方なく瞼を開けると――


「ふぁっ!?」


そこにはあたしの顔を覗き込む、黒い猫ちゃんの顔のドアップがあった。

あれ、この猫って確か……


「目覚めた様だな」


黒い猫が私にそう語りかけて来る。

普通なら猫が喋ったら驚くところだけど、私は驚かない。

何故なら私はこの猫を知っているからだ。


そう、この猫は――


「魔竜……アングラウスさんですよ……ね?」


――(にい)と行動を共にしていた巨大な竜だ。


「ああそうだ。我が名はアングラウス。お前の兄と行動を共にしていた魔竜だ。顔憂(かんばせうい)よ。我からお前に話がある。お前の兄、悠についての……そして、この世界についての話だ」

本作を読んで頂きありがとうございます。

この第93話を持ちまして、第一部終了となります。


『悪くなかった』『面白かった』


または。


『ここまで時間をかけて呼んだってのに、今更つまらない事を認める訳にはいかねぇ!』


と思われましたら、是非ともブックマークと星による評価をお願いします><

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作宣伝
異世界転生帰りの勇者、自分がいじめられていた事を思い出す~何で次から次へとこんなにトラブルが起こるんだ?取り敢えず二度と手出ししてこない様に制圧していくけども~
異世界から帰って来た主人公が、ふざけた奴らを力で無双制圧して行く話になります。
最強執事の恩返し~転生先の異世界で魔王を倒し。さらに魔界で大魔王を倒して100年ぶりに異世界に戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。お世話になった家なので復興させたいと思います~
魔界で大魔王を倒して戻って来た勇者は、かつて転生者だった自分を育ててくれた侯爵家が没落した事を知る。これは最強男勇者が執事となって、恩返しとして侯爵家の復興に尽力する物語
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ